想い想われ
華琳「こっちに出るのは初めてね」
無風「…………そだっけ」
華琳「えぇ、合ってもほとんど覚えてないわ。だからこれが初めてよ」
北郷「なんという理論。理論……なのか?」
無風「…………皆……なんでこっちにいる?」
華琳「up主に追い出されたのよ、後書き」
北郷「嫌な予感がする」
華琳「奇遇ね。私もそんな予感がしているわ」
無風「…………俺も」
華琳&北郷&無風「…………」
「嫌じゃ嫌じゃ!妾は眠たいのじゃ!」
「しかし、これからが警戒を高めなければいけない時です。我慢してください」
「いーやーなーのーじゃー」
先程からこの繰り返し。
既に時は夜を迎えようとしており、薄暮を迎えている。※1
程昱と郭嘉の二人とも話したが、相手が出てくるとすれば夜か夜明けのどちらかだ。
劉備たちが攻めて来ず、両者の睨み合いが続いてる事からそう判断して出した結論を袁術に伝えようと出向いたはいいが、ここに出向いて袁術を見た瞬間もう頭が船を漕いでいた。
それらの報告を含めて郭嘉が袁術を起こそうとしてはいるのだが、袁術自身も相当眠そうで駄々を捏ねているというのが現状。
郭嘉の方も結構頭に来ているのか口調や態度の端々にトゲが見える。
そして何故か、その様子に張勲は「あぁ、駄々を捏ねる美羽様可愛いですぅ」と悦に入っていた。
程昱は俺の横で立ったまま寝ているが、それが本当に眠いのか現実逃避の為に寝ているのかは判断しかねる。
「…………郭嘉、もういい。明け方の線も捨てきれてない。今は寝かせておけ」
「しかし!大将がそんな様子では!」
「…………どうせ戦になれば無理にでも起こされる。そうだろ、張勲」
「そうですねぇ。あ!でもぉ、戦になっても剛毅に寝ている美羽様も見てみたいですねー」
「…………袁術は生き残れそうに無いな」
「もしそうなったとしても、美羽様だけは助けます」
今にも寝そうな袁術を視てそう呟くと、張勲は強い意思の篭った目でこちらを見てくる。
先程のほんわかした雰囲気を全く感じさせないくらい強い氣を放つ。
「…………そうか」
張勲にも色々な思いがあるのだろう。
ただ一言だけ返し、天幕の出口に向かう。
「あ、ちょっ!待ってください」
「……遂に一度もツッコまれませんでしたねー。おにーさんは意地悪さんです」
ツッコミ待ちだったのか、あれ……
天幕の入口から出て少し歩いた所で氣の範囲内に知った人物が近くにいる事を察知した。
しかし、"そいつ"が一人でいる事に疑問を持って
「…………程昱、郭嘉。先に戻ってろ。野暮用が出来た」
「はいー、それでは先に戻ってますねー」
「……分かりました」
郭嘉の方は納得がいってないみたいだったが特に何もなく帰ってゆく。
程昱は素直過ぎて逆に怪しいが。
二人の氣が離れてゆくのを確認して、その人物のいる幕舎に向かう。
そこまで離れていないので、直ぐに幕舎の入口前につく。
「…………入るぞ」
中の人物からの返しを聞く前に幕舎の布を開けて中に入る。
「…何しに来やがりましたか」
「…………こんな所にいるお前の方が何をしている"陳宮"」
中には陳宮が何をするでもなく椅子に座っていた。
「…お前を待っていたのです。お前なら……ねねが居る事に気づくでしょうから」
「…………行き当たりばったりだな」
「言ってろです。………お前、恋殿に何をしやがりましたか」
質問の意図が良く分からない。
呂布に何をしたかと言うが実際やり取りをしていたのは陳宮の方で呂布とまともに話をしたのはここに来て最初の時と日が沈む前の2回だけだ。
「…………何もしてないが」
「嘘です。お前と話をしてからの恋殿は様子がおかしくなっているです」
「…………おかしい……か」
「そうなのです。何か悩んでいる様でしたが、ねねが聞いても「何でもない」と言うだけで話してくれないのです」
「…………それで……俺が怪しい………と」
「そうです!絶対お前が何かしたに違いないのです!一体恋殿に何をしたですか、この悪魔!」
