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118、会食

 目の前の机の上には西洋風の御馳走がよそわれていた。

 琥珀色に彩られた鶏の揚げ物。青々としたレタス。紅白に彩られたポテトサラダ。

 その他、前世で見た事がある料理の数々がその机に置かれていた。


 食卓には肉類の茶色が多い。魚類は見た感じ少なそうだ。

 ご馳走と言ってふるまうという事は比較的高級と思われるものが食卓にあがるだろう。

 そう考えると肉類は高級なのだろうか?


 いや、わからない。ただ個人の趣味で肉料理が偏っているのかもしれない。

 ぱっと見た感じだと生野菜も多く存在する。煮物などの類は少なさそうだ。

 肉はといえばローストされているものが多い。煮込み料理はあまり作らない風習なのだろうか?


 個人的には手間暇がかかるという意味で、煮込み料理は高級になっていいと思う。

 作るだけでどれほど時間がかかるのか、それだけ考えても値段が上がってしょうがないだろう。

 それと煮込み料理は柔らかいので消化がスムーズになると思う。

 この小さな体にとって消化に時間がかかるものは面倒なのだ。


「リク君。こういう料理は珍しいかい?」

「はい。見たことがありません」


 実際には見たことはあるが、状況判断のために辺りを見回していたことがいい勘違いを起こしてくれた。

 もしここでこれが美味しいとか言ってしまったら、今まで見た事がなかったはずのモノを知っている。

 つまり転生者バレするところだった。危ない、危ない。


 この中で今世で見たことがあるものは?

 ……全然ないな。離乳食はとうに越しているが、それでもまだ完全に大人のモノと同じというわけじゃない。

 柔らかく煮付けされたモノや油分などが少ないモノばかり食べていた。


 王都に来てからの食生活は把握されているだろう。

 こういう完全大人向けの食事はこの体にとって初めてだ。

 どうする? 誰かが食べ始めたら同じモノを食べればいいか。

 赤ちゃんなら誰かが美味しそうに食べている様子を見ればマネしたくなるものだ。


 まず誰が食べる? 何を食べる? あれ? その前になぜ誰も手をつけない?

 なんでこっちを見ているのだ? 何かおかしな事をしただろうか?

 俺が料理を見過ぎだったか。食欲に忠実に見えていたのだろうか?

 笑われているようだ。微笑ましいモノを見るような目で見られているな。


「ご飯食べないんですか?」

「そうね。食べましょうか」


 お母さんの腕の中にいた俺を見ながら、サラお姉さんは青い瞳を細めた。

 からかいの色がとても強い。だが悪意を感じない。ただからかいたいだけのようだ。

 傍から見れば子供が珍しいモノを見て驚いているかのように見えたかもしれない。


 大人ぶっている子供が子供らしさを見せれば微笑みたくなるだろう。

 その内心がこんなモノだとは想像していないだろう。

 残念だ。中身はおっさんだ。悲しいことに。


「それでは皆さん、ご飯を頂きましょうか? 待ちきれない子もいるようですし」


 カイさんがニコニコと笑いながらこちらを見ていた。

 何故だろう、このおじさん、ちょっとうざい。

 きっとムダにわざとらしい演技だからか。さらすかのように動く感じだな。


 こういう動き方は人を煽るのに向いている。

 わざとらしく、人のミスをあげつらうように。

 自覚している傷口に塩を塗るような嫌がらせ。

 ちなみに塩を使っても消毒効果はそこまで期待できない。


 まぁ、子供が子供らしい仕草をしたから笑っているだけだ。

 意地悪をしたくてあげつらっているわけじゃない。ほほえましいから言っただけだ。

 リクの中の人に特効の言葉だっただけだ。俺が俺だったから引っかかっただけだ。問題ない。


「えぇ、頂きましょう」


 カイさんの言葉に応えた父さんの言葉と共に食事会は始まった。

 気づけばお母さんや父さんの毒気は抜けて、柔らかい雰囲気を纏っていた。

 もしかしたら子供らしさを見せたのが良かったのかもしれない。


 大人ぶった姿を見て危険な性質を強めたように見えていたのかもしれない。

 けれども子供らしい情動を秘めた行動を見て、落ち着いたのかもしれない。

 でも本当にそんな簡単に毒気が抜けるのだろうか? いや、実際に空気が柔らかくなっている。


 俺は選択肢を間違え続けているのかもしれない。

 だから状況が悪くなっているのだろう。素直な行動を取ることがいいのかもしれない。

 だが俺が素直に行動などできるのだろうか?


