115、再会
今世では人間は物理的な爆弾だが、別に前世であっても人間は爆弾だ。
感情という燃料を糧に爆発し、延焼を起こす爆弾だ。
手榴弾程度の爆発を細かく起こす人もいれば、ナパーム弾のように粘着質で長時間燃え続ける人もいる。
だがその爆弾を俺以外の人はどこまで気にしていただろうか?
もちろん爆発を起こすだろう、そのライン自体は気にしていただろう。
けれどその爆弾自体を気にしている人はあまりいなかった。
爆発しやすい人は遠巻きにされている事はあっても、だからといってそこまで気にする人はいなかった。
こちらの世界では物理的被害が出てくる分、なおさら感情の爆発を抑える習慣があることだろう。
魔力の等級が高い程、感情を抑える必要が出てくるのだろうな。
「リク君。車乗るから抱っこするね」
あ~れ~。ってなんでやねん。俺、1人で乗れるから!
頭の中のノリツッコミが激しい。言いたければ言えばいいのに。
言えないのが俺? 甘えだな。口があるのだから能力的にできないことではないだろう。
仮面に甘えて仮面に言葉をしゃべらせて、考えているフリをして。
無難な言葉を言うために、自己保身のために、全て行動している。
仮面は遠くから見れば問題ないかもしれないが、近くで見ればすぐわかる程度のお粗末さ。
こういうのが心が閉じているというのだろうか?
「リク君の両親ってどんな人なの?」
自分の中に入り過ぎた。そんなに考えても世界は俺を待ってくれない。
サラお姉さんが膝に乗せた俺の頬をぷにぷにとしてる。……ぷにぷにされている。
なんだかサラお姉さんにいい様にされている気がする。
「優しいです」
部屋から出さないようにしていたのはしょうがない事だが、基本的にお母さんは俺の側でずっと一緒にいた。
神話に関しての本をよく読み聞かせてくれたので、言語習得がスムーズにいけた。
ただの絵本と違い、丁寧な表現が多く、考えさせられる表現も多かったので世界観をつかむのに助かった。
父さんに関しては割とわからない事が多い。
人づてに聞く情報は数あれど、接する機会が少なかった。
外で何かしているのだろう。仕事だとか近所付き合いだとか色々あったことだろう。
「へぇ? 普段どんな事してたんだ?」
マル先輩が笑いながら聞いた。女子メンバーに比べてコミュ力が高い。
そういえば不良(風のいい人)って基本的にコミュ力が高いイメージがある。
気遣いが出来て、気が強いけどそれはなめられてはやっていけないからだとかで、別に本当の意味で不良していないような。
「神話をよく読んでくれました」
そういえば積み木だとかそういった遊びはしていなかったな。
興味をあまり抱けなかったのは前世の記憶があるからか。
言語の習得に夢中になっていたからというのもあるかもしれない。
そもそも自然な振る舞いが出来ていたのかが怪しい。
基本人に接する時は笑顔でいるように心がけているが、きっと薄っぺらいだろう。
本当の意味で笑えた事が前世含めた今までにあったのかすらわからない。
「お母さんは身近でよく魔法を使っていたので、その姿がとてもきれいで楽しそうでした」
3等級以下だから出来た事なのだろう。2等級以上は街中じゃ使えないのだから。
もし魔力が少なければ似たような事が出来たのだろうか?
もっと危機感を感じないでも生きていけたのだろうか?
そんなイフはいらないな。その選択はもう選べないのだから。
過去は変えられないが、今動けば、未来は変えられる。
過去を見て、今後の流れを見れば、どう動けばいいか考えられる。
「あんな風に魔法が使えたら楽しそうだなって思ってました」
街中で出来ないだけで、使っていい場所はあるのだ。
周囲の影響を考えなくてもいい、街の外だとか。
今はまだ運ばれてそこに移動する状態だが、自分で移動できるようになればもっと自由度が上がるはずだ。
自分で移動できるのはいつになるのだろうか。
今、3歳だから……10歳になれば街の外に自由に出られるだろうか?
7年後……。長いな。どうしたら早められるだろうか?
「すごいんだろうな。リク君のお母さん」
そういえば万魔と呼ばれるくらいの腕前だったか。
一般的な魔法の使い手というわけじゃないのか。
あまり認識が定かじゃないのは近すぎたからだろうか。
いくら親がすごくてもそれは親がすごいだけだから気にする事はない。
俺はあくまでも俺であり、俺の足を進ませるのは俺なのだ。
親がいくら道を作ろうと思っても、その道を進むかどうかは俺次第である。
前世は思いっきりケンカして外れたからな。その結果ドロップアウトして後悔した。
だからただ道を壊すだけじゃダメだ。ちゃんと行きたい道を見つけ、進めるように環境を整えなければいけない。
逃げるだけならいくらでもできるが、その先に将来はない。
「はい、僕のお母さんはすごいです!」
今の俺の顔はどうなっているのだろうか?
無邪気に無垢に笑っているのだろうか?
仮面に笑顔を張り付けているのだろうか?
俺は前世をフラッシュバックし過ぎていないだろうか?
「なぁ、いつ来るんだ? カイ?」
「もうすぐだ。さっき連絡があった。落ち着け」
「カイっ! その言葉はさっきも聞いたっ!」
「なら何べんも言わすな。もうすぐ来る」
「父さん。落ち着いて。恥ずかしい」
「母さん。そうは言ってもな」
「父さん、今1分毎に言っているの。気が急きすぎよ」
目の前の扉の向こうから話し声がする。
意外だ。父さんが不安がっている。
母さんが落ち着けという側に回っているのか。
この扉を開いたら久しぶりの再会か。
いったいどんな顔して会えばいいのだろうか?
泣いて? 笑って? 微笑んで? ぶすっとした顔はないな。
「入ってもいいですか? 叔父様」
サラお姉さんは黒檀の重厚な扉をノッカーで叩き、中へと声をかけた。
中の気配が固まり、一瞬無音になったかと思うと、バタバタと音がした。
そして少しして中からカイと呼ばれていただろう男性の声がした。
「入ってくれ」
マル先輩がドアを開けるとサラお姉さんが静々と部屋の中へと歩を進めた。
赤い絨毯。縁に金や緑で装飾がつけられているが中央は無地だ。
ガラスで作られたような透明な机をはさみ、ソファーが置かれていてそこに両親と見知らぬおじさんがいた。
はげているおじさんってこの世界で初めて見た気がする。
クレーム対応とかが担当なのだろうか? ストレスが溜まりやすい職場だからはげたのだろうか?
顔のパーツにサラお姉さんの要素はあまり感じられない。血が遠いのか。
「リクっ!」
感極まった様子の父さんがソファーから立ち上がった。
母さんがゆっくりと立ち上がるとこちらへと歩いてきた。
サラお姉さんの前に母さんが立つと母さんは中腰になった。
「おかえり。リク。寂しくなかった?」
母さんの手は俺の頭をゆっくりと撫でた。
その手は優しく、暖かかった。でもなぜか冷たくも感じた。
俺の心が原因だろうか? どこか他人だと認識しているのかもしれない。
やはり俺は前世に囚われ過ぎているのだろうか。
わからない。わからない。わからない。
でも何をするのが『普通』なのか。それだけなら今の俺でもできるだろう。
「少し寂しかったです。でも友達が出来ました!」