「…………一応言っておくが、俺は何もしていない。呂布が勝手に悩んでるだけだ」
「嘘つくなです!絶対絶対ぜ~~~~~~~ったい、お前が何かしたのです!!!」
陳宮が椅子から降りてこちらに近寄り、殴る蹴るを繰り返して攻撃してくる。
だが、元々が小柄な上に興奮により感情が高ぶってしまっている為、攻撃に威力が乗ってない。
「お前のせいです!お前が何かしたから恋殿がおかしくなったんです!ねねの大好きな恋殿を返すです!」
感情の赴くままに殴ってきてた陳宮だったが、ある程度感情を吐露した事で冷静さも出てきたのか殴るから叩くにランクダウンしてきた。
ほぼ抱きつく形でポカポカと叩く陳宮の頭を撫でる。
帽子はいつの間にか脱げて床に落ちていた為、直に頭を撫でながらゆっくりと言葉をかけてゆく。
「…………呂布がお前に何も言わないんじゃない。それはきっと呂布自身が考えなきゃいけない問題なだけだ」
「うっ……ぐすっ………お前がぁ……悪いんでず。うっく……」
「…………答えが出れば、教えてくれる。それまで待ってやれ。お前は呂布の軍師だろ」
「誰がお前なんかに……慰められなんかぁ」
しばらくそうやって頭を撫でていると、落ち着きいたのか体を預けるようにして眠ってしまった。
陳宮はまだまだ精神的に幼いのが難点だが、それを補う智謀と好機を逃さない観察力を持っている。
そうでなければ連合の時、あのタイミングで呂布の元に来てなかっただろうし、火矢も効率よく天幕につけるなどとは思いつくまい。
呂布もそうだがコイツが劉備の元、臥龍鳳雛の智謀を吸収したら間違いなくこの国でも有数の智者になる事だろう。
育て方さえ間違えなければ、の話だがな。
そしてそろそろ陳宮を抱えてるのも辛くなって来た事だし、そこにいる"奴"とバトンタッチするか。
「…………居るのだろ?"呂布"」
「………うん」
「…………あまり………部下に心配させるな。こっちが迷惑だ」
「………ごめん」
陳宮が居ない事に心配したのだろう。
袁術の陣が近いというのにここまで探しに来たのは明白だ。
まぁ、見つかったからと何かある訳では無いが、極力避けたいのも何となく理解できる。
陳宮をゆっくりと呂布の腕に移し、呂布が幕舎から去る直前に落ちてた帽子の事を思い出し呼び止める。
「…………まて、呂布。帽子を忘れてる」
「………あ」
そういってパンダ(?)の刺繍がされている帽子を投げ渡しながら
「…………いい仲間を持ったな………大切にしろ」
そのまま呂布の横を通り過ぎて幕舎を出る。
「無風殿っ!」
幕舎を出て直ぐに遠くから郭嘉が小走りに走ってきた。
「…………どうした」
「はぁはぁ、て、敵が攻めてきました!」
「…………ほう。どこが出てきた?」
「旗は深緑の鳳旗、ただ一つ。鳳統の隊のみです」
士元だけ……か。
これは面白くなってきたな。
※1:日没直後の水平線の部分だけ明るい時間帯の事
================雛里視点================
考えてみれば簡単なことでした。
最初は無風さんが敵になった事へ、絶望と悲しみに染められかけましたけれど、それだと無風さんの行動に矛盾点が生まれます。
無風さんが私たちを最終的に裏切るとするなら、どうして彼は私たちに手を貸したのか分からなくなる。
軍全体の強化や将の強化などなど。
私に優しくしてたのは丸め込もうとした可能性も無くは無いが、彼の行動や対応を一番近くで見ていた私からすればあれは無風さんの本心から来るものだ。
つまり、冷静になって考えれば彼が私たちを裏切ったとは考えにくい。
ならば、どうして無風さんが敵になったと認識しかけたのか。
それはあの漆黒に染められた旗が原因だ。
我們旗はその人の所属を表す物。
だから私以外の皆さんは無風さんが敵になったと勘違いしているが、でも私は、私と朱里ちゃんしか知らない事を知っている事がある。
あれは連合で無風さんが魏の人達を救いに行って帰ってきた時に発した言葉。
