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117、けり

「リク君が決めたならそれはいいわ。けれどパワーバランスというならサラお姫様はどう説明するのかしら?」


 お母さんは凍った顔を融かし、また色のない笑顔を浮かべ、サラお姉さんへと視線を向けた。

 やはりサラお姉さんはパワーバランスの関係者か。だよな。

 だからこそ危険でも近づいていた方が良かった。


 辺縁をウロチョロする存在は面倒だ。それがある程度の力を持っているとなるとなおさら。

 味方にできるかもわからないし、入れてみたら毒にしかならなかったとかありえる。

 放置して環境を書き換えられれば、まして敵の味方になったら、それは害だ。


「学友だな。リク君の知識と学力は既に小児部のレベルにはない。

 だが体の発育は並みだから小児部の特別学級に所属している。

 サラ様は賢いのでそのクラスにいたのだ。だから問題ない」


 顔を見てその性格をおおよそ確認が出来なければ人材を管理する側としては触りたくもない地雷だ。

 顔を見ただけで性格が分かるかというが、完全に理解するのはまずムリだろう。

 だが会って話して仕草や気にしているモノを見れば大まかな方向性などは検討がつく。


 現代日本にはこういうのを演技できる人はたくさんいる事だろう。

 面接とかで演技してるし、むしろ演技指導もとい面接レッスンまであるのだから。

 まぁ、そういうのはおいといて、素の行動を見ればある程度思考の仕方など見えてくる。


「そう。たまたまクラスメイトになっただけと?」

「あぁ、もちろんだとも」


 頭の上ではカイさんとお母さんがバチバチと火花を飛ばし続けている。

 納得できない内容を覆す材料を探している側がお母さんか。

 父さんは黙って母さんの後ろに立っていた。口が立つのはお母さんなのだろうな。


 だがこのままにらみ合いを続けられても困る。

 両親の立場は徐々に悪くなっていくだろう。

 カイさんの心象も悪くなっていくのは間違いない。


「お母さん、もういいよ。僕が強くなればいつでも会いに行けるから。

 だからその時まで待ってて」


 何かが崩れた気がした。お母さんは一瞬呆けた表情をした後顔色を失った。

 父さんも衝撃を受けた顔をしていた。他の人は好奇の色を隠しきれていなかった。

 この選択は両親に対して追い打ちをかけるものだ。


 1度目は何かの間違いかもしれないと思ったのかもしれない。

 でも2度目の拒絶はその可能性をなくすものだろう。

 もしかしたら見ないうちに洗脳されたなどと思うかもしれない。


 洗脳だと思われたらいやだな。

 何を言っても洗脳されたから言わされている言葉だと判断されてしまう。

 自分の意志がない、判断力がないと思われている子供でいるのは嫌だ。

 自由がなくなる。


 誰かの管理下にあって初めて行動が許される存在は自由がない。

 小さな事はできても大きな事ができない。

 俺は自分の考えで物事を動かしたい。人と計画などを立てて行動したい。


「ケン。エリ。リク君も状況を分かっているんだ。少しは物分かり良くなってくれ」

「カイさんの言う事でも認められない……」


 カイさんがはげている原因って交渉下手なところが大きいんじゃないかな? 違うか?

 いや、元々拒否されているモノを拒否するのが役目だからか。断るのが役目だと気苦労も多いだろう。

 商人の交渉であれば認めてもらうのが仕事になるが、役人の交渉はあげられてくる案件を断るのが主な仕事になる事だろう。


 もちろんただ認めないでは話が進まないから、どうして認めないか、現状案とのすり合わせを行い、メリットが認められないからと、論理立てして拒否らないといつまでも会議は踊るを繰り返す事になる。

 役人の中にも例えば新規の条例を立案しましたなどの、認めてもらう交渉はあるだろう。

 だがそれを考える、主導するのは1人だろうか? 後は手足になって各種交渉材料を集めたり、賛成者を集め人手を増やし具体化させるのに奔走する事だろう。


 上に行くほど交渉する必要がなくなる? 決済だけでよくなる?

