第13話
宇都と秋芽は、同時に念力を使い、左右から四賀を追い詰めることにした。
名付けて挟み撃ち作戦だ。
宇都はテレポートで左側へ回り込む。勿論、ある程度の距離は置く。
秋芽はその反対へ回り込んだ。
左右からの同時攻撃は、さすがの奴でも防げまい。
「くらえ!」
宇都と秋芽は同時に潰したアルミ缶を四賀へと投げつけた。
轟! と音を立てて四賀へ向かって突進する。アルミ缶の先は尖っているので、その威力は侮れない。
「ククククク、無駄だよお」
不気味な笑みを浮かべながら、四賀は能力を発動させる。
グシャ、と二人の攻撃は悉く防がれてしまった。
アルミ缶は、またしも無残な状態で四賀の両隣へ墜落する。
『忠君! 四賀君にはもうこの手は効かないみたいだけど、どうするの!』
『まだ確かめたいことがある、もう少し攻撃をさせてくれ!』
二人は念電話を使いながら、四賀と無言の戦闘を繰り返す。
二人だけの回線がそこには作られており、四賀はそこに入り込むことができない。
「おやおやあ。二人で秘密のお電話ですか。ケッ、くだらねえなあ」
二人の策略に気が付いた四賀は、念力で潰したアルミ缶を二人に向かって打ち出した。
「くらうか!」
宇都はそれをテレポートで避ける。
「危ない!」
秋芽もそれを、ぎりぎりのタイミングで躱した。
まるでプロ野球選手が投げたようなボールの速度で、二人の両脇を通過する。
地面に着弾し、カランカランとアルミ缶独特の音を出しながら、転がりまわった。
四賀は継続的に笑みを浮かべている。その不気味な笑顔は、大勢の人の恐怖心を煽ることだろう。
殺気。
とにかく、破壊衝動を抑えきれない犯罪者のような雰囲気。
二人にとって、同級生の中で今まで見たことのないタイプだった。
二人は、背中から嫌な汗がにじみ出ているのを感じていた。
相手は平気で人を殺すような犯罪者。
気を抜いたら、一撃でやられてしまう。
「うおおおおお!」
宇都は持てる力をすべて使い、出し惜しみをすることなく攻撃を続けていく。
四賀の上方、左方、右方から大きな瓦礫が直進する。
「だから、無駄だって言ってんだろうがっ!! ハハッ」
四賀は余裕の笑みで両手を左右に広げる。
そうして、それらはガラガラと音を立てて圧縮され、空しく墜落する。
圧縮者、四賀。
圧倒的な力、覚醒アビリティを手に入れた彼は、その能力を持て余す。
「ほらほらあ、もう少しこっち来なよおおおお」
四賀は大きい図体をよいしょよいしょと動かしながら宇都と秋芽へとの距離を詰める。
「くっ」
四賀と秋芽は物体移動を使い、距離を取る。
「もおおおおおおお、そっち行くなよおおお」
四賀はアハハハと独りよがりな笑顔を作り、近づいてくる。
『忠君。四賀君の能力の欠点って』
『ああ、分かったぞ。あいつ、射程距離がおよそ半径十メートルが限界みたいだな』
『つまり、私たちを遠くから攻撃してこないのではなくて』
『射程距離に入っていないから攻撃ができないんだ。だからあいつは走って俺たちとの距離を詰めようとしている』
念電話での二人のやり取り。スムーズで、スポーツならばナイス連携プレー、といったところであろう。
『忠君、作戦は?』
『正直、まだ立てられていない。やるとしたら、あいつが圧縮能力で防ぐ暇もない速度で攻撃しなければ勝ち目はないだろうな』
『でも近づいたら危ないよ』
この瞬間、先の尖ったアルミ缶が宇都に向かって一直線に飛んできた。
なかなか勝敗がつかない戦闘なので、四賀が退屈になってきたのか念力で飛ばしてきたのだ。
難なく避ける宇都。
ハハッ、と笑いながら距離を詰める四賀。
物体移動で距離を取る二人。
左右からの挟み撃ち作戦は、あまり功を奏していない。どんな攻撃をしても、圧縮されてしまう。
無言での戦闘が続く、が。
念電話で無線機同士でのようなやり取りが二人だけの中で続けられる。
『そうだな、あの圧縮。本当に恐ろしいな。入った瞬間ぺしゃんこだな』
『とにかく、距離を取りながらもう少し二人で挟み撃ちで攻撃を仕掛けよう』
二人は隙を見つけては四賀に念力で物を投げつける。
その辺に落ちている瓦礫、コンビニエンスストアから出たゴミの山、漫画、弁当など手あたり次第に投げつける。
「つまんねーなあ、しかもひどいね。ゴミまで投げつけてくるなんて。ウッククククク。そのままそっくり返してあげるよ」
四賀は余裕の笑みを見せながら、自身の近くまで来た物体を圧縮する。
それはギギギギギと嫌な音を立てながら圧縮されていった。
まるで無理やり作った泥団子のように、色々なものが混ざった塊。
その塊が、四賀の右側をふわふわと浮かんでいる。
「ほらよお、くらえええい! 解凍」