『…………俺にとって真名なんて、名前以上の意味なんて無い』
あの言葉は真名についてだけの話では無かったんでしょう。
私の主観ですが、彼にとって真名や名前はそれ以外の意味を持たない。
だからあの我們旗は敵だとか所属だとかは関係なく、ただ単に自分はここにいるという事だけを知らせる為だけの物。
結論を言うと、彼は敵では無い。
扱いとしては第3勢力という見方が正解に近い。
そこに行き着けばあとは簡単な事です。
もし無風さんに愛紗さんや鈴々ちゃんを向かわせて居たら、それこそ本当に彼は敵に回る。
これは無風さんが仕掛けた私と朱里ちゃんへの罠。
思考の海から浮上し、意識を現実に戻すとほぼ同時に斥候に出ていた兵士からの報告が告げられた。
「もう少しで敵武将との会敵地点です」
「ありがとうございます。速度そのまま、魚鱗の陣から鋒矢陣に切り替えてください」
「……本当にいいのですね」
「お願いします。これは私達と無風さんの問題ですから」
「御意」
それ以上何も言わず、兵士は陣の変更を部隊に通達してゆく。
もし、普通の兵士だったのならばあそこで止められていたでしょう。
けれど、今の部隊は桃香様にお願いして"無風さんに会った事、もしくは無風さんを知っている"兵士の部隊で編成し直されている。
その中で更に私の周りは義勇軍時代からの古参で固めているので、私と無風さんの関係を知っている人が大半。
だから尋ねられたのはたった一言だけでした。
正直に言ってしまえば大丈夫な筈が無い。
心の中は不安だらけ。
それでも前に進まなければ、先に道があると信じて足を踏み出さなければ何も始まらないし終わりもしない。
「っ!?見えました!たった一人、無風将軍だと思われます」
「……分かりました、前に出ます。部隊の速度を下げてください」
少しして部隊の速度が遅くなり私の乗った馬だけ先程と同じ速度を保ち徐々に前へと出てゆく。
一番前まで出ると、もう無風さんが目視ではっきりと分かるまでの距離になりました。
何故か彼の周りに不思議な円が地面に施されてその中心に居ます。
久々に会えた事への喜び、ここが正念場だという緊張の二つが混ざり合い、複雑な気持ちになりました。
「…………久しいな……士元」
「はい、無風さんもお変わりなく」
私は無風さんを中心にして地面が抉られている円の所まで歩いて行き、そこで止まる。
「…………この円は俺の攻撃範囲を表している。………そこからこちらに来るのなr……」
「今更そんな罠が通じると思ってるんですか?」
無風さんの説明を全部聞かずに構うことなく円の中に入ってゆく。
無風さんの目前まで歩いていき、手を伸ばせば届く距離にまで接近します。
「…………よく分かったな。士元」
「無風さんと一緒にいた時間が多かったので分かっただけです。それと桃香様から言伝を預かってます」
「…………なんだ?」
「『私は私を貫く』……だそうです」
「…………そうか」
この言葉はとても多くの意味を含んでいるのは明白。
例え道を間違えようとも、道を逸れてしまっても。
仲間が私を元の道に戻してくれると信じて。
私の理想を皆が共感してくれる事を信じて。
桃香様は桃香様らしく進むことを大まかに意味しているのでしょう。
この言葉を聞いて、私の本陣がある方角に顔を向ける無風さんはどう解釈したのでしょうか。
その目隠しの奥にある瞳に何を移しているのですか。
「…………孔明は……どうだった」
「朱里ちゃんは、無風さんが完全に敵へ回ったとは考えて無い様ですが、それでも私が単独で無風さんに会う事へ危険視はしていました」
「…………孔明と士元の俺と一緒にいた時間の差……か」
「はい…ですがそれも時間の問題でしょう。これで………いいですか?」
「…………あぁ、本当に……頑張ったな」
その言葉は私の心底に押し込めた感情へ響き、まるで泉が湧き出るが如くずっと我慢していたものが溢れ出てくる。
「ふぇ………ふぇぇぇ」
