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2話


ジー。


ストカ姫様が熱心に鏡を覗いています。

今は勇者様はトイレに行って、部屋には誰も居ないはず。

一体何を見てるんでしょう。

ん? 何やら魔法を使うみたいですね。


「異世界召喚!」


魔法陣が現れて、ストカ姫様の前に、先ほど勇者が飲んでいた、ペットボトルとか言う容器に入った、緑色の泡立つ液体が召喚されました。


「ちょ! オバカ姫・・・ゴホン! ストカ姫様! 何を召喚してるんですか!」


「いや、違うのよ! これは毒味よ! 勇者様がこちらにいらっしゃる前に、体調を崩されたら大変でしょ?」


「5年も観察していらっしゃるんだから知っていらっしゃるでしょう? 勇者様が居る世界は、暗殺とか毒殺とかそういうことはめったにないし、衛生的にもこちらの世界とは比べ物にならない水準だってことは」


「そ、そうだけども・・・」


ストカ姫様が言いよどみます。

まったく、この姫様は、ほっとくととんでもないこと平気でやってしまうんだから・・・。


ん? なんです?

ストカ姫様が勇者召喚魔法で異世界から召喚できるのは勇者様だけとか、三日間の祈りやら、極限まで高めた魔力が必要だって話じゃなかったかって?

やだなあそれ5年前の話じゃないですか。

ストカ姫さまですよ? 一年もすればそこら辺の問題は解決しちゃってますよ。

古代式でわかりにくくて複雑な魔法式は、最先端のSOM方式で書き換えられ、必要魔力も、かかる時間も、正確さも、汎用性も、段違いにパワーアップした魔術になってます。

というか、勇者召喚魔法から、異世界召喚魔法になってますからね。勇者オンリーの召喚から何でも召喚に、もはや別魔法です。

ちなみにSOMはストカ・オリジナル・魔法の略です。

ストカ姫様は、新たな魔力体系を創りだすまでに成長されてしまいました。

王国一の魔法使いだったあの家庭教師は、ストカ姫様の操る魔法の数々に、苦笑いが顔に張り付いています。

昔はなんとか理解できていたそうですが、今やストカ姫様がやってる魔法の1割も理解できないそうです。

落ち込んで農家になった女性冒険者と違って、色々秘匿情報を知っているので仕事を辞めるに辞められず、とてもかわいそうな方です。

まさか何十年、いや歴史で言えば魔術師たちで引き継いで何百年積み重ねて学んできたすべての知識を、一人の人間の手でたったの数年の間により効率的なものに作り替えられるってのは、どういう気持なのでしょうかねぇ。

気持ちの面は想像できませんが、王国一の魔法使いの白髪がかなり増えたり、髪の本数がかなり減ったということだけは確かです。

そんな話はさておきストカ姫様です。


「毒味の必要はないのですから、早く戻してください。急に物がなくなったら、勇者様、困りますよ?」


「・・・今まで勇者様が飲んでいるのを見たことがない飲み物だし、どういうものなのか知りたいのよ。いずれ勇者様とともに旅をするパートナーになるわけだし、好みを知っておいたほうがいいと思うでしょ?」


