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拠点1 華琳√ (前編)

書き終わったと思いたい。てか前編と後編に分かれるなんて思ってなかった。

書きたいことが多すぎる。

このまま後編じゃなくて中編とかにならないことを祈るばかりである。

拠点1 華琳√(前編) 『彼の優しさ、私の未熟さ』




 はぁ……

 私は自分の事務用の椅子に深く座りながら、机の上に乗っかっている紙の束を一瞥してまた大きくため息を着く。

 その紙の束は全部豪族からの縁談に関するものだ。

 この紙が貴重な世界でこんな事に無駄遣いできるのは豪族だからこそだ。

 私はまだ立場的には上の下くらいの位置であり、まだ断れる立場でもない。

 豪族からは優良株と思われているが故にこんなにも大量の申し込みが絶えない。

 

「忙しい私が何故このような事に休みを取らなければいけないのかしら、まったく」


 また頭が鉄で直接叩かれるような痛みがして、その日は最悪な一日だったわ。

 仕事のキリがいい所までやってから、二日の休日を取る。

 その二日ですべて消費させようといつもは使わない別館の使用を侍女に伝える。

 今日はもう全てやることを終えたので暇でしょうがない。

 まだ太陽が真上に来ていない状態でもあり、久々に城内を春蘭も誘って出ようかと別館から戻る途中、城壁の上で黒い紐を風になびかせながら立っている人が見えた。

 それを見て思いつく人物は一人しかいない。

 無風 雛、賊の討伐で拾ってきた謎の多い人物、この前の賊討伐では一人で五百人を相手していた。

 季衣と流流が半分以上片付けていたが、3人の個別の総数では二人よりかなり多い人数を倒していた。

 しかもその殆どが気絶させられただけで彼が殺したのは、彼曰く、元武人だったり兵士だけで、農民から賊になった奴らは殺していないとのことだ。

 彼の殺した全員の身元を調べたが、今わかっているのだけでもたしかに兵士からの成り下がった者たちばかりだった。

 雰囲気だけでそれを判断し気絶させる相手と殺す相手を区別した。

 言葉にするのは簡単だ。言葉だけだったら一人で100万の敵を殺すことだって可能だろう。

 しかし、戦場で誰も彼もが本気で自分を殺そうと向かってきてるのに、敵が誰だかを認識して、コイツは生かすアイツは殺すなんてやってられないし不可能に近い。

 それができるのは最低でも相手よりも桁違いな実力を持ち合わせていなければ実現しない。

 凄い拾い物をしたと喜ぶ反面、不安も出てくる。

 こんな奴を本当に(ぎょ)しきれるのか、私には無理なんじゃないかと。

 覇道を進むと誓った私らしくないと頭を振り、必ず従えて見せると自分にそう言い聞かせながら彼のいる城壁の上に向かって階段を登る。

 上に着くと彼は、いつものようにあいますく?という物で目隠しをしていて、見えてるはずのない城下町の方を見ている。

 

「こんなところで何をしているのかしら?」


 彼ならば私が来たことにすぐ分かるだろうから、黙っていてもしょうがないので声をかける。

 彼は少しの沈黙のあとに返事を返してきた。


「…………魏の覇王殿が………こんなとこに何用で?」

「あら?私がここに来ちゃいけない理由でもあるの?それにまだここは魏ではないわ、他にも候補はあるし、あなたも軽はずみに魏とか言わないで頂戴。前も同じようなこと言ってたし」


