第9話
あの事件から2ヶ月が経った。相変わらず、逢沢の情報は何も入ってこず、いつのまにか現金連続窃盗事件に関するニュースは世間から姿を消していた。
この2ヶ月、パートナーこと秋芽萌と共に行動し、超能力者の粛正に勤しんでいた。
彼の持つ正義感は、様々な者の共感を呼び、改心させることができていた。
そんなわけで、彼はTFMの中の5人を改心させることに成功し続けている。
季節は冬。大学は冬期休業に突入しているためか、町はどこも学生の姿で溢れる連日となっている。
そして変哲荘の中の一室。ここにもまた冬休みを謳歌している学生が一人いた。
宇都忠、そしてパートナーの秋芽萌である。
二人とも、平凡な学生とは少々違う。超能力を所有するのだ。
今日は二人とも大学は休業日。TFMが悪さをしていないか調査をするという名目で秋芽は宇都の自宅へと遊びに来ている。
しかしながら、萌は活動をせずごろごろしながら雑誌を読んだり、漫画を読んだりしている。
それを見かねた宇都は秋芽にこう言う。
「なあ、萌」
「んー?」
「調査はどうした......」
「えー? ちょっと、忠君! 今は冬休みなんだからさー、たまには遊ぼうよ! 休まないと、ストレスたまっちゃうんだぞ」
秋芽は顔だけ宇都の方に向け、ごろごろした体勢を崩さずにきっぱりと言い放つ。
「おいおい。まだ犯罪者がいるかもしれないのに!」
「えー? 犯罪者であっても、みんな学生だよ? 休みぐらい休みたいって」
「このやろ!」
宇都はだらだらしている秋芽に向かって、みかんを投げつける。
勿論、念力でだ。
みかんが剛速球で秋芽の元へと飛んでゆく。なかなかカオスである。
「きゃ! 危ないなーもう!」
秋芽は即座に部屋の中でテレポートをし、ソファの上という別の場所に移動することによって、それを躱した。
みかんが部屋の中で嫌な音を出して潰れてしまう。
「うわあああ!!! そ、掃除が......」
宇都が初めて悲劇を感じた瞬間であった。
ぐちゃぐちゃのみかん。ああ、こんなにも美味しそうだったのに。
投げずに食えば良かった、と訳の分からない正義観念をここに持ち出してきている。
「ふーん。忠君が悪いんだからねっ!」
秋芽はべーっと下を出して宇都を挑発した。
「こ、この......萌め!!」
「おお、やるのかなー?」
秋芽がファイティングポーズを取る。
というか、超能力で戦わないのだろうか。素手で戦う気であろうか。
「はあ」
と言いながら戦闘態勢をした秋芽を横目に、宇都は掃除を始めた。
秋芽は手伝ってくれなかった。意外と冷淡な一面もあるようだ。
「ところで、忠君。前の粛正した5人て、その後どうなったのか分かる?」
掃除をしている宇都は、雑誌を読みふけっている萌に聞かれた。
宇都は掃除手伝えコノヤロウと思いながら答える。
「みんな、もう超能力を使った犯罪を犯さないという事を俺と約束して、元の学生生活に戻ったみたいだ。ただ、これまでに起こっている犯罪に関しては、まだ警察も調査の為に動いている。が、証拠は見つかるはずもないし、調査は打ち切られるだろうな。だって、犯行が超能力によるものだからな」
「そう、みんな、変わっていくのかな」
急に真面目な発言をしたことにより宇都の動きが止まる。
秋芽はそんな宇都に気が付くこともなく雑誌のページをぺらぺらとめくっていた。
部屋には彼女のページをめくる音しか聞こえていない。
冬休みに突入してからは、宇都と秋芽はこのような日々を過ごしていた。
宇都の家へ秋芽が突入し、ごろごろするなど何かしらをする日々を。
勿論、悪事を正すという粛正ごっこは続いている。本来ならばそれが二人の集まる目的であったのだが。
「忠君」
雑誌のページを閉じ、秋芽は立ち上がった。
「何?」
掃除を終え、後片付けをしている宇都はその手を止めることなく秋芽に返答する。
「一緒にお出かけ、しよっか!」
一瞬時が止まった気がした。
聞き間違いだろうか、と宇都は手を止めて考える。
「え?」
素っ頓狂な声を出して彼女にもう一度問う。
「だ、か、ら! お出かけしようよって言ってるの!」
それってもしかして......。
宇都は1人考え込む。
「ハイけってーい。じゃあ10分後出発ね。場所は近くの駅。買い物をしましょー」
「勝手に決めるのかよ! 俺の意見は!?」
宇都は秋芽と一緒に行動するようになってからツッコミというスキルを身につけたようだ。
少しずつ、キレが良くなっている気がする。
場所は変わり、駅近くのデパート。
名は「ヘヴン・ヘルタウン」。
何なの、この町は。変な名前の施設ばかり。
