108、ホームパーティーに参加しますか?
そもそも帰宅する場所とはどこを指すのだろうか?
とりあえずの安全が確保できる場所だろうか?
だとすればニーナのいるところが現状1番安全だろうか?
ニーナが護ってくれるならば、物理的、魔法的防御力が格段に高くなる。
移動などもスムーズであり、どこにでも行けるだけの能力があるだろう。
ニーナのメリットを考えれば悪影響を及ぼす可能性は薄いはずだ。
政府機関の派遣のミラ先生や信仰の対象だと認識しているユエさんも、立場や感情的な問題で悪影響を及ぼす可能性は低いだろう。
ただ状況に流されているだけでは気が付けば悪い状況へと向かっている可能性もありえなくない。
現在進行形で危ないのだ。成り行き任せは悪だ。
「ねぇ、サラ姉さん。今日はこの後は?」
マル先輩はサラお姉さんにそう切り出した。
マル先輩も姉さん呼びなのか。先輩と呼ぶには何か気が引ける理由があるのかもしれない。
いや。この位置関係を見る限り、主従関係があってもおかしくないのか。
「そうね? ホームパーティーでもする? 急だから大したものは出せないけど」
ホームパーティー? 家で開くお茶会という事だよな。
サラお姉さんの家で? 理由は……俺の歓迎会という名目になるだろう。
そうなればこの場から離れるのはいい事か?
「サラお姉様の家のお茶。私も大好きなんです。また飲みたいですね」
お姉様? お姉様ですか? カク先輩……。
やっぱりこの2人の先輩達はサラお姉さんと主従関係にあるのではないか?
リーダーをサラお姉さんに据えた派閥がある気がする。
もしだ。サラお姉さんが上の学部に上がったら?
残った人はサラお姉さんの派閥のままだとしたら?
その人達と迎合していく下学年の特別クラスの生徒達。
つまり上の学部に上がっていく特別クラスの生徒は全員サラお姉さんの派閥になる。
そんな可能性がある。
「そうねぇ。じゃあ、今日はカクの好きなお茶を用意するわね」
この場合、もしサラお姉さんと敵対してしまった時、俺は学内で孤立する。
孤立する事で起きるのは「手に負えない危険な爆弾」という評価。
その結果が処刑だったとしてもおかしくない。
長いものに巻かれるのが正解だろうか?
いや、巻かれた結果自由を阻害されたらどうしようもない。
だがかといって死にたくない。
「ありがとうございます。サラお姉様」
何も言わなければ流れで連れていかれるぞ?
だが何を言えばいい? 派閥に取り込まれたくないから?
それを口に出して言うわけにはいかない。
帰りの足の心配? 「手配する」の一言で終わるだろう。
もし保護者関係から声をかけられても「新しいクラスメイトとの交流も認められない程狭量なのですか?」と言われたら、いや「私が身上不確かな人物なのでしょうか?」など言われても対応に困るに違いない。
そもそもの預かり先も預かり先だから「両親と一緒じゃないと不安になるでしょう?」なんて口実すら使えない。
あれ? つんでないか?
「ねぇ、リク君。起きてる?」
「はい、起きてます」
「これから家でホームパーティーするんだけど、一緒にどう? オセロもあるよ」
参加すると派閥へ強制参加だろうか?
だが派閥に参加しないのはデメリット多大だろう。
派閥に参加するデメリットは何が考えられるだろうか?
サラお姉さんの派閥が大きいなら1人1人の役割は少なくなる。
もちろんまとめ役のリーダーはチームから上げられる情報の処理や自分のチームの役割分担の采配などある。
作業量の多さはバカにならない。上げられる情報が来るのは急かもしれない。休める時間は消えるだろう。
またリーダー役にならない場合だとしたら? 研究者タイプだろうか?
自分の専門分野を突き詰めていく必要がある。こちらの方が俺としては居心地がいいかもしれない。
だが予算などをどうにかする場合を考えると難しい。
派閥の求めるモノを作れと言われる可能性も高いし、研究で作った商品の売却益もそこに派閥の資金が使われているならそこからお金を吸われていく。
「リク君?」
俺に作りたいものがあるのかと言われたら今の時点ではない。
だが将来的にできるかもしれない。わからない。
だがそれまでの間の行動方針に派閥の求めるモノを作るのもいいだろう。
ある程度自由にできるだけの価値をその組織の中に作れればいいのだ。
そうすれば結果的に自由になれるはずだ。
自由にさせている方が組織として利益になると判断されればいい。
「サラお姉ちゃん、僕もホームパーティーに行きます」
上から覗き込むサラお姉さんの青い瞳は、面白いモノを見つけた猫のようにくりくりとさせていた。
やっぱりこのお姉さんの派閥に加わるのは止めた方がいいかもしれない。
いや、だがそれだと今後の生活が厳しくなるかもしれない。
俺が3歳だという事を考慮すると、俺が中等部に上がる頃には中等部はサラお姉さんの派閥が大多数を占めていることだろう。
小等部を考えるとどうだろうか? こちらは制圧済みなのだろうか? していると思う。
立場的な強者、頭脳的強者。どちらもそろっているのだ。
いや、よく考えろ。子供だからこそ、身分よりも年功序列を気にする。
逆らったら危ないという判断が出来たうえで、それでも気に食わない、そう思う連中がいてもおかしくない。むしろいて当然だろう。
そう考えれば特別クラスの生徒をまとめているリーダーだからといって、学園を支配するトップの生徒と言えるわけがない。
「そう、ならよかった。それでは私のお迎えに便乗していきましょうか」
子供だけで帰宅するのは危ないと判断されているのだろうか?
いや、単純に身分が高いから暴漢が出てきたら怖いという事かもしれない。
幼稚園の送迎のような仕組みもあるかもしれない。
この世界の常識はまだまだあやふやだ。
何が起きてもおかしくない。
それくらいの気持ちでいこう。
「もう爺のお迎えは来ているようね」
サラお姉さんの腕の中で考え事をしていて周囲の確認を怠っていた。
いけない。これでは咄嗟の出来事に対応しきれない。把握しきれない。
今は把握しかできなくても、今後、機動力や筋力などが発達した際、さっさと対応できる方が役に立つ。
前世の身体能力はもやしだから大したことが出来なかった。
だからこそ今世では身体能力の向上は重要課題。
筋肉のあるなしで対応できる幅は大きく変わる。鍛えなければ。
改めて周囲を見渡すと黒塗りの車が一台。窓は黒塗りで外から中を窺う事は出来そうにない。
サラお姉さんが近づくと傍にいた、針金のように細く硬そうな、30代後半の渋い男性が車の扉を開けた。
開けられた車の中は紅く、中には大きなソファーチェアーが向かい合わせで4席あった。
「爺。ありがと。今日は家でささやかなホームパーティーを開こうと思っているの。連絡を入れてくれる?」
「かしこまりました。お嬢様」
爺と呼ばれた男性は運転席に入ると何事かしていた。
そして俺はサラお姉さんに抱え込まれたまま、車内へと連れ込まれた。
膝の上に乗っけられると不意に頬を触られた。
なんだろうと思いサラお姉さんの方を見ると猫のように笑っていた。
自由気ままな猫様のようだ。あまりされない事なので返って不安を覚える。
このお姉さんは何を考えているのだろう? と。