 彼は目隠しした目をこちらに一度向けて、また城下町の方を向く。

 私は彼の横に立って同じように城下町を見る。

 私たちがいるのは城壁の角際なので城門の前の大通りからは少し離れている。


「…………境界線」


 彼がポツリと呟いた境界線とい言葉が何を意味するのか分からなかった。

 境界線って何がと尋ねると彼は答えた。


「…………今立っている位置が街の改善を行っている部分と行われて無い部分だ。」


 それを聞いてもう一度街を見下ろす。

 言われてみれば確かに、ちょっと凸凹しているがほぼ真っ直ぐ別れる形で政策の行き届いている部分と行き届いていない部分が分かれている。

 陳留の街はここ最近さらに大きくなったのに対し、行われている彼の改正案が行き届いている部分が城壁の角まで、まだこれっぽっちしか出来ていなかったのかという

驚愕と耐え切れないほどの屈辱で歯ぎしりするほど強く噛む。

 最近は報告書ばかりで対応し、街に視察に出ても街の中にいるから気づかない。

 こうやって高いところから見て初めて今の街の現状を把握出来た。

 しかも建設が私の想定した速さよりかなり遅い。

 これは文官が自分の私腹を肥やしたいばかりに怠けている証拠でもある。

 彼は気づいていたのであろう。しかしそれを私に言わなかったのは優しさと厳しさ。

 自分で気づける状態にありながら、人に言われて初めて気がつき、行っていては成長しない。

 当たり前の事過ぎて忘れていたことを一生忘れないようにあえて言わない厳しさ。

 だが、そのことに気づけるように道筋を照らしてくれる優しさ。

 どちらも私の事を思っているからこその彼の行動に胸が暖かくなる。

 そうしているときゅ~と可愛らしい音が鳴った。お腹が減った音なのは直ぐにわかったが、私ではない。

 彼の方をみると頬を赤くしていた。

 雰囲気が台無しになったが悪い気分では無かった。


「ふふ、今日は私が料理してあげましょうか?」


 そう言うと彼は頭をフルフルと振って階段を降りる。

 ムッとして彼の背中に指をグリグリと当てながら彼についていく。

 向かった先は厨房であった。


「あら?どうせここに来るんじゃない。流琉にでも頼むの?それともあなたが作るの?」

「…………典韋に作ってもらうのは…………間違いない」


 彼のよく分からない言い回しに疑問が浮かぶが厨房に入ると……


「あ、兄様!ちょうどいい所で来ましたね。これから行くところ……あれ?華琳様?」


 彼の後ろから横に移動して流琉………が文字通り山のような野菜と肉を持っていた。

 

「流琉、この大量の食べ物どうするの?季衣にでも作るの?」

「あ、いいえ。これ全部私と兄様と仮設天幕の民用の食材です」


 それを聞いて驚いた。言われれば最近彼が昼食にしている姿を見たことがない。

 

