4話
このままでは、ただの言い合いになって話が進まないでしょう。
仕方ありません。私が助け舟を出しますかね。
「ストカ姫様、まずは要求を押し通すのではなく、なぜ嫌なのか、ちゃんと理由を聞いてみてはいかがでしょう。その後に、自分がどうしてこんな要求をするのかを説明する。そうすれば、双方の妥協点を見つけられるかもしれません」
「なんでそんな面倒臭いことを・・・」
「姫様、他人の意見を聞かず、自分の意見だけを押し通そうとする女性を、勇者様はどうお思いになられるでしょうか?」
「仕方ありませんわね、聞いてあげるわ・・・どうして貴方は世界を混沌に導きたくないの? 魔王なのに」
「別に好きで魔王に生まれてきたわけじゃねえからな。子供の頃から、人間は敵だ、世界は魔王のものだ、混沌こそこの世界の真の姿だと教えられて育ってきたから、俺も最初はそうするのが普通と思ってた。だからさ、人間と戦争するにあたって、敵の事良く知っとこうと思って、人間のことを調べてみたわけよ」
あら、最初は魔王様、世界を混沌にするつもりだったみたいですね。
一体魔王様にどんなドラマがあって、人間との共存なんて望むようになったんでしょう。
少し楽しみです。
「調べてみたら、人間って魔族に比べて弱いけどさ、めっちゃ数が多いのな! 魔族よりも増えるのも早いし、それに最後の手段として、勇者を召喚できたりもするわけじゃん? で、これは普通に勝てねえなって思って、共存策を取りたいわけよ。魔族の方も、人間殲滅派だけじゃなくて、共存派や、関わらない派も少なからずいたからな。俺を育ててくれた氏族は殲滅派だけど、だからって俺が殲滅しなきゃいけないわけじゃないじゃないし」
ドラマなんてありませんでした。冷静に判断して、戦争を回避したいだけのようです。
一国の王として、その判断は間違ってないのではないかと思います。
魔王としてどうかは知りませんが。
「共存策を取りつつ、裏で人間同士の戦争を起こそうとしてたりとかしてないの? 人間同士争わせて、数を減らしたところに魔族が追い打ちをかけるとか」
「そういう小細工は、過去の魔王たちがやりつくしてるからな・・・、人間に変身して近づこうにも、魔族探知魔法とか、色々と対応措置が取られてて、簡単じゃねえんだよ。そのせいで共存策も全然進まないんだけどな」
確かに、過去の魔王たちがやった悪行に、内部の人間と入れ替わったり、ハニートラップで要職を骨抜きにしたり、家族を人質にとっていうことを聞かせたりということがあったせいで、その辺の探知や警戒技術は、かなり高水準な物になっていると聞いています。
単純に話し合いをしようとしても、過去からの伝承にある魔族の悪事が邪魔して、人間側で共存策を進めるのは難しいでしょう。
それでも、魔王の言うように、正面からの戦いに無理があるのであれば、魔族側では人間殲滅派を抑えて、共存のための策を進めることも可能でしょう。
最終的に人間と魔族の共存が本当実現するかはまた別問題でしょうが、片方の勢力を抑えられるのであれば、現状の維持くらいはできるかもしれません。
どちらかに飢饉やら問題が出てくると、話は変わってくるでしょうが。
「あ、勇者の姫君に協力してもらえれば、人間と魔族の共存、少しは進めれるんじゃないか? 殲滅派はなんとか俺が抑えるから、協力してくれない?」
「嫌よ、もし貴方が殲滅派を抑えられなかった時、私が魔族とつながっている姫ってことで糾弾されちゃうじゃない。それに共存なんかが実現しちゃったら、勇者様を呼べなくなるわ」
人類と魔族の平和を望む魔王と、世界の混沌を望む勇者の姫君。
立場が逆ではないでしょうか。
「さっきから気になってたんだが、なんでそんなに勇者を召喚したいんだ? 俺に世界を混沌にしろと頼むってことは、特にそこまで世界の平和を考えてるとか、魔族が憎くてしょうが無いってわけじゃないんだろ?」
「そ、それはその・・・」
ストカ姫様が、勇者様を召喚したい理由を聞かれて、急に赤くなってもじもじし始める。
気持ち悪・・・ゴホン!
この感じになった姫様に話を進めさせると、モジモジしてなかなか話が進まなくなるので、私が助け舟を出しますかね。
「実は、ストカ姫様は、勇者様に一目惚れしてしまわれたのです」
「ちょっとぉ! メイってばぁ、なんで言っちゃうのよぉ!」
顔を赤らめながら猫なで声を出さないでくださいストカ姫様。
普段と違いすぎて本当に気持ち悪・・・ゴホン! 王族として、恥ずかしい姿ですよ?
