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二度目の裏切り

前回のあらすじ

・レオ、苦労してんなぁ

・曹操軍ピーンチ

・今日の気分は抹茶オーレ←


 唐突ですまないが、俺は現在捕虜になっている。

 足は歩くために縛られていないが腕は後ろで組まされた状態で縄をグルグル巻きにされている。

 そして現在は大将格の人間の元に連行中……だと思う。

 流石に俺でも未来が視える訳じゃないからな。

 このまま監禁場所に閉じ込められる可能性もある。


 そもそもどうして捕虜になったのかから話すべきか。

 事の成り行きは3日程前に(さかのぼ)る。


・・・・・


 この世界の管理者と話を終え、一区切りした所でまさかの銀狼が寝床に突進してきた、文字通り。

 

(自分の寝床も吹き飛ばして、一体自分の行動に利が無い事に気づかないのだろうか…)


 そして、俺を一瞥してから寝床を奪った太公望を睨む……かと思いきや、確かに数瞬睨んだが相手が誰かを認識した途端に呆けた顔になった。


《なんだ、誰が俺の奪ったのかと思ったら項籍(こうせき)じゃねぇかよ。久しいじゃねぇか!何年振りだ?》


 知り合いかよっ!

 コイツ管理者とかいう胡散臭い奴だぞ!?

 

「やっぱり君だったんだね琥珀」


 コイツの名前、琥珀って言うのか。

 

《その名前で呼ぶって事は、お前も本物だな項籍。しかし、お前は変わらないな》

「だって僕は管理者に"成った"んだから、年は取るかもだけど精神や肉体は老けないさ」

「…………まて、成ったとはどういう事だ」


 その言い分からすると、元々は管理者じゃ無かったという風に聞こえる。


「うん、僕は元々この世界の人間だった。その時色々有ったのさ」

《まぁ、ぶっちゃけるとコイツが管理者になったお陰で、この世界は崩壊を免れた。ってところだ》

「琥珀、それはぶっちゃけ過ぎだよ。それにそんな昔の事、もう忘れちゃった」


 話が見えない。

 どうやら俺が理解できてない事に気がついたのか、太公望が少しだけ説明してくれた。


「簡単に言うとね?外史って管理者が管理してないといづれ崩壊していく運命なんだよ。植木鉢の花と一緒さ」


 なるほど、若干ではあるが理解できた。

 管理されてない外史はその内に荒れて正史から遠ざかったその瞬間、命の灯火が潰える。

 まるで放置された花壇の花が枯れ落ちるかのように。


「…………そういえば、仲達はどうした?」


 銀狼が突撃して来たという事は結界は無くなった筈、そうなれば仲達もこっちに来ておかしくないのだが……


《小娘か?小娘なら俺の背中で伸びてるぞ》


 そう言って銀狼が徐々に寝転ぶ形に背中を斜めに反らしていくと、背中の真ん中あたりの毛がバサバサと動いて仲達がポトッと落ちてきた。

 見てみると、確かに目を回している。

 ってか下ろしてやれよ。

 もう帰るから無理矢理に仲達を起こす俺も俺だが……な。


「…………仲達、起きろ。帰るぞ」


ペチペチ


「う~ん」


 起きる気配が全くない。

 こうなったら最終手段だな。


「…………てい」


 必殺!……………鼻をつまむ。


……

………

…………


「…………ぷはぁっ!?な、何するんですか!殺す気ですか!」


 おー、見事に成功したな。

 たまに鼻をつまんでも口で呼吸する人がいるが、仲達は鼻での呼吸がメインになっているんだな。

 口呼吸して寝る奴は起きた時に口の中が乾燥しきって唾を飲み込むのも一苦労らしい。

 それに唾液が乾燥して口臭も悪くなるとも聞く。


「無風さんは私を殺したいんですか!そんなに私の事が嫌いですか!」

「…………何を興奮している。帰るから起こしてやったのに」

「しかも反省の色も無し!?酷い!酷すぎます!」


 仲達も何だかんだ言って天然っぽい所があるよな、そして五月蝿い。

 そんなこんなしながら太公望と銀狼に別れを告げて仲達のお小言を聞きながら山を降りる。

 山を降りて半分位来た時、ふと重要な事が頭を過った。


「…………まて」


 その言葉に仲達が反応して立ち止まったが、そういう意味で「まて」と言った訳ではない。

 銀狼、アイツは何といった?

 太公望の事を『項籍』と言っていなかったか?

