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黒き旗

今までで一番文字数多くなったった(;^ω^)

あかん……このままではあかん

 俺が袁術の下に入ってから約1週間。

 劉備への宣戦布告も無しに領土侵略を続けていた。

 張勲に聞いた所によると劉備の本城である下邳城前に着くと同時に宣戦布告の使者を送らせる予定だとか。

 もはや宣戦布告の意味が無いと言いたい所だが、恐らく袁術や張勲の様なタイプは同じことを一度やられてみないと理解出来ない人間だ。

 面倒極まりない。

 ああ、言い忘れて居たが何を考えているのか一緒に村から連行された郭嘉と程昱は俺の下でなら同行してもいいと袁術・張勲に強気な宣言をし、しかもそれが通って二人は立場上、俺の配下となっている。

 一番最初に孟徳の軍に居たからか、二人の思考がどうなっているのか全く理解出来ない。

 行軍途中にある村々には別行動している仲達の働きもあり、俺が説得しに行った時には既に理解してくれていた。

 袁術、呂布共にそんな事をする人間はいるとは思えないので消去法で仲達しか居ない。

 全員、納得は出来てなかったがな。

 袁術の力を恐れるあまりに言うに言えない感を凄く感じた。

 無論、同時に袁術兵による暴走行為など起こさせる訳が無い。

 最初に遭遇した村で、ちょうど兵が民家から食料になりそうな物を無理矢理奪っていた所に出くわし、兵士を止めようとしたが話を聞いてくれそうも無かったので関節を決めて無理矢理抑えた。

 分かりきっていた事だが、その様子を何処からか見られていたらしく、民に乱暴しようものなら殺されるなどと兵の中で噂に。

 そしてお決まりの一番酷い噂では食べ物が食べられない様に舌と胃を切り落とされると、ある意味清々しい程の外道っぷりな噂が流れた時もあった。

 その噂のせいで呂布の陰険な雰囲気が徐々に増して行き、今現在では俺に口を開く事すら無くなった。

 やり取りは書面に書いた物を袁術兵に渡し、それを呂布の軍師である陳宮を介して行われている。

 もう、目を合わせるだけで殺したい衝動を抑えられない程まで来ているとみて間違いは無いだろう。

 ここまで嫌われると逆にやり易いので俺としては全然構わないが。


 そうそう、前述で陳宮の名が出たが、何故俺が知っているのかとゆうと。

 俺が袁術から……というか張勲から呂布の上にあたる立場になった事(とても釈然としないが)で、嫌悪丸出しの呂布に命令し、呂布陣に一度だけ顔を見せに行った事があるからだ。

 流石の呂布も仲間が生きる為なのか、命令すれば言う事を聞いた。

 もうね?第三者視点から見たら俺とても悪役だなぁと自分でも思う。

 けれど、ここで劉備も呂布も失う訳にはいかない。

 しかも、この外史の呂布、陳宮とかと接していたり周りの動物とかに接している時の様子を遠くから見ていたが、根本的な性格はとても素直で優しい人格であった。

 これも史実の、俺の知る呂布像と違う。

 この呂布ならば、劉備の仲間に入れられる事が出来れば多大な戦力になる。


 しかし………


「…………殺気が凄いな…」


 俺が董卓を殺した(となっている)事に呂布陣内では周知の事だそうで、董卓を殺した(となっている)張本人の俺に向けられる殺意が半端じゃない。

 だからか、一々命令しないと動かないのなんの………そりゃ当たり前なんだが。


「…………っ!!」


 胸に手を置きながらゆっくり地面に座る。

 ズキズキと心臓が痛む。

 理由は明確、周りには敵しか居ないという無意識下による本能的ストレスで体に疲労が溜まって起きる現象。

 久々に感じる痛みに懐かしさを覚える。

 まだ小さかった頃、病気に打ち勝つためと周りの大人が俺に剣術を文字通り叩き込まれていた。

 いつも聞こえるのは「能無し」「軟弱者」「臆病者」という祖父の声。

 分かっている。

 悔しさをバネに闘志を燃やさそうとする祖父の不器用な心遣いなのだと、今ではそうだっただろうと思える。

 しかし、その祖父の考えが全時代的なものであると同時に、当時の幼かった俺からすればそんな考えに到れる程、大人な思考などありはしない。

 だから、毎日の様にそのストレスから心臓が痛かったり頭痛が酷かったりしていた。

 今回のこの発作的な症状も、当時のトラウマによる精神への警告。

 だが大丈夫。

 今は分かってくれる人が、俺を慕っている人が存在している。

 それを自覚している内はまだ………大丈夫。


「何をこんな所でくたばりかけてるですか」


 下を向いていた頭を持ち上げて前を視る。

 数メートル離れた所に陳宮が、こちらを蔑む様な目で見ていた。

 

