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3話


赤い肌に銀色の髪、金色の瞳に黒い翼、頭に生える角。

明らかに人間でないその存在は、不敵に微笑む。

まるで、世の中に怖いものなどないと言うようなその不敵な笑顔は、まさに魔王に相応しい表情です。


「あ、どうも魔王様、お久しぶりです。今、お茶を入れてまいります」


「久しぶりメイちゃん。相変わらず大変そうだな。俺のお茶はいいよ。このメロンソーダってやつ貰うから」


そう言って魔王様は、ストカ姫様の飲みかけのメロンソーダをゴクゴクと飲み干してしまいました。


「ちょっと魔王! あんた何邪魔してんのよ!」


「はっ、こんなセコい手で勇者と間接キスをしようとしているお前が悪い」


その通りです。

ストカ姫様は行動がセコいのです。

もっと言ってやってください。私の分まで。


え? なんでここに魔王様が居るのかって?

それを話すには3年前、ストカ姫様が14歳だった頃に起こった事件の話をしないといけません。


今から3年前、ストカ姫様が勇者様のお姿をご覧になられてから2年が経ちましたが、世界は平和でした。

厳密にいえは細かい戦争や騒乱くらいはあったのですが、伝承にあるような、世界が混沌の渦に飲まれるほどの混乱は起こっていません。

ルギスカデ王国は、少し前にまわりの大国との停戦協定が成立し、それ以降、歴史上一番と言っていいくらい繁栄し、栄華を極め、民や貴族との確執もなく、幸せな日々を過ごしておりました。

魔王復活の前触れである、勇者の姫君が生まれたことは、国の機密事項です。

その事実を知る上層部は、この平和がいつ崩れるのかと怯えるものもいますが、ほとんどの王国民はそれを知りません。

自分たちの生活を余すことなく楽しみ、労働し、平和を謳歌しています。

機密を知る上層部は、そんな平和の中に影を落とすもの、裏で進行する混沌がないか常に目を光らせているため、街にいる小悪党なんかも一掃され、かえって治安が良くなっているくらいでした。

そんな王国の中心である王城。

歴史上一番国が潤っている王城です。

きちんと訓練された精鋭の王国軍に守られ、鼠一匹は入れないような強固な守りが敷かれていました。

そんな王城で機密として、何よりも大切に守られたストカ姫さまの前に、突如として、魔王が現れました!








