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セイギノチカラ  作者: 混沌
行間
10/28

行間 その1

 時間は遡る。


 先日、公園にて超能力者同士の決闘があった。


 お互いの戦いのレベルは決して低くは無かったが、被害の規模は最小限に抑えられたようだ。


 といっても、噴水の水は捻じ曲げられ、地面には亀裂が入っており、あまりにも不可解な状況であったため公園は次の日にはもう関係者以外立ち入り禁止区域となったそうである。


 宇都と逢沢が本気でぶつかり合った公園。

 当時時刻は深夜であり、人通りも無かった。


 と彼らは思いこんでいた。


 実は、公園の木々に隠れ、事の経緯を最後まで見守っていた一人の少女がいた。


 名は、秋芽萌(あきがもえ)。身長は百五十センチほどであり、ポニーテールがとても印象的な可愛らしい少女である。


 学校の中にいたら、必ず「ヒロイン、あこがれの的」というような風貌をしていた。


 彼女の年齢は宇都や逢沢と同じで二十一歳。

 学生である。


「うわあ、さっすが!! いい能力してるねー」


 目をきらきら輝かせながら公園の木々に身を潜め、ビー玉を悉く避けたり地面に穴をあけている宇都の姿を見て感嘆の声をもらしていた。


 超能力者を目の前にして、この反応。普通ならば異常である。


 目の前に非科学的な、非現実的な事が起きていたら、このようなレスポンスは通常ならば皆無であると断定してよい。


 しかし当然ながら、それには理由がある。


 そう。


 彼女もまた、超能力者なのだ。

 超能力開発カリキュラムを受けた、三十五人の中の一人。


 ちなみに超能力者になった三十五人を総じて、「TFM(サーティファイブメンバーズ)」という名称があるらしい。


 秋芽は、逢沢と決着をつけた宇都が、公園から出ていくのを目撃すると、彼の後を追った。


 目的は。とあることを伝えるためであった。


「待っててね! 忠君。私も力になるから」


 にやっと笑いそう呟くと、宇都の追跡を始めた。


 家を突き止めた彼女は、満足そうな顔をする。よし、これで大丈夫だ、と。


 事の達成を終えた彼女は、テレポートで自宅へと戻っていった。




 翌日。

 宇都はシャワーを浴びた後テレビを何気なくつけたら逢沢が逮捕された事を知る。


 その直後家を飛び出し全速力で留置所まで足を運んだが、面会禁止の状態であった。


 マスコミがごった返しになり、留置所の前はまるで有名なマスコットキャラクターと一緒に写真を撮ろうと思っている人が作る行列のように混雑していたのだ。


 宇都は困惑する。


 超能力を使って警察もマスコミも蹴散らしてもよいのだが、それだと幾分宇都にとっても国家にとっても都合が悪くなるのでそのような目立った行為は慎みたかった。


 宇都は諦めて、自宅へと引き返す。


 ちなみに、この日の大学はさぼった。

 宇都は、悪いやつなのか正義のやつなのか分からないものだ。


 彼は自宅で一人、考え事に耽る。


 念力(サイコキネシス)を使いコップを動かし、その中にインスタントコーヒーの元を入れ、お湯を注いだ。


 できたコーヒーをすすりながら逢沢の結末について考えていた。

 ちなみにここまで、宇都は一切手を動かしていない。

 すべて念力によるものだ。


「はあ」


 ため息をもらすと、彼はベットに横になった。時刻は4時に差し掛かっていたが、寝る時間など特に気にしなくてもよいであろう。


 そのまま彼は、眠りの世界へと引き込まれていく。


 はずだった。


 横になった瞬間ピンポーンとインターフォンが鳴り、それは宇都の睡眠タイムを一瞬にして剥奪した。


 めったにない来客。誰であろう?


 宇都は眠りの世界に入ろうとした瞬間を邪魔されたので、少々機嫌が悪くなる。


「はい?」


 やるせない、ぶっきらぼうな声を通信機器の前で彼は出した。


「あっ、宇都さんのご自宅でよろしいですかー?」


 誰だろう。女の子である。彼はその声にはどこか懐かしいものを感じていた。


「そうですが、どちら様ですか?」


「忠君、覚えてる? 高校時代の、秋芽萌です!」


「えっ! ちょ、今開けます!」


 こんな変哲荘なんぞ訳の分からない場所に住んでいる俺の自宅に、なぜ秋芽が? と彼は考え、戸惑う。


 ドアへと急いで駆ける宇都。


 ドアを開放すると。

 そこには懐かしいクラスメイトの姿があった。


 彼の機嫌は、もう戻っていた。


 秋芽萌。服装は下はジーンズ、上は毛皮のコートであった。今の時期は冬に差し掛かっているので、少々気温が低めである。中に沢山着込んでいるのだろう、コートの手首から着ているであろうセーターの柄が彼女の手から見えた。


「あ、秋芽。なぜここに......?」


「うーん、話すと長くなっちゃうんだけど」


「じゃあ、入ってくれ。あまり御もてなしできないけれど」


「本当? じゃあ遠慮なく!」


 えい、と言いながら彼女は宇都の部屋へと足を踏み入れる。


 宇都の部屋に友人が来ることはしょっちゅうであったが、女の子が来てくれたのは初めてであった。


 それに、今考えると、高校の友人を家へ入れたのも、これが初めてである。


 宇都は少し恥ずかしくなり、赤面の表情を見せそうになったが、何とか我慢した。


 彼女は、高校時代は学校のスターだった。今でいう、アイドルのような存在だった。


 彼女の周りには沢山の男子生徒、女子生徒が集まり、憧れの的のような人間であった。


 その彼女が、今なぜここへ来たのだろうか、不思議なものである。


 宇都は、彼女に何か飲みたいものはと聞くと暖かいものをと言ったのでインスタントコーヒーを差し出す。ここで味噌汁を出して反応を困らせてやることもできたのだが、彼の正義がそれを邪魔した。