「一目惚れって、勇者を見たことがあるってことか? って言うことは、もう勇者が召喚されてるってことじゃないのか?」
「いえ、そうではなくてですね・・・・・・」
私は、ストカ姫様が勇者のお姿をご覧になった経緯を話しました。
ストカ姫様しか使えない危険な魔法である、異世界すら見えてしまう遠見の魔法のことを話すか悩みましたが、魔王様を召喚した魔法や、勇者の姫君であることはもうすでにバレてしまっているのです。
今更1つ2つ秘密をばらしたところで変わらないだろう。ということで話してしまいました。
凄い魔術を持っているからとストカ姫様をどうこうできる人物が、果たして、この世界にいるのか甚だ疑問である所ですしね。
「・・・信じられない話だけど、レベル30万の件もあるしな。嘘だと言い切れないのも事実だ。しかし勇者の姫君が一目惚れした勇者を召喚するために、魔王を王城に召喚したのか・・・本末転倒じゃないか?」
言わないでください。
正論すぎて、仕えるものとして目頭が熱くなってきますので。
「さあ、お互いの望みや状況は話したわ! さっきメイが言ってたみたいに、妥協点を探しましょう!」
「いや、妥協って言ってもなぁ・・・俺は魔族を戦争に巻き込むようなことはしたくねえぞ? 勝てる見込があるならともかく、ほぼほぼ負け戦だ。しかも人間側には勇者だけでなく、レベル30万の化け物がいるってわかったしな。なおのこと人間に喧嘩ふっかける気にはならないって」
「誰も真向から喧嘩を売れなんて言ってないじゃない。とりあえず私は勇者の姫君として勇者様を召喚できればそれでいいの! ちょっとは手段考えなさいよね!」
ねえ、どう思います?
お風呂中にかってに召喚して、無理難題をふっかけた挙句、自分は考えを出さないのに人には考えを出せという姫様。
自分の仕える人でなく、圧倒的力量差がなければ殴りたいくらいですよ全く。
魔王様は苦笑いを浮かべてますが内心どう思ってらっしゃるのでしょう。
「はあ・・・、ところでその勇者ってのは、俺も見ることができるのか? 宿敵っていうのもあるし、勇者の姫君が一目惚れした男ってのも気になるしな。見れるならぜひ見てみたい」
「嫌よ! 勇者様は見世物じゃないのよ。そう簡単に人に見せれるわけないじゃない!」
四六時中好き勝手に勇者を眺めている貴方が言いますか・・・。
しかし、魔王様が勇者様の姿を見せる、ですか・・・戦術的にどうなんでしょう。
まあ、いずれ顔を合わせることになるかもしれない相手ではありますし、勇者様が今いるのは異世界。
ストカ姫様も四六時中監視任務に明け暮れてますし、手出しはできないでしょうが。
「別にいいだろ? 勇者の顔見たら、何かいい方法思いつくかもしれないしさ」
「思いつく保障はないのでしょう? そんな口車に乗せられるもんですか!」
「なんだよケチだな・・・それとも何か? もしかして勇者の顔は、他人に見せるのが恥ずかしいような顔をしてるのか?」
「・・・・・・勇者様を馬鹿にしたら・・・殺すわよ?」
そう言って、ストカ姫が殺気を放ち、魔力を練ります。
ちょ! ストカ姫様! それ、この王城、いえ、王都、いえ、王国、た、大陸、世界が滅びます! 魔力練りすぎです!
どんどん込める魔力増やしていかないで! 明らかにオーバーキルですから!
「お、おいおい、今俺を攻撃したら、勇者の顔が恥ずかしくって見せれないって言ってるようなもんだ、ですよ?・・・だ、だから、その物騒すぎる魔力を収めてくださいお願いします!」
冷や汗をだらだら流しながら魔王様がそう言います。
ナチュラルに殺気だけで魔王を敬語にさせちゃったよ! もうやだこの姫様・・・。
「わかりましたわ! そこまで言うのなら勇者様のお顔をお見せいたしますわ。いずれ自分を滅ぼすことになる勇敢で精悍な顔をご覧になって、慌てふためけばいいのです!」
そう言って、ストカ姫様は覗き見鏡・・・ゴホン! 遠見の魔法を施した鏡のある場所に、魔王様を案内します。
その道すがら、ストカ姫様に気付かれないように小声で魔王様に話しかけます。
「(魔王様、大変ご無礼な物言いであるのは存じているのですが、それでも進言させていただきます。勇者様の顔についてどのような感想を持たれても、決して悪く言わないようにして下さい)」
「(ああ、わかっているよ。俺も死にたくはないからな、王とはいえ、未だ人間の敵ででしかない魔族に礼を払ってくれてありがとう)」
そう言って魔王様は私にウインクをしました。
魔族であるのは確かですが、この人の器にはたしかに王にたる器量を感じます。
どこかの姫様にもぜひ見習ってほしいものです。ええほんとに。
「着きましたわ。この部屋の鏡で勇者様のご尊顔を拝見できます。謹んで拝見するように!」
そう言ってストカ姫様は魔王様を鏡の前に誘導します。
どこの世界に勇者の顔を見るのに礼を払う魔王が居るというのでしょう、少しは物を考えていってほしいものです。
「っ、・・・・・・こっ、これが、勇者・・・?」
あれ? なにやら、勇者様の姿を見た魔王さまの様子がおかしいですね。
どうしたのでしょう。