「…………すまない、孟徳。そういうわけだ」


 そう言って彼は流流と一緒に厨房を出ようとするので私も彼の後ろについていくことにした。

 彼の足取りが止まり、振り向かずに問いかけてきた。


「…………何故ついてくる?」

「あら、私が一緒に行っちゃいけない理由でもあるの?」

「…………孟徳が食べるような豪勢なものじゃないぞ?」

「失礼ね、私だって毎日豪勢な物を食べてるわけじゃないわ」

「…………ふん、どうかな」


 そういうと半分後ろを向いてニヤリと笑う。

 目隠ししてるので目はこっちを見ていないが…

 そうして街の隣に作で囲ったとこにただ天幕を張っただけの、戦場の夜営地で張るものと似たようなものがたくさん並んだ仮設天幕に着いた。

 そしてもう手馴れたように彼と流流が野外厨房に向かい、昼食の準備をする。

 料理はいたって簡単、どこで手に入れたのか、大人が5人くらい入れる鍋に大量の肉を入れ、肉に火が通って来たら、次に火が通るのが遅い野菜から順に入れていき、

最後に大量の水と、これまた大量の茶色い物体と黒い液体を流し込む。


「ちょっ!?大丈夫なの!?その茶色い物体、それにさっき入れた黒い液体も体に悪そうだったわよ!?」

「…………大丈夫だ。心配ない」

「心配ないって貴方ねぇ、民が作ってくれた野菜と肉を粗末に……あら?」


 見た目は茶色くてえげつない物になっていたが、そこから香る食欲をそそられる匂いに気がついた。

 そして、その匂いに惹きつけられるかのように民が集まってくる。


「あぁ、無風将軍。毎日ありがとうごぜぇますだ。こんな儂らのためにここまでしてくださるなんてあんただけだよ。」


 そこに、大勢の流民の民たちがいた、家を一旦取り壊して立て直すために一時避難している民も確かにいるが、それよりも何倍も多くいた。

 それらの人々は兵として出ることが出来ない年端もいかない子供たちと力を持たない女性、そして年配の方たちがほとんどだった。

 若い男の人もいたが、家族から離れられない2男3男と体のどこかしらに障害を持つものが殆どだった。

 流民は家もなければ働く土地もない。どこかで働くとしても数に限りがある。

 そして働けず、街にいるにも関わらず満足に飯も食べれないという訳だろう。

 先ほどの屈辱が蘇る。

 自分がしっかりしてなかったから、ここに居る民に辛い思いをさせてしまった。

 辛い思いは覇道を進む私が全部背負って礎となり、次代の子らにはそんな思いをさせないように誓ったはずなのに……


「…………何を辛気臭い顔をしている。」


 そう言って出来上がった汁物と、いつの間に炊いたのか、ご飯の入った粗末な茶碗を一番に渡される。


「ごめんなさい、頂くわ」


 そう言って受け取り、彼が順番に民に配る。

 普段笑わない彼が明らかに作り物の笑顔で子供に渡して行く。

 そして子供、女性、おじいさん、男の人の順に渡していき、最後に流流と彼が飯を持って全員にご飯が渡ったのを確認してから一言。


「…………いただきます」


「「「「「「「「「「いただきます」」」」」」」」」」


 全員が一斉に合唱してから食べ始めるのを見て呆気に取られてしまった。

 そして不思議な気持ちになった。主要な者たちと一緒に食べることは多々あったが、ここまで多くの人たちと一緒に食事をしたことは未だかつてあっただろうか。

 そんな民たちと無風、流流が一緒に食べている光景を見つめてた。

 その視線に気がついたのか彼が食べる手を止めて


「…………どうした、食べないのか?箸は孟徳が嫌がると思って新しいのにしておいたが。まさか見た目で食べれないなんて事はないだろうな」


 無風がいつもより長い言葉を口にすると変なむず痒さを覚える。


「いえ、ちょっと考え事をしていただけよ。それに箸使い回しなのね。」

「…………孟徳は持って帰っていいからな」


 私に気を使っているのだろう。確かに私が使った箸を次に誰かが口にすると考えただけでゾッとする。


「ええ、そうするわ」


 そういって茶色い汁物を手に持つ、彼がその時これは豚汁というものだと教えてくれた。

 豚の汁って…あなた、もっといい言い方出来ないのかしら…

 食べもしないで食べ物に評価をするのは作ってくれた人たちへの冒涜だと思い。

 恐る恐る豚汁なる物を口にする。


「………あら、美味しい?」


 実に深みのある味で、どこか心を落ち着かせてくれる。


「さすが華琳様ですね。私なんかこの豚汁を食べるのにもう少し時間かかりましたよー」


 流琉が笑って彼をみる。


「…………俺が普通に食べてるのに、食べれない訳がないだろ」

「ねぇ、それはなんていうの?」


