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10話

怒りを露わにする魔王様に対して、ストカ姫様は少し困惑した様子です。

おそらく、ストカ姫様はなぜ魔王様が怒っていらっしゃるのかわからないのでしょう。

魔王様の怒りに対応するようにストカ姫様も怒りだすような事態にならずにとりあえず一安心ですが、状況はまだまだ緊迫しているといえます。

ここはとりあえず魔王様に少し落ち着いていただかないといけないですね。


「魔王様、落ち着いて下さい。私は何も問題ありませんし、大丈夫ですから」


「問題がないからって『はい、そうですか』で済ませることがらじゃないだろ! 試してもいない魔法をいきなり使って、メイちゃんに何かあったらどうするつもりだよ!」


「ちゃんと危険はないように考えて魔法を作ってますわ」


「それでも万が一ってことがあるだろ! 魔力を感じれなくなることで体調が変化するとか、自分の魔力を感じれなくて魔力暴走したりしたらどうする気だ!」


「その辺もちゃんと保険はかけてありますわ。危険な状態になりそうなら効果が切れるように設定されています」


「それでも危険な状態に絶対ならないって保障はねえだろ!」


「それは、そうですけど・・・」


激しく怒る魔王様に対して、ストカ姫様は困惑を隠せないようです。

こんなふうに困惑するストカ姫様を見るのは初めてです。

今までストカ姫様にここまで激しい怒りをぶつけてくる相手はいませんでしたからね。

どうしたらいいのかわからないのかもしれません。


「さっきは黙っていたが魔力の流れを無理やり変えたチョコを無理やり食わせたのも許せねぇ・・・、何も魔法はかけなかったとはいえ、普通の人間にはでかすぎる魔力を込めた食べ物を、本人の了承なく口に放り込むとか、何を考えてるんだ!」


「あのチョコは、ちゃんとスキルを使って危険のない食べ物であることは確認できてました!」


「危険どうこうは問題じゃねえんだよ! メイちゃんを実験動物みたいに扱いやがって! こんなにもお前を大切に思ってくれているメイドをなんだと思ってるんだ!」


「っ・・・!」


ストカ姫様はなにか思うところがあったのか、顔を背けてしゅんとしてしまいます。


「お前にはメイちゃんは任せて置けねえ、決めた! メイちゃんは俺が貰い受ける!」


「っ!! そんなことさせないわ! メイは私のメイドよ、誰にも渡さない!」


「知ったことか! 俺は魔王だ、無理やりでも奪っていってやる」


「貴方程度の実力でそれができると思っているの?」


「出来ねぇかもな、でもな、お前みたいな主のもとにいたんじゃメイちゃんは不幸だ。今は無理でも、いずれ絶対に奪い取ってやる」


魔王様がストカ姫様を睨みつけます。

ストカ姫様も困惑しながらも、魔王様を睨み返します。

この上なく不穏な空気です。

このままでいい訳がありません。

最悪ここが戦場になってしまうでしょう・・・世界の命運をかけた戦場に。


・・・こうなればもう私も腹をくくるしかありません。

もしかすると、私の命は今日で終わるかもしれませんが、世界の命運には変えられないでしょう。

はあ、なんでこうなるんでしょうか・・・私はただのメイドなのに。


「お二人共、落ち着いて下さい!」


腹に力を込めて大声で二人の間に割って入ります。

正直こんなケタ違いバケモノ級であるふたりの間に割って入るなんて、恐怖で頭も身体もどうにかなってしまいそうですが、そんなことは言ってられません。

ぐっと我慢です。努めて冷静を保っているフリをします。


「メイちゃん止めないでくれ、コイツにはいつかわからせなきゃいけないと・・・」

「黙れと言っているんです!」


魔王様の言葉を遮り怒鳴った私に、魔王様とストカ姫様は目を見開いてこちらを見ます。


「・・・メイ・・・ちゃん?」


「魔王様、先程ストカ姫様が私を実験動物扱いにしているとおっしゃいましたね?」


「あ、ああ」


「私はそのことに対して不満はありません」


「・・・えっ?」


「これは決して私に被虐趣味があるとかそういう理由ではなく、ちゃんと理由があります。まず第一に、ストカ姫様はこの国の希望である勇者の姫君です。その身の安全を保つことや、不要な混乱を防ぐために限られた人物にしか会わせられません。ですので、自ずと実験台になれるものは限られてくるのです」


