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109、車内にて

 車内に置かれていたドリンクを開けて、サラお姉さんはゆったりと飲んでいた。

 俺も飲み物が欲しいな、と思っているとサラお姉さんがこちらを見ていた。

 何か思いついたかのようにその青い瞳を笑わせた。


「ねぇ、リク君。飲み物欲しいですか?」

「はい、欲しいです。お昼から飲んでいなかったので喉がカラカラです」


 オセロの辺りから飲み物を飲んでいない。

 空腹に対してこの体はあまり強くないようで、けっこう困っていたところだった。

 前世の経験のため、そういった我慢自体は得意なので、あまり気にしてもいなかったが。


「そう。じゃあ、飲ませてあげる」

「え?」


 飲ませてあげる? その言葉に違和感を感じている間に事は進んでいた。

 サラお姉さんが持っていたドリンク。その飲み口を俺の口へと当てていた。

 思わず挙動不審に目を彷徨わせ、サラお姉さんを見てしまうと、その目は愉悦を覚えているようだった。


 赤ちゃんプレイかっ! 俺におぎゃれと言うのかっ!

 お人形代わりにしたかったのか? 考えてみればサラお姉さんは10歳くらい。

 甘やかされた子供なら俺くらいの大きさの人形で遊ぶ事もあったかもしれない。


 いや、違う。これは俺がそういう存在だと役割を押し付ける事によるカースト調整か?

 これを受け入れた場合、ままごと人形のように扱われるのかもしれない。

 飽きるまで遊ばれるお人形。その存在は大切なようで軽く、簡単に価値をなくす。


「あら? 私の飲み物は飲めないの?」


 思えば初めからそのように認識されていたのかもしれない。

 ずっと抱え込まれ、弄ぶような瞳で俺を見ていたのだ。

 サラお姉さんにとって、この世界は自分が主役の舞台であり、他は全て自分の都合よく動き、話を面白おかしくする世界の歯車に過ぎないのかもしれない。


 やはりサラお姉さんは危険だ。

 舞台をいいように動かそうとする、世界を壊す破滅のシンデレラだ。

 世界を混乱させるがために動かしていく。システムの敵だ。


「僕は自分で飲めます!」


 サラお姉さんは青い瞳をすぅ……と細めていた。

 眦が少し下がり、笑っているかのようにも見えている。

 だがこれは怒っているのかもしれない。


 いや、怒っているのだろう。

 自分の思い通りに動かなかった俺に対して。

 だがしかしここで気で負けるわけにはいかない。


 負けてしまえば返って情けない。

 1度折れたモノはなかなか治らない。

 下僕根性がしみついてしまう事だろう。

 それはあってはならない。


「そう。ならいいわ。受け取りなさい」


 そっけない口ぶりで俺の手に飲み物のボトルを押しやるとじっと見つめていた。

 ボトルは小学生の手なら片手でちょうどいいかもしれないが、3歳児の手だとまだ両手で抱えないと難しい。

 500ミリのペットボトルとほとんど同じサイズだ。


 若干重たく感じはするもののそれでも全然持てる範囲だ。

 中身の液体が少し重めなのか、バランスをとるのがちょっと難しい。

 材質はやはりあの謎プラスティック。汎用性が高い。


「サラお姉ちゃん、ありがとうございます」


 俺はサラお姉さんに一言入れるとグッとボトルを傾けた。

 ストローがあれば飲みやすかったのだろうけど、まぁ、それは今回はいいか。

 ボトルの中の液体が口の中に入ると弾けた。


 炭酸だった。コーラではない。さすがにコーラではない。果実ジュースの炭酸だ。

 予想していなかった攻勢に一瞬、口の中が大変な事になった。

 なんとか1口だけくわえると、噴き出さないようにボトルを口から離した。


 俺は目を瞬かせて周囲を見ると全員笑っていた。

 どうやら狙っていたようだ。悪意を感じられない笑い方をしている。

 予想していない炭酸は本当に驚く。美味しいんだけどさ。


「リク君よ。それ美味いだろ?」

「驚きました」


 マル先輩は腹を抱えて笑いながら言った。

 マル先輩は悪ぶったいい人というイメージが強い。

 悪ぶる必要はあったのだろうか?


 疑い深い人にしてみれば返って裏を感じないかもしれない。

 マル先輩は紫色の瞳や緑色の髪といった毒草を感じさせる見た目に反して丸い人だ。

 思えば当たり障りない植物はさして役に立たないが、毒草は何らかの形で薬にできる事が多い。

 使い方によっては、接し方によっては毒にも薬にもなる存在かもしれない。


「サラお姉様、やりましたね」

「カク。そう言わないの。サプライズはいい表情するものでしょ?」


 炭酸飲料を知らずに飲ませるドッキリを仕掛けたかっただけなのか。

 猫のようにただ遊びたかっただけなのかもしれない。

 だとしたらこれはさっきの表情はドッキリに気づかれたかもしれないという焦りを隠したものだろうか?


 そう考えると害意ないいたずらに過ぎないかもしれない。

 俺の対応は硬いだろう。だからこそ柔らかくしたい。そんな意図があってもおかしくない。

 警戒心を解くのは第一印象が大事なのである。今後の行動も含めて考えていくならそうだろう。


「これって何ですか?」

「レモンソーダよ」


 分かっていたけれどこの世界ではまだ飲んだことがないので聞いた。

 実際に日本語でレモンソーダと言っているわけではないが、レモンに似た風味の果実と炭酸を意味するだろう単語を組み合わせていたので、脳内翻訳でレモンソーダとしただけである。

 誰に説明しているかといえば強いていうなら俺自身だろう。自己認識を文字化するのは大事。


 炭酸によってスッと消えていく、レモンのスカっとした酸味。

 舌の上にベターっと味が残り続けると美味しくは感じられないものだが、炭酸によって消えていく事でとても飲みやすく感じる。

 レモンソーダはなんであんなにも種類が豊富なのだろうか? 美味しいと感じやすいからかもしれない。


「気に入った?」


 俺がもう1度レモンソーダを口に含むとサラお姉ちゃんはそう聞いた。

 炭酸がゆっくりと口の中で抜けて、鼻の中をレモンの香りがくすぐっていく。

 この甘味はハチミツだろうか? レモンの香りが強く、前世で作る場合贅沢過ぎて企業としてみれば採算が合わないレベルだろう。


 レモンの栽培は魔法で促進したり、改良できるのだろうか?

 だとしたら前世よりも格安で良質のものを大量生産していてもおかしくない。

 ハチミツはどうなんだろうか? 花の方は年中咲いているかもしれないが、ハチは魔法で育成できるのだろうか?


「はい、とても美味しいです!」


 炭酸はどうしているのかも不思議だ。

 そもそも魔法で操作できるのはどこまでの範囲なのかがわからない。

 ニーナに聞いた話からしてみて、原子の数を増やしたりなどはできないはずだ。


 1番おかしいレベルの話が核融合や核分裂を行って、原子の変換を行い物質を作成するという事だ。

 基本的には原子配置を組み替えて分子を作りという作成していくという流れだったはず。

 あれ? これはゴーレム作成の時の流れだったか? だとしたらまた話は違うのか。


 魔力の消費量が多い、ゴーレム作成に関しては分子や原子レベルでの操作になるかもしれない。

 だが植物や動物はどういった干渉ができるのだろうか?

 植物に関しては頭の中で勝手に木属性ならできるのではないか? なんて思っていたが。


「いい子ね。そろそろ私の家が近づいてきたわ。そろそろ降りる準備をしましょう」




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