「…………不器用な男で……すまない。"雛里"」
「ふぇぇええええ。無風さん。無風ざん!寂しがっ……えぐっ……ぐすっ………」
もう抑えなくていい。
甘えていいんだ。
自分の大好きな人に。
今の今まで心の奥底に仕舞い込んできた感情を吐露する。
無風さんが優しく、ただ優しく後ろ髪を撫でてくれたり背中を摩ってくれて泣いた。
そんな大好きな人の優しさにまた泣いた。
大好きな人から「ごめん」と耳元で言うのを聞いて泣いた。
ただただ、泣き続ける。
彼への思いを心の中で満たす為に。
しばらく泣き続けた後、気分も落ち着いて来ましたがまだ抱きついていました。
私たちの周りには火が灯っていないので暗黒でしたが、そうでなければ夜襲してきたと袁術軍に悟られかねません。
今この暗闇が続く時間帯のみが私たちの制限時間。
少しでも長く、彼といる時間を大切にしたい。
遠くの方では、まるで日が昇ってきた時のように明るくなっています。
恐らくですが、呂布と愛紗さん達が交戦しているのでしょう。
すると、先程まで撫でていた無風さんの手が私を抱くように回され、文字通り無風さんの胸の中に抱き抱えられてしまいました。
「あ、あわわ!?な、無風さん?」
「…………ありがとう」
「え?」
「…………お前は俺を信じ通した。なら、今度は俺がその信頼に答える番だ」
無風さんはそう言い、一度抱擁を解いてまた抱きしめてきました。
私の唇と無風さんの唇が重なるように……
「!!!」
驚きに目を見開くと、無風さんの瞳が見えています。
いつの間に目隠しを外したのか、恐らく私が泣いて抱きついていた時なのでしょうが、そんな自分の姿を見返すと恥ずかしい気持ちで顔が暑くなります。
そんな事を考えている今も無風さんの接吻は続いている。
ただ唇同士が合わさっているだけなのに。
他になんの行動もせずジッと時が過ぎるのを感じているだけのに。
どうしてこんなにも気持ちがいいのだろう。
どうしてもっとしていたいと思えるのだろう。
どうして止めたくないと心の底から感じるのだろう。
しかし、時というのは残酷なモノでお互いに息が苦しくなるのを感じて唇を離す。
お互い荒い息をついて、吐いた息が絡み合う。
あまりの衝撃に惚けていると無風さんが額を合わせてつぶやいてきた。
「…………士元……いや、雛里」
「っ!は、はい」
無風さんが字を訂正して真名で呼んでくれた。
認めてくれた。
それが嬉しすぎてまた泣きそうになったが、今は泣いてはいけない。
「…………お前から見て……袁術は呉に勝てるか?」
「えっ?…………いいえ、兵の練度が違いすぎます。殺り合えば大敗すると思います」
無風さんの意図が分かりません。
確かに、盟約を結んだ時に呉の一部方々を見ましたが、誰もが一騎当千の武将格を醸し出している。
呉と比べてしまうと袁術配下の方々は見劣りしてしまう。
それに呉は勇猛果敢、万に一つも袁術の客将で終わらない。
そこまで考えが至ったところで理解した。
無風さんの質問が何を意味しているのか。
「無風さんはどれくらい掛かると思ってるんですか?」
詳しくは問わない。
それは信頼を裏切ってしまうから。
「…………早くて3日……だと予測している」
3日………開戦時からだと、1日は経過したので後2日。
いえ、無風さんの事ですから戦が始まるまで手を拱いてるとは考えにくい。
既に細作を送っていてもおかしくないです。
と考えれば2日も掛からず、この戦は収束するだろう。
上手くいけば、の話ですが。
けれど………
「帰ってきてくれるんです……よね?」
「…………」
「それは駄目です!無風さん、帰ってきてください」
このまま帰ってくるのは簡単だ。
劉備軍の捕虜になって降れば難なく仲間に戻ってこられます。
しかし、先程の無風さんの問いから察するに、無風さんは袁術に味方して呉と戦をする風な口ぶりでした。
無風さんが加担すれば袁術軍は負けても、袁術は助けられるでしょう。
でもそれだと無風さんが桃香様の軍に戻れない。