「…………関係ない」

「ふん………人が少しは心配しているですのに、その態度ですか」

「…………それこそ関係ない。俺が死んだ方がお前らには得だろう?」

「勘違いするなです。お前を心配しているのは恋殿のためです」

「…………どう曲解したら、そんな答えが出てくるのか分からんな」

「お前が野垂れ死にしたら、月殿の仇討ちを恋殿が行えないじゃないですか」

「…………なるほどな。だが………お前はお前の心配をしてろチビガキ」

「なっ!?」

 

 陳宮は今まで会ってきた幼子の誰よりも幼く、滅多な事で口にしない言葉で挑発したら簡単に乗ってきた。

 やはりと言うべきか、この歳くらいの子供は「チビ」とか「ガキ」とかの単語に敏感だな。


「そのまま死んじまえです!この……脳筋チ〇コーーー!」


 仇討ちしたいから死ぬな言ってた癖に死ねと言うか、子供だな。

 てか脳筋チ〇コって……知ってる汚い言葉を並べてやっとこさそれかい、つまらんな。

 だが、お陰で先程まで感じていた痛みがすっかり引いていた。

 

「…………そういった面では、ありがとう………と言うべきか」


 既に陳宮は居なくなった後だが……

 下邳城はもう間もなく見えてくる。



================桃香視点================



 つ、疲れた。

 まさか州牧の内政がこんなにも大変だとは思わなかったよ。

 徐州よりも広大な土地だった幽州を管理していた白蓮ちゃんの凄さが改めて分かった。

 膨大な量の書類をほぼたった一人で処理していたなんて………私なんか朱里ちゃん雛里ちゃんに白蓮ちゃんの3人に手伝って貰って、それでも遅れ気味なのにー。

 白蓮ちゃんといえば、袁紹さんに幽州を攻撃され命からがら逃げてきて、今は私達の仲間になってくれています。

 聞くところによると防御を固める暇も抵抗する暇も無く遼東から船で逃げ出し、逃げるだけではいづれ追いつかれると判断して袁紹さんの横っ腹に一当てしたらしい。

 白蓮ちゃん自身はそこで命を散らす覚悟だったみたいだけど、弟さんや家族の様に接してきた仲間の皆に逃がされ、徐州の私がいる下邳まで逃げ延びてきたと。

 私が白蓮ちゃんに会った時には、白蓮ちゃん含め10人にも満たない人数でした。

 本当につい最近まで、肉親を失った喪失感と自分だけ生き残った罪悪感で夜な夜な恐怖から叫び声が絶えなかった。

 漸く自分の中で整理が出来たのか、それとも何か気が紛れる事をしていないとまたその出来事を思い出してしまうのが嫌だからなのかは私には分からないけど、白蓮ちゃんが私の仕事を手伝ってくれる様になりました。

 表面的には談笑していれば笑ってくれるし、真剣な話をしていれば真剣な顔で話を聞いてくれます。

 だけど、誰も白蓮ちゃんの心理は分からない。

 

「桃香様っ!」

「はひゃい!やってる。書類仕事ちゃんとやってるよぅ」

「違います!急ぎ玉座まで来てください!」

 

 朱里ちゃんがいきなり血相を変えて私の執務室に飛び込んできて招集がかけられた。

 何があったんだろう。


「どうしたの朱里ちゃん?いきなり」

「すみません桃香様。私の落ち度です。今すぐ緊急『軍議』をっ!」

「っ!?……誰か攻めてきたんだね」

「はい………相手は袁術です」

「分かった。すぐに行くね。私も道中誰か呼んだ方がいい?」

「では鈴々ちゃんをお願いします。私は愛紗さんを呼びに行きますので」

「うん」


 話を終えて足早に朱里ちゃんが部屋を出てゆく。

 袁術といえば連合の時にも見たが、袁紹さんを小さくした可愛らしい子供という印象が強い。

 しかし、朱里ちゃんの情報網を抜けてくるなんて、袁術ちゃんの所には優秀な人が居るんだ。

 侮れない。

 政務をしていた為にボサボサになっていた髪を櫛で軽く()いてから部屋を出る。

 

「鈴々ちゃんは確か中庭に………あ、居た!おーい、鈴々ちゃーん!」


 中庭で鈴々ちゃんが蛇矛を振り回して居るのを見つけ、廊下から呼びかけます。

 ていうか、鈴々ちゃんが以前にも増して蛇矛を振るのが早くなってるのは気のせいかな?

