七冊目:それぞれの束の間
「…っ、痛、此処は…」
「起きましたか。具合はどうですか?」
何故、私は此処に…それに…この人は………
いゃ、この人を知っている…確か、魔鬼、さん…だっけ、それと私は…あぁ、そうか、血を、飲んで…気を失ったんだ。
朝徒は魔鬼の顔を見て答えた。
「えぇ、まだ頭がぼんやりしますが、大丈夫です」
「そうですか、無理しないでくださいね。人から鬼へと組織を組み換えたのですから、疲れと痛みは相当なハズです。今は夜までゆっくり休んでください」
そう言って魔鬼は水で濡らした布を朝徒にのせた。
それでようやく朝徒は今、自分がどのような状態か解った。
気付いた朝徒は慌てて動こうとするが、激しい痛みに上手く動く事ができなかった。
「ぐぅ、痛」
「もう、あまり動かないでください!無理をすると危険ですよ!まだ鬼の力が馴染んでないのですから。それに…」
魔鬼は少し顔を赤らめて躊躇いがちに言った。
「…あまり動かれると、その、くすぐったいです」
「す、すみません」
そう、いま朝徒は魔鬼に膝枕をしてもらっている状態なのだ。
静寂の中、滝の音だけが聞こえてくる。
朝徒は疲労感もあってかウトウトとしはじめる。瞼はかなり重い、次第に朝徒の瞼は落ちていった。
―――きらめく夕陽、その光を海が反射させ幻想の様に光り輝く。―――
「遅かったね。来ないかと思った」
「ごめんね。なかなか脱け出せなくて」
「ふふっ、でも来てくれてよかったよ。幽」
「今日はどんな話しをしよっか?猫さん」
「そうだね、私達がどう神様と暮らしてたか話そうか」
「猫さんはその神様の事が好きだったんだよね?」
「えぇ、とても好きだった。この毛並みの色も神様が桃白くしてくれたの。私は今も好きだよ、魂はずっと一緒、今もここに居る」
「きゃー、猫さん純愛だね。素敵!私も朝徒とそんな風に愛し合えたらいいのになぁ」
少女がっかりした様に肩を落とした。
猫は苦笑しながら話しを続けた。
「私のは一方的な愛だよ。神様は誰にでも優しく、誰をも愛してたからね」
「ねぇ、猫さんはどうして神様が好きになったの?」
「神様を好きになった理由は…って、どう暮らしてたかの話しじゃなかった?」
「そうでした?まぁ良いじゃないですか。恋話し」
「幽がそれでいいなら…いぃけど」
少女は楽しそうに猫に話しかける。
猫もまた少女と幸せそうに話す。
その光景はおとぎ話のように………