第11話
ヘヴン・ヘルタウン。二五階立ての高層ビルに近いデパート。
中は騒然としていた。
人々が我先にと非常口へ走り、混乱した様子で皆おぞましい血相を浮かべている。
この日は年末近くの休日。中は当然のごとく人で混み合っていて、まるで窮屈な動物園であった。
「このやろう! 早く行け!」
「きゃあ! 押さないでよっ!!」
「うわーん......ママァ!!」
様々な年齢層の声が店内を飛び交っている。皆早く逃げたい一心なのだ。
このデパートでは原因不明の爆発が起こり、避難命令がデパートの管理者から出されている。
わずかに傾いているデパートは、利用者たちを恐怖に陥れるのに十分すぎるほどであった。
そのような中、人々が逃げる方向へと反対に向かって突き進む二人組がいる。
宇都忠。そしてパートナーの秋芽萌。二人とも超能力者である。
超能力者による犯行だと推理することができた二人は、犯人のいるフロアに向かって走っていた。
「萌! 犯人のいるフロアって、爆発が起きたところか!?」
「分からない。だけど、まだ爆発が続くようなら、そのフロアにいるって考えてもいいかも!」
「そうだよな。......くそ、なんでこんな事をするんだ!!」
犯人の犯行の意図を全く掴めていない宇都。
超能力者による犯行。という事は彼らの同級生他ならなかった。
いくら叩いても、終わらない。
超能力者による戦いが。
宇都はエンドレスに続く戦いに、少々精神的に落ち込みそうになったが、今はそのような時ではないとすぐに立ち直った。
二度目の爆発が起こった。
さきほどよりもう少し規模が大きい。デパートがまた傾いた。
下の階層から人々の恐怖に満ちた声が聞こえてくる。
その声を聞くと、超能力を所持している二人にとっては安全なものの、恐怖心を煽られてしまう。
「爆発の起きた階層は、六階か!?」
走りながら、萌の方を向いて宇都は確認をする。
「そうだね、下の方! もう人もいないみたいだし、テレポートを使って移動しよう! 急ごう」
二人はテレポートを駆使し、下の階層へと降りていく。
一瞬にしてその場から消え、数メートルしたへ転移する二人。華麗な動きであった。
六階は、コンビニエンスフロア。全国のコンビニエンスストアがその階層に出店している。
コンビニしか存在しない階層であるものの、連日大勢の人が訪れる人気の階層であった。
しかしながら、このような事件が起きているため、今は誰もいない。
二人は六階に到着する。その中は閑散としている。
しかし、二人の百メートル先辺りで中年の警備員が巡回に回っている姿が見えた。
恐らく、逃げ遅れた人の為に残っているのだろう。
三度目の爆発が起こる。
非常に近い距離だ。
距離にして百メートルといったところか。
その瞬間、巡回のおじさんが通常では考えられないスピードで後ろへふっとばされる。
本当に一瞬だ。
そしてそのまま。がしゃん、という窓ガラスの割れた音と共に外へ放り出されていく。
「あっ!!」
宇都が止めようとするが、距離が離れすぎている上、間に合わない。
「う、うわああああ!!!!」
警備員のおじさんは、窓の下へ墜落して行って、やがて姿を消す。
「ひ、酷い......」
萌は両手を口にあて、その様子を目を丸くして見ていた。
彼女にとって少し衝撃が強すぎたのかもしれない。
「くそ!! 助けられなかった。誰だ、こんなことをするのは!!」
宇都がフロアに向かって叫ぶ。
フロアは音が反響しやすくなっているらしく、何度もこだましているように感じられた。
すると、爆発が収まった後、コンビニエンスストア「マサムネ」の中から一人の男性が出てきた。
ゆっくり、余裕を持ち、貴様ら等いつでも殺すことができる、というような自信たっぷりげに。
ラーメン屋にいた男性であった。ミリタリーのシャツに、深々と被った黒の帽子。
