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119、ニーナに会おう

「ニーナが来ているんですね。僕が行きます」


 俺が行かなければこの話は終わらない。

 カイさんの話の内容を聞きたかったが、こちらの話が優先されるべきだろう。

 ニーナに会ってからでも、急用であればカイさんも話すだろう。


 ニーナは別に害意をもってここに来ているわけじゃない。迎えに来ているだけなのだ。

 俺がここに連れてこられた理由などは順を追っていけばわかるが、傍から見れば何事? だろう。

 下校中に連絡もなく、消息を絶ち、誰に聞いたのか予想外の場所にいるとなれば。


「大丈夫だ。私が行こう。リク君、君はお母さんに甘えてるといい」


 カイさんの子供扱いが前世持ちに特効過ぎるっ!

 狙ってやっているのか? そうだろう! きっとそうだ!

 転生者をあぶりだす口調をしているに決まっている! ……精神攻撃はムシだ。


「カイ様、僕が行かないとダメです。ニーナは止まりません」


 ニーナの立ち位置はかなり難しい。

 俺に作られた存在。素性は知れない。けれど重要なファクターとして機能する。

 その力は不明瞭だが、決して小さいモノではなく、むしろ大きい。


「なぜそう思うんだ?」


 俺が作ったモノは厳密にいえばゴーレムに分類するべきモノだ。

 だが生きているかのように動き、独自に判断し、行動する。

 傍目から見れば生物を作ったようなモノだろう。だから神獣などと呼ばれている。


「ニーナが何のためにここに来たのかを考えればわかります。

 僕の顔を見ればニーナは落ち着くはずです」


 しかしネタが割れればその立場は崩壊してもおかしくない。

 もしその立場が崩壊した時の支えは何になるのか? それが俺なのだろう。

 俺の被造物の立場を崩さなければ俺の立場が上がる程に付加価値が付く。

 俺にそれだけの価値があればの話だが。


「どうしてそう思う?」


 現状、それだけの価値は見せているはずだ。

 だからこそニーナは俺を立てているのだと思う。

 こうして考えればニーナが俺を探す理由が自分の安寧のためだと考えられる。


「ニーナに僕がここに来る事を事前に伝えたわけではありません。

 だから誘拐事件のように捉えていると思います。

 それが違うと僕以外の人がいくら言っても納得はできないでしょう」


 そこまで穿って考える必要はないかもしれない。

 もしかしたら本当に裏表なく、情けで気にかけてくれているかもしれない。

 こういう思考は相手も自分と同じようなモノだと判断するから起きる現象だ。


「なるほど。わかった。リク君。それでは行こうか」


 人は自分の鏡。その意味は相手が何を考えているのかを考えた際に、自分だったらこうするだろうという思考を相手にトレースするからだ。

 自分の常識で相手を判断しようとするから予測にズレが生じる。

 人は俺じゃないのだ。俺と同一視して、陰謀家にしてはいけない。


「私も行くわ。ニーナさん? でしたか、神獣様を見ておきたいの」


 人は鏡。本来の意味で言えば、相手に対する感情は自分に返ってくるという意味だ。

 因果応報と内容は同じだ。今回の解釈は俺の解釈に過ぎない。

 だが本来の意味で使える程、人間は簡単なモノじゃないはずだ。


「私も行こう。リクの友達なのだろう? 会いたいな」


 人は人。自分は自分。育つ条件で常識はいくらでも変わる。

 家族の中であっても、細かな認識は食い違う。そして常識も変わる。

 どこまでが許せて、どこからが許せないか。それはその人にしかわからない。


「それでは全員で行きますか?」


 主賓がいない状況で残されても困るだろう。

 気がつけば7人の大所帯だな。先導してくれる兵士さんを入れたら更に人数が増える。

 それにしても俺が1人で歩いて回れるのはいつになるんだ? 運動不足になりそうだ。


「そうですね。私達も会ってみたいです」


 サラお姉さんも同意した。カク先輩もマル先輩も行くようだ。

 周囲の意見がまとまったのをカイさんが確認すると大きく頷き、兵士さんに先導するように言った。

 俺は抱えられたまま運ばれる。俺には足があるのだが。



 空は既に日が落ち、星々の光煌めく黒い天蓋を創りあげていた。

 大きな星、レモン型になっているところからこの星の衛星だろう、が2つある。

 夜に空を見上げたのはこれが初めてだっただろうか?


 星々は恒星と惑星の位置関係を知るための重要な情報であり、季節の変化の流れを教えてくれるというのに。

 正確な観測が出来ればより詳しい情報を得る事ができるが、それには正しい時計や計測機など必要だ。

 なければないで、憶測を立てる事ならいくらでもできた。


 それすらも怠っていたのだな。ダメだ。外に関心持っているならちゃんと星にも気を配らねば。

 情報は未来を知るために重要なモノだ。周囲に関心を持て。未来の情報はいつだってどこかにある。

 全ての情報を拾い集められるわけじゃないが、まるで知らないでいるよりもいい。


「リク殿。無事であったか」


 ゴールデンレトリバーの顔が緩んで気持ちのいい笑顔になっていると思われる。

 下から見上げていると舌からよだれが垂れそうだ。

 お母さんの腕が少し強張っている。大きいモノはそれだけで威圧になる。


「僕は無事だよ。僕を抱えている人が僕のお母さん」


 ニーナの大きな黒い瞳はまじまじとお母さんを見つめた。

 お母さんの腕の強張りは強くなった。ニーナは魔法使い殺しと言える性能だ。

 戦った場合、お母さんは手も足も出ない。


「お初にお目にかかる。我はニーナ。リク殿の僕」

「友達だよ」


 都合のいい時だけ責任を押し付けるような部下はいらん。

 そこはちゃんとけじめつけようか。

 何も語らない存在ならともかく、自我のある存在を対価の払えない状況で使いたくない。


「我はリク殿の友達である。リク殿の母上様よ」


 星の光、城の光を受けて毛皮が金色に輝くニーナをお母さんは見上げていた。

 強張っていたお母さんの腕は次第に弛緩していった。

 声に出さない微弱な反応が体に伝わってきていた。


「私はエリ。リク君のお母さんなの。ニーナさん、よろしくね」


 ここから見るとニーナが神々しく見える。

 大きさからの威圧感と光による神秘感。

 合わさった結果の神々しさだろうか。


「エリ殿か。よろしく頼む」


 ニーナとお母さんは静かに見つめあった。

 少し離れたところから見たらすごい絵になる光景だっただろう。

 腕の中からだとニーナの足とかお母さんの顎ばかり見える。


「ニーナっ! あっちがお父さんで、むこうの」

「私はサラ。こっちはカクとマルよ。リク君の友達ね」


 サラお姉さんに挨拶を遮られ、父さんが影を薄くしている。

 この世界、女の人が強い。……いや、男の人でも強い人は強いか。

 裏ボスとか誰が勝てるのだろう。影の濃さにおいて。


「サラ殿にカク殿、マル殿だな。確と覚えた。父上様は……」

「私はケンだ。ニーナさんだな。よろしく頼む」


 よかった。父さんも自己紹介できた。



 



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