 小さい手でコーヒーを一杯飲むと、彼女は口を開いた。


「久しぶりだね、忠君」


 ニコッと笑った彼女の笑顔は、まるで天使を象徴していた。

 それを向けられた者は、全員彼女に恋に落ちる事を表している。


 宇都は赤面するが、すぐ正気に戻り彼女に返事をした。


「そうだな、秋芽萌さん。卒業以来じゃないか」


「堅苦しいな! 萌でいいよ」


 彼女は笑って、コーヒーをもう一杯すする。


「そ、そうか。ところで萌、今日は急にどうしたんだ?」


 宇都は単刀直入に質問を投げかけた。本日逢沢の件と同じ位気になる疑問点だった。


「そうそう、それだね。実は、前宇都君が公園で逢沢君とバトルをするの見ちゃったの。たまたま帰宅しようとしてあの道を歩いていたら、2人の声が聞こえてさ。どうしたのかなって」


「あれ、もしかして何か迷惑かけた?」


「ううん、全然。むしろびっくりしちゃった。宇都君の強さに」


 彼女は本心を言ったようだ。その目に嘘はついていないように宇都は感じていた。


「そうか、迷惑でなければいいんだ。後、俺は強くないよ」


「そうかな? 君は主席でカリキュラムを修了させたすごい人なんだよ?」


「でもそれは、あくまでもある条件を除いてだろう?」


「まあ確かにそうだけども、基礎力に関しては周りの人より群を抜いて強いじゃない!」


「ううむ、そうかもしれないが」


 宇都は念力で彼女のテーブルにとあるお菓子を置く。


 名前はバーベルチョコレート。重さ3㎏の癖にカロリーは抑えめ、体積すっからかんという変な商品を彼女の前に差し出した。


 彼女は初めて目にするチョコレートで驚き飛び上ったが、カロリー抑えめ体積少ないという事実を聞いた瞬間、少しずつ食べ始める。まるでリスのように、少しずつ噛り付いていた。


「美味しいね、これ」


「俺もよく食べる。よかったら持って帰る?」


「いらない!」


 即答された宇都は、笑って会話を続ける。


「でも、君だってすごいじゃないか。君と本気を出して戦えば、俺は君にかなわないよ」


「買いかぶりすぎだよ忠君」


「いや、本当に。ところで、本題は?」


「ああ、そうだったね! 忠君ってさ、今のTFMの状況どう思う?」


「どうって、犯罪に手を染めたり金儲けをしたりする輩が存在する状況の事か?」


「そう。忠君、前優君を止めたでしょ? 彼は捕まっちゃったらしいけど、その前に借金の件、解決させていたらしいの。超能力の力無しに。宇都君が優君を助けたんでしょう?」


 助けた、というと語弊がある気がする。


 宇都は逢沢を力でねじ伏せ、あがいてみろという精神論をぶつけそのまま帰宅してしまったので、正直助けたとは言い難いであろう。改心させた、というのはうまくいったと結論してよいかもしれないが。


 宇都が止めなければ、逢沢はあの後も物体移動を悪用し延々と犯罪を繰り返していただろう。


「......逢沢も含め、今の状況は好ましくないと俺は思うんだ。だから俺は、TFMを止める。特に、犯罪を犯しているやつは、改心させてやりたいと思ってるんだ」


「だから優君を止めたのね、なるほどなるほど! さすが、忠君らしいや」


 彼女はまた笑顔を見せた。と思うとバーベルチョコレートに噛り付いたりコーヒーをすすったりしている。空腹だったのであろうか。


「萌は?」


「私もそう思うんだ。こんな事、間違ってる。人類を超越した力を私たちは持っているけれども、それは人の上に立つために使う物じゃないと思うんだ。だから私も忠君と同じ気持ち」


「そうか」


 宇都は安堵していた。

 超能力者の中にも、こういう人間がいることに。


 秋芽はバーベルチョコレートを口の中に含みながら続ける。


「だからね、お願いがあるんだ。忠君、私とパートナーにならない?」


「え、君と組む?」


「うん。私も超能力者の人たちを止めたいと思っているんだけど、1人じゃ限界があるし、どうしようもできないじゃない? だから手を組んだ方が動きやすいし、超能力者たちに歯止めをかけやすいじゃない!」


 彼女は急に立ち上がって宇都の目を見る。


 宇都は少々驚いた。


 外は無邪気に遊ぶ小さい子どもたちの声が通っただけであり、静かな夕方5時を迎えていた。


 宇都は少々考え込んで、こう返答する。


「君を危ないことに巻き込むかもしれないけど」


「構わないよ?」


「本当に? 下手したら死ぬかもしれないんだよ? お遊びではないし」


「分かってる」


 彼女は覚悟の眼差しを宇都に向けていた。

 宇都は一呼吸おいて、告げた。


「分かった。よろしく頼む、萌」


「こちらこそよろしくね、忠君!」


 この出会いが、彼の実力、人生を大きく変えていくことは、誰が予想できたであろうか。

 行間 その1 完

次から新章へ入ります。

楽しくゆっくり、焦らず執筆します。

見守って下さると超嬉しいです! 2015/01/10


更新 2015/02/23

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