盟約を結んでいる呉に刃を向けた相手ともなってしまっては生半可な理由で我軍に戻すのは至難。
それこそ呉との盟約を破棄でもするくらいの事を仕出かさなければなりません。
無風さんの背中に回している手に力を込めます。
「嫌です……また無風さんと離れるなんて」
「…………大丈夫だ」
「何が大丈夫なんですか!もう嫌なんです。今回みたいに無風さんが敵に回るような事があるのは」
「…………俺が認めた女だぞ、お前は。それくらいの事………いや、違う。すまない」
淡々と喋っていた無風さんでしたが途中から言葉を濁し、私を更にキツく抱きしめてきます。
もう私と無風さんの間に隙間など出来てないのでは? と思うくらいに密着し、無風さんの心臓の鼓動がこっちまで響いてきました。
そこで無風さんの鼓動がとても早い事に気がつき、緊張しているのが伝わってくると同時に私と同じなんだと少し嬉しくもなる。
「…………玄徳の軍で唯一絶対の信頼をできるお前が居るから、俺は安心してここを離れていられる」
「なし……かぜさん?」
「…………雛里や玄徳は俺の問いに、真剣に、それこそ雛里は命を掛けて答えた」
「………」
「…………今度は俺がお前たちの問いに答える番だ。だから……頼む」
「……もう一回………接吻してください」
そう言うと無風さんは一度抱擁を緩め、片手を私の後頭部に持っていき………
先程とは全く違う、激しい接吻をしてきた。
「んんっ!?ん……ちゅ…ちゅぷ……んぁ!?はっ、ん……ふぁ…ちゅ………ちゅう」
やってる事は先程と変わらない。
けれど、まるで無風さんから謝罪が私の中に響いてきてる気がする。
ごめんと、一人にさせてすまないと、本当は一緒に……居たいと。
気のせいだろう。
けれど、そう感じてしまう。
それだけに無風さんの接吻は激しいモノだった。
だから私は彼に優しく接吻をする。
大丈夫です、本当は私も分かってます、貴方は何時だってそういう人だと。
自分の周りを守る為に、自分を仲間だという人の想いに答える為に、貴方は一人で全てを負う人だと。
だから………今だけ、今だけは我が儘を言わせて?
貴方を想う一人の女の気持ちを、一時でも貴方の体に刻み込ませて。
想いが届いたのかは分からない。
けれど、徐々に無風さんの接吻は優しいモノに変わっていって、まるで犬が噛み付いた人の噛んだ後を舐める様に……優しく。
瞼をゆっくりと上げる。
すると無風さんもちょうど目を開くところだった様で二人同時に視線が合う。
無風さんの瞳は黒く澄んでいて強い意思を感じます。
でも、更にその奥には悲しみや後悔といった負の感情が漂っている様に見えました。
しかし数瞬してから無風さんが瞳を見開き、唇を離して下を向いてしまいました。
「無風さん?」
「…………これ以上は……駄目だ」
「どうして……ですか?」
「…………これ以上、雛里と見つめ合ったら………自我を抑えられなくなる」
正直、可愛いと思ってしまいます。
無風さんも私を見てそういう気持ちになってくれるのだと分かりました。
嬉しい。
でも、確かに今は場所も、状況も、時期も、全てが悪い事は分かります。
それに………
「そう……ですね。私もあと少し長くしていたら、きっと私も止まらなくなる所でしたし」
「…………すまない」
「無風さんが謝る事はありません。というか、謝らないでください」
「…………分かった」
そういうと無風さんは抱き方を最初の方に戻し、頭を撫でてくる。
「あわわ。子供扱いしないでくだしゃい!」
「…………俺がしたいんだ。許せ」
「あぅ…な、無風しゃんは子供でしゅ。あわわ」
「…………ふっ」
「わ、笑わないでください。もう………ふふ」
とか言いつつも、こんなやり取りが懐かしく私も笑ってしまいました。
しばらくそうして、遠くの戦火を見やり愛紗さんは無事かなと一瞬考えもしましたが、呂布の方には私達の全勢力を注ぎ込んでいるので大丈夫だと自分に言い聞かせます。
