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111、問いかけ

「私はサラ。サラ=ファンロン。ファンロン家の三女」


 ファンロン……。確か生まれた都市の神子と名乗っていたシスターリンはリン=クーロン。

 ファンロンもクーロンも、発音をそのままカタカナに落とせばこう聞こえるのだ。

 ファンロンは黄龍、クーロンは九龍……。そうだとすれば前世の関係が?


 転生者の一件があるから前世関連の話はあってもおかしくない。

 むしろ当然なのではないだろうか?

 この国の起こりが転生者による支配だとしたら? 支配者階級に転生者がいてもおかしくない。


 むしろ転生者が支配者階級だから、転生者が危険な存在だと認識していてもおかしくない。

 在野にあれば自分達の常識を世界の常識にするために汚染していく事があると知っているだろう。

 自分達がそうであったから。


「リク君。君が剣聖のケン様や万魔のエリ様の息子である事は知っている」


 転生者に王位を狙われた経験があるだけの王家なら、転生者を見つけ次第殺すと言っていてもおかしくない。

 だが見つけ次第殺せではなく、見つけたら王家に集めろという。

 危険視するだけではなく、情報源にしようという考えが異質だ。


 同質ではないモノは弾かれやすい。

 それは身内ではないから。それが傷ついたところで自分が傷つくわけではないから。

 転生者という異質なものを受け入れる素地があることがおかしい。


 その異質なものが支配者階級と本質的に同質のものでなければそれを有用と判断する前に弾かれて当然だろう。


「だが君はその2人の息子という以上の価値を既に持っている」


 褒めているのだろうか? なぜ?

 懐柔しきちんと味方につけるためだろうか?

 わからない。サラお姉さんの顔は真面目だ。


 転生者を疑っている?

 自尊心をくすぐり馬脚を露すために?

 そもそもどうすれば転生者だと証明できるのだろうか?


 そもそも転生者になる条件は何なのか?

 それすらもわからない。神様に会わないが、この世界にはいる可能性は高いだろう。

 少なくとも神様と呼ばれる存在を確認しているだろう、ニーナ達がいる。

 転生の理由も神様達は知っているかもしれない。


「君は今後どうしていきたいの?」


 この問いかけの目的はなんだ?

 自分の手駒にふさわしい人材かどうか調べるものか?

 ゴミか奴隷かペットか手下か同盟者か敵対者か。それらを見分けるための問いかけか?


 下手にサラお姉さんの事を考えた回答をすれば、サラお姉さんの奴隷になるだろう。

 くだらない回答をすれば、興味が持てないゴミになるか、飼い殺しにするペットになるか。

 少しは役に立つだろうと判断できる回答をすれば、奴隷よりは自由な判断ができる手下だろうか?

 サラお姉さんと対等に渡り合えると判断されれば、協調ができる組織としての同盟者か、いがみ合う関係になる敵対者になるはずだ。


「リク君。君は何がしたいのか教えて?」


 最低でも手下、出来たら同盟者になりたい。

 敵対者やゴミと判断されれば、危険な要素をもつ俺は物理的に排除されかねない。

 奴隷やペットは生きてはいられるだろうが、自由がない。


「え、えっと。そうですね。何がしたいのかですよね」


 ここで下手に先が見えすぎた、前世の存在がバレるようなことは言えない。

 3歳時点で見えていて、そのうえで判断ができそうな範囲の内容を伝えないといけない。

 縛りが多い。オウム返しは使ってしまった以上、次はちゃんと答えないといけない。


 いや、待て。手下にしろ、同盟者にしろ、相手の求めるものが分からなければ提供できるものを提示しても箸にも棒にも掛からぬモノになる。

 大まかな概要だけでも把握できれば、どういう風に関わっていく存在か考えさせる事ができるだろう。

 まずは聞くべきだろう。サラお姉さんの何がしたいかを。


「すみません、まだ僕自身は具体的な事は考えていないので、参考にしたいのですが、サラお姉さんはどういった事をしたいとかありますか?」


 サラお姉さんはにんまりと笑った。

 この答えはサラお姉さんに予測されていたのだろう。

 いや、この発言をサラお姉さんは待ち望んでいたのかもしれない。


「私は王になりたいの。この国の王に」


 ファンロン、黄龍といえば五行思想の土属性。四神を統べるモノを意味している。

 そう考えればこの世界の王家がファンロンという家名であってもおかしくない。

 ただそう考えるとやはり前世の影響が見え隠れする。


 ん? じゃあクーロン、シスターリンは一体どういう立ち位置になるのだろうか?

 クーロン、九龍は別に五行思想とは何の関係もない。九龍城塞とかただの地名だ。

 龍だからか? わからない。そういえば俺の生まれる前に父さん達が戦ったのは黒龍だったか?


 龍も大きなファクターなのかもしれない。

 判断が難しい。全てただの偶然という可能性だって万に一つである。

 いや、憶測で判断している事だ。万に一つ? 当たる可能性が万に一つだろう。


「どうしてサラお姉ちゃんは王になりたいのですか?」

 

 王になる必要性が分からない。俺だったら王にはならない。王とはただの責任者だ。

 王が国の全ての判断をしているのなら過労になる。

 全てにおいて正しい判断を下せる人間などいない。


 王とは自分が信用できる人間に仕事を任せていくのが仕事だ。

 その詳しい内容まで理解できればいいが、理解できなければできないで、信用できる人間を配置すればいい。

 何が起きているのか、どうしていけば上手くまわるのかを判断する。

 その判断の最終決定権だけ王の下にあればいい。それがあれば王が腐敗しなければ上手くまわる。


「王になりたいというよりなる、かしら。これはほぼ決定事項なの。後は私がお父様の課題をクリアするだけ」


 サラお姉さんはなぜ確定しているというのだろうか?

 サラお姉さんは先程、三女だと言っていた。

 つまり上に2人姉がいる事がわかる。最低でも姉が2人いるのだ。


 上の兄姉は何か問題があったのだろうか?

 それとも上の兄姉の資質に問題がなかったが、年功序列を無視できる程の才能をサラお姉さんは持っているのか。

 あるいは兄弟姉妹全員にその言葉を囁いているのかもしれない。


「その課題を聞いても大丈夫ですか?」


 答えを聞くことは難しいだろうな。

 もしその条件をバラシてしまった場合、他の貴族からの援助などを受けることになったりしてしまう可能性もある。

 そうなれば王になる援助をしたんだから、と無理を言ってくる可能性があるだろう。


「いいわ。条件は2つ。信用できる仲間を集める事だけ。もう1つは内緒」


 ……答えちゃったよ。いや、その条件を聞いたうえで言い寄ってくる人は信用できないだろうから、問題ないのか。

 この会話自体も試金石なのだろう。何重ものテストを乗り越えたうえで初めて信用ができるのかもしれない。

 もう1つの条件とは何だろうか? いや、本当に条件はあと1つなのだろうか?


 今回のこの駆け引きは官僚になるか、一般人になるかの境目なのだろうか?

 官僚かどうかは置いておいて、様々な面で認められておいて損はないかもしれない。

 研究にしろ、予算の配分はお上次第だ。できるだけ自分で研究する時の予算を用意しておきたいが。


「じゃあ、私のやりたい事を伝えたのだから、リク君も教えてくれるかな?」


 サラお姉さんの青い瞳は猫のように細められた。

 もしサラお姉さんに尻尾があったらゆらりゆらりと揺れていたことだろう。

 もうこれ以上引き延ばしは出来ない。答えなければいけない。


 どう答えるのが正解だろうか?









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