107、帰りのホームルーム
「お、リク君、クラスにもう馴染んだのかな?
まぁ、とりあえず、はいはい、席に着いて~」
気づけばハク先生と呼ばれているあの係員のお姉さんが教壇に立っていた。
手には書類がある。あれは何だろうか?
俺がハク先生を見ると「リク君は……そうだね。そのままでいいよー」と軽く流された。
「それじゃ、帰りの挨拶するよー。今日は色々連絡があるから紙持ってきたからそれ読んでね」
ハク先生は全員の手に紙を手渡すと教壇へと戻った。
手元の紙に目を落とすと行事予定と書いてあった。
さらさらっと目を通すとテストの日程などクラスの予定が詰められていた。
ところどころにテスト以外のイベントも記入されていた。
自然観察、図工などや職場見学などの学外イベント。
職場見学はどこに行くのだろうか? 軍? 研究所? さすがにそこはないか?
「さてみんな集まった事だし、まずは挨拶をしようか」
ハク先生はスッと背筋を伸ばし顔を正面に向けた。
艶やかな淡い青の髪は肩甲骨の辺りで揺れて、照明を受けて輝いた。
黒い瞳は風の吹かない日の湖の水のように穏やかだった。
「私はハク。このクラスの先生だ」
ゆったりした明るい声で紡がれる言葉は自信に満ち溢れていた。
1人1人の顔を見ていき、最後は俺の顔を見た。
見返すと「面白そうだ」と言わんばかりにその黒い瞳は笑った。
「もうみんな顔を合わせているだろうが、このクラスに新入生が入った。リク君だ」
ハク先生に手招きされると、サラお姉さんが俺の体を抱えて立ち上がった。
降ろしてくれるとありがたいのに、ハク先生のところまでサラお姉さんは俺を抱えて歩いて行った。
サラお姉さん、推定10歳の腕は3歳児を抱えているのにぷるぷると震えることはなかった。
「リク君。挨拶はできるかな?」
降ろしてもらえるかな? とサラお姉さんの顔を見るとにっこり笑って何も言わなかった。
「降ろしてくれますか?」「いいわよ」「あ、みんなが見えなくなるからそのままでお願いできるかな?」
まさかそっちからストップが来るとは思わなかった。しょうがない。身長はどうしようもない。
「このような格好で申し訳ございません。僕はリクと言います。よろしくお願いします」
知性を偽るのはこのクラスでは悪だろう。
ここにはマル先輩のように猫の皮を嫌う人がいる。
既にばれている猫の皮を被っていれば後々面倒になる事は間違いない。
そして思った通り誰も特別な反応をしていなかった。
ハク先生も予想していたのか、別段驚いた様子はなかった。
ここではやはり知性を偽る必要はないだろう。
「さてじゃあ、質問などの積もる話は置いておいて、2人とも席に戻っていいよ」
あっさりしすぎていて、ちょっと大丈夫か? と思うが、ここではこういう形式なのだろう。
前世式にこだわる必要はまるでないのだ。むしろこだわることが危険だ。
いくら似通う部分が多いからといって一から十まで同じであるわけがない。
「行事の概要はその紙に書いてあるからその都度話すとして、直近の行事について話そうか」
日付順に記載されていて、どうやら直近だと職業レクリエーションをするらしい。
魔法の属性毎にできる事を示し、その属性が出来る仕事を紹介していくようだ。
王都に住む段階で高ランクの魔力を保持している事は確実だから、できるだけその特性を活かせる職業に就いてもらいたいのかもしれない。
魔力を使わない職業は別に王都に住民権があるような特別な人々がやる必要はあまり感じていないのではないだろうか?
魔力を扱う器用さが低くても、魔力量があればできる仕事とかあってもおかしくない。
魔力の感覚が鋭ければ、製造に置いても魔力を介し情報量を増やす事で、より効果の高い製品を製造できるようになるかもしれない。
魔力量だけでも職業選択の幅が大きく変わっていくかもしれない。
だとするとちょうどいい程度の魔力があればよかったのだろうか。
そうすれば生きるのが大分楽になったかもしれない。
やり過ぎはよくないのだな。まぁ、過ぎた事は仕方がない。
今はどうやって未来を目指すかが問題だ。
サラお姉さんははっきり言って危険だろう。だが離れる事は難しいかもしれない。
「この行事はクラス毎に行われて、特別クラスの日にちは明日ね」
クラス別? 知能指数が高ければ理解できる仕事、任せられる仕事が多くなるからという事だろうか?
お使いができない人も世の中にはいる。そんな人に事務作業は任せられないだろう。
ある程度の知能指数をクラスという形で管理するなら、自分のやりたい仕事を目指すために多くの人がより高いクラスを目指しているのかもしれない。
魔力量に知能指数。各種の能力をこんな小さいうちから判断されるのか。
職業選択の自由といっても、試験でふるいに掛けられて出来ると判断された能力に見合ったものしか紹介されないのだろう。
能力を隠して上に行く事はできないのか。まぁ、当然のことかもしれない。
「とりあえず概要はそんな感じで当日の流れなんだが」
基本的に集団行動で、ちょっとしたテストを受けてから少し個別行動をとの事。
学園に登校する時間は朝の早い時間帯。午前7時。
集合場所はこのクラスでとの事。そこからの移動は学園がやってくれるそうだ。
ふと目を辺りに彷徨わせてみると退屈そうな顔をしている人が多かった。
そういえばこのクラスは中等部に上がれる学力はあるものの、年齢が足りない人の為の待機クラスだったか。
となるとこの行事を何度も経験していてもおかしくないのか。何年もいることになるのだから。
こういう行事を繰り返し経験できるとなると、将来のビジョンがかなり立てやすいのではないだろうか?
何回も行くことができる前提で選ぶことができるとなるとメリットは多いだろう。
このクラスに早く来れるほどに将来の選択肢が広がると捉えてもいいのだろう。
「今日はここまで。明日は体育の時間はなしで、このクラスに直行だから注意だよ。それではさようなら」
ハク先生はそれじゃとばかりに手を振ってホームルームを終了させた。
クラスメイトは全員起立すると「先生さよなら」とラフに言葉を返した。
英雄の余裕と貴族の自負だろうか。
どちらも自信に満ち溢れ、そして挫けるわけにはいかないものを抱えているのかもしれない。
簡単に見えてパワーバランスが、権力のシーソーゲームが起きている場なのだろうか。
いや、それは深読みしすぎだろうか?
そして俺はいつまで抱えられたままなのだろうか?
ぬいぐるみよろしく、運ばれているのだが、どうすればいいだろう。
サラお姉さんの腕の中から辺りを窺うと、マル先輩がサラお姉さんの荷物を運んでいた。
カク先輩とマル先輩はサラお姉さんの横を控えるように並んでいる。
この場は危険だろうか? 派閥への取り込みを行われている最中と言えるのではないだろうか?
あれ? そういえば前も成り行きで誘拐されたな……。アウトだ。
どうすればこの場を退散できる?
そもそも帰りの足はどうなっているのか?
どこに辿り着けばいい?






