9、魔力の鑑定
母さんに抱きかかえられると入口の柵を越えた。
「もうこの柵はいらないかな」
「母さん、部屋の中を歩いてもいいの?」
「危ないことはしないでね?」
「大丈夫だよ!僕しないよ!」
「うん、いい子。いい子。リク君賢いもんねー」
母さんははにかみながら俺に言った。
可愛がり方がくすぐったい。
俺は子供らしく笑った。
乳母車?
母さんは俺をその中に入れた。
「よーし、じゃあ、この中で大人しくしててね」
「僕歩けるよ?」
「リク君は自分の属性がなんだか早く知りたくない?」
「知りたい!」
「じゃあ、この中で待っててね?
いい子にしてたらいいことあるよ?」
「わかったっ!」
「うんうん、いい子」
乳母車に入った俺はその視界がその幌に遮られまるで見えなかった。
……無念……っ!
乳母車の中を吹き抜ける風が赤ん坊の肌を荒くなでる。
……揺れはしないんだけどこれってけっこう速いんじゃない?
「母さん~?もしかして走ってるの~?」
「違うわー、飛んでいるわよ~?」
母さんに大きな声を出して呼びかけたら大きな声で返事がきた。
「早く知りたいでしょー?」
「うん、知りたいーっ!」
「母さんもすごく気になるから飛んでるのー!」
「事故らないでねぇー?」
「大丈夫よー!」
飛んでるのか。じゃあ、揺れようがない。
……主婦が空を飛ぶ世界に来ちゃったんだなぁ……。
飛ぶのって何の属性なんだろ?
木の属性が風とか含まれていそうな予感。
それにしてもだ。赤や青、飛行となんでもできる母さんは何属性なんだろう?
俺が土属性か?と聞けばたぶんね、と答えるくらいだから土属性?
属性は遺伝するのだろうか?
俺が初めに魔力の存在を感じたのは臍帯からだった。
属性は母方の血統なのだろうか?
だとしたら遺伝していてもおかしくない?
「着いたっ!」
「おぉ~っ!」
ちょっとすると母さんがテンションの高い声でそう叫んだ。
「ここどこー?」
乳母車から降ろされると目の前には大きな教会。
西洋風の教会。中に入るとシスターが手を振った。
俺が手を振り返すとシスターはほほえまし気に笑った。
母さんがシスターと少し話し込むと戻ってきて手を引き中央へと連れ立った。
大きな教会の中央には透明な水晶が在った。
水晶を通した景色が通していない部分とずれていなければ存在に気づくことができないんじゃないか。
輪郭を辿っていくとそれが非常に大きな水晶だと気付けた。
認識できた結晶状の水晶のサイズは1mを超えていた。
先端はそこらの包丁よりも鋭いんじゃないだろうか?
「あの水晶は見える?」
「あれ、何なの?」
「あれはね、魔法をため込んでくれるの。
あそこに母さんがまず金の魔力を入れておくから反応を確かめましょ」
「うん、わかった」
母さんが金色の球を手の平と手の平の間に作ると水晶へとその球を押し込んだ。
水晶は色が変わる。押し込まれた魔力の色と金色に。
シスターさんが拍手しているのが気になる。
母さんが照れくさそうに笑っていた。
「リク君、じゃあこの水晶に触ってみて」
「うん、わかった、僕やってみるよ」
だんだんリク君という人格が俺とは別にいるような気がしてきた。
俺はその感覚に違和感を感じつつ、その水晶へとまだ小さな手を伸ばした。