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7話


「風の防音壁を張らせてもらった。これで俺たちの会話は他の奴らには聞こえないだろう。つっても、あの姫さんが本気で盗み聞きしようと思えば、意味は無いだろうけどな」


魔王様が放った魔法は、私を傷つけることはありませんでした。

防音壁ですか・・・焦りました。

できれば先に伝えて欲しかったものです。ちびるところでしたよ。


しかしあれですね。

いつもストカ姫様のお側におりますので、魔王様のような危険になりうる方とのお話も、ストカ姫様がいるからと安心しきっている部分がありました。

しかし、このようにストカ姫様や私の性格を理解して、私とストカ姫様が分断されてしまった場合、私の安全は保証されなくなってしまうわけですね。

あたりまえのことですが、慣れきって失念していました。

慣れは怖いですね、今後のために対策や警戒のことを考えておかないと・・・。


おっと、今はそんなことよりも目の前の魔王様に対応しないとですね。

早くしないと、ストカ姫様が勇者様に大変なことにしちゃうかもしれません。


「そんなに警戒しなくても、ストカ姫様は盗み聞きなんてされませんよ。それで、私に話とはなんなのでしょうか。魔王様と私のようなただのメイドがお話する内容は、全く想像がつかないのですが」


ストカ姫様は私達の話を盗み聞きなんてしないということには、絶対の信頼を置けます。

なぜなら今姫様は、勇者様を盗み見しているんですから、他のことに興味を示すわけがないんです。

・・・わが主人ながら、そんなことで絶対の信頼なんて置きたくないんですがねホント。


「まず2つ、守ってほしいことがある。これから話すことを信じて欲しい。それと、絶対に誰にも他言しないでほしい。それを守ってくれ」


厄介なお願いですね・・・魔族に関する重大な秘密でも話されるのでしょうか?

こんなただのメイドにそんな秘密を話してどうなさるおつもりなんでしょう。

魔族の秘密なのであれば、聞いてしまえば命の危険があるかもしれないですね。

しかし、ここで聞きたくないとゴネれば、それだけストカ姫様のご様子を見に行くのに遅れてしまいます。

魔族の秘密を知ることと、ストカ姫様の暴走・・・魔族の秘密を知ったことは、バレなければ危険は少ないですが、ストカ姫様の暴走は今迫っている危機です。

優先すべきはストカ姫様でしょう。


「わかりました。しかし、私はこの王城に仕えるメイドです。主人である王族やストカ姫様の安全に関わる内容であるのなら、その限りではないことはご承知下さい」


「ああ、それでいい」


くっ、王族の安全のためなら秘密を漏らすと公言したのに、あっさりと承認されてしまいました。

理想としては、それじゃあ話せないと言われ、それではこちらも聞く訳にはいかないと話を終わらせることだったんですが、まあ、そううまくは行かないですよね。


「それでいいのであれば、お聞きします。どうぞお話下さい」


「ああ、その・・・じつは、じつはな・・・俺・・・」


魔王様は息を呑み、とても言いにくそうにしています。

そのまま、言うのやめた! ってなってくれないかなぁ。

私のそんな思いは虚しく、魔王様は言葉を続けました。


「俺、勇者に一目惚れしたみたいなんだ!!」


「・・・・・・」


・・・はあ、やっぱりそのことでしたか。

いやね、実はちょっとわかってはいたんですよ。

魔王様が私に話そうとしている内容。


ストカ姫様には話せず、私にだけ話す内容なんて、そうあるはずが無いですからね。

おのずと内容は予想できるわけで・・・先送りした案件がたった二週間で帰ってきてしまいました。

誰ですか? こんな杜撰な仕事の先延ばしを行った方は!


「はあ・・・、そうですか」


「・・・あまり驚かねぇんだな」


まあ、魔王様より先に一目惚れには気付いてましたからね。

しかしここでそれを言うのもダメでしょう。


「いえ、驚きすぎて逆に落ち着いているだけですよ。気にしないでください」


「そ、そうか」


そう言って魔王様は黙ってしまいます。


「・・・・・・」


「・・・・・・」


って、赤くなって黙っちゃわないでくださいよ!

こっちは急いでストカ姫様の所に向かわないといけないんです!

ストカ姫様が勇者様を傷物にしちゃったらどうしてくれるんですか!