「まあ確かに、相手の好みを知ることは、パートナーシップには重要ですね」


「でしょ? だから一口・・・」


「でも本音は勇者様と関節チューしたいだけですよね?」


「うぐっ」


「それに好みを知りたいだけなら、同じものをコンビニで買って召喚すればいいじゃないですか。あちらのお金はあるでしょう?」


「うぐぐっ」


「ほら、勇者様部屋に戻ってくるみたいですよ! 早くそれ戻してください」


「・・・わかったわよ、異世界送還!」


先ほどの容器が鏡の中、勇者様の部屋に戻りました。

ちなみにもともとの勇者召喚の魔法は、召喚したら元の世界に戻すことはできなかったのですが、そこはストカ姫さまですから、今はできます。

どうやら飲み物のことに、勇者様は気付いてないようですね。よかったです。

先ほどチラリと言いましたが、ストカ姫様は勇者様の世界のお金を持っています。

どうやって集めたかというと、自動販売機という飲み物を自動で売るからくり、そのお釣りを返すところや、下に落ちたお金を集めて召喚してですね・・・。

落ちたお金を集めるというのは王族としてあるまじき行為ですが、その気になれば厳重に金庫に保管されたお金すら転送できる方です。

盗みを働くよりはマシということで目をつぶっています。


「ねぇメイ、さっき勇者様が飲んでた飲み物、これと同じやつだよね」


そう言ってストカ姫様が、鏡を指さします。

鏡を見ると、鏡の上半分は勇者様の部屋、鏡の下半分は、たぶんコンビニと言われる、あちらの世界で四六時中営業している店舗の陳列棚と思われる箇所が映っています。


「はい、そう思います。というか、勇者様のお部屋に同じものがあるんですから、それと見比べればいいじゃないですか」


「え、いやよ。勇者様がそこにいるのに、なんで勇者様以外を見なきゃいけないの?」


「・・・・・・」


「とりあえず、あの緑色の飲み物買うわね。レジに人がいないのを見計らって、今ね」


ストカ姫様が、先ほどの飲み物を魔法で色々処理します。

なんでも、人の目を盗んでレジというものを通してから、お金のやりとりをちゃんとしているのだとか。

監視カメラというやつにも、ちゃんと偽造映像を流しているらしいです。

別にちゃんと代金だけ置いて、飲み物を転送しちゃえばいいと思うのですが、勇者様のご実家とも言える世界に迷惑を掛けたくないとかで、ちゃんとそういう面倒くさい処理をしてから、買って召喚するようにしていらっしゃいます。

そういう気配りができるのであれば、勇者様の覗きをやめていただきたいのですが、まあそれは言うだけ無駄ですね。


「異世界召喚! ふう、ふふ、勇者様と同じお飲み物・・・」


先ほど画面に映っていた緑色の飲み物が、ストカ姫さまの手元に現れます。


「あ・ざ・や・か、め・ろ・ん・そーだ、メロンソーダという飲み物みたいですね」


勇者様の世界と、こちらの世界では、使われる言葉が違います。

ストカ姫様いわく、勇者召喚に付属している魔法で、無理やり言葉の翻訳もできるそうなのですが、ストカ姫様はある目的があって、それをしておりません。


「ふふ、勇者様、あなたの世界の言葉は完璧に覚えてます・・・こちらにいらした時は、私がこちらの世界の言語を教えて差し上げます・・・二人っきりで、むふふふふふ」


こんな感じで変態姫・・・ゴホン! ストカ姫様は、勇者様に言語を教えるために、わざわざあちらの世界の言葉を覚えたのです。

言葉が違う世界で唯一会話ができる存在になって、相手の特別な存在になろうという魂胆です。

思い立って3ヶ月ほどで異世界の言語をマスターしたその能力は凄いと思うのですが、できればその能力は、もっと世の中の役に立つことに使ってくれればいいのにとよく思います。


「それよりも今はこのメロンソーダですわね、どんな味なのかしら、ゴクゴク・・・あら、いつも飲んでらっしゃる、スポーツドリンクよりもずいぶん甘いのですわね。それに微かに喉に刺激も・・・これは湧き出している泡のせいでしょうか・・・ふふふ、勇者様、スポーツドリンクという一つのものに囚われず、メロンソーダなる新たな境地を切り開こうとするその姿勢、大きな冒険心・・・さすが勇者たる器を持つものは違いますわね!」


いや、たぶん、たまには気分を変えて甘いモノを飲みたくなっただけじゃないですかね?

そうじゃないにしても、そんなに褒め称えるほどのことじゃないと思います。


ジー。


ん? 何やらストカ姫様が自分の飲みかけのメロンソーダを見つめています。


「ねえメイ、この私の飲んだメロンソーダの残りと、さっき勇者様のところから召喚したメロンソーダの残り、同じくらいの量よね」


「はい? まあ、同じくらいじゃないかと思いますが、なんでそんなこと聞くんですか?」


「私のメロンソーダと勇者様のメロンソーダ、入れ替えても、バレないんじゃないかと思って」


そう言いながら、ストカ姫様はメロンソーダに魔力を込め、魔法を発動させようとします。

おそらく、勇者様のメロンソーダと自分のそれを、魔法で入れ替える気でしょう。


「なっ! ちょ! やめろおバカ姫!」


必死でそれを阻止しようと動くが、間に合いませんでした。

魔力が高まり、魔法が発動すると思われたその時---


「おっと、俺の目の黒いうちは、そんなことはさせないぜ?」


横から手が伸びてきて、魔法がかけられる直前のメロンソーダを掻っ攫っていきます。

掻っ攫った人物を確認するために目を動かすと、そこにはメロンソーダを手に、不敵に笑う、赤い肌をした人物がいました。


その人は、世界を混沌に陥れるはずの人物。

魔王が、そこにいました。

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