「・・・奴隷や動物を使えばいいじゃないのか?」


「動物は、伝染病などの衛生面の管理が難しいことや、王城に生きた動物を運び込んでいたら誰かに変な勘ぐりをされる恐れがありますので出来ません。奴隷ですが、ルギスカデ王国はここ数百年戦争を行っていないので、奴隷の供給が絶たれ、その価値は高騰しております。かなり高価ですので、大切に扱い、使い潰すような使い方をする人は少ないでしょう。それに勇者様の世界は奴隷制度が廃されて久しく、奴隷に対する忌避感が大きいこともわかっています。なので勇者の姫君としては、やはりそれはできない選択なのです」


「奴隷じゃなくメイちゃんなら良いって言うのか!? 自分の体で試すか、最初から実験なんてしなければいいじゃないか!」


「ストカ姫様は最初は自分のお身体を実験台にされていました」


「え?」


「私はその役をお願いして引き受けたのです。ストカ姫様は御自分の魔法の安全性に自信を持っていらっしゃるので問題ないとおっしゃっていたのですが、やはり万が一のことを考えると、勇者の姫君に何かあっては大変なので、私にその役を譲っていただいたのです。私で試し、問題がない場合のみストカ姫様に使うように進言いたしました。これは毒味なども含めてです」


「自分から・・・実験の方をやめさせようとは思わなかったのか?」


「ただでさえ、ストカ姫様は勇者の姫君として束縛の強い生活をされていらっしゃいます。この上やりたいと思ったことまでさせてあげられないのはあまりに不憫です。ですので、私が実験台を引き受けることで、王国にそれを了承していただいている状態なのです」


「そ、そんな自分を犠牲にするようなこと・・・っ!」


「犠牲だなんて思っていませんよ?」


「・・・そうなのか?」


「はい、私は確信しております。もし私に命の危機や何か問題が起これば、必ずストカ姫様が救ってくださると。ですので、犠牲だなんてそんなことは一切思っておりません」


「・・・・・・」


魔王様があっけにとられたような顔をしております。

私、何か変なことを言ってしまったでしょうか?

まあでも、魔王様もどうやら少し落ち着いたようなので問題無いでしょう。

さて、ついでです。

魔王様にここまで言ってしまったのですから、ついでにストカ姫様にも一言言っておきましょう。


「ストカ姫様」


「は、はい!」


ストカ姫様は何やらボーッとしていたようで、私が声をかけると驚いたようにこちらを向きました。

何か考え事をしていらしたのでしょうか?

まあとりあえず、いい機会ですので一言言いましょう。


「先ほど魔王様に申し上げたように、私はストカ姫様の魔法などの実験台になることに否やはありません。ですができれば、実験を行うときはひと声かけて、実験の内容を説明していただけると助かります。そうすれば、事前に心の準備ができて驚くこともないですし、実験前と後で気づけることも増えると思います。なのでご検討下さいませ」