 これ以上強くなったら、無風さんを超える日が来るかも。

 それはそれで色々困りそうだけど。


「にゃ?あ、お姉ちゃーん。何してるのだー?」


ポイッ━━カシャン


「えぇぇー!?り、鈴々ちゃん。そ、そんな乱暴に蛇矛扱っていいの!?」

「にゃ?鈴々の蛇矛はそんな事で折れるほど(やわ)じゃないのだ」

「あーうん。何となく分かったよ。それよりも鈴々ちゃん。敵さんが攻めてきたから急いで来て」

「おう!敵が攻めてきたのか!鈴々の蛇矛が火を吹くのだーー!」


 蛇矛から火が出たらそれはそれで怖いけどね。

 鈴々ちゃんを無事に見つける事が出来たので、急いで王座に向かう。

 到着すると、既に扉が開かれており中に突入する。

 

「ごめんなさい。遅れちゃった」

「大丈夫だよ桃香。俺達も今来た所だから」


 ご主人様は真剣な雰囲気を出しながらも笑顔で答えてくれます。

 こんな時でもご主人様の顔を見ていると何とかなりそうとか思ってしまうのは、ご主人様から溢れる"何か"なのか、それとも私のご主人様への気持ちがそうさせるのかは分かりません。

 でもそんなご主人様は本当に尊敬できる。

 ここへ来る途中までは、あの名声で名高い『袁』領主の一人である袁術ちゃん相手に私達の勢力だけで勝てるのか不安が拭いきれなかった。

 何せ、私よりも頭が良くて政でも難しい書類を一瞬にして片付ける朱里ちゃんが張っていただろう情報網を掻い潜ってここまで来たんだもの。

 不安にならない訳が無いよ。

 だから、さっきまでの私はとても不安な顔をしていたと思う。

 でもそれだといけないんだよね。

 一番上の私が不安で居たら、皆が不安になっちゃう。

 その点、ご主人様は笑顔を忘れていない。

 

