六冊目:魔鬼
長らく御待たせしました(^^;)
六冊目のこうしんです。
サアアアァァァァァ
森の中の小さな滝が音を支配していた。小動物の声も気配もなく小さな滝が音を放っている。
生命が感じられないほどの静寂………
否、そこには二つの大きな影があった。
一人は哀しげな瞳でただ見つめ、もう一人は大きく目を見開きただ呆然と立ち尽くしていた。
その時の呆然と立ち尽くしていた者の眼は血の様な赤い瞳をしていた。
―――3時間前―――
「貴方に色々教えてあげるこれから生きていくための術をね」
彼女は朝徒にそう告げた。これから生きていくための術………
彼女が言ったことは≪自分は遅かれ早かれ危険な目に合う≫そう告げたようなものだ。
もう戻れない………朝徒は確信した。なら、自分がすることは自分が出来ることは決まっているようなものも同然だ。
「教えてください………私にその生き抜くための方法を」
朝徒の答えに彼女は深くうなずいた。
そして朝徒は彼女から色々な事を聞いた。そしてこれからの事も………
「まず…そうね自己紹介からしましょうか。あぁでも貴方のことは知ってるから私だけ紹介するね。私の名前は神封寺魔鬼名前どおり私は神を封ずるもしくは殺消する鬼よ」
「お、に?」
「そう神格をもったね。私が此処にいる理由は神を喰らった猫達を始末することよ」
彼女は冷たい眼差しでそう答えた。
「それは猫達を………殺すって意味ですか?」
「そうなるかも知れないしそうならないかも知れない。それは貴方しだいだから」
「私しだい…ですか」
「ええ、初めにも言ったように貴方が中心になるからよ。だから未来を決めるのは貴方しだい」
しばらくの沈黙の間彼女は再び話し始めた。
「この先もしかすると数十年数、百年後にきっと人と猫の争いになるわ。どのような争いかはわからないけど………けど今は貴方のことね」
彼女は苦笑しつつどこか寂しげな表情で話し続けた。
「次に話すのはこれからの事、まず確実に猫達は人に襲いかかるわ。その時かあるいはその忠告の時にきっと姿を見せるはずよ。その時になんとか面合わせをしといた方がいいわ・・・その後どうなるかは貴方しだいよ」
「私は何をしたらいいんだ」
「今は話を聞きなさい。猫達がどうなるかは私にもわからないわけど問題はこの後なの」
「後?」
「そう、その後。貴方の体をクロはきっと奪うはずよ」
「えっ、奪う?体を?」
「ええ、貴方を事の中柱とするために貴方の中にクロを宿すのよ。そうしないと神を喰らった猫達に対抗できないから………ごめんなさい」
「………なぜ、魔鬼さんが謝るんです?これは私が望んで選んだ道です。魔鬼さんが謝ることではありません」
「けれど私には止められないの……貴方を犠牲にしている……だから責めて貴方だけでも生き残らせてあげたいから………」
彼女はいや彼女こそ犠牲者だ。この争いは人と猫の問題だから………
朝徒は心の中でそう思った。だからこそ朝徒は決意した。関係のない彼女がここまでして人と猫の争いを止めようとしている、だから私も人として出来るもの全てに全力を尽くそう。
朝徒は固く決意した。
「それで私は今から何をすればいい?」
魔鬼は真剣な顔でゆっくりと答えた。
「私の血を飲みなさい。貴方に鬼の力を宿します」
「鬼の力?それを宿すとどうなるんだ?」
「私の血を飲む事で貴方は神をも凌ぐ鬼になります。つまり、私と同じ存在になるの」
「それが生きる術?」
「そう、神の力を得た猫から…そしてクロから対抗するための力。ただ………」
魔鬼は曇った表情をして答えた。
「もし私の血を飲んだとしても鬼の力を受け入れられるかどうかはわからないの」
「受け入れられなかったらどうなる」
「受け入れられなかった場合…貴方は………死ぬわ」
「そうですか………わかった。魔鬼さん貴方の血を私にください」
「いいの?」
「もう、後戻りはしませんから」
「わかったわ。私の血を、鬼の力を貴方に宿します」
―――静寂な森の中、それを破るかのように一つの悲鳴が響き渡った。―――