「え、ええ。わかったわ」


魔王様、ストカ姫様ともに落ち着いたようです。

安心しました。

とりあえず、世界の危機は去ったでしょう。


「魔王様、ストカ姫様、お二人共、私の話に納得していただけましたか?」


「ええ」

「ああ」


「では、お二人が言い争いをする理由はなくなったわけですね? では、お二人とも手を出して下さい」


私がそう言うと、魔王様もストカ姫様も、首を傾げながらも私の方に手を出してきました。


「ふふ、お二人共、手を出す相手が違いますよ?」


私がそういうと、お二人は気付いたのか、お互いの顔を見つめます。


「・・・さっきは急に怒鳴ったりしてすまなかった」


「・・・いえ、気にしてません。私も自分の行動が他者からどう見えるかを考えておりませんでした。とても良い勉強になりました」


そう言ってお二人は少し恥ずかしそうにしながら握手をしました。

これでもう思い残すことはありません。

最後の仕上げです。

無礼者・・・を始末しましょう。


私は跪き、お二人に向けて頭を下げました。

お二人が私の行動に気づいたようで、こちらに顔を向けます。


「お二人の言い争いをお止めするためとはいえ、数々の無礼な発言、申し訳ありませんでした。いかようなる処分も受ける所存です」


覚悟はできていたつもりですが、やはり、怖いです。

どのような処分が下されるでしょう。


ストカ姫様のお付のメイドとはいえ、私の立場はただのメイド、城内ではかなり立場の低いものといえるでしょう。

そんなものが王族と、その客人である他国の王族に無礼な発言をしたわけですから、首が飛ぶことになるでしょう。

私の首だけで済めばいいですが、下手をすれば、見せしめとして家族の首も飛びかねません。

なんとかそれは温情をいただけるよう頑張りましょう。


・・・あれ? 私が頭を下げてから何分か経ったのですが、お二人から声が掛かりません。


いつまで経っても沙汰が言い渡されないことを不思議に思い、失礼にならないようにそっとお二人の様子をうかがいます。

そこには呆然と私の様子を眺めるお二人の姿がありました。


「あの、処分を言い渡していただきたいのですが・・・」


このままでは埒が明かないと思い、思わず、自分から処分を催促してしまいます。

これじゃ死にたがりみたいですが、このまま何を言われるかビクビクしながら耐えるのは辛いです。

もしかして、それが狙いでしょうか。

いつ死ぬかわからない恐怖を与えて苦しませる・・・勇者様の住む国の死刑が、そんな感じで執行されるらしいです。

たしかにこれは効果的な罰の与え方な気がします。


「・・・姫さん、メイちゃんっていつもこんな感じなの?」


「いつもではありませんけれど、時たまこういう風なよくわからないことをすることがあります」


「そっか・・・いやしかし、本当に面白いメイドだな。メイちゃんは」


「あげませんわよ?」


「わーってるよ」


あのお二人とも、ナイショ話のように扇や手で私から口元を隠しながらお話しておりますが、声が大きいせいで全部聞こえてますよ?

えっと、なんなのでしょう。軽く馬鹿にされているような気分になるのですが。


「コホン、あー、メイちゃん、若干面倒くさいけど、メイちゃんの言葉に合わせて対応させてもらう。たぶんそうしないと納得しなそうだし」


私の命運を決める処分の話を面倒くさそうにやらないで欲しいですが、まあ、それを咎めることは私にはできません。


「えっと、メイちゃんの言葉から察してに、今の状況をどんな感じになるんだ?」


「私を王族として、魔王を王族の客人として来た他国の王族として扱って、その二人に一介の従者が無礼な発言をしたから見せしめの処罰が居るって感じなんじゃないかしら」


「ああ、なるほど。一応そういうふうにも見えるのか・・・これだから立場ってやつは面倒なんだ」


「本当にね」


「えーっと、これを言い返す言い訳を考えるわけか・・・どの立場に言い換えればいいんだ? こういうの苦手なんだよ・・・」


「そうね・・・」


お二人は私の目の前で相談を始めます。

あの、ナイショ話をするならもう少し小さい声でしていただけないでしょうか?

全部聞こえてて、すごくいたたまれない気分になるのですが。


「よし、えっとメイちゃん。処分を言い渡すよ?」


「・・・はい」


どうやら話し合いは終わったようです。

聞こえてはいたのですが、聞いてはいけない気がして意識を努めてそらして聞かないようにしていたので、結局どう結論づいたのかはわかりません。

少し身が固くなります。


「俺は確かに魔族の王で、姫さんはルギスカデ王国の第四王女だ。しかし、俺と姫さんがこうして会っていることは非公式であり、また、魔王の復活も勇者の姫君の誕生も、魔族領、ルギスカデ王国で共に秘匿されている事柄だ。ここで起こったことでメイちゃんを処分を下してしまうと、内外に秘匿している事柄が漏れるおそれがある。よってメイちゃんの処分は無期限の延期、引き続きメイドの職務を続けてもらうという形で、その行動を監視して、その行動を制限することにする。下される予定の処分は職務態度を見て決定、もしくは不問とする。こんな感じかな?」


「・・・えっと、つまりどういうことでしょう?」


なんとなくは理解できるのですが、回りくどすぎてよくわかりません。


「まじめにメイドしてくれてたらそれでいいよって話」


「そんな! それでは王族としての立場が!」


「メイちゃん、ぶっちゃけ立場や身分なんてものは道具にすぎないんだよ。例えばある人物が何か事件を起こしたとする。それに対して王がその人の能力を高く買って、召し抱えたいと思えば、王国のために貢献したからみたいな感じで賞を与え、逆にその人物が邪魔だと思えば、国に対しての脅威を起こしたとして、罰を与えることもできる。結局、身分の高いほうがどうしたいかで、立場や名前を変えて使われるだけの物だよ」


「しかし・・・」


「くどい! じゃあ命令! これ以上処分についての言及は禁止! 姫さん、それでいいな」


「もちろん、それでいいわ。メイ、たくさん喋って喉が渇いたわ。お茶を入れてくれる?」


「は、はあ」


なんだかまだもやもやした気分ではありますが、命令であるのであれば、私には従う他ありません。

というか、さっきまであんなに怒鳴り合っていたのに、いつの間にかお二人すごく仲良くなってません?

まあ、私にとってそれは、とても嬉しいことであるのでいいのですが、なんだか、腑に落ちません。

とりあえず、命令されたのでお茶を入れましょう。

あと1、2話で終わらせたいと思ってますが、あくまで予定ですので未定。

書いてるうちに余計なこと書き足したくなっちゃうんですよね。

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