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1話

本日5話投稿予定。

あくまで予定なので、できなかった時は申し訳ありません。

「はあっ、はあっ、なんて素敵なの勇者様・・・ああ、早くこの世界にお呼びしたい!」


私の名前はメイと申します。

由緒正しいルギスカデ王国の王城で、メイドを努めさせて頂いております。

まず、私の名誉のために言わせていただきたいのですが、冒頭のセリフは私のセリフではございません。

恥ずかしながらあの冒頭のセリフは・・・


「メイ! メイ! いる? ちょっと来てくれないかしら!」


「何でしょう、ストカ姫さま」


「勇者様が飲んでいるあれ! あれ何かしら!? 緑色で・・・泡がたくさん。あの泡、次々出てるわね・・・不思議、あれが何かわかる?」


「いいえ、存じ上げません。なにぶん異世界の飲み物ですから」


「ああ、気になるわ・・・何なのかしらあの飲み物。勇者様の好物なのかしら? 私も飲んでみたい」


冒頭のセリフは、私のものではなく私の使える主人、ストカ姫様のものです。

気持ちわる・・・ゴホン! おいたわしい。


「あ、勇者様が立ったわ! どこに行くのかしら・・・あ、お手洗いね! さすがにお手洗いの中までは覗いちゃダメよね? 淑女ですもの」


「ええ、一国の姫として、さすがにそれは控えてください」


「一瞬だけ、ちらっとだけなら・・・」


「このアホひ・・・ゴホン! ストカ姫様、勇者様がこちらにいらした時、姫様が男性のお手洗いを覗くような女性であると知られたら、幻滅されてしまいますよ?」


「そ、そうですわね。我慢します」


それは我慢することではないですよ姫様・・・。

私のお仕えするこのバカ・・・ゴホン! ストカ姫様は、このルギスカデ王国の第4王女でおらせあられます。

普通であれば王位継承権も、政治的価値もさほどないはずの方なのですが、彼女はこの国ではかなりの重要人物です。

なぜなら、彼女は『勇者の姫君』として生を受けた姫であるからです。

この王国、ルギスカデでは、古くから、ある伝承が残っています。

その内容は、この国に時空魔法と召喚魔法を操つる姫が生まれる時、魔王が復活して、世界を混沌に陥れる。

時空魔法と召喚魔法を操つる姫は、その時に勇者を召喚する『勇者の姫君』となって、召喚した勇者と共に、世界を救う人物となる。

と、そんな伝承です。

そう、何を隠そうこの変態・・・ゴホン! ストカ姫様は、珍しい時空魔法と召喚魔法の両方を操れる、『勇者の姫君』なのです。

時間と空間を操る時空魔法や、眷属の精霊や仲間を呼び出す召喚魔法は、扱えるものが極端に少ないレアな魔法です。

その両方を使えるものなんていうのは、伝説で出てくるような人物のみです。

そんな人物であり、また、伝承にある魔王の復活を警戒する意味も込めて、このストカ姫様はこの王国で最重要人物として守られています。


ジー。


そんなルギスカデの最重要人物、ストカ姫様が、鏡をじっと見つめています。

自分の顔を見ているわけではありません。

彼女の魔法で映しだされた景色を見ているのです。


最重要人物であるストカ姫は、王城の、いえ王城でも極秘とされ、最低限の人物以外の出入りが禁止されているこの領域から出ることを禁止されています。

伝承で言われる魔王が復活した時に、その対抗手段である勇者を呼び出せない。なんてことになったら大変なので、それを呼び出せる唯一の人物であるストカ姫を、ルギスカデの王は秘匿して、危険な目にあわないよう閉じ込めてしまったのです。

閉じ込めると言っても王城なので、日々の暮らしに不自由はしないのですが、やはり、外の世界に全く触れさせてもらえないというのは、ストカ姫にとって苦痛だったらしく、そんな彼女はある魔法を編み出しました。

それが、遠見の魔法。

遠くの景色を鏡に移して自由に覗き見ることのできる便利な魔法です。

彼女以外にこの魔法を使えるものはいません。

似たような魔法がないこともないのですが、それには膨大な魔力を使ったり、特殊なアイテムが必要だったりと、結構大変だし、どこでも自由に見るというわけにも行きません。

しかし、ストカ姫様の創りだしたこの魔法は、姫様一人で発動でき、どこでも好きな様に見ることができます。

勇者様のいる世界で言うチート魔法というやつでしょうか。


そんな魔法を、姫様は5歳の頃に簡単に創りだしてしまいました。

姫様は少々、いえ、かなり規格外の人物なのです。


閉じ込められている姫様は、この魔法を使って、世界の様々なところを見て回りました。

王都の町の生活とか、世界一有名な劇団の劇とか、世界一高い山のてっぺんの景色とか、難攻不落とされているダンジョンの最深部とか。

物心ついて、魔法の才能があることがわかってからずっと閉じ込められていたストカ姫様は、その魔法にとてもハマって、作法や勉強などの家庭教師や、最低限の護身術を教わる時間以外は、かじりつくようにその魔法を使って、鏡で世界を見て回っていました。


