第14話
ヘヴン・ヘルタウン。
二十五階立ての大手デパート。
年越しが迫る、寒さの厳しい日だった。
この日は、年末且つ祝日という事でデパートは人でごった返していた。
しかし。
時刻は昼を過ぎたのにも関わらず、このデパートのフロアはどこもかしこも閑散としており、ねずみ一匹ですら見当たらない。
その代り、外が大勢の人が、デパートの周りを取り囲む。その人だかりは道路へも進出し、車の進行や交通を妨げていた。
外では、道路を防がれたことに腹を立てるドライバーが嫌というほどクラクションを立てている。
外では、やっとのことで警察が到着して、誘導を始めた所だった。
「中ではどうなっているんだ!」
「忘れ物しちゃった」
「ふざけんなよ、何とかしろ」
デパートからやむなく追い出された客たちは、まるで餌を盗られた動物かのように愚痴を並べ立てる。
なぜこのような状況になったのか。
理由は単純明快であった。
デパート内で爆発事件が起きたからだ。
詳細は外の人やデパートの運営側からしたらさっぱり分からないであろう。
なぜならば、それは超能力者による犯行であったからだ。
法律として、超能力という機密情報は一般に公開したり口外したりしてはならない。
約束を破る、又は超能力を使用しての犯罪、一般の者たちに対して力を行使するなどの行為は、国に背くことになる。
故に、その者には代償として「死」が待ち受けている。
さて、この爆発事件だが、主犯はもうすでに分かっている。
四賀憲太郎。かつて宇都と秋芽と同じ教室で超能力開発カリキュラムを受けていたクラスのメンバーだ。
いわゆる、TFMの一員。
四賀は、当時大人しい性格であった。
いや、大人しいというよりも人と関わることを望んでいないような雰囲気であった。
いつも一人の世界に入り、一人の世界を楽しんでいるかのような人物。
宇都が彼について覚えている事といえば、彼はいつも課題をやるのが早かった。
クラスでもいつも一番に課題を提出し、周りが膨大に追われている課題の中、凄まじいスピードで課題を提出していたというのが宇都にとって大きな印象となっていた。
そのかつての仲間、四賀が爆発事件を起こした。
理由は、不明だ。
四賀は、笑って笑って、不気味な笑顔を作りながら、フロアの破壊を徹底して行っていた。
まるで、そのフロアに恨みがあるかのように。
「四賀あああ!! お前って奴は!!」
宇都は、怪我をした秋芽を見守ってから、四賀のいるコンビニエンスストアフロアへテレポートで移動していた。
宇都は、激昂している。
理由は、大切な友達、秋芽萌を傷つけられたから。
それ以上に、かつてのクラスメイトを平気で傷つけ、ヘラヘラ笑っていられるその態度が宇都には許しがたい事であった。
「ハハハッ、僕が憎いかあ? 馬鹿かお前。いちいちキレてんじゃねーぞお!」
フロアで破壊活動を続けていた四賀は、ゆっくりと宇都の方へ顔を向ける。
「萌を傷つけたが、どう思っているんだ?」
「はあ? 秋芽さんの事かい?」
「そうだ」
「別に? ゲームのキャラクターやエネミーに攻撃して倒したのと変わらない感覚だけどお」
四賀の声に感情はこもっていなかった。
宇都は驚愕する。このような心の無い人間が出来上がるものなのか。
フロアは、酷い状態だった。
まるで、原子爆弾が落ちた後の焼け野原のように、コンビニといえる場所が忽然とその部分だけない。
あるのは、建物を支える支柱のみ。
周りはコンビニエンスストアの商品、崩された壁、コンビニエンスストアの瓦礫が一面に埋め尽くされていた。
宇都は困惑した。
なぜこのフロアだけここまで破壊する必要があるのかと、不思議に思っていた。
が、そのようなことは二の次だ。
絶対に、目の前の犯罪者を粛正する。
改心させてやる。そして、罪を償わせる。
