表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/12

最終話

魔王様がチョコの件で相談に来てから1年ほどがたちました。

ストカ姫様は今、床に臥せっていらっしゃいます。

私は必死にお止めしたのですが、どうしても必要なのだと聞かず、あんな恐ろしいことをなさるから・・・。



御自分の料理を味見されるなんて!



ストカ姫様はSHRK状態という状態異常にかかり、ベッドで唸っています。

ストカ姫様に状態異常は通常かからないのですが、このSHRK状態は既存の状態異常ではなく、既存の状態異常無効では防ぐことはできません。

SHRK状態の効果は、ステータスや魔力が不安定になることです。

力がものすごく強くなる瞬間もあれば、箸を持ち上げるのもやっとな瞬間もあったり、体調が良くなったり悪くなったり、とにかく体に関する数値の色々なものが上下に揺れます。

身体能力強化の魔法と、身体能力弱化の魔法を不規則に交互に掛けられているような感じでしょうか。

SHRK状態の経験者として語りますが、あれはかなり辛いです。

体調やら精神状態やら魔力やら、とにかくありとあらゆる調子が揺れ続けるのです。

SHRK状態時は何か行動するなんてことはとてもできません。

精神状態は筆舌できないほどぐっちゃぐちゃになりますし、攻撃力や防御力や自然回復力も揺れているので、自分の行動で何が起こるかもわかりません。

そしてSHRK状態は、その効果が時間で切れるまで、いかなる魔法や薬でも対処できません。

回復と悪化を不規則に繰り返すような状態異常ですから、対処の仕様がないのです。

SHRK状態が解けるまでじっと待つ、それが唯一の対処法です。


ちなみに『SHRK状態』は『ストカ姫様の料理食った状態』の略です。

私が決めたんじゃないですよ? ちゃんとステータス覧にそう書いてあるんですから。

このステータス覧、一体誰が書いてるんですかね。


さて、ではなぜストカ姫様が御自分の料理の味見をするなんていう暴挙を行ったのかを説明しましょう。

まずはストカ姫様が料理をしようと思ったきっかけですが、これは魔王様に原因があります。

といっても、あくまできっかけなんですがね。


先週、魔王様が王城にこられた際に、新しい魔物を使った料理の試作品を持ってこられました。

なんでも、最近になってようやく魔物食材の微小魔力流を人為的に整える方法を確立できたようで、色々と試作品作りに凝っているようなのです。


人為的に魔力流を変える方法ですが、その方法が確立されるまではストカ姫様のやった、魔法にすれば人間を塵にできるほどの魔力で無理矢理に魔力流を矯正する方法を使ってチョコの味を直していたらしいです。

この方法ですが、ストカ姫様はいとも簡単に、しかも初めてやって成功させていましたが、魔王様はこれを真似するのに一週間掛かったそうです。

なんでも、ストカ姫様のやった方法は、膨大な魔力だけでなく、その魔力を精密かつ強力に操る必要があるそうなのです。

同じ量の魔力を出すことは魔王様には簡単にできたそうなのですが、魔力というのは大きく集めれば集めるほど、どうしても制御が難しくなり、精密な操作にはむかなくなります。

魔法で使う場合なんかはそんな制御の効かない状態の魔力でも回路を通して力に変えるので問題ないのですが、実は回路に通す前に上手く制御できればできるほど魔法にした時の変換効率が良くなります。

そういう事情もあって魔王様は結構魔力の操作には自信があったそうなのですが、それでも一週間練習しなければ真似できないような技術だったそうです。

魔王様曰く、例えるなら、不規則に飛ぶハエが持っている針の穴に、全速力で飛ぶ飛竜の背中に乗った状態ですれ違いざまに糸を通すくらいの器用さがいるらしいです。

例えが複雑すぎて逆にわかりにくいですが、まあ、とんでもなく難しいことだけはわかります。

まあ、そんなとんでも技術であったせいで、魔王様の他にそれを真似できるようになったのは、魔王様に協力関係にある魔族では二人だけだったとか。

まあそれでも、今までどうしたって美味しいチョコが作れなかった状態からしたら、とてつもなく大きな変化です。

とりあえず、そんなとんでも技術が必要なせいで数は作れませんが、チョコレートを作ることができるようになったので、実験的に売ってみたのだとか。

店頭に並び、売るまでの流れはかなり複雑になりますので省略しますが、売りだした結果、最初はやはり魔物が素材ということ、見たこともないお菓子だということで警戒されたようです。

