十一冊目:朝徒と桃白猫
歪な月が浮かぶ夜。
朝徒が見上げた窓には一匹の桃白い猫がいた。
「へぇ、人の割にはなかなかの反応だね」
「いつの間に…」
黒達との関係がバレたか………
朝徒は警戒しつつ猫の言葉を待った。
「貴方が朝徒だよね?」
「そうですが…私に何の用ですか?」
「単刀直入に言うよ。幽を連れて此処から去るといい」
「…幽を連れて?何故です?」
「明日、ここの人全てをこの土地から消す。猫達の手で、神の力を使ってね。それに幽を巻き込みたくないの…だからいますぐにでも幽を連れて逃げて欲しい」
「………」
何か意図があるのではと朝徒は猫の瞳を見つめた。
紫がかった桃色の瞳…まるで奥に引き込まれそうな…
そんな事を考えていると、先に猫の方が口を開いた。
「決められない?なら、もっと簡潔に聞くよ…貴方はここの人間と幽どちらが大切なの?」
「っ、そんなこと」
「選べない?此処に居れば死ぬだけなのに?」
「私には此処の人達に恩がある…だから見捨てることは出来ない」
「………」
静まりかえった沈黙。
猫はうつ向き、朝徒は猫の言葉を待った。
「貴方にとって幽は一番の大切な人ではないの?少なくとも幽は…」
「幽様は確かに大切な人です。誰よりも何よりも」
「だったら!」
「だからこそ村の人達を見捨てる訳にはいかない。幽様が愛してる人達を守らなくてはならない」
猫は口をキツく閉じ朝徒を睨んだ。
一気に温度が下がる様な空気に朝徒は身構えた。
「貴方がもし幽を連れ出してくれたのなら…貴方が影でやってる事に目を閉じるつもりだったけど…此処に残るのなら私は貴方を許さない!憶えておくといい貴方を殺すのはこの私だとゆうことを!」
猫が去り静まりかえった部屋で朝徒は既に猶予が無いことを悟った。
「明日、猫達も動くのか………」
先ほどの会話で得たものは多い…けれど先ほどの猫は…
「幽様と知り合いなのか?それに私達が動いてたことを知っていた…」
猫達にこっちの行動が筒抜けなのかも知れない。
「取りあえず今は明日のことだけを考えよう」
幽様とさっきの猫はどんな繋がりがあるのだろうか………
―――全ては明日、猫と人の運命の歯車が急速に廻りだす―――