「…………あちらも問題はないだろう」
「ふぇ!?え?どうしてそんな事が?」
「…………雛里、お前が玄徳達から信頼されてるのは知ってる。だが、心配はするだろう。なのに何故、こちらに誰も来ない?」
「………」
考えてみればそうです。
桃香様は私に賛成してくれましたが、それ以外の皆さんは私の心配をしていた。
もし私と朱里ちゃんが逆だったとしたら十中八九心配する。
私なら呂布との戦闘で人数が割けると判断したならこちらに兵を回すだろう。
いくら呂布が一騎当千の将だと言っても一人には限界がある。
呂布の軍がいても私の隊以外の全勢力が当たって互角なんて事は有り得ない。
つまりはこちらに兵が来ない方がおかしいです。
「無風さんが……何かしたんですね」
「…………あぁ、雛里との問答を邪魔されたくなかったからな。だが、雲長も一緒だと踏んでいたが雛里だけだったから、一本取られた」
無風さんが読み間違えた。
そして無風さんの予想を私が上回った事に物凄く嬉しくなり無風さんに強く抱きつく。
今度の鼓動はゆっくりと力強く波打っている。
覚悟を決めていたのに決意が揺らぎかけた。
そういう事は今言うべき言葉じゃないです。
離れたくなくなってしまうじゃないですか。
そんな嬉々として幸せの中にいた私の肩を無風さんが軽く叩きます。
「…………タイムリミット………だな」
「たいむりみぃと?なんですか?それは」
「…………すまん、天の言葉だ。気が緩んでた」
天の言葉はご主人様も気が緩んでいる時に口にしてしまうのはよく聞きますが、無風さんが天の言葉を呟くのは初めて聞いた気がします。
「あの、それで。それはどういった意味なんですか?」
「…………要するに時間切れ………という事だ」
無風さんがスッと空を指さします。
その方向を見ると、若干ですが明るくなってきていました。
明るくなってしまえばこうやって無風さんと一緒に居る事は出来ません。
それでも一緒に居たいという気持ちを押し殺してお互いに離れました。
愛紗さんの方も日の出が近い事に気づいたのか両軍共に撤退してゆく部隊が見られます。
「…………雛里」
「はい」
「…………俺はお前を裏切らない」
「はい」
「…………頼めるか?」
「大丈夫です。でも……無風さんがいればもっと大丈夫です」
「…………頼む」
「分かりました」
最後は本当に短い問答だけ。
多くの言葉はいらない。
それだけでも、通じ合えるのだから。
二人してお互いの軍に戻ってゆく。
振り返る事はしない。
お互いに信頼し合っているから。
私は少し遠くに待たせていた自分の隊に戻り、撤退する。
その頃には既に太陽が顔を覗かせ、新たな1日の始まりを告げていた。
up主「はい、皆さんこんにちわ。up主です」
雛里「~~~~~~っ!!!!!!」
up主「うん、雛里さんや待とうか。どうして君の懐から出刃包丁が出てくるんだい?」
雛里「う、up主さんを殺して、私も死にます」
up主「待って、待とう?まだ引き返せる。包丁を台所においてきなさい」
雛里「こ、こんな辱めを受けて、な、無風さんに見られでもしたら」
up主「やべぇ、これ。地雷どころか水素爆弾踏んだっぽいぞ」
雛里「up主さん、覚悟してください。今ならまだ無風さんに見られませんし」
up主「雛里のキャラが崩壊しかけとるし。待て待て、落ち着こう。一旦、落ち着こう。」
雛里「私は落ち着いてましゅ。心配はいりましぇん」
up主「いやいやいや、噛んでる。めっちゃ噛んでるって」
雛里「up主さん。覚悟してくださいーーーーー」
up主「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。止め!止めて!STOP!STOP包丁!」
雛里「天の言葉なんか使っても分かりません~~~~~~~」
up主「と言いつつ、包丁振り回すなぁぁぁぁぁぁ!!きゃぁぁぁぁぁ」
※良い子も悪い子も真似してはいけません。絶対に