値段は試しにということで、そこまで高い値段にはしてなかったそうですが、それでもなかなか売れなかったとか。

しかし、酒の席での賭け事の罰ゲームだとか、物珍しさでつい買っていく人たちというのがちらほらといたそうです。

そうすると口コミで徐々に売れ行きが良くなっていったとか。

そうなると、今度は製法の難しさゆえに量産できないことが足をひっぱたそうです。

なので魔王様は、より効率的に、多くの人が微細魔力流を調律する方法が必要になりました。



チョコレートの売上増加に可能性を見た魔王様は、本格的に魔物食材に対する研究を始めました。

そして、魔物食材に対する研究によって3つのことが発見できました。


①回復魔法を使い、魔物食材を一時的に活性化させることで、調律に必要な魔力を少なくすることができること。


②魔物が死ぬ瞬間の感情が、微細魔力流による味の変化に関わっていること。


③微細魔力流での味の変化は、不味くなるだけでなく、おいしくなる魔力流もあること。


これらがわかったことにより、魔物食材の商用利用は様々な形に発展することになりました。

まず、①の回復魔法を使った使用魔力を抑制する手段ですが、これがわかったことにより、回復魔法の適性がある人間であり、かつそれなりの魔力を有するものであれば、魔物の食材を素材のままの味に直すことができる魔法陣、と言うものの開発に成功したそうです。

この成功により、よほど強烈に恨みを持って死んだ魔物、元々毒を持っている魔物でない限り、倒した魔物を食材として確保することが可能となり、料理の幅が格段に広がりました。

開発された魔法陣も、さらなる改良を進めていき、より必要な魔力量を減らしたり、魔力を調律する人によって味を変化させる、または誰がやっても同じ味になるようにする研究を進めているそうです。


そして②の魔物が死ぬ時の感情についてですが、これは戦闘状態であったり、恐怖を覚えて死んだ魔物の味より、落ち着いた感情でに死んだ魔物の味のほうが味が整っていたことによる発見です。

どうも、魔物食材に残る微細魔力流は、魔物が死ぬ瞬間に持っていた感情によって決まるらしいのです。

そこで開発されたのが、警戒されず魔物に発見し、近づく方法や、自身の死を感じさせずに殺す技法や魔法です。

これらの方法を使うことにより魔物が心穏やかである瞬間を狙い、自身が死ぬことを感じさせず、その生命を刈り取ることで、魔力による味の変化を起こさせず、魔物食材を素材そのものの味で手に入れることが可能となったのです。

これらの技法は、魔物食材のみならず、魔物の生態を調べたり、魔物素材を効率よく獲得するためにも使用できるので、さらなる研究が進んで行ってるとか。


そして③、おいしくなる魔力流ですが、これは古く残る勇者の伝承に、勇者との壮絶な戦いの末、勇者の力を認め、戦いの中で満足して死んでいったドラゴンの肉を食べた勇者の話があるのですが、その時のドラゴンの味は、この世のものとは思えなかったほど美味であったという話です。

これは魔物の一種であっても、とても力を持った、古代竜であったから、美味しかったのだろうと言われていました。

しかし、これまで魔王様が調べた魔物食材に対する研究から、もしかしたらこのドラゴンは、満足の行く・・・・・死を迎えた・・・・・からおいしくなったのではないか、という可能性があると考えたそうです。


そこで、この一週間前に魔王様が持ってきた試作品の話しに戻ります。

そうです、魔王様が一週間前に持ってきた試作品は、その満足行く死を迎えた魔物の食材を使った試作品だったのです。

それはオーク(二本足で立ち、簡単な武器や防具を使うこともある豚の魔物)の肉を使ったステーキでした。


あれは今思い出しても思わず頬がにやけてしまうほどの美味しさでした・・・。

噛むたびに、舌の上で踊るような旨味が弾け、飲み込むと、身体がそれを取り込んだことをとても喜んでいるような感覚に襲われます。

一言で表すのであれば、あれは『愛』の味。

まるで食べてくれる人を祝福しているかのような、とても愛おしい感情が、口の上から溢れてくるのです。

そのオークの肉を流れる微細魔力流を確認したストカ姫様の話によると、微細魔力流は整っているだけでなく、まるで芸術作品であるかのように美しい流れを形作っていたそうです。


また再度、あのオークの肉を食べてみたいのですが、魔王様曰く、量産は難しいだろうとのこと。

なんでも、かなり難しい方法で倒したオークだそうで、再現が難しいのだとか。

そのオークの死に方の事を魔王様は『萌死もえじに』と言っていました。

詳細は教えてもらえなかったです。

一体どんな死に方なのでしょう?