それが宇都のモチベーションを高める原動力となっていた。
「四賀。絶対に、許さん!!」
宇都は持ち前の念力を使い、無造作に捨てられているアルミ缶を十五個ほど潰す。
先を尖らせてから、全速力で投げる。
その動作完了まで、およそ六秒。
まるでプロが投げた野球ボールのように、不自然な音を立てて四賀へと突進した。
勿論、全て直線で投げたわけではない。
四賀の頭や足、手、わき腹など全方向から一度に防げない攻撃を繰り出した。
轟々と音を立てて、目標へと向かって飛んでいく。
四賀の顔はうんざりとした顔に包まれている。
「あのさあ、もういい加減にしてくれよお。つまらねえぞ!」
四賀は両手を高く上げ、覚醒アビリティを発動させる。
四賀に向って飛ばされたアルミ缶は、十五個すべて圧縮されていった。
四賀の能力名は、圧縮者。
特徴は、何でも圧縮させることができ、そして解凍もすることができるということだ。
解凍というのは圧縮した物を元に戻すことであるが、それは同時に爆発を引き起こす能力を持っている。
例えば、ゴムボールを極限状態まで縮めて、すぐに手を放すとすごい勢いで弾性の法則が働き元の形へと戻ろうとする。
四賀の能力は、それと同じで、元に戻ろうとするときに大きな爆発を生じさせることができるのだ。
宇都は四賀に迂闊に近づくことができない。
近づいた瞬間、圧縮されて身体も骨もペシャンコになってしまうからだ。
「くっ、お前の能力、厄介だな。攻撃範囲が半径十メートルってのは不幸中の幸いだな」
「キャキャキャ、どう? すごいだろ?」
「ああ、そうだな」
刹那。
四賀の背中に、何か刺さった。
サクッという乾いた音がフロア内に響く。
「......?」
突然の事に思考が追い付かない四賀。
恐る恐る右手を、異変の感じた個所へ伸ばすと。
「う、うわああああああああああああ!! 血が、血がああああっっ!!!」
四賀は、まるで小さい子が駄々を捏ねるかのような動きをする。
床の不衛生など気にしてる様子もなく、その場を転げまわる。
「油断しすぎだ、四賀」
宇都が冷静に言い放つ。
「お、お前。まさか騙したな!!」
「油断して引っかかったのはお前だろう」
「こ、コノウ!!」
宇都が仕掛けた作戦。
それは、不意打ち作戦だ。
どのような作戦かというと、アルミ缶すべてを攻撃に使い果たしたと思わせて油断させて、背後から残りのアルミ缶を続けて打ち込むという作戦である。
この作戦は功を奏したようであるが、四賀へのダメージは少ないようであった。
四賀は、背中に刺さっていた変形していたアルミ缶を念力で引き抜く。
その際、注射の針が体から抜かれたかのような感覚が四賀を襲った。
「うううううっ」
「四賀。もう止めよう。もう十分だろう」
「ふざけるな! まだだ!」
「いい加減にしろ、四賀! お前、何をやってるのか分からないのか!!」
宇都が四賀へと近づいていく。
射程距離ギリギリまで近づいていた。
「うるせえよ!! この正義のヒーロー気取りが。お前のそういう所が鬱陶しいんだよお!」
「なんだと!?」
「そのお節介が、人を殺すとこにもなりうるんだぞ、コノウ!」
「何を言っている!」
「俺はやめるわけにはいかないんだ! このフロアをもっともっと破壊して、復讐してやる!!」
四賀は傷ついた体を無理やり起こした。
脂肪があるからか、傷はそこまで深くないようであった。
四賀と宇都のぶつかり合い。
犯罪者とそれを止める者。
年末に起きた、ヘヴン・ヘルタウンでの大事件。
外が大騒ぎし、デパートが倒壊しそうな中でこのような超能力による激突が起きていることは、誰もが予想することのできない出来事だったかもしれない。
何となく、フィーリングで書いてみた。
まったりやります。 2015/01/23