「あの、それで、要件はなんでしょうか? そのことを私にお伝えしたかっただけではないでしょう?」


「あ、そうか。そうだったな」


なんだか、魔王様の表情、心ここにあらずというか・・・完全に恋する乙女ってかんじですね。魔王なのに。

今のところ人間の敵ですが、王がこんな感じで魔族の国が大丈夫なのか心配になってきます。


「魔王城に帰ってから、風呂から突然俺が消えて騒ぎになっていた城内を落ち着かせたんだが、それが済んだ後も、勇者の顔が頭から離れなかったり、ドキドキしたりする症状が治まらなくてな、具合がわるいのかと家臣やら従者に心配されたりもしたけど、勇者のこととか、媛さんのこととか理由を話すわけにもいかないだろ? だから、書庫とかで本読んで、自分で調べたんだよ。そしたら、俺はどうやら勇者に、ひ、一目惚れしたらしいってわかってさ、それで・・・」


魔王様がご自分で一目惚れにお気づきになるとは・・・その考えが抜け落ちてました。

十分ありえる可能性なのに、それが抜け落ちてるなんて、ずいぶん杜撰な先送りをされた面倒事のようです。

本当にだれですか? こんな杜撰な問題の先送りをした人は!


「それで、それを私に話して、魔王様は何をお望みになるのですか? 私にはどうすることもできない要件に思えるのですが」


できるできないは別として、面倒事を頼まれるのだけはわかりますが。


「ああ、そのことなんだけど、ほら、俺って魔王じゃん? その、恋だとか、そういうの、気軽に相談できる相手がいないんだよ。しかも、好きになった相手が魔族ならまだしも、勇者だし・・・それで、メイさんに相談に乗って欲しくてな?」


「どうして私なんですか? 事情を知っているということなら、ストカ姫様でもいいはずでしょう?」


「いや姫さんは駄目だ。その理由はメイさんのほうがよくわかってるだろ?」


ええ、わかってますよ。

一目惚れした勇者様召喚したさに魔王を王城に召喚してしまうような方ですからね・・・魔王様が勇者様に一目惚れしたなんて言ったら、何をするかわかったものではありません。

言ってみただけですよ。

いつも私にばかり面倒事が振りかかるので、たまには他の人に面倒を丸投げしたくなるのです。

まあ、ストカ姫様にそれを押し付けたら余計面倒なことになることうけあいですが・・・はあ、なんで世界の命運を決めかねない面倒事が、いちメイドの私に降り掛かってくるんでしょうか。

誰か配役を間違っていませんか?


「わかりました。相談をお受けします。しかし、私が仕えるのはあくまでルギスカデ王国の王族、人間の王族であることは、ゆめゆめ忘れないで下さい」


面倒だ面倒だというのならば、相談を受けなければいいのではないかと思われるかもしれませんが、それはダメでしょう。

魔王様は、お一人で色々と悩まれた末、友好を結ぼうと画策しているとはいえ、今はまだ敵である人類の元、しかもその本拠地とも言える、王城に、お一人で来てしまっているのです。

これは、この間合われた時に感じた、冷静さと聡明さを併せ持った魔王様であれば、うかつには絶対に行わない行為であると思えます。

しかし、魔王様は今回、それをしてしまいました。

それはなぜか。魔王様はそれだけお心を惑わされている状況にあるからでしょう。

敵であると教えられ育ってきたはずの勇者に一目惚れしてしまったのですからね。

しかし、魔王城で魔王様の周りにいるのは勇者の敵である魔族ばかり。

誰にもそのことを相談できず、苦しくなって、耐え切れずこの場所に来てしまったのではないでしょうか。

魔王様は先ほどから冷静を保って話してらっしゃいますが、心中までもがそうとはかぎりません。

ここで私が無碍にことわりれば、魔王様は一人で悩まれた挙句、勇者様恋しさに人類との戦争を始めたり、ストカ姫様に対抗しうるための研究を始めたら、それこそ世界が大変なことになります。

相談役になって、魔王様が暴走してしまわないように、心を平穏に保つことを手伝う。

それを誰かがしなければいけないわけです。

なんで私が? と思うところではありますが、他に適任も思いつきません。

仕方ありません、ここは引き受けておくべきでしょう。


「本当か! 引き受けてもらえないかと思っていた! ありがとう!」


魔王様が嬉しそうにお礼を言います。

いい笑顔です。

やっと相談できる相手を見つけたからでしょう。

私も、魔王やら勇者の姫君やらに面倒事を持ってこられる事を誰かに相談というか愚痴を言いたいのですが、誰か良い相手知りません?


「ええ、しかし、いくつか条件を出させていただきますが、よろしいですか?」


まあ、文句を言っていても仕方がありません。

引き受けるからには、しっかりお仕事をこなしましょう。

できる仕事を先送りにして痛い目を見た人がいるみたいですし、私は一生懸命働きましょう。


で、引き受けるからには、ちゃんと報酬をもらわなくてはいけません。

私は慈善事業をやってるわけじゃないですからね。

魔王様にはちゃんと報酬を払ってもらいましょう。当然でしょう?


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