量産は無理でも、とても美味しいので、ブランド価値のある食材として売り出すことができるのではないかと魔王様は考えているそうです。

商品名もう考えてあるそうで『萌豚もえぶた』にしようと思っているとか。

なんだか可愛らしい名前ですよね。



さて、話をストカ姫様が料理を作ろうと思ったきっかけの話に戻します。

ストカ姫様が料理を作るという、兵器開発にも似た作業をしだしたのは、先程言った『萌豚』が原因です。

ストカ姫様は何度か料理に挑戦したことがあります。

一度はかくれんぼに変わる遊び、または趣味として使用人たちに薦められた時。

一度は勇者様に自分の手料理を食べさせたいと思い練習を始めた時。

しかし、何度挑戦しても、料理がうまくいくことはありませんでした。

原因は、わかりません。

ストカ姫様が料理をすると、何故か鍋が虹色に光りだしたり、かまどの炎がダンスを踊りだしたり、食材が宙に浮いたり、爆発したり、通常の料理では起こりえないようなことがどうしても起こってしまい、作った料理を食すと、例外なくSHRK状態を発症してしまいます。

ちなみにこのSHRK状態ですが、食べた料理を吐き出しても、状態異常は解けません。

正確に言えば食べたものを吐き出すことはできません。ですかね。

なぜなら、ストカ姫様の料理は口に入れた瞬間、その強烈な筆舌しがたい味の余韻だけを口に残し、身体に吸収されてしまうからです。

そして、口にした分量に応じただけの時間SHRK状態にかかります。

口にして死に至ることはないですが、とてつもなく恐ろしい兵器です。

筆舌しがたいといった味ですが、文字通りの意味です。

不味いとか、美味しいとか、そういう次元ではないのです。

ただ強烈で複雑すぎて、何が起こっているかわからない感触が舌を過ぎていく。

そんな感じです。

もはや料理と言っていいのかすら怪しい物体です。

少し暑くなりました。

どうしてもあの料理、いえ、あの兵器について語るときは、感情の起伏を抑えられなくなるのです。

それほどまでに、アレは恐ろしい物質なのです。

話を戻しましょう。


魔王様が作られた『萌豚』という食材。

それはストカ姫様にとって驚異的な存在でした。


ストカ姫様は賢い方です。

自分が料理と言う分野において、壊滅的な状態にあることは、理解していらっしゃいました。

自分の作った料理を勇者様に振る舞いたいという欲求と、自分の壊滅的な料理の腕前を天秤にかけて、欲求を諦めるくらいには、賢い選択を出来る方です。

確かに、ストカ姫様は御自分の手料理を勇者様に振る舞うことはできません。

しかし、そんなストカ姫様には心の支えがありました。

『料理をつくることはできないが、異世界召喚という手段で、勇者様の世界の食事を供給できる』という心の支えが。

食べたことのない異世界の料理、魔王様によって拙い技術でなんとか再現される勇者様の世界の料理、までは、まだ心の平穏を保つことができました。

目新しさや、拙いながらも自分の国と同じ味は、たしかに勇者様の目を引くことでしょう。

しかしそれらはやはり、生まれ育った郷土の味や、進んだ技術で作り上げられたジャンクフードにはかなわない存在です。


しかし『萌豚』、これは別格でした。

魔法がある世界ならではの、こちらの世界でしか味わえない、全く新しい存在の味。

このインパクトは強烈です。

とてつもなく強烈な存在なのです。


その強烈さは、ストカ姫様が、『自分もなにかこの世界でしか味わえないものを作らなければ!』と闘志を燃やし、再び厨房に経つことを思い立つには、十分な存在感でした。


ここで話が終われば、ストカ姫様が御自分の料理を食べるなんていうおぞましい事態にはならなかったのです。

メイは犠牲になったのだと、私がストカ姫様の料理を毒味して、スッとその意識を飛ばし、何日かSHRK状態で寝込めば済んだはずなのです。


しかし私、やらかしてしまいました。


ストカ姫様から料理の味見を頼まれ、受け身だけはちゃんと取ろうと覚悟しながら口にしたその料理で、なんと私は倒れることはありませんでした。