「で、朱里。敵は何処まで来ているの?」

「はい、袁術は現在広陵と下邳の境を西進してこちらへと迫ってきてます。敵が見えるまで然程(さほど)時間は掛からないかと」

「広陵?だって袁術は南陽に本城を構えてるんだろ?だったら普通、彭城(ほうじょう)から攻めて来ないか?」

「私もそう思って彭城と下邳の南側を重点的に警備させて居たのですが、まさか警備の薄い広陵から攻めて来るなんて、軍師失格です」


 朱里ちゃんが塞ぎ込む様に頭を垂れてしまい、ご主人様が宥めています。

 そこに愛紗ちゃんも首を傾げて疑問を口にします。


「どうしてそんな大回りしてまで?兵士の疲労が溜まるだけで良い事など無さそうだが」

「あわわ、それは私達にも分かりません。ですが可能性は絞り込めます」

「ふむ、可能性………か」

「はい。考えられるのは二つ。一つは今のこの現状通り、相手に気付かれないよう回り込んで私達に準備をさせる時間を減らし、戦意を削ぐ為」


 雛里ちゃんの説明に朱里ちゃんが更に頭を垂れてしまい、ご主人様は苦笑しながら朱里ちゃんの頭を撫でています。

 いいなー、私も………あ、愛紗ちゃんが睨んできたのでまた今度にしよう。

 うん、そうしよう。

 そして雛里ちゃんはもう一つの可能性を提示しました。


「もう一つは、ここへ来る前にそこにある"何か"を手に入れたかったから」

「何か?」

「はい、それが人なのか物なのかは分かりませんが」


 そう言って雛里ちゃんは帽子の鍔を下げて顔を隠しちゃったよ。

 でも、無理もない……かな。

 無風さんが居なくなって、まだそんなに経って居ません。

 私達の軍で無風さんに一番近い所に居たのも雛里ちゃんだったし。

 それに無風さんも、全体的に私達と馴染もうとしていなかった。

 私達の何がいけなかったのかすら教えて貰えないんじゃ直しようがないよ。 

 私が少し無風さんの事を考え始めた所で愛紗ちゃんが話を進めてくれた。

 危ない危ない。


「袁術達がどう来ているのかは分かった。それで、敵の戦力はどれ程なんだ?」

「はわ、斥候を先に放っておいたので追って情報が入ると思います。あと……」


 そこに少し立ち直った朱里ちゃんが話を続ける。


「連合当初と変わりなければ敵勢力の中で気をつけなければいけないのは3名程、張勲・紀霊・李豊の3将には気を付けて下さい。どれも智将猛将として有名ですから」

「武に長けた人物は誰なのだ?」

「えっと、猛将と謳われているのは紀霊という武人です。50斤もする三尖刀という武器を振るい何人も寄せ付けぬ程の武だと」

「おおー!愛紗の偃月刀程じゃ無いけど中々やるのだ」

「ですが、それは個々の力量で、紀霊の本領ではありません。彼の者は軍を動かす指揮に長けた人物で、その補佐に李豊が着く事により真の実力を発揮するそうです」

「はにゃ?何がどう違うのか分からないのだ、朱里」

「あ、あはは」


 鈴々ちゃんが腕を組みながら頭を傾げて、丁寧な説明をしてくれた朱里ちゃんは苦笑い状態。

 丁寧に説明してくれたのは分かったけど、私も2割くらい理解できてないよ。

 軍師の顔に戻った朱里ちゃんは最後の一人である張勲さんの話を続けました。 

 

「一番注意しなくてはいけないのが、張勲という袁術専属の軍師さんです。彼女に会ったら注意してくださいね」

「袁家に与する軍師に碌な奴はおるまい。そんなに気を張り詰めなくても良いのでは無いか?朱里よ」

「星さん、確かにお気持ちは分かります。しかし、侮っていい相手ではありません。彼女の最大の武器は"保険"です」

「保険?保険とは、予測出来る危険を回避する為の防衛策という事か?」

「そうです。だからもし袁術に勝っても彼女たちを捕まえる事や倒す事は不可能でしょう」

「馬鹿な。もしそうだとしても我らなら……」

「袁術の領土である半分は、張勲の保険によって取った領土だとしたらどうです」

「っ!?」


 星ちゃんの言葉を遮り、朱里ちゃんが真剣な眼差しで台に置かれた地図を凝視しています。

 でも保険って、どういう事なのか私にもさっぱり分かりません。


「実際、袁術は勝ち戦などは片手で数える程で、大概は負け戦の方が多いそうです。なのに袁術は広大な領地を占めている。あきらかな矛盾に疑問を持った私は水鏡塾にまだ居た頃調べた事があります」

「……して、その実態はどうだったのだ。朱里よ」


 星ちゃんが黙ってしまい、愛紗ちゃんが先を促す。

 それに朱里ちゃんがコクリと一回頷いてから話を進める。


「簡単な話でした。要は『戦に負けて勝負に勝つ』という事」

「戦に負けて……勝負に勝つ………か」

「ある豪族との戦で、袁術さんは相手との物量差で直ぐに負けてしまったそうです。しかし、結果敵には豪族の兵が投降する形でその戦は終わりました」

「何故?」

「豪族の方が『殺された』んです。張勳の隠密兵によって…」

「っ!?」

「戦に勝って、気が緩んだんでしょうね。警備に綻びが出来た所から、戦に負けた時に実行するよう言われていたであろう兵が道連れにしたそうです」

「卑怯なっ!」


 愛紗ちゃんは怒りの表情で机をダンッ!と湯呑が軽く浮く勢いで叩きました。


「確かに卑怯な手ではありますが、軍師としてはごく当たり前、初歩の初歩と言っていい策です。大将を失えばその勢力は瓦解する。そうやって張勲は領土を拡げていった」


 その言葉に愛紗ちゃんが朱里ちゃんをキッ!と睨みます。

 

「私はそんな下策使いません。それにそんな策を実行したら、桃香様の軍が瓦解してしまいます。ですが張勲は容赦無く色々な手を打ってくるでしょう」

「…話は分かったよ。それで、私達はどうすればいいの?朱里ちゃん、雛里ちゃん」


 このままでは埒が明かないのから、少し強引ではあるけど話を先に進める為、朱里ちゃん達に訪ねます。

 