そんな日々を過ごして数年。

とうとう魔王が現れて世界が混沌に・・・なることはなく、世界は平和なままでした。

かじりつくように見ていた世界の景色も、さすがに何年もずっと見ていたら飽きるみたいです。

ストカ姫様の年齢はその時12歳。ちなみに私の年齢は姫様の3歳上です。

遊びたい盛りのお年ごろには、鏡で覗き見るだけの外の世界では満足できないらしく、姫様はその頃、何度も王城を脱出しようとされました。

あの頃は大変でした。

毎日、どれだけ監視していても、姫様が忽然といなくなってしまったんです。

そのたびに大慌てするのですが、ストカ姫様は最重要秘匿人物。王城のたくさんいる人員を使って、探すわけにわいきません。

事情を知っているものが総出で捜索にあたり、姫様を探すのです。

本当に総出です。

時間さえあればですが、この国を治めるストカ姫の父君。ええそうです。国王でさえも捜索にあたっていましたから。

それも月に一日二日とかではありません。ほぼ毎日でした。

せめて救いだったのは、ストカ姫さまが王城から本当に脱出されることはなかったことでしょうか。

ストカ姫様は賢いお方です。

先程申し上げました、遠見の魔法をご自分で作り上げられたことからもわかるように、いわゆる天才というやつなのでしょう。

ご自分の立場というものを、12歳の時点でよくわかっていらっしゃいました。

脱走はするものの決して王城からは出ず、王城の何処かに隠れて皆を困らせる程度が、自分のやっていい限度だと知っていたのでしょう。

だからといって、ストカ姫様を毎日探すコチラの身としては、たまったものではなかったですが。

人を探すときに、慌てて、絶対いないはずの鍋の中とか、宝石箱の中とか探しちゃう人いますよね?

ストカ姫を探すときはそういう絶対いないであろうはずの場所もしっかり見なくてはいけません。

なぜって? たまに本当にそういう場所にいるからです。

ストカ姫様は小型化魔法という姫様オリジナルの魔法を使って、自分や他人を小さくしてしまうことができます。

この魔法も他に使えるものはおりません。12歳になっても相変わらず規格外なのです。

というか、宝石箱や鍋の中にいるときはまだいいです。

水で満たされた水瓶の中や、炎が燃え盛る暖炉の中に、小さくなって隠れていた時もあります。

そんなのどうやって見つけろとおっしゃるのでしょう。

まず探そうとすら思いません。

その時ストカ姫様が使っていた魔法である、水中呼吸魔法、火炎無効障壁魔法は、姫様オリジ(略)

とにかく、いくら城から出ないとは言っても、こちらが全く予期しない場所に隠れる姫様のかくれんぼ・・・・・は、本当に大変でした。

この仕事を辞めたいと思うほどに。

まあ、国の最重要機密である『勇者の姫君』の存在と所在を知っている私がこの仕事を辞めるということは、首になるという意味ですからやめませんでしたけどね。

ええ、生首の方です。

そんな姫様のかくれんぼが1年ほど続いた頃、お城の姫様知ってるメンバーは、なんとかストカ姫様のかくれんぼをやめさせようと必死でした。


退屈なのを紛らわせればいいのだと、いろいろなテーブルゲームを持って行ったり

(ルールを覚える頃にはすでにメンバーの誰にも負けなくなってました。天才すぎるのも問題ですね)


王族としてはあるまじきことですが料理をさせてみたり

(姫様の料理は食事ではありません。拷問です)


信頼できる旅の凄腕女冒険者様に話をつけて、相手が誰とは教えず、期間限定で実践稽古をしてもらったこともありました。

(3日もしないうちにガチの戦いでボロ負けしたのがショックで、冒険者を引退して、今は故郷で農家をやっているそうです。結婚して二児の母だとか)