確かにいつもどおりの強烈過ぎて言葉に変換不能な味が口を通り過ぎはしたのですが、倒れることはなかったのです。

私は首を傾げました。

倒れないはずはないのです。

鍋の中の液体の色が緑色から紫になるのを目撃しましたし、お玉が声を出して悲鳴をあげるのも聞きました。爆発もいつもどおり三回以上起きてました。

口にして倒れないはずがないのです。

しかし、私はちゃんと立っていられました。


そんな私を見たストカ姫様はおおはしゃぎです。

とうとう自分は人が食べれるものを作れたと。

勇者様への愛が奇跡を起こしたと。

これで一歩前に進んだと、ストカ姫様は御自分の料理を味見するために口に運んだのです。

慌てて止めようとした私の手は、味見を止めるのには追いつかず、倒れようとするストカ姫様の体を支えるために使われました。


ストカ姫様をベッドに安静に横たえた後、私はもしやと思い、久々に自分のステータスを確認しました。

するとそこには、新しく一つのスキルが追加されていたのです。


『SHRK状態耐性』と。





そんな悲しい事件があって、私は今、勇者様の姿を映す鏡がある鏡の間に、一人立っています。

本当に悲しい事件でした。

度重なるすとか姫さまの料理の毒味を行ったことが原因でしょうが、あのタイミングでSHRK状態耐性が発現したのは、神のイタズラとしか思えません。

というか、あの料理の状態異常に耐性ができるというのがかなり予想外です。


ふう、さて、私は今、先ほど言ったように鏡の間に一人でいます。

これは私の意志ではありません。

先ほど、病床に伏すストカ姫様から、お願いされてここにいるのです。

私の意志としては、ストカ姫様の料理という悪夢に苦しんでいる姫様をそばで看病したい気持ちでいっぱいなのですが、本人がそばにいるのは他のメイドに任せて、私にしてほしいことがあると頼まれたのです。

勇者様をストカひめさまの代わりに見守ってほしいと。


・・・・・・正直病床に臥せっている時くらい、その変態的思考・・・ゴホン! 勇者様に対する溢れすぎる愛情を抑えて欲しいと思うのですが、もはやここまで来ると性分なのでしょう。

SHRK状態耐性の獲得に気づけなかった私の落ち度もあります。

私はしぶしぶそれを引き受けたのです。


鏡の中に映る勇者様を眺めます。

いつもどおり、特にこれといって特筆するところのない少年が、特にこれといって特筆するところのない行動をしている様子が映っています。

ふーむ、ストカ姫様も魔王様も、一体この少年のどこが気に入ったんでしょう? 私にはよくわかりません。

うーん・・・これをただ眺めていろと言うのですか。

正直これはキツイですね。

好きでもなんでもない男の子の日常をただ眺めていろと言うのは、流石にちょっと。

せっかくですし、鏡の間のお掃除でもしながら、ながら見で護衛監視を行いましょうか。

いつも綺麗に掃除してますが、隅っことか、細かいところの掃除を念入りに見て回りましょう。

メイドとしての性分ですかね、じっとしているより、何かお仕事している方が心が落ち着くのです。


ふっふふのふ~ん♪

適当に鼻歌を歌いながら鏡の間のお掃除をしつつ、たまにチラチラと勇者様のご様子を確認する。

そんなことをしていた私ですが、思わず手が止まってしまう自体が起きます。


キキイイイィィィーーーーーーーッ!!


けたたましい高音が鳴り響いた後、鈍い音がして、勇者様の姿を映す鏡が、赤い色に染まったからです。



それは一瞬の出来事でした。

学校の帰りでしょうか、勇者様はいつもの通学路を歩いていらっしゃいました。

すると勇者様の目の前で、ボールを追いかけて道路に飛び出した子供が・・・。

そこにタイミング悪く突っ込んでくるトラック。

勇者様の身体は考えるより先に動いたように見えました。

道路に飛び出した子供を突き飛ばし、勇者様は──────。


赤が広がっていく鏡の向こうの光景に、私は思わず呆然としていましたが、そんな場合ではありません。

早く勇者様をお助けしないと!