 そもそも素直な行動とは?

 何も考えていない行動の事か?

 なんだ、そのとんでもなく危ない行動は。


 この思考がいけないのか。

 だが考えなければ俺は俺でいられない。

 こんないつ死亡フラグを引き当てるかわからない世界でなんでそんな事が出来る?


「リク君? これ、美味しいから食べる?」


 お母さんがポテトサラダだと思われるモノを口元に持ってきた。

 白い。マヨネーズのようなモノでコーティングされて艶やかになっている。

 中には野菜の緑やタマゴの白と黄色が混ざっているように見えた。


 見れば見る程前世のポテトサラダに似ている。

 野菜はレタスだろうか? マカロニも混ざっている?

 オレンジ色のはニンジンだろうか?


 お母さんが子供サイズの小さなスプーンで1口分掬い上げると俺の目の前まで近づけた。

 よく潰されてねっとり感が出ているジャガイモがとてもまろやかに見えた。

 匂いは多少酸っぱい。お酢をかけているのだろうか? 色を整える時にお酢を使う手法もあるようだ。


「リク君? 食べないの? お母さんが食べちゃうよ?」


 お母さんはさも美味しいという顔でスプーンにのせたポテトサラダを食べた。

 気がつくと俺の口は開いていて、よだれが垂れそうになっていた。

 思えば赤ちゃん用ではないまともなご飯を目の前にしたのはこれが今世で初めてかもしれない。

 あ、いや、以前に乾物を食べさせてもらったな。


 お母さんはにんまりと笑うとポテトサラダを小さなスプーンに乗せて口の前に持ってきていた。

 俺は思わず口を開けてそのスプーンを口の中に迎え入れた。

 口の中に謎プラスティックの感触を感じながら、お母さんの微笑みを見た。

 口の中ではタマゴとイモの甘味を感じた。お母さんは幸せそうだ。


「リク君。美味しい?」


 緑の髪を背中で揺らしお母さんは俺に対して聞いた。

 その青い瞳にはいたずらっぽい光が宿っていた。

 どこまでも楽しそうな瞳はきっと見たかったモノが喜びが多分に含まれているのだろう。


「美味しい!」


 俺は笑っていた。口の中でスッと消えていったポテトサラダは本当に美味しかった。

 求められていたから応じただけではない、本当の笑みが含まれていたはずだ。

 俺はいったいどこまで演技しているのだろうか? わからない。


「そこまで喜んでくれたなら用意した甲斐がありましたよ!」


 なぜここで出しゃばってきた。

 何か話したい事があるのだろうか?

 わからない。だがただ親子の団欒を邪魔する目的で声をかけたとは思えない。

 何かあるのだろう。


「こちらの料理は周辺都市から集められた各地の特産品で出来ているんですよ」


 料理の説明かいっ! いや、興味あるが、今のタイミングで話しかける事だったか?

 もしかしたら本題は別にあるのかもしれない。

 本題に入る前のクッションの話だろうか?


 特産品からの流れで各都市に起きている問題などの話に持っていくのか?

 それとも流通に問題が起きたのか?

 何が起きたんだ? 早く用件を言ってくれ。


「お楽しみの中申し訳ございませんっ! 神獣様が現れましたっ!

 リク殿を出せと要求しておりますっ! 今は近衛兵が押しとどめておりますが、いつ痺れを切らして突入してくるかわかりませんっ! いかがいたしましょう!」


 ニーナ……。いや、ニーナも心配して来てくれたのか。

 そういえばニーナは神殿の時も来てくれた。

 ニーナは俺に対して本当に良くしているのか。


 ありがたいが、カイさんの話を聞かせてくれよ。

 もしかしたら重要な話をしたかもしれないだろ。

 タイミング悪すぎだろ……。



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