「そうですね。今、私達に必要なものは時間です。この戦いになるべく早く終止符を打つことが大切になってきます」

「つまり………どういう事?」


 朱里ちゃんの言いたい事がよく分からない。

 早く戦を終わらせられるに越したことは無いが、どうして今ここでその事が出てくるのか分からない。

 私の催促に雛里ちゃんが一歩前に出て、朱里ちゃんの補足をしてくれた。


「桃香様は州牧になってまだ日が浅く統治も完全ではありません。ここで袁術との戦が長引けば、私達の準備が万全では無いと諸侯に教えてしまう結果になり兼ねないんです。付け入る隙を見せれば飢えた諸侯が雪崩になって襲いかかってきます。だから、今回の戦は兎に角時間との勝負なんです」

「隙が無いって事を諸侯に見せつけないといけないんだね」

「はい。ですから周りの諸侯は傍観を決め込むと思います。私達が少しでも負けそうな雰囲気を見せれば、袁術に味方して自分の取り分と安全を確保する為に」


 雛里の説明に愛紗ちゃんと星ちゃんが苦い顔をします。


「卑怯だとは思う。しかし、この乱世で少しでも餓鬼の行ないに躊躇った瞬間、餓鬼に食われる。致し方あるまい、愛紗」


 愛紗ちゃんの気持ちを汲んで、星ちゃんが愛紗ちゃんの方を優しく叩きながら諭す。

 それも乱世で生き残る一つの方法なのだから、と。

 それに白蓮ちゃんもゆっくりと頷く。


「そう、それが乱世ってものだ。少しでも甘く考えて居たら、あっという間に乱世の渦に飲み込まれる」

「おおー、白蓮お姉ちゃんが言うと説得力があるのだー」

「そ、それを言わないでくれ鈴々。」


 白蓮ちゃんと鈴々ちゃんのやり取りを見て周りがクスクスと笑い、今までの重苦しい空気が少し軽くなる。

 その機を逃さずにご主人様が笑顔で、さりとて覚悟を決めた目で喋りだした。


「ちょうど気合が入った所で………皆、出陣準備をよろしく頼む」

「「「「「御意!」」」」」


 愛紗ちゃん、鈴々ちゃん、星ちゃん、白蓮ちゃんの4人は軍備を整える為に、私と朱里ちゃん、雛里ちゃん、ご主人様は兵站を整えに動き出す。

 私達が生き残る為にも、袁術ちゃんには負けて貰うしかない。

 ごめんなさい。



================雛里視点================



 どうしてこんな事になってしまったんですか。

 どうして貴方はそこに居るのですか。


 袁術側にある牙門旗の一つ。

 黒く染められた旗にと白く書かれた『無』の一文字。

 どうして………


「無風さんっ!」


 旗を見つめながら叫ぶ。

 それは兵站を纏めている時に遡る。


・・・・・・・・・


 私は今、朱里ちゃんと二人で兵站がどれほどいるかを計算し、まとめた報告書を桃香様とご主人様が確認する形でそれぞれ別れ準備をしています。

 袁術はその名声から兵数だけで言えば私達の倍はあります。

 しかし、私達の軍に白蓮さんが加わってくれた事で、騎馬隊の練度をかなり上げる事が出来、戦に出せるほどまでに何とか追いついきました。

 騎馬隊が加わり全体的な総力が向上した事で、ようやく軍としての形が整ったという所でしょうか。

 もしかしたら白蓮さんが居なかったら今回の戦はかなり苦労していたと思います。

 馬は基本、とても臆病な生き物です。

 その馬を槍や剣を構えた兵のど真ん中に突撃させる訓練だけで、相当時間がかかります。

 しかし、白蓮さんは馬と共に生きてきた州で牧を続けて来ただけに、馬に関する事では我が軍随一と言っても過言では無いです。

 