いろいろ暇つぶしを与えたのですが、どれも長続きしませんでした。

そしてすぐにまた、かくれんぼを始めてしまいます。

そんなかくれんぼを始めてしまう癖を治めたのは、私がふと漏らした一言でした。


「ストカ姫さまほどすごいお方が呼び出す勇者様って、一体どんな人なんですかね」


今思えば、うかつな発言だったと思います。

まあ、いまだにかくれんぼを続けているのとどっちがマシかと言われたら微妙ですが。

それを聞いた姫様は、早速勇者がどんな人なのか調べる魔法の開発をはじめました。

勇者の召喚、それは魔法の天才であるストカ姫さまにとっても、大変大掛かりな魔法だそうです。

なんでも、王城の決まった位置にある儀式の部屋で、三日間祈りを捧げ、魔力を極限まで高めてやっと発動できるというほどの大魔法とのこと。

魔法の仕組みについても、古い魔法なので現在とは方式が違い、制御しきれるかもわからないらしいです。

そんな状況なのに、どんな勇者が召喚されるのかわかるのだろうかと思っていたのですが、どうやら姫様いわくわかるらしいです。

なんでも、勇者召喚という特別な魔法は、だれでも好きな相手を勝手に呼べるわけではないらしいのです。

何やら魔法構成だの、位相空間式だの、魔力波相対相性値がどうのだの、よくわからない用語を並べて説明してくれたのですが、私にはさっぱりわかりませんでした。

姫様に魔法を教えている家庭教師の先生ですらも、辛うじて理解できる、という程度の話しらしいです。

一応、ストカ姫さまを除けば王国一の魔導師の方がその程度なのに、私に理解できようはずもないのです。

まあ、私でもわかるように簡単に説明するならば、何でも姫様が異世界から召喚できる人物というのは、決まった一人しかいないってことらしいです。

で、それがわかったので、姫様は遠見の魔法を改造して、異世界に居る勇者を見れるようにしました(王国一の魔導師いわく、この改造を王国の魔法使い連盟で研究するなら、300年はかかるらしいです)。

さすがの姫さまといえども、そんな難しい魔法の改造にはかなり時間が掛かったようで、一ヶ月ほどかかりました。

その間、癖であるかくれんぼも治まっていたので、できるならずっと改造していて欲しかったのですが、まあできてしまったものはしょうがないです。

問題はその後だったのです。

遠見の魔法で鏡に勇者の姿が映されました。

一ヶ月も研究していた魔法ということもあって、ストカ姫様は誰かにその成果を見せたかったらしく、私も一緒に見ることになったのでその場にいました。

映ったのは姫様と同じくらい、12歳くらいの少年でした。

映った少年の姿を見た私の感想は、勇者様って言っても、意外と普通の少年なんだなー、くらいでした。

でも、隣にいた少女には違ったらしいのです。


「・・・これが・・・勇者様」


隣には、そう言いながら、頬を真っ赤に染め、うっとりとした表情で鏡を見つめる少女がいました。

もちろん、ストカ姫様です。


「メイ、勇者様を見つめていると、心臓がドキドキして、身体が熱くなるの。これが勇者様の持つ魔法かしら?」


そんなことを言い出す始末。

今まで散々王城の人たちをかくれんぼで困らせて、あざ笑ってきたイタズラ姫のそんな表情は、正直気持ち悪かっ・・・ゴホン! 違和感がありました。

しかし、しかしです。私にはこれがチャンスに思えました。

ストカ姫様のそれは明らかに、勇者に一目惚れをしたのであろうと推測出来ました。

そう、夢中になっているのです。

ストカ姫様は酷く退屈していらっしゃいました。

当たり前です。

物心ついて、召喚と時空の魔法の才能を見出され以来、ストカ姫様は衣食住不自由のない生活とはいえ、秘匿され、大事に守られた生活を余儀なくされておられました。

自身の才能で遠見の魔法などのすばらしい魔法を開発しても、その偉業を見せれるのは限られた人だけ。

なまじ頭がいいせいで、ご自分の立場を理解していらっしゃるので、自分の境遇を壊すこともしません。

自分を取り巻く環境を破壊出来るだけの実力は持っていらっしゃるのにです。

だからこそ、かくれんぼを始めたのでしょう。

私はストカ姫様自身ではないので推測でしかないですが、彼女は、かくれんぼをすることで色々なものを確認したり、自身の欲求を抑えていたのだと思います。

隠れるというのは、どこか知らないところへ行ってしまいたいという欲求への代替行動であったり、探しともらうことで自分を必要としてくれるのだという人たちの確認することであったり、そして、友達も作れない退屈な時間を紛らわすものでもあったのでしょう。

これらは、幼いストカ姫様の心を保つのに、意識的にしろ無意識的にしろ、必要な物だろうというのは、私達、ストカ姫様に仕える者共は理解しております。

しかし、一年間です。

いくら、ストカ姫さまのことを大切に思っている私達でも、一年間も毎日それが続くのは、心労がでかすぎます。

ですので、ストカ姫様がかくれんぼ以外に夢中になれるものを見つけたというのは、私達、ストカ姫に仕える者達にとっても、喜ばしいことだったのです。

私は、ストカ姫様が勇者様に抱いた感情の正体、それが『恋』であることを教えました。

まさかこんなことになるとは思わずに・・・。


時が流れてストカ姫様17歳。

今に至るまでの5年間、ストカ姫の勇者様を観察する日々が始まったのです。


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