第6話
この頃からおよそ二年前に実施された超能力開発カリキュラムにおいて、無作為に選ばれたとある高等学校の生徒三十五人が、超能力に関する教育を特別に受けた。
国家の研究機関が機密に進めた超能力の解析。
千年ほど前であれば何を言っているのかと馬鹿にされそうであるが、この時代ではこの話が出てもおかしくない。いや、おかしくない風になるであろうというのが適切であろう。
現在では超能力に関する情報は、一般に対し一切公開していない。
超能力に関する守秘義務を課せられるのと条件に、生徒達は超能力を身につけることに成功したのである。
超能力と言っても、できることには限界がある。
例えば、超能力を使用して空を飛ぶ、何かに変身するなどの高度な技術は、実現は不可能である。
ただし、とある条件を除いてではあるが。
いずれにせよ、彼らが身につけた能力は、念力、透明色、物体移動、念電話であった。
しかしながら、生徒達一人一人勉強の得手不得手、成績優秀者、成績不振者が存在するように、超能力に関する教育においても順位というものがつけられた。
何で判断をするかというと、資質である。
例を挙げると、クラスメイトにおいて国家のカリキュラムを受けたのにも関わらず、結局念力を使うことができなかった者が存在するし、また逆を述べると他の生徒より超能力の資質が突出している者もいる。物体移動において自身を他の生徒より遥かに遠くへと移動させることができる者などである。
宇都は、実を言うと超能力カリキュラムを受けた中で一番優秀な成績を修めていた。
ただし、とある条件を除いての中の一位である。
宇都の念力は応用性がある他、威力も強力である。
また他にも透明色をしながら物体移動の発動もできる。これは右手で算数の問題を解きながら左手で国語の問題を解くようなもので、非常に高度なテクニックである。
彼には、なぜか超能力の才能があったのだ。
さて、その宇都と元クラスメイトの逢沢優が戦おうとしていた。
時刻は深夜零時を過ぎ、所々で消灯の時間になっていることが見てうかがえる。
逢沢はゆっくりと宇都に背後を見せると、住宅街を全速力で走り始めた。
「どこへ行く!」
宇都は逢沢の背中を追う。
逢沢は意外と足が速かった。住宅街の中を潜り抜けながら、宇都に対して念力でバケツや石、おまけにゴミまで飛ばしてくる。
宇都は友人を止めるため全力で追いかける。ここで逃がすわけにはいかない。
走るとバケツや石が体にぶつかってきたが、宇都は特に気にしない。
五分ほど走ったら、逢沢の意図がやっと理解することができた。
「なるほど、公園か。ここなら広いし、物も沢山置いてあるし、相当暴れなければ人も来ない。考えたな」
「ふん、余裕ぶっこいてるけど、大丈夫か?」
逢沢は宇都を広い公園へとおびきだしたのだ。
場所は広場。中央の広場と表現した方が妥当かもしれない。
辺りにはベンチ、噴水、ブランコなどの遊具などが設置されてあり、地面には花壇がある。
いかにもみんなで使おう、というような雰囲気の公園である。
普段ならば家族連れが多いのであろうか、今ここで超能力者による非日常的な喧嘩が始まろうとしているのだ。
冷たい風が二人の闘争心を刺激する。
「くらえ」
先に動き出したのは逢沢であった。
逢沢は隠し持っていたビー玉を取り出し、一つ一つを宇都に向かって念力で打ち出す。
その速度は、およそ時速百二十キロ。非常に速い速度であった。
一つ一つまっすぐ打ち出してきているので、実はよく見て動けば当たらない。
逢沢の能力では変化球などのコントロールができないのだ。
「動きが直線すぎるぞ? 変化球は無いのか?」
「黙れ!」
宇都の挑発にむきになったのか、今度は物体移動を使用する。
連続での使用だった。右に行ったり左に行ったり。早い速度で、だ。
使用者の体に負担がかかるはずであろうが、そのような事を気にかけている暇はない。
右へ飛び、左へ飛び、やがて目で追えない速度で彼はテレポートを繰り返す。
「おら!」
すると不意打ちで宇都の頭上へと姿を表した。
まるでターゲットに狙いを定め一瞬にして獲物を捕まえる鷹のようであった。
「おっと」
しかし宇都も物体移動を使用し軽々と避ける。
身のこなしは一流だ。
逢沢はそのまま地面に倒れてしまった。
ドサッという音が聞こえた。着地に失敗したのかもしれない。
「こ、この!」
逢沢が念力で噴水の水を捻じ曲げ、宇都に対して発射する。
しかしながら、これもビー玉と同じで直線でしか飛んでこない為、テレポートで軽々と回避してしまう。
ちなみに、念力に対して念力で対抗することも可能である。
捻じ曲げた水を捻じ曲げる、という風に。
逢沢はどんなに戦っても宇都には勝てない事を悟り始め、憔悴しきっていた。
「逢沢、もうやめよう。今からでも遅くない。金を返しに行こう」
宇都の優しさのこもった発言が、静寂を維持し続ける公園の中で空しい広がりを作る。
「う、うるせえ! まだだ......」
逢沢のしつこさに宇都は少々ため息をつく。
「なあ、逢沢。こんなの見たことあるか?」
宇都がすっと手をかざすと、周辺にあったビー玉を十個まとめて宙に浮かばせる。
宇都の周りを取り囲むように、ふわふわと浮遊している。
「な、なに!?」
逢沢は念力を使えるのは一つの物体にのみ。
それに対して、優秀な成績を修めていた宇都は一度に沢山の数の物体を操ることに成功していた。
数の限界は不明である。
宇都は逢沢に向かって一斉にすべて飛ばした。
轟! という音を立ててビー玉は逢沢に直進する。
「ひ!」
素っ頓狂な声をあげる逢沢。
十個のビー玉はそれぞれ逢沢の真横を通過し、地面にめり込んだ。
現実では考えられないような音。シューシューという不思議な音が地面から聞こえてきていた。
「力になりたいんだ、逢沢。何か困っていることがあるんだろう? できる範囲でいいから教えてほしいんだ」
宇都はゆっくりと転んだ逢沢に近づいていく。
追い詰められたせいなのか、宇都の恐ろしさのせいなのか、逢沢は今にも泣きだしそうだ。
しかし、泣き出しそうなのはビー玉流星群に恐怖心を抱いたからではなさそうであった。
「......お前、本当に強いな。お前なら、聞いてくれるか?」
逢沢の中で何かが崩れたようだ。
勿論、良い意味でだ。
宇都は馬鹿正直な正義を貫く。
しかしそれがクラスメイトの心を動かした瞬間であった。
2015/01/08
今日はもう少し頑張ります。
向上心をもって楽しく書き続けていきたいものです。
2015/02/21 更新