身長は宇都と同じくらい。少し太っている。
「やあ、やっぱり君たちだったんだね。ハハッ!」
不気味な笑みが帽子が隠す、顔の一部から垣間見える。
憎悪、悪寒、復讐の念、おぞましいものがその男性から感じられる。
「あ、あなたは誰!? TFMの一人なの!?」
秋芽がおびえた様子で男性に問う。
「そう。覚えていない? 二人とも。まあ、僕は目立たないように生活してきたから、覚えてないのも無理ないかもしれないけど。キヒヒ」
相変わらず、不気味な笑みを浮かべ続けている。
悪魔のような、何か憎悪に満ちた人物。
そう表現せざるを得なかった。
コンビニエンスストアの破壊された壁が、フロアのあちこちに転がっている。
すべてこの男性がやったことであった。
「誰なんだ、お前は......!」
宇都はそいつをにらみつけながら問う。
「ウククック、僕の名前は、四賀憲太郎。覚えているかな? ハヘヘッ」
謎の笑い声を出しながら、帽子を深く被ったまま下を向いた。
「お前、いつも教室の端っこで目立たないようにしていたな。俺たちが話しかけても無視するし、皆で活動する時はいつも別の場所にいたな」
宇都が四賀をまっすぐ見つめる。
「オオウ、さすが正義感あふれる、宇都君。よく見ているじゃない。まあ、僕の事なんて覚えている人は君のような変わっている人の他誰もいないと思うけどさあ」
四賀がその瞬間、近くにあったコンビニエンスストア「イシス」を破壊し始める。
ドコン、という鈍い音と共に、店内が解体されていく。
そして壁がはがされ、商品はすべて粉々になり台無しになる。
「やめろ! 何をしているんだ。話は終わってないぞ!」
「ハァ? 何を言っているんだい、イヒヒヒヒ。放っておいてくれよ。これが僕の復讐なんだよ。ウフフフ」
四賀は少々興奮しているようであった。
「復讐だと?」
四賀は、前からこのデパートに恨みがあったのであろうか。
そして、超能力を身につけた今、こうして復讐を成功させることに満足し興奮しているのだろうか。
萌が宇都に近づき、宇都の肩を掴んで後ろへと隠れた。
「四賀君、どうしちゃったの。なんで人を傷つけるの?」
萌が彼の背中から顔を出し、恐る恐る四賀へ問うた。
「ふん、正義のヒーローに学校のスター。俳優ぞろいですなあ! 結構結構。そこはそこで、どろどろのラブコメでもやってろって感じでっサア。ヘッ!」
四賀は萌の質問に全く答えようとせず、一人でフロアの破壊をする。
能力を使っているようだが、仕組みが分からない。
壁がめりめりと砕かれていくのは何となく理解できる。
が、その後が不明だ。砕かれた破片が一点を中心に集合し、固まる。
そして砕かれた凝個体とも言える集合体が膨張し、一気に花火のように砕け散り爆発をする様子なのだ。
念力だけではとても応用できない能力である。
「お前、その能力もしかして......」
宇都が何かに気が付く。
「アハハハハハッ、気が付いたかい? 僕はねえ、手に入れたんだよ」
超能力者のランクが上がるとされている現象。
「まさか、お前!!」
宇都が血相を変える。
「ウクク、そうだよお。覚醒アビリティの発現だあ!」
四賀は一人で高笑いをする。笑いすぎて過呼吸になりそうなほどの高笑い。
キャキャキャと一人でわめき笑う声は、誰が見ても異常な雰囲気を醸し出していた。
「なんだって......」
宇都と秋芽はお互いに顔を合わせ驚愕する。
なんで、このような時に。
超能力開発カリキュラムを受け、超能力者となった四賀。
しかしランクが上がって強くなっている極悪人、四賀と成り果てている。
彼は同級生であるが同時に犯罪者である。
彼を改心させるには、少々骨の折れる戦いになりそうだと宇都は予感をしていた。
戦いの火蓋が今、切られた。
バイト後だけと何となく書いてみました。
明日は成人式ですねー。 2015/01/11