ストカ姫様を呼びに! いえ、今ストカ姫様はSHRK状態です。

魔法の行使は不可能でしょう。

魔王様を呼ぶ? いえ、連絡の手段がありませんし、魔王様が来たところで、異世界にいる勇者様を助ける手段がありません。


考えを巡らせている間にも、時間は無情に流れていき、広がる赤に対して、勇者様の顔からは、次第に色が抜けていきます。

私は黙ってここで見ているしかないのでしょうか。

このまま放っておいたらどうなるでしょう。

救急車とか言う乗り物が呼ばれ、処置を施されるのでしょうか。

それは間に合う? わかりません。

今、鏡に映っているこの瞬間の状態で、勇者様が病院に居たとしても助かるかどうかわからない怪我にも見えます。


もしこのまま勇者様が息を引き取ったら、どうなるのでしょう。

勇者様の遺体を状態異常から脱出したストカ姫様が蘇生する?

ストカ姫様の復活までどれくらいかかるかわかりません。

SHRK状態経験者の経験則からすると、ストカ姫様が口にした量で回復するまでにかかる時間は3,4日といった所でしょうか。

しかし、そこはストカ姫様です。

常識が通用しないあの方なら、もしかするともっと早い時間で回復するかもしれません。

ストカ姫様が回復するまでに、勇者様が火葬されなければ・・・。

いえダメです、それ以前の問題です。

勇者様の死体があっても魂が死者の国へ行ってしまったらどうしようもありません。

こちらの世界では、死者の魂が冥界に行くまでに猶予があります。

その間に肉体の蘇生ができ、魂を定着させれれば、その人は生き返ることができます。

しかし、勇者様の世界はどうなのでしょう?

死後の魂はどこに行くのでしょう。

死体だけこちらに召喚して肉体を蘇生しても、魂を呼び戻せなければ、勇者様は生き返りません。

あちらの世界の死者の国からストカ姫様は魂を呼び出せるのでしょうか?

ストカ姫様ならあるいは・・・いやしかし。












ストカ姫様は私に、代わりに勇者様を見守ってほしいと言いました。

このまま何もせず、勇者様が死んでいくのを黙ってみていることが、私にストカ姫様が頼んだ事柄でしょうか?

いいえ、違うでしょう。

覚悟を決め、自分のステータスを一度確認するために、ステータスを開きました。


私は、ステータスという数字の羅列をあまり信じていません。

いや、これは嘘ですね。

信じていないんじゃない。

信じたくないのです。


ステータス画面に映る自分の名前の横にある数字、レベルを表す数字ですが、そこにはこう書いてあります。

320058。

32万飛んで58、これが私のレベルです。

聞き覚えのある方もいるでしょう。

そうです。

4年前、ストカ姫様が魔王様に自分のステータスだと言ってみせたステータス。

あれ、私のステータスだったんです。

信じたくありません。

だってありえないでしょう? 王城に仕えるただのメイドが、世の中の平均レベルが23とか24とかの中、レベル32万なんていう馬鹿げたステータスだなんて。

レベルだけじゃありません。

筋力などの強さをあらはす数値などが桁外れなのはもちろん、スキルなんかも、20個あれば天才と呼ばれる世の中で、数百のスキルを並べています。

スキルが多いとかそのくらいならいいんですがね、SHRK状態耐性を急に獲得出来たのもそうですが、魔王様やストカ姫様が、チョコの微細魔力の流れを見ろって言ってた時あったでしょう?