 あげられた情報を頼りに断る交渉だけでよくなる? いやいやさすがにそこまで極端にはならないか。

 むしろ上に行くほど他組織との交渉が多くなるだろう。組織を左右するような。


 今回は知り合い相手、多少ケンカしてもそんなに仲が悪くなったりしない、そんな信頼関係があるから?

 だからこんな口調だったのか? わからないがその可能性も大いにありそうだ。

 この世界だから同じ戦闘部隊のメンバーだったという話はあるかもしれない。


 それにしても大人が駄々をこねる子供を叱るような言い方だ。

 先生と生徒のような、年齢差を考えたら先輩と後輩かもしれない。

 苦労の具合が頭皮に出てきているので、カイさんには若干年齢に誤差があるかもしれない。


「親としての思いなら私だってわかる。だがここは堪えてくれ」


 牙をなくした獣のような、所在ない恰好になっていた両親をカイさんは抱きしめるように抱え込んだ。

 うなだれている両親の姿に罪悪感を感じた。

 だが俺は「これでよかったんだ」と思った。


 力がないものは自由に振舞えない。それは個人の力の大きさがどうこうではない。

 制御できない力。責任のもてない力。自分を守り切れない力。等しくこれらは自由になれない。

 暴力で自由になれば、それはより大きな暴力に潰される。


 人の体はもろい。赤子の身でなくても、下手したら1mの高さから落ちただけでも死ぬ。

 この世界ではもしかしたら魔力的な作用で前世の時よりも人は丈夫かもしれない。

 だがそれでもここには関節があり、肉がある世界だ。


 酸などの毒物で爛れ溶けるだろう。熱でも焦げるだろう。

 モノに挟まれれば骨だって折れるだろう。

 形あるものは壊れる。限界を超えれば物理的に壊れるのだ。


 死を迎えるのは一瞬であり、次がある可能性など知れたものではない。

 人は死ぬ。簡単に死ぬ。だからこそ死なないように注意しないといけない。

 今度こそ自分の力を振り絞り、後悔しないために。


「ケン。エリ。別にな。会ってはいけないわけじゃない。ただ一緒に住むのが難しいだけだ。

 会うことに制限があるわけでもない。いつだって会おうと思えば会えるんだ。

 確かに一緒に住めないのは悲しいだろう。だが今生の別れでもない。

 ささやかだが詫びを用意した。まずはそちらの会場に向かおう」


 カイさんが扉を開けると侍従だと思われる人がいた。

 彼の先導で歩いていく。気がつくとお母さんに抱えられていた。無念。

 赤ちゃん逃亡事案の如くこの頃捕まえられるのはなぜだ。


 まぁ、いい。まだ俺の力が足りないのだ。

 ちゃんと自分の力で歩ける存在であり、1人でどこにでも行ける存在だと示さなければならない。

 今はまだ雌伏の時。爪を研ぎ、筋肉を鍛え、体を大きくする時期なのだ。


 あの謎プラスチックを建材に使っているのが見て取れたが、中に混ぜられた着色料のせいか、壁や床は石のような質感だ。

 無理矢理洋風にしたような廊下。なぜ行きに気づけなかったのか。

 そこまで詳しく見られるだけの余裕がなかったのだろう。小さな子に抱えられると揺れがすごく不安になるから。


 小型のさすまたのような刃のない武器を持つ衛兵の姿が辺りに目がつく。

 安易に殺せば爆発を起こすのだから、切り捨てごめんをやるわけにはいかないのだろう。

 逃がさない事を主眼におくしかないが、魔力によって身体能力は高くなっているのだから、捕まえるのは至難の業だろうな。


 魔力が高ければ高いほど身体能力は高くなるのか?

 それとも最適な魔力量があり、その魔力量に近いほど身体能力は高くなるのか?

 最適な魔力量が低い場合、体術を極めるグループがいてもおかしくない?


 エネルギーは少なすぎても、あり過ぎていても動きが悪くなるものだ。

 魔力量の適正値が低い、身体能力が高くなる仕組みがあるなら、魔力量が低い人でも戦える。

 そうならば体術が広まっていてもおかしくない。


「さて。今日はリク君とお2人が再会出来た記念だ。たくさん食べてくれ」



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