「雛里ちゃん、兵站はこれくらい出しておけばいいかな?」

「うん、大丈夫だと思うよ。朱里ちゃん」


 朱里ちゃんと一緒に最終調整を終え、ご主人様達のいる方へ戻ろうとした所で兵士が城から走ってきて報告が入りました。


「ご報告します。今しがた斥候に出ていた兵が戻り、その報告を聞く為に御使い様と劉備様は一足先に城内へ戻られました。応接間にお集まり頂くようにと」

「分かりました。すぐに向かいます。休んでいてください」

「はっ!」


 反射的に朱里ちゃんの後方に隠れそうになった所で踏み止まり、中途半端に斜め後ろの位置で朱里ちゃんと兵士さんのやり取りを聞きます。

 兵士が帰っていった後、朱里ちゃんと目で頷き合い小走りに城へ戻りました。


「諸葛亮・鳳統両名到着しました」


 応接間の扉を開け、中に入るとご主人様以下いつもの皆さんしか居ませんでした。

 他の方々は追って指示すればいいので、実際居ても居なくても変わりはありませんけれど。

 ご主人様が真剣な眼差しをしながらも労いの言葉をかけてくださいました。


「二人共お疲れ様。ごめんね、先にこっち来ちゃって」

「はわ、大丈夫です。それよりも報告の方、よろしくお願いします」

「ああ、分かった。斥候に出てた兵士の話によると、やっぱり相当な規模でこちらに向かってきてるらしい。それと朱里が言っていた三人も。ただ……」

「ただ?」


 ご主人様が考え込む仕草をし、疑問の声を口にしました。


「ああ、報告だと正体不明の部隊が居るみたいな事を言っていてね」

「正体不明……ですか」

「ああ、なんでもその隊だけ兵の練度が飛び抜けて高いらしい。よく纏められた部隊だそうだ」

「そうですね。考えられる線で言えば、現在客将という扱いで、実質実権を取られている孫策軍……が一番可能性としては高いですね」

「そうか、孫策さんを相手にするのは辛いな」

「あわわ、断定するのは早いですご主人様」


 あくまで朱里ちゃんが言ったのは可能性の話であって相手が孫策さん達かどうかは分からない。

 ご主人様が「そうだね」といった顔で頷き、朱里ちゃんが話を続ける。


「相手の大体な戦力は分かりました。袁術が相手ならばこちらに勝機はあります。ただ、不穏分子として正体不明の部隊にだけ気をつけましょう。孫策さんが相手ならばこちらにも手はありますし」