ストカ姫様が召喚したので。


・・・はい、ストカ姫様が魔王を召喚したのです。

本来、召喚魔法というのは、契約した魔物や精霊、人物や、召喚のための魔法処理を施した道具などしか召喚できません。

まあつまり、召喚魔法は何らかの下準備をした生き物や物でないと、召喚できないのです。

その下準備のいらない唯一の例外が勇者召喚なわけですが、勇者召喚も、ストカ姫様が調べた結果、好き勝手に誰でも呼べるわけではなかったのは、先に話したとおりです。

つまり、あったこともない人物や魔物、魔族の王なんかを、急に自分の目の前に呼び出せるような便利な魔法じゃないわけですよ。

もし、そんな便利な魔法であるのだったら、戦争中に相手の司令官を味方の砦に召喚して処刑なんてこともできちゃうわけですし、当たり前ですよね。

ですが、ストカ姫様なのです。

あっさり下準備なしに召喚可能にした挙句、魔王を呼び出してしまいました。

ストカ姫様のあまりの無茶苦茶ぶりに慣れはじめていた私ですが、あれは驚きました。

まあ、もっと驚いている人物がいたわけですが・・・。

誰かって? もちろん、召喚された魔王様です。


「え、あれ? 俺今、魔王城で風呂に入っていたはずだよな? ここどこだ?」


魔王様真っ裸でした。

立派なものをお持ちで・・・。


「ここはルギスカデ王国の王都にある王城ですわ。魔王、あなたに話があって私が召喚させてもらいました」


「な! え、突っ込みどころが多すぎて話しについていけない・・・」


魔王様は慌てふためいております。

それはそうでしょう、私だってお風呂中に急に知らない所に召喚されたら、慌てます。

叫び声を上げてしまうかもしれません。

それと比べれば、魔王様は落ち着いている方でしょう。


「私のあなたに対する要求はただ一つ・・・」


「いやちょっと! 勝手に話進めないでくれ。先に今の情報を整理させて・・・いや、それよりも先に、先になにか着るものか隠すものをくれ」


「全く、しょうが無いですわね、メイ、何か着るものを渡してあげて」


いきなり裸の魔王が出てきて呆然としていた私は、その言葉に我に返って、慌てて魔王様に体を拭く物とバスローブを用意しました。

魔王さまはそれで、立派なものをお隠しになりました。


「ふん、で、お前らに色々と質問したいんだが、大丈夫か?」


威圧感たっぷり込めてに魔王さまはそうおっしゃいました。

お風呂に入っていたところを急に召喚されて、裸にバスローブ姿で威圧感を出せるなんて、さすがは魔族の王といったとろこでしょうか。


「・・・ええ、構いませんわ。私の要求を聞いてもらうためにも情報は必要でしょうし」


ストカ姫様も威圧感たっぷりに返します。

あれ? 勇者の姫君って、魔王に対してこんな威圧感出す必要ってあるのでしょうか?

まあいいか、ストカ姫様だし。

どうやら、魔王に要求を通す前に、ちゃんと質問に応えるつもりのようですね。

成長されたな・・・前までの姫様だったら、問答無用で要求だけ伝えてたでしょう。

成長された理由は、礼儀作法なんかの家庭教師たちがある魔法の言葉を使うようになったからです。

『まじめに勉強しないと、勇者様に嫌われますよ?』

この言葉を言えば、ストカ姫様はとたんに優秀な生徒に変わります。

まあ、それだけで制御できるお方じゃないですけどね。


「・・・くっ、えっと、まず、なんで俺が魔王だと知ってる・・・人間はまだ、魔王が復活したことを知らないはずだろ」


どうやら、威圧感合戦はストカ姫さまの勝ちだったみたいです。

魔王様を威圧感で圧倒するって・・・まあ、ストカ姫様ですし。


「世界中の魔力を魔力探知で調べたらわかりましたわ。あなたの魔力、特徴的ですし」


「はあ!? 世界中の魔力を魔力探知って、そんなことできる人間居るわけ無いだろう! バカにしてんのか!」


魔力探知というのは、文字通り、人物や魔物、魔道具なんかの魔力を探知する魔法です。

特定の魔力を持った人の居場所を調べたり、周りに敵がいないか策敵したり、色々便利に使える魔法ですね。

一般的な魔力探知の有効範囲は10m~100mくらいでしょうか。

個人でなく、大規模な魔法陣や複数の術師を用意して行えば、20kmくらいは探知できるでしょうか。

まあ、20kmも離れてたら、方角や大体の位置がわかるくらいで、正確な位置なんかはわかんないでしょうけどね。

ちなみにストカ姫の場合? 3年前の時点で、この星の周りを回っている3つの月のうちの、一番内側の月までなら正確に探知できるって言ってましたけど、今はどこまで出来るのか知りません。


「信じる信じないはそちらのかってですが、あなたが魔王であるのは事実でしょう? あ、信じてもらえないかもしれないけど、魔王が復活していることは私と、そこのメイしか知らないわ」


さらっと私の名前出さないでくださいよ。

魔王復活を知っているものは殺す! なんて言い出したらどうするつもりなんですか。

まあ、ストカ姫様が居る限り、大丈夫でしょうが。


「・・・そうだな。俺は今、そっちの話す情報の真偽を確かめるすべはない。だが、真偽はともかく、現状を判断できる情報がほしい。質問を続ける。お前は誰だ? できれば名前だけでなく、身分や立場も教えてくれ」


あら、意外と冷静なんですね魔王様。

なかなかに心の強いお人のようです。

ストカ姫様にはじめて関わって冷静でいられる人なんて、なかなかに珍しい方です。

はじめてストカ姫様に会った人たちはほとんど、冷静さを保てなくて激怒したり、激高したり、怖がって失禁したりします。

大体皆一週間くらいでその荒唐無稽さに呆れ果てて、『まあ、ストカ姫様だしな』って、受け流せるようになるのです。

と言うか、受け流せるようにならなければ心が壊れます。


「ルギスカデ王国第四王女、時空と召喚魔法の使い手、勇者の姫君、ストカ=ルギスカデですわ。よろしく」


「・・・・・・へっ?」


「なんですのその反応」


「え、いや、勇者の姫君って、俺の敵じゃん! てっきり、俺を利用しようとする悪人とか、国家転覆を企む謀反人だと思ってた・・・」


「失礼ですわね! 私ほど清廉潔白な姫君捕まえて、悪人だなんて」


「いや、さっき出していた威圧感で清廉潔白だなんて思える奴いねえって・・・」


「・・・なにかおっしゃいまして?」


「イイエ、何モアリマセン」


ストカ姫様、ナチュラルに魔王様を威圧感で黙らせないでください。

どんどん普通の勇者の姫君から遠ざかっていっていますよ?


