第4話
本来ならばこの時間は従業員がいて、せわしく働いている姿を見ることができるはずなのだが、この銀行は現在警察によって閉鎖され、入念に捜査されている。
厳重に保管してある金庫の中から現金のみを抜き取る事件。
あまりにも不可解なので警察もお手上げ状態であるかのように見えた。
あるかのように見えた、というのは国家から何も突き止めないようにと圧力をかけられている可能性があるということである。口外するな、余計な詮索はするな、と。
犯罪の正体が超能力だと知った世間は、騒々しくなるに違いなかった。
超能力による透明色を発動させた彼は、本来ならば一般人は立ち入り禁止であろう事件現場に堂々と立っている。
中はまずまずの広さであった。コンビニエンスストア2つ分ほどと表現したら良いかもしれない。
しかしながら、まずまずの広さを持ちながらも中では警察官がわっせわっせとひっきりなしに動いているためか少々窮屈に感じられた。
すべては、事件解明のため。
この様子から見ると、警察は国家から圧力をかけられているわけではなさそうである。
圧力をかけられているなら、ここまで全力で捜査などしないはずであるし、警察も総動員で動くことも必要性は無いのである。
(証拠を見つけるのは、難しいと思うが)
宇都は捜査をする警察官達を見つめながらそう考えていた。
「まだ証拠は見つからないのか!? もう3日経つんだぞ!? 悔しくないのか、お前たちは!!」
その時、宇都の背後から何者かが怒鳴る声を聞きつけた。
声的に五十代といった所か。
宇都は突然のことに飛び上り、透明色のスキルを解きそうになってしまった。
(さ、さすがの俺もびっくりしたぞ今の)
宇都の背後には怒鳴った男性が立っていた。
その男性は現場責任者であろう。警察官達の動きをよく観察し、統率しているかのように見える。
彼の身なりはすべてがきちんとされていて、服に汚れがひとつ無かった。
その上、体のつくりがしっかりしている。とても五十代とは思えない身なりをしていた。
(なるほど、あの男性が何か知っていそうだな。後をつけてみるか!)
宇都は男性の近くで情報が入るまで待機していた。
それから十分が経った。
安達は相変わらず、イライラした表情を隠しきれておらず、足をぱたぱたさせながら現場を睨み付けている。
すると一人の警察官が近づいてきて、
「失礼します、安達警部。先ほど新しい情報が入りました」
とその現場責任者であろう安達警部に話しかけた。
宇都は、よし、と一人で(見えない)ガッツポーズをした。
「どうした?」
「先ほど、次に狙われるであろう銀行を、捜査班が割り出したそうです」
「おう、そうか。位置だけ教えてくれ。さっさとこのふざけた事件に終止符を打とうぜ」
それは俺の役目だよ、と宇都は咄嗟に言ってしまいそうになる。
安達は服についた砂埃を必死で払っていた。
聞いているのか聞いていないのか分からないような雰囲気であった。
「場所の位置ですが、次はこの周辺の、地獄だぜ銀行が狙われる可能性が高いです」
「変なネーミングのツッコミは無しとして、どうも犯人はこの周辺に生息しているみたいだな?」
「あくまでも推測ですが、そうですね。夜間は人通りも少ないですし、夜中に関しては交通もすべてストップしています。とても長距離を移動してまでここで犯行を行うとは考えにくいですし」
「ふむ、そうか」
「もう一つの決め手としては、この周辺の銀行はそこしか無いのですよ。そして、犯行をするとした明日の深夜でしょう。同じところに留まるのは犯人も嫌でしょうし、日曜日の深夜ならば人通りは少ない所ですので」
「よし分かった。ともかく、地獄だぜ銀行周辺の警備を強めておこう」
安達は無線を使用し、はきはきとした声で指示を始めた。
地獄だぜ銀行。沢山ツッコミたい宇都であったがぐっとこらえる。
しかしながら、彼は有力な情報を得た。
その地獄だぜ銀行とやらに犯人が表れる可能性が高く、犯行をすると明日の深夜であるという事。あくまでも可能性にかけるならば、そこであろう。
「よし」
そう言って歩き始めた瞬間。
バリバリ。と何かが真っ二つに割れた音が室内に響く。
一歩歩こうとした宇都が、何かを踏みつけてしまったのだ。
「なんだ!?」
指示を終えていた安達は音のある方へ首を向けた。
勿論方向は、宇都の方へ。
(や、やべえよ! しくじった!)
完全に前方不注意、いや、この場合下方不注意と言ってよいかもしれない。
宇都は肝を冷やした。冷や汗が服の中からしみているように感じられた。
心臓の音がはっきりと聞こえてくる。
割ったのは、無線機であった。
誰か分からないが、床に置きっぱなしにしてそのままの状態で放置されていたようであった。
宇都はそれを踏んでしまったのである。
(誰だよ! こんなところに無線機を置いたのは!!)
仕方ない、音やほこりを立てずゆっくりと歩いて離脱しよう。
なぜそこにあるのかこれもまた不可解ではあるが、離脱することを思い付いた宇都はその場から抜き足差し足でゆっくりと離れていった。
「あーーっ!! 誰だこんなところに無線を置いたのは。って、これ、はあ? 壊れてるぞ?」
安達は駆け寄って、その無線機を拾い、まじまじと見つめている。
だが、安達がそんなことをしている間にはもう、宇都はその銀行の中にはいなかった。
安達は相変わらずわけの分からない顔を一人でうかべており、キツネにつままれた表情を見せ、責任者とは思えない情けない顔を見せていた。
宇都がいなくなった理由。戦う手筈を整え始めたのだ。
というか、帰宅だ。
決戦は明日。
必ず、同級生の悪事を止め改心させる。
その目標こそが、彼の持っている正義観念なのである。
2015/01/07
ちょくちょく書いてます。
焦らずゆっくりと。
2015/02/05 更新