 朱里ちゃんが説明を終えると、ちょうど軍備の方が整ったという報告を受け即座に行動に移す。

 白蓮さん率いる騎馬隊を先に出立させ、接敵予想地に先に向かってもらう。

 その他の皆さんは、愛紗さんと私の隊を先頭に鈴々ちゃんと朱里ちゃん・桃香様とご主人様・星さんの順で出立する。

 隊列はその順でだが、私達はご主人様の所に集まっています。

 黄巾の時代とは違い、昨今では既に諸侯同士の争いになってきており賊が居てもこの軍勢を見て挑んでこようという人が居るはずもない。

 つまり、予定地に着くまでは戦闘は無いと言うことです。

 一応は斥候を放って何が起きてもなるべく対処出来る様にしている。

 街を出て少し進んだ所で、ご主人様が質問してきました。


「雛里、接敵する場所までどれくらいで着くんだ?」

「あわ、えっとですね。この速度を維持して行軍すればおよそ3日という所ですね」

「そんなに早く着くのか?」

「相手もこちらに向かって来てますし、袁術軍も既に下邳の関所は抜けてますから」

「あ、そっか。敵もこっちに向かって来てるんだもんな。そりゃそうか」


 そんな会話をしてからの3日間は、予想通り何の問題も無く進み袁術軍が来る前に予定地の場所に陣を張る事が出来ました。

 そこで敵が目視出来るまで更にもう1日経過し、こちらの予想以上に相手の行軍が遅い。

 しかし、敵の牙門旗が確認し得る所まで敵が迫った所で、全員に緊張が走る。

 袁家の印象として使われている黄色い旗の中に一つだけ赤を基調とした牙門旗が見えてくる。

 赤で連想されるのは、袁術配下の孫策さん達。

 だが、それならばもっと多く赤い牙門旗が見えてもいい筈ですし、なによりもそこから放たれている空気が異なります。

 ある程度近づいた所で袁術軍が停止し、風に靡いていた牙門旗の文字がはっきり見えるようになりました。



 真紅の呂旗



「呂布…………」


 飛将軍呂布、『其の武、鬼神が如し』と謳われた大陸有数の武の持ち主。

 恐怖と絶望の二つが兵士達を瞬く間に支配しました。

 私の横で星さんが舌打ちをしています。


「袁術が呂布を引き込んだ……という事か、厄介な。桃香様と主に伝令を出せ、敵に呂布ありとな」

「呂布を引き入れる為に広陵まで回っていた、くっ………呂布が徐州に居たとは。見通しが甘かったか」

「ああ、だが呂布が虎牢関から敗走した後の足取りは掴めていない。仕方がないと割り切るしかない」

「それはそうだが………」 


 愛紗さんも顔を苦悶の表情に歪め、星さんは軽く空を見上げながらため息を吐いて気合を入れ直しました。


「相手が誰だろうと関係無いのだ!今ここで鈴々達が負けたら、桃香お姉ちゃんやお兄ちゃん、街の皆がひどい目にあっちゃう。絶対に負けられないのだ!」

「……そうだな、鈴々の言う通りだ。我らはこんな所で負けてなどいられない!例えそれが呂布で在ろうとも、我が青龍偃月刀で切り伏せてくれる」

「ふっ、愛紗よ。そう身構える事は無いさ。むしろ袁術程度では肩慣らしにもならん。あれ位でちょうどいいさ」


 星さんはいつもの笑みで相手を見ていますが、目は真紅の呂旗を睨みつけています。

 そんな星さんを愛紗さんは横目に見ながら口を笑みの形にし、私に問いかけてきました。


「星のいう事にも一理あり…だな。して雛里よ。私達はどう動くべきか」

「…現在位置から、呂布さんは袁術軍の左翼、私達から見て右翼に軍を置いています。しからば、呂布及び呂布軍には愛紗さん・鈴々ちゃんを……」

「報告申し上げます!」


 突然、伝令兵の声に策の提案を遮られてしまいました。

 その伝令兵は先程、星さんがご主人様達に送った兵隊さんで、急いで戻って来た為か少し息が上がっています。

 意識を切り替えた所で出鼻をくじかれた愛紗さんは怒気を顕にしました。


「北郷様より言伝を預かっています。呂布に単騎で当たらず、関羽様・張飛様・趙雲様の御三方で当たる様にと」

「なんだと!?ご主人様が?何かの間違いでは無いのか」

「いいえ、確かに北郷様からの言伝でございます。我が真名に誓って」

「むぅ、そうか。分かった。下がって休んでいろ」


 流石に真名に誓われてはそれが嘘では無いという事でしょう。

 しかし、となれば策をご主人様の希望通りにする他無いです。


「ならば、呂布さんには愛紗さん・鈴々ちゃん・星さんの三人で当たって下さい。呂布さんを抑えている間に私の軍で敵左翼を攻撃、突破します。もしも余裕がると皆さんが判断したなら、遊撃に回って相手を混乱させてください」


 愛紗さん・鈴々ちゃん・星さんは同時に頷き、今の策でいいと了承してくれました。

 そこで星さんがまたもや呂布さんの牙門旗を見つめ呟きます。


「しかし、主がそこまで呂布を警戒しているとは。もしくは我々の実力を甘く見られておいでなのかもしれんがな」


 そこで愛紗さんが首を横に振り、星さんの呟きに対して反論します。


「後者はありえんぞ、星よ。我らは幾度とご主人様と共に戦場を駆け抜けてきた。今更我々の実力を疑いはしまい」

「そうなのだ。鈴々が強いのはお兄ちゃんも知ってるし、勿論愛紗や星が強いのも分かってるのだ。ただ、呂布が鈴々達より少し強いだけなのだ」

「ほぅ?鈴々が自分よりも他者が強いと認めるとは」

「愛紗、今、鈴々の事馬鹿にしたのだ?鈴々はただ、知ってただけなのだ」

「知ってただけ?それってどういう事?鈴々ちゃん」


 鈴々ちゃんの物言いに不自然さを感じ、私は鈴々ちゃんに聞き返してみました。


「はにゃ?反董卓連合の時、報告してくれた兵士が言ってたのだ。『無風お兄ちゃんが呂布との戦闘後に痛みで叫びだした』って」

「「「!!」」」


 鈴々ちゃんがもたらした情報は、とても驚愕すべき物だった。

 無風さんが戦闘後に痛みで叫びだしたという事は、それだけに呂布さんとの勝負は僅差の物だったのでしょう。

 しかし、私はその事を知らない。

 虎牢関から帰ってきた時の無風さんは無傷とまではいかなくとも重症を負っている様には見えなかった。

 もしかして司馬懿さんの攻撃を喰らった原因の一つにもその事が関係している可能性が高い。

 悲しい、無風さんは何も言ってくれなかった。

 そんなボロボロの体で助けてくれても私は、私達は嬉しくも何ともない。

 

