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104、学園初日の午後

 ここに置くと取れないコマができるから、あそこには置いてはいけない。

 今回置ける場所はあそこ。他の場所は先の手を考えると負ける。

 相手が置けるコマの場所はここ。そして……あ。やられた。


「まだまだ。リク君は手が読みやすいな。短期的には正解かもしれないが、長期的な視点が出来ていない」

「むぅ」


 中央のコマの置き方が適当すぎるからだろうか。

 かといってそこに固執してしまうと端を取られてしまう。

 端を取られればいくら中でいい場所を取っても食われる。


「いい顔してんな」


 不意にマル先輩はにやりと笑った。

 後ろではカク先輩とサラお姉ちゃんがパチリパチリとボードゲームをしていた。

 この部屋は遊戯室か何かなのだろうか。


 オセロのようなゲームは最終的な盤面にどうすれば持ち込めるかの逆算をするものだろう。

 優先事項を並べて、手順を詰めていけば、基本はいい。

 だがそれではマル先輩には勝てない。相手はコンピュータではないのだ。


 狙いが分かりやすいということは罠にかけやすいという事。

 相手はイノシシの手を誘導させれば相手の思う盤面にさせられる。

 そしたら負けだ。イノシシは猟師に狩られるのみ。


 どちらがイノシシになるか。猟師に、相手を罠にかけて殺したものが勝ちだ。


「もう1回お願いします」

「勝てるかな?」


 相手は特別クラスの生徒。地の頭で俺が負けているかもしれない。

 いや、たぶん、負けているだろう。俺はただの一般人だ。魔力に関しては運が良かっただけだろう。

 すごく楽しそうな顔でマル先輩は笑っていた。感情を引き出せた事を喜ぶ裏のない笑顔だ。


 ダメだな。俺はそれを他人事のように感じてしまう。

 他人事にしてしまう。向き合っているようで向き合っていない。

 感情を向けられている相手は俺だ。なぜそれに応えようとしない?


 自己中心的な思考が原因だろう。俺の都合で世界を動かせるわけがない。

 相手が合わさせざるを得ない行動をすれば確かに動く部分はあるだろう。

 だがそれは嵐のようなものだ。強引に動けばそれだけ抵抗が生まれる。


 俺を殺すことは容易いだろう。少し高いところからこけただけでも死ぬかもしれない。

 ニーナがいれば体で守ってくれるかもしれない。

 だがここにはニーナはいない。


「リク君。もう時間だ。今日はここまでにしようか」


 気が付くとサラお姉ちゃんに肩をたたかれていた。

 ふと窓を見ると窓の外は赤くなっていた。

 マル先輩はカカカと笑い、カク先輩はその頭をぺしぺしとはたいていた。


 時間が経つのが早い。だが得られたモノは大きい。

 見ているつもりで見えていないモノが多いことに気づけた。

 一緒にいても傍観者になる俺がいることに気づけた。

 再認識したともいえるが、実際はもっと深刻だろう。


「もうそんな時間なのか?」


 オセロのような対人対戦ゲームでなぜ相手を他人事にできる?

 ゲームに集中しているからといって言葉を1つとて紡げない。

 それは会話に慣れていないを通り越して、人を見ていないからではないだろうか?


 先の大まかな形を予想してうっていたが、具体的な形を思考できていなかった。

 大まかすぎて具体的な打ち手を行き当たりばったりにし過ぎているのだ。

 その傾向は現実にも表れていないだろうか?