 彼が拗ねたようにご飯に先ほどの茶色い物体をつけて食べている。

 とても美味しそうに食べるのでそのままでも美味しいのだろうか。


「…………あぁ、これは味噌っていう俺の居た所では古来から食べられている。そしてさっきの黒い液体はこの味噌から出る水分だ」

「へぇ、ねぇ、私にも少し食べさせなさいよ」


 彼は無言で味噌をこちらに寄越す。

 それを行儀は悪いが彼を真似てご飯にのせて口にする。


「…っ!すごい味ね。悪くはないけど強烈だわ」

「…………これの良さがわかったら一人前だな」


 彼がニヤリと笑いながら味噌をたっぷりつけてご飯を掻き込む。

 子供扱いされたのは癪だが、彼から見たら私はまだ子供なのだろうか。

 ふと私に兄がいたら、無風のような人だったのだろうかと思った。

 私には兄がいたらしいが早世したため、兄の記憶は一切なかった。

 そうこうしてる間に食べ終わり、無風のやり方なのか、使った茶碗は自分で洗うとのことらしく、食べ終わったあとも流し場で大騒ぎ。

 落ち着く暇もなかった。

 そして彼と流琉はあまりのんびりしていられない。

 これから練兵や事務処理が彼らには残っている。


「…………でわな、また夜に来る。」

「毎日申し訳ございません。将軍にこのように施して貰っておきながら、儂らは何にも返すことができませぬ。」

「…………聞き飽きた。それはこれから家を建て次第働いて返していけばいい。」

「ですが………」


 納得がいかないおじいさんに彼はため息を吐いて、いつもと違う雰囲気を体にまとう。


「くどいぞ爺よ、申し訳なく思うのならばこれから返せばいいし、いつも持ってくる食材を作っているのは街の農民、ここに持ってきてるのは典韋だし、何より城の食べ物を分け与える事を

許しているのはこの曹孟徳殿だ。感謝するなら孟徳殿にその恩を返せ」


 無風が普通に喋っている!?明日は嵐でもくるのか!?と正直驚いた。

 そして民たちが一斉に私を見て感謝の言葉を次々と口にする。

 その中から一人の幼子が危ない足取りでトテトテと近寄ってきて、スカートをギュッと掴み、私の顔を見上げて汚れを知らない純真無垢な笑顔で


「もうとくしゃま、いぅもありがとー」


 舌足らずだが、しっかりとお礼の言葉を口にする幼子と目線を合わせるためにしゃがみこみ、彼女と同じ目線で微笑みながら。


「いいえ、私の方こそありがとうね」


 何故自分がお礼言われているのか分からないのか困った顔の幼子を抱いて顔をウリウリするとキャッキャと嬉しそうにしている。


「孟徳様、皆の代表として改めてお礼を申させてください。貴方様のおかげで儂らは毎日飯にありつける。この恩、儂らは一生を賭けて返させてください」


 おじいさんは平伏しながらお礼の言葉を言う。

 そして仮設地から見送られて城に戻る。


「…………ところで、孟徳は何故あっちから来た?…………あちらは別館があった………はずだが」


 やっぱり分かっていたかと思い、隠す必要も無いので肩を竦めて答える。


「豪族共からの縁談があってね、立場上断れないし無視も出来ないから、明日と明後日を使って全部処理するために別館を使うことにしたの」

「…………ほぅ」

「あら、妬いてくれないの?つれないわね」


 いつもどおりの反応すぎて逆に不安になった。

 彼から見て私ってそんなに魅力無いのかしら……


「…………まぁ、頑張れ。面倒だろうがな」

「そう思うのなら手伝いなさいよ。まったく」


 そういえば流琉の反応が無いと思って後ろを見ると、顔を真っ赤にしてアウアウ言っている。

 縁談という言葉を聞いて茹で上がってしまったのだろうか、可愛いわね。


「…………やめとけ」

「あら、何のことかしら」

「どうせ、典韋の現状を見て可愛くて食べちゃいたいとか思ったんだろ、まったく」


 深い溜息を吐いて彼は自分の兵の練兵に向かう。

 仕方ないので私も事務室に戻って早速改正案について取り掛かる事にしよう。

 桂花も居てくれるとありがたいが、彼女は彼女でやることが残っているだろう。



 日はまだ傾き始めたばかりである。



はい、ということでまだまだ成長途中な華琳を描いてみました。

彼女だって人間だもの。

成長しない人間はいない、いたとしたらそれは人間であることをやめたクズであるという言葉をどこかで聞いた事があるんですが、どこで聞いたか忘れちゃいました。

まぁ、記憶なんてそんなものだと割り切るしかない。

てことで次回もこんな私によろしくしてやってください。

でわでわ~

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