 心の内側が悲しみに染められかけた所で、意識を現実に引き上げる。

 今は悲しんでなんかいられない。

 頼ってくれなかったのは悲しいが、無風さんが私達に残した物を捨てる訳にもいかない。

 今、問題になっている事はそんな無風さんでさえやっと互角という域の人間を相手にしなければいけないということ。

 そこで鈴々ちゃんが私の顔を覗き込む様に見つめてくる。


「雛里、そんなに心配する事ないのだ。連合の時は鈴々達も無風お兄ちゃんに勝てなかったけど、今の鈴々達なら無風お兄ちゃんにも勝てるのだ。だから呂布も問題ないのだ」


 鈴々ちゃんは笑顔で私を安心させようとしてくれます。

 しかし、その笑顔は多くの人達を守らんと誓った、とても重みのある笑顔でした。

 

「こら鈴々、無風殿だって鍛錬を怠っていなければ勝てるか分からないんだぞ。そんな事言って後で負けても………ん?なんだ?周りが騒がしいな」


 鈴々ちゃんを注意していた愛紗さんでしたが、急に周りの兵士を見渡しました。

 確かに兵士さん達が、特に前線の方の兵士がザワザワと落ち着きが無くなっている様です。


「なんだ!何があった。星、様子を見に行くぞ。……星?」


 愛紗さんが星さんを呼びますが、星さんの反応がありません。

 そういえば先程から星さんは声を発していませんでしたね。

 どうしたのでしょうか?

 何やら敵勢の方を見て驚愕の表情をして固まっています。

 その星さんの視線を追って敵勢力の方に顔を向けました。

 そこに見えた物は………


 まるで地獄の底からやって来たかの様に思わせる黒一色の大きな旗。


 真っ黒に染められた棒、真っ黒に染められた旗、物は私達もよく使う自身の存在を表す"牙門旗"


 闇に侵食されたかの様に黒く染められた牙門旗に白く書かれた『無』の一文字。



 

 暗黒の無旗




 誰も。

 そう、誰も声が出なかった。

 どうして彼が……あの人が私達と相対しているのか。

 目に涙が溜まり、視界がぼやけるのもお構いなしにその旗を見つめる。


「無風さん!!」











 自身の悲鳴にも似た叫び声は











 旗を揺らす事も無く











 溶ける様に……虚空に消えていった


up主「皆さん、こんにちわこんばんわ」

華琳「おはようございます」

無風「…………」

up主「何か言ってよ!?まるで滑ったみたいじゃないか」

無風「…………だって……滑ってた」

華琳「挨拶で滑る人を初めて見たわ」

up主「え!?俺、滑ってた!?滑って無くね!?」

華琳「大人しく白状なさい。滑ったと」

up主「はい………滑りました。ってなんで容疑者扱いなんだよ」

北郷「up主五月蝿いよ。やっと徹夜してた朱里達を寝かせられたのに。起こしたら悪いだろ」

up主「マジ、すんません」

華琳「やっと罪を認めたわね」

up主「そっちは認めてないわ!」

流琉「up主さん。お夜食出来ましたよー」

up主「ありがと流琉ー。………いやいやいや、なんで?なんで夜食作ってたの?てかなんで皆、俺の家に居るの?おかしくね?」

華琳「私が呼んだに決まってるじゃない」

up主「華琳さん?謝罪するの俺じゃなくて貴女の方だよね?」

流琉「えっと、あの、お夜食…要りませんでした?」グスッ

up主「要ります!要りますから泣かないで!泣かれるとこっちもどうしていいか分かんないから」

華琳「女の子を泣かせるなんて最低ね」

up主「そうやって精神的に弄るウチの奥さんも最低だと思います」

華琳「最低夫婦だなんて、照れちゃうわね」

up主「えっ!?そこ照れる所!?」

無風「…………息はぴったし」

北郷「無風に同意」

流琉「以下……同文?」

up主「おい無風、流琉に変な言葉を教えるな」

無風「…………何も変じゃない」

up主「こんな時に使わせるんじゃねぇよ!しかも否定しなかったコイツ」

無風「…………誘導尋問された」

華琳「流石は最低な我が夫、といった所かしら」

up主「今の上手い事言ったつもり!?てか誘導尋問なんかしてねぇよ」

流琉「up主さん、元気だして下さい。私は分かってますから」

up主「今ここで優しい言葉は禁句だろぉぉぉ」

北郷「芸人じゃないんだから別にいいだろ」

無風「…………何だかんだ言って、本人も楽しんでる」

up主「うるさいやい!」

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