「そうですよ。もう自由時間はおしまいです」


 俺は未だリク君を演じる人でしかない。リク君ではないのだ。

 意識が未だに前世の俺なのだ。だから傍観者になる。

 リク君だったらこうするだろう。そういった行動しか取っていない。


 傍観者でいい事は「あの立場なら」「この立場なら」と思い描きやすい事。

 自由な立場でものが言えるから、実際にできるかは置いておいて、意見だけならどこまでも言える。

 でもそれは傍観者なのだ。一場面を引き延ばして多角的に思考するが故に反射的に行動はしにくい他者だ。


「じゃあ、クラスに行くか」


 こうやって物思いに耽って現実を俯瞰してしまうのも悪いことだろう。

 情報量が少ないからといって思考の端で捉える癖がある。

 並行作業は情報の取得量を減らしてしまう。違和感を覚える可能性を減らしてしまう。


 俺は俺。そしてリク君も俺なのだ。

 リク君という理想の子供がいるわけではない。

 理想の子供になろうとしている俺がいるだけだ。


「リク君。クラスに戻ろうか」

「サラお姉ちゃん、わかりました!」


 リク君という子供は僕という人称を使い、基本的に丁寧語を使う。

 俺は俺と認識している。人に敬意を感じているが前世の経験からの敬意だ。だからずれる。

 リク君という存在が敬意を感じる理由と俺が敬意を感じる理由には大きな差異がある。


 俺はまともな人間だったとは思わない。

 だからまともに生きられている人がまぶしく見える。

 まともに生きられている理由を考えて、だから敬意を覚える。

 俺にできなかった事をしているから。


 対して俺の想像する理想の子供のリク君は感謝からの敬意だ。

 他に何も考えていない。今は無垢な存在だ。何もトラウマなど持っていない。何も過去を背負っていない。

 だから自分を庇護してくれる人への感謝を覚えている。頼る人を求めて、頼れる事に感謝を覚える。


「リク君、席どうしようか?」

「普通のイスだとリク君座れないよね」


 リク君と俺は精神性が異なってしかるべきだ。

 だがだからといってリク君として接しなければ、転生者ばれをしてしまい、監禁と情報箱程度の扱いを受けるかもしれない。

 もしかしたら転生者に対しての措置は心地よいモノかもしれない。だが楽観して捕らえられたら地獄でしたとか笑えない。


 転生者ばれだけは避けなければいけない。

 そうなるとリク君を完全に演じ切らなければいけない。

 リク君の設定をもっと練らなければいけない。


「リク君? 私の膝に乗る?」

「ふぇ?」


 把握しよう。ちょっとぼんやりとしすぎた。

 時間の都合でクラスに戻る必要が出来て、図書館からここまで歩いてきた。

 そしてクラスに戻ってみて、俺の体格に合うイスや机がないという問題が発生。

 そして今、サラお姉ちゃんが迷案をだした。膝の上に座りましょうと。


 確かに小さな子供はよく親の膝の上に座っている。

 3歳という年齢に見合った体格しかない俺には、小学校高学年用のイスは大き過ぎる。

 専用のイスを用意するのはすぐには出来ない。

 それなら誰かの膝の上に座れば具合がいいだろうと。それではとサラお姉ちゃんが。


「私の膝の上はいやかしら?」

「いいの?」


 サラお姉ちゃん。推定10歳。黒髪青眼のお姫様。

 委員長というよりもお姫様。努力して品を手に入れたわけではなく、それが当たり前のモノだと初めから持っていた、そしてその上で努力をする。

 そんなお姫様。先輩という言葉は似あわない。だからこそお姉ちゃんでお茶を濁していた。


 上位者の振る舞いが板に着いた、生粋のお姫様。

 孤高である事が当然であるとすら思える、黒髪のお姫様だ。

 無礼とかに当たらないだろうか?


「恐がらないでいいわ。そうね。登れないのね」


 サラお姉ちゃんは俺の脇に手を差し込むと一気に持ち上げて膝に乗せた。

 薄い肉の感触が、骨の感触が少し痛い。

 俺が痛いという事はサラお姉ちゃんも痛いかもしれない。


 サラお姉ちゃんの白い細い腕に、ぬいぐるみのように抱え込まれ、身動きが取れなくなった。

 膝の上に乗ると俺の顔の側にサラお姉ちゃんの顔がくる状態になっていた。

 すごい近い。俺がサラお姉ちゃんの顔を見ると、サラお姉ちゃんは青い眼をほころばせてほっぺ同士をくっつけて笑った。


「苦しいの!」

「あら?」


 その声は俺の胸元から聞こえた。

 子供のような声と共に、俺の胸元から出てきたのはネネだ。

 そういえばここに連れてきていたのだった。



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