「えっと、質問続けていいか?」


「どうぞ」


「じゃあ、風呂に入ってる俺をどうやってここに連れてきたんだ? 眠り魔法とかかけられた覚えはないんだが・・・それに城の警備をどうやって」


「そんな面倒臭いことしませんわ。召喚しましたの」


「・・・だんだん嘘に思えなくなってきたよ。お前の荒唐無稽さ」


「最初からひとつも嘘なんて申し上げてませんわ」


「はあ・・・。一応聞くけど、召喚は契約した相手としかできないはずだよな。お前、俺と契約してるのか? 俺じゃないにしても、先代魔王とか」


「いいえ、契約なんてしてないですわ。強引に呼び出しましたの」


「強引にって、強制契約結んだってことか? 強制契約は、自分より弱い魔物にしか使えないはずだろ? 俺のレベル250だぜ? お前のレベルいくつだよ」


レベルというのは、その人の強さを表す指標です。レベル250はかなり高いですね。

人間だと、確認されている中で一番レベルが高いのは、隣のリトナ聖国の聖騎士団長様である、クウヤ=ドルーシ様のレベル87ですから、段違いに強いと言っていいでしょう。

まああくまで、確認されている中でですが。


強制契約というのは、相手の同意を得ず、強制的に契約を結ぶ術式です。

相手がどれだけ抵抗するで成功度も変わりますが、大体、相手のレベルの倍以上の実力差が必要と言われています。

自分より倍以上弱い魔物を強制的に使役させる術式なんて、使えないように思われるかもしれませんが、力関係的には弱くても、特殊なスキルを使える場合がありますからね。

まあでも、かなり魔力を喰ったり、寝首をかこうとしたり、なかなか反抗的な態度が抜けなかったりと、大変なことも多いので、する人は少ないですが。


「強制契約はしてませんわ、強引に魔法構築を変えて、契約なしの召喚をできるようにしただけですの。まあレベルはあなたより高いですけど」


「魔法構築を変える? 何言ってんのかわかんねぇ・・・ちなみにレベルはいくつだよ」


「32万飛んで58です」


「・・・・・・はぁ?」


「32万飛んで58です」


「いやそれ、レベルの数値じゃねぇだろ、というかそんな数値聞いたことねぇ」


「あなた鑑定技能を最大レベルで持ってらっしゃるでしょう? 確認したらどうです。今、ステータスの隠蔽を切りますから」


「あ、隠蔽してやがったのか! どおりでステータスが見えないと思ったら・・・と言うか俺のステータス見えてのかよ! 俺、隠蔽もマックスなはずなんだが」


鑑定技能というのは、強さや性質、持っている技能なんかを数値化して見る技術のことです。

見えた数値のことを通称ステータスといいます。

隠蔽というのは、自分や仲間のステータスや情報を、他人の鑑定から守るスキルです。

マックスというのは、スキルを極めたということ。

誰が数値化したのか知りませんが、皆便利なのでよく使ってます。

私はストカ姫様に出会って、このステータスというものを信じられなくなりましたが。


「・・・・・・ま、まじか・・・」


魔王様の目が先ほど魔力で光ったので、おそらく鑑定技能を使ったのでしょう。

そこに書かれている数値を見て、呆然としているようです。


「マジでレベル30万超えなのかよ・・・パラメーターも半端ないし、スキルも見たことないものがズラリと・・・人間って、スキル20個持ってたら天才って言われるレベルじゃなかったっけ? 俺でも100個くらいなのに・・・これいくつあるんだ? スキル欄に書かれている内容が多すぎて見る気にならねえ・・・」