あの時、私はその微細な魔力の流れを自分の目で見えたかどうかは明言しませんでしたが・・・。


まあ、そんな話はさておき本題です。

ストカ姫様がなぜ、自分のステータスを見せるときに、私の数値とスキルを代わりに見せるのかという話です。

私はあの時、戦略的な嘘だろうと言いましたが、実はそれはステータスを信じたくない自分への言い訳です。


本当の理由は大きく2つ。

自分ストカひめさまのスキル欄が測定不能になっているのの説明が面倒くさい。

メイのスキル欄に勇者の姫君に必要なスキルが揃っている。


つまり、そういうことです。

元からそうだったわけではありません。

レベルにしてもそうですが、ストカ姫様の代わりに色々実験台役を引き受けていたら、いつの間にか覚醒していました。

これ幸いと、ストカ姫様は自分の説明が面倒くさいステータスを見せる代わりに、私のステータスを勇者の姫君のステータスとして見せるようになったわけです。

つまり私は・・・。

というか、こんなふうに考えている時間が惜しいですね。

早く済ませましょう。


「異世界召喚!」


私は魔力を込め、魔法を構築し、唱えました。

異世界召喚について、私はほとんどその理屈を理解できていません。

ハゲが目立つようになった・・・ゴホン! 特徴的な髪型の王国一の魔法使いですら、その内容を理解しきれてないのです。

ただのメイドが理解できようはずもありません。


しかし使えるかどうかは別です。

勇者様の世界でも、仕組みの分からない機械や設備を、仕組みがわからないままに使ってらっしゃる方がほとんどなのでしょう?

私もそんな感じです。


魔法はきちんと機能し、赤く染まった勇者様が私の目の前に現れました。

息は・・・まだあるようです。

一刻を争います。


「ヒー・・・いや、ハイヒール!」


ヒールをかけようとして、思い直し、一つ上級のハイヒールを掛けておきます。

ストカ姫様の使う回復魔法なのであれば、ヒールで十分回復できるはずですが、私のレベルはストカ姫様と比べればだいぶ低いです。

念の為、一つ上級の魔法を使っておきましょう。


さて、私に可能な処置は済みました。

これでどうしようもなければ、それは運命なのでしょう。

勇者様の運命はどうなのでしょうか? ハイヒールをかけた勇者様の顔色を見ます。

どうやら、運命はまだ勇者様を見放していないようですね。顔色が戻っています。

傷も問題なく完治しているようです。

最後の確認に、鑑定のスキルで勇者様のステータスを拝見します。


「・・・・・・」


ゆ、勇者様を召喚した影響でしょうか。

い、いくつか、め、珍しいスキルをもっていらっしゃいますね。

さ、さすが勇者様です。

こ、この、スキルにある、HP自動回復(特大)とか、ざ、残機×99とかは、勇者様だからですよね?

『やっぱりハイヒールは過剰回復だった』なんてことは、な、ないですよね?

そうですよね?


「ん、ううん・・・」


あ、勇者様が目覚めたようです。

どうしましょう・・・召喚してしまったのですから、勇者の姫君やら魔王やらの話をするべき何でしょうか。

いやしかし、今は世界は平和ですし、私の一存で決めていいこととも思えません。

どうするべきなのでしょう。


私が対処に悩んでいると、勇者様は意識がはっきりしてきたのか、周りを見渡し、そして私の存在に気づきました。

勇者様と目が会います。


「「・・・・・・」」


あの、勇者様、その顔、とても見覚えのある表情なのですが、嘘ですよね?


「あの、ちょっといいですか?」


勇者様が私に話しかけます。

私は信じたくないステータスによると、異世界言語理解というスキルを獲得しているそうなので、異世界の言語で話す勇者様が何を言っているのかがわかります。


「はい、なんでしょう?」


嫌な予感がビンビンするのですが、無視するわけにも行かないので私は答えます。


「ここがどこかとか、僕はトラックに轢かれて死にそうだったはずだとか、そういう色々な質問を後回しにして、どうしても最初に聞いておきたいことがあるんですが、聞いていいですか?」


「・・・はい」


「一目惚れって信じ・・・」

「異世界送還!」


言葉を勇者様が言い終える前に、あちらの世界に送還しました。

鏡を見ると、死にかけていて突然消えた勇者様が、ピンピンして現れたことで、騒ぎが起こっているようです。


ああ、なんだか、いろいろやらかしてしまった気がします。

どうしましょう。

本当にちょっとやばいくらいやらかしちゃった気がします。



・・・ふう、こういう時はあれですね。





問題を先送りしましょう。

一応ここで完結です。

続きはまあ、かけなくはないんでしょうが、ここで一応オチてますし、区切りもいいので、ここで区切っておきます。

もともと他の連載の息抜きのつもりでしたので。

忙しかったり、遊びすぎたせいで長くかかってしまいましたが(汗)

続き、または他の人物の目線の外伝とかは、まあ気が向けば書き足すかなッて感じです。

お読みいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