と宇都は独りよがりなため息をつく。
ヘヴン・ヘルタウンは、階層が25階まであり、何でもそろっている。それが売りだ。
こんなにも高いビルなのに、これでも栄えていないデパートの方なのだそうだ。
日本で一番広いデパートは、なんと45階まであるそうだ。もはや大企業本部の会社と変わりないのではないかという疑問さえそこから生まれてくる。
「どうしたの?」
「いや、なんでもないよ」
久々に外へ出て休日を満喫する時だった。
早々と準備を済ませ秋芽と共に家を出る。
ヘヴン・ヘルタウンへの道のりは、決して遠くはない。
最寄りの駅、変哲駅から電車で15分。降車駅、古池駅から徒歩3分といった所にある。
何の問題もなく目的地に着いた二人。
秋芽と宇都は二人並んで、ヘヴン・ヘルタウンとでかでかと書かれたビルの中に入っていく。
ヘヴン・ヘルタウンでの買い物が、ここからスタートする。
まず、洋服が欲しいといった秋芽と一緒に「ファンタジー」というお店へ行く。階層は3階。
セレクトショップらしく、中は個性的なものからオーソドックスな物まで洋服で埋め尽くされていた。
秋芽は、ファッションに拘っている。
宇都の記憶によると、彼女はまず同じ服を2度着てこない。
着てこないというよりも、同じ服を見られるのが嫌なのだろうか。
それについて彼女に問いただしてみると、聞かなくていいこともあるんだよ、忠君(満面の意図的な笑顔)と一蹴されてしまった。
彼女はファンタジーの中で目をきらきら輝かせながら物色を続ける。
「みてみて! 忠君。これ似合う??」
「いいと思うぞ」
こんなやり取りを30分も続けられた。宇都はため息を気が付かれないようこっそりとついた。
それにしても。
冬期休暇や冬休みに入ったためか、この日は家族連れ、学生、その他もろもろによってヘヴン・ヘルタウンは混雑していた。
ちょっとした狭い道を通るのにも「ごめんなさーい」「失礼」のオンパレードである。
混雑に慣れているのか、秋芽は混雑などまったく気にしない様子で、するすると人ごみをかき分けながらまっすぐ進むことができるスキルがあるようだ。
もう、スキルMAXと言っていいほど慣れている。
ゲームで言うチート級である。
「ちょっと、忠君! 何か欲しいものは無いの?」
宇都は遠くから秋芽の会計の様子を見守っていた。
ちょっと考え事をしている時に、急に話しかけられたのだ。
秋芽の手には、洋服が入ったバックを沢山抱えている。まだ買い物は始まったばかりなのに。
ていうか、顔が少し近い。
「うわ! ちょっとびっくりしたぞ!!」
宇都は突発的に現実に戻されたので、驚いて後ろにのけぞる。
のけぞった瞬間、どこかの外国人風の学生に激突した。わき腹にクリーンヒットをお見舞いしたようだ。
「ぐあああ!!! い、痛いデスッ!!」
不意を突かれたのかその男は、その場にしゃがみ込んで悶える。
外国人風の男性。国籍はカナダかと考えられる。留学生だろうか。
身長は宇都と同じくらいであったが、その様子は人からの視線を集めやすかった。
「す、すみませんでした!! 大丈夫でしょうか!!」
と平謝りを繰り返す宇都。カナダ人風の男性は、気にしたら負けデース。日本人、みんなイイヒト。
とおぼつかない日本語を使って、気にするなというサインだけ残して1人立ち去っていく。
宇都の周りはその様子を少しばかり観察する人がいたが、何事もなく終わってしまったのでその場に居合わせた人は視線を別の方向へと変えていく。
秋芽はその留学生と思われる人とのやり取りを間近で見て1人にやける。
(ふふふー、超能力開発カリキュラムを受け、主席で卒業した彼が一般人に平謝りしてるぞー)
彼女はそんなことを考えると、にやけるのを止めることができなかった。
「萌ーーっ!!」
頭を上げた宇都は秋芽に詰め寄る。
「きゃっ! な、何よ。急にびっくりしてのけぞるのが悪いんじゃない!」
宇都は怒っても仕方ないことに気が付き、ううと悲しみの声をもらしながら詰め寄るのを止めてしまった。
彼の正義感のメンツが丸潰れだ。
「......次、どこ行く?」
涙目になりそうになりながら宇都は秋芽へ問う。
「え、ええっと、本屋がいいかな」
宇都の様子に少々戸惑いながらも、秋芽は取り繕った笑顔で答えた。
そんなこんなであるが、二人共本心ではこの買い物を楽しんでいるようであった。
何気ない日常を書いてみました。
ぼちぼち更新していきます。
もう少しうまく見てて楽しくなるような文が書けるようになりたい......! 2015/01/10