ちなみに、魔王様には内緒ですが、ストカ姫様のレベル32万飛んで58というのは嘘です。

ストカ姫様はこの時、一般には知られていない実力偽装の手段を用いて、レベルやスキルの数を誤魔化しています。

さすがにストカ姫様のレベルが30万ということはないですよ。

実際は2000万超えです。そしてスキル欄には一言、測定不能と書かれています。

魔王様は一応、勇者様が来た時に闘う敵ですからね。

戦術的に嘘をついたんでしょう。

他に嘘がない情報に少し嘘をまぜるというポピュラーな戦術です。

まあ、偽装した数値も他の嘘でない情報もオーバースペック過ぎて、意味をなしてないんですが・・・。


ちなみに、ストカ姫様がレベルを上げた方法ですが、長くなりますので、割愛させていただきます。

王城から一歩も出たことがない姫様が、世界中の誰よりも高いレベル、あまりにも変な話ですが、そこは、『まあ、ストカ姫だからな』とスルーしてください。


レベル2000万というのも、3年前の話ですからね。

今いくつくらいなんでしょう。

スキルはもはや数値化や文章化ができないようで、ステータスが表示を拒否してます。ステータス仕事しろ。

本人は自分ができる技能に対して理解出来てるみたいですので、問題ないのでしょうが。


「勇者の姫君、レベル三十万、敵の本拠地にいるボスを自陣の真ん中に召喚しちまう技術・・・完敗だ。しかたない、お前の要求を聞こう。まあ、何を言われるのか大体想像できるが」


「やけにあっさり負けを認めますのね。魔王らしく戦ったりしませんの?」


「ぶっちゃけ俺は闘うの苦手なんだよ。どうのしようもないときの手段として戦うという手段を取ることはあるが、極力戦いを解決の手段にはしたくない。負け戦の時は特にな」


「そうですの。まあ、いいですわ。私の要求はひとつ、とっとと世界を混沌に導いてくださいません?」


「ああ、わかってる、俺の命は差し出す。その代わりと言ってはなんだが、お前に頼みが・・・へ?」


・・・なんとなく想像できてましたが、ストカ姫様が魔王を呼び出した理由は、やはりそれでしたか・・・。

そして魔王様はどんな勘違いをされていたのでしょう。自分の命を差し出すって。


「何を言ってますの? あなたの命なんて下らない物、必要ありませんわ。私は、貴方が全然世界を混沌に導かないから、早くしろって催促したかっただけですわよ?」


姫様、魔王の命は、人類にとっても魔族にとってもくだらないものではありませんよ?


「いや、てっきり、俺を倒すのに勇者を召喚するまでもなくなったから、倒すために呼んだのかと・・・というか、世界を混沌に導けって、世界になんか恨みでもあるのか? 勇者の姫君としての責務で、民や貴族から何かされたとか」


「何をわけのわからないことを言ってますの? 私は勇者様を一刻も早く召喚したいから、世界を混沌に導いて欲しいのですわ! 別に世界に恨みなどありません」


「??? 何言ってるのかわかんないんだが・・・」


魔王様は困惑しておられます。

まあ、そうでしょうね。


「魔王様、ハーブティーを入れました。心が落ち着きますので、飲んでみてください」


「あ、メイさん、だったっけ? ありがとう。 (ねえ、この勇者の姫君って、いつもこんなめちゃくちゃな感じなの?)」


「(ええ、まあそうですね)」


「(マジで? 大変だね)」


ストカ姫様にばれないよう、魔王様と小声で会話します。

魔王様からめちゃくちゃと言われる姫様・・・おいたわしい。


「呑気にお茶なんて飲んでないで、早く世界を混沌にしなさい! 勇者様を呼べないじゃない!」


「嫌だよ、俺は人間と魔族の共存が夢なんだ。というか、なんで勇者を呼ぶのに、俺が協力しなきゃいけないんだ。俺を召喚したみたいに、勇者もかってに召喚しちまえばいいじゃないか」


魔王様、人間と魔族の共存を夢見てたのですか・・・魔王なのに。


「そんなことできませんわ! 世界を救う使命のためにお呼びするだけならまだしも、ただ呼び出すなんて、普通に誘拐ですわ!」


そう言って私が止めなきゃ、なにもないのに勇者様を召喚しようとしていましたよね。ストカ姫様。

最低でも国から勇者召喚の要請が来るまではダメですと納得させるまでに、どれだけ苦労したことか・・・。

一目惚れしたから召喚って、かなり質の悪い誘拐ですからね。

国から要請が来た場合でも誘拐には変わりないですが、世界のピンチという建前がある分、少しは心象がいいでしょう。

お止めできて本当に良かったです。

まあ、覗き見は結局止められなかったんですが、これまで我慢させると誘拐が我慢できなくなりそうなので、ご容赦ください勇者様。


「それで言ったら、俺は普通に誘拐されてるんだが・・・」


ああ、その辺は本当にすいません。

気付いたら魔王様を召喚していて、止める暇がなかったんですよ。


「貴方魔王でしょ? 小さいこと言わないで、とっとと、世界を混沌にしてくださいまし」


一国の王がお風呂中に突然誘拐されることは小さいこととは言いません。


「だから嫌だっつーの!」


ストカ姫様の理不尽、ここに極まりと言った感じですね。


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