その瞬間、秋芽に向かって無数の瓦礫、アルミ缶等あらゆるものが爆発し、その破片が特急列車並の速さで襲い掛かってきた。
「!」
秋芽はその攻撃に気付き、はっとする。
一瞬の出来事だった。
ゴゴゴという音を立てて、フロアは振動する。
おまけに、砂埃まで立ってしまった。前が見えない。
「萌! 大丈夫か!」
砂埃の中、標的となった秋芽に向かって宇都は叫ぶ。
「う、うん......何とか」
「!?」
宇都は見えない砂埃の中、見えない姿を探しに突撃する。
嫌な予感がする。
あの攻撃の反応・回避は、正直宇都でも厳しい。
完全なる不意打ちであった。手の内を見せない所が、四賀の策略の一つであった、という事であろう。
「萌!」
砂埃の中、ううという声が聞こえた。
声を頼りに宇都は駆け寄る。
すると。
全身に傷を負って、その場に倒れこんでいる秋芽の姿がそこにはあった。
深くは無いようであるが、擦り傷より酷い。
手や顔、足の至る所に切り傷を負っていて、血が流れている。
血が苦手な人なら、失神してしまうかもしれない。
「忠君、ごめん......攻撃、少しくらっちゃった」
「しゃべるな。ちょっと待て。とりあえず一回撤退だ」
秋芽をお姫様抱っこして、宇都は二つ下のフロアへテレポートした。
「ヒャヒャヒャヒャッ、惜しい惜しいっ! 後もう少しだったのになあ」
その様子を見物する、犯罪者四賀。
相手を傷つけたというのに、反省の色を見せるどころか、更なる興奮が彼を突き動かしている。
まるで小さな子どものようにキャッキャッと両手を上下に動かす。
「なにが、正義のヒーローだ! 偽善者ぶりやがって。結局皆助けられてねーじゃんかよ。ウックククク」
四賀は誰もいないフロアで、一人盛り上がっている。
誰もいなくなったフロアを一視すると、再びコンビニエンスストアフロアの破壊を続けていく。
ガラガラと空しく音を立てながら崩壊するコンビニエンスストア。
「あああああーー!! 快感。全部ぶっ壊れちまえっ。ヘエッ! ぜーんぶ、いいものも悪いものも、一つにまとまって崩れて消えてしまえばいいんだ!!!」
誰も聞いているはずがないのに、そのフロアでまるで誰かに訴えるような口調で四賀は叫ぶ。
彼を止められるものは、誰もいない。
場所は変わり、そこから二つ下のフロア。
客専用のソファに秋芽を横にする宇都。
秋芽は、戦闘不能の状態になっていた。
必死に身体を動かそうとしているのかもしれないが、それは手足を失った蟻のように無意味なものと宇都は感じていた。
見かねた宇都が秋芽に声をかける。
「萌、もうお前は離脱しろ」
「いやだ。忠君のサポートをしなきゃ......」
「だめだ。気持ちは嬉しいが、これ以上危険な目に巻き込めない」
秋芽は全身の痛みを我慢しながら体をソファから動かす。
血がまだ止まっていない。彼女の顔色は悪くなる一方である。
「だめ?」
「ああ。今回は俺の言う事を聞いてくれ。萌、とにかく怪我をした一般人という事で外へ離脱して救急車に運んでもらえ。じゃないと危ないぞ」
秋芽は俯く。
宇都はそんな秋芽に背中を向けて、こう呟く。
「......許さない、絶対に。友達を傷つけた。しかも、あの態度。大勢の人を巻き込んでまでの犯行。許されることじゃない」
宇都がかすかに震えているのを秋芽は感じ取った。
「......忠君?」
「あいつに分からせてやらなきゃ。事情は知らないが、あいつのやっていることは間違っている。絶対に、改心させてやる! この手で絶対に!!」
次第に声に力が入る宇都。
秋芽はそのような彼の背中を見て、何も言い返すことができなかった。
秋芽は、その場で離脱することを決意した。
ここには、私が入り込まない方がいいかもしれない。それが私にも、忠君にも良い事なんだ。
「忠君。絶対に、帰ってきてよ?」
「勿論。改心させて全部綺麗にして、終わらせてやるよ。全部終わったら、また買い物行こうな?」
「......うん」
それだけ言うと、だいぶ痛みが治まったのか秋芽は体をゆっくりと動かしながら非常階段へと歩き出す。
宇都が入り口まで送りたいところだが、誰かに見つかってまたフロアに入るのを阻止されたら少々厄介なことになるから、秋芽一人で行かせることとなったのだ。
避難誘導からだいぶ時間が経っている。
周りは店員からスタッフ、客など入っている人全員いないので閑散としている。
静かな中、秋芽は離脱したようだ。
「さて」
誰もいないフロアを彼は見渡し、呼吸を整える。
そして、テレポートをした。
行先は、勿論コンビニエンスストアフロア。
四賀の犯罪。そしてそれを止める宇都。
二人の対決が、再び始まる。
気晴らし程度。
全然パソコン触れない(笑)
テスト・レポート三昧。がんばろう 2015/01/21