 いや、確実に言っていた。

 項籍という名で気付く現代人は多いのか少ないのか分からないが、『項羽(こうう)』と言えば察しのつく人は多いだろう………多分。

 項羽といえば中国がまだ(シン)と呼ばれていた紀元前200年頃の武将。

 単純計算をして紀元前200年から後漢末期、つまり3世紀目の200年前後と考えても400年以上前の人物だぞ。

 しかも項羽といえば、『西楚の覇王』と呼ばれた人物。

 恐らく孟徳の覇王を目指す切っ掛けに少なからず干渉したであろう歴史上の人物だ。

 だが、納得いく面もある。

 何故彼が管理者となったかは知らんが、この地を選んだのか。

 前述にも書いたが、彼は西楚の覇王と名乗った。

 その由来は彼の本拠地であり故郷であったのが楚の彭城という所。

 この彭城があった場所こそ、何を隠そう、この徐州だ。

 そう考えれば彼の者がこんな所にいるのも頷ける。

 

 それにしても人生、何があるか分からんものだ。

 まさか現代から約2200年前の人物にまで会う事になろうとは。

 誰も想像出来やしない。

 ………したくもないが。

 はぁ、頭痛い。


・・・・・・


 これが約五日前の出来事

 そして山の麓にある村へ戻り、村長に呪いを解いた事を告げたが全く信用されず、実際に村の人間が更に麓を降りた街へ馬で駆け下りて実証してから、それが真実だと分かると村の人間総出で祝われた。

 全くもって現金というか疑り深いというか。

 そして後は余熱(ほとぼり)が冷めるまでこの村で休憩ついでに情勢の傍観と決め込…………みたかったのだが、村に戻って二日ほど経った頃、そう俺がちょうど捕縛された3日前に"そいつら"は現れた。

 部隊と言っていい程の人数が村の前で集まっていたのだ。

 途轍(とてつ)もなく嫌~な予感がしたので、仲達には外套を纏わさせ姿を隠さす事に。

 何故、こういった時に限り自分の予感が的中するのか、不思議でならない。

 ちょうど太陽が真上に来るか来ないかする位置に来た時、ソイツらは俺のときと同じ、ドアを蹴破って中へ侵入してきた。

 自分でやる分にはいいのだが、他人に同じ事をされると無性に腹が立つのは人間の自己中心的な本能なのだろうな。


「お前は強いのか?」


 家は村長から空家を借りたのでそこまで愛着は無いが、土足でズケズケと入り込んできた上に数人が俺に剣を向け、(あまつさ)え上から目線な質問。

 その態度に腹が立つ。

 自分でやる分にはいいけど………

 こりゃ村長以下村人は脅されてたな、確実に。

 俺の存在はなるべく口外しないよう注意して貰うよう頼んではいたが、そりゃ誰だって自分の命は守りたいわな。

 村長だろうとそれは同じ、まぁ別に自己犠牲の勇気なんてクソ喰らえだと思っているからいいんだけど。

 別段絶対に言わないでくれという訳でもなかった上、最終的には自分の命は自分で守る。


「…………さぁな」

「質問に答えろ貴様ぁ!」


 兵士の一人が首に剣を押し付けて叫んでくる。

 怒声的には元譲に似ているが、纏う威圧感や声量もアイツの方が桁違いにでかい。

 正直、気持ち一つ揺れなかった。


「やめろ、確かに質問が悪かった。自分がどれだけ強いかななど己では測れないからな」


 剣を突きつけた兵士を制止させた男の方がまだ強そうに感じる。

 ま、そうでなくては上司は務まらんか。


「だが、剣を喉元に突き付けられても眉一つ動かさないとは。確かにあの爺さんが言ってた通り、弱くはなさそうだ。付いて来て貰おう」

「おら、立て!早く歩かんか!」

 

 さっきから剣を突きつけてきた奴が鬱陶しい。

 てか、普通に考えて強いかもしれない人間を探しててそんな強気な態度で接していいのか?

 逆鱗に触れて殺されるとは考えない程の馬鹿だな。

 そしてそれについて何も言わない他の兵士と隊長格の人間を見て、明らかに練度は低い。

 統率がしっかりとされてないのが見え見えだ。

 まだ推測の域を出ないが仲達を隠したのは正解だったかもしれない。


 そしてその兵士の指示に従って椅子から立ち上がり素直についてゆく。

 連れて行かれたのは村の入口。

 そこには未だ村に滞在していた旅の人間が………ざっと数えて7人ほどが立っていた。

 その内5人は男で、如何にも『俺強いです』といった風格を醸し出していた。

 あとの二人は女、一人は濃い赤茶色の髪にメガネ、そして青と紫を基調とした服を着ている。

 特に特徴的なのは薄い青色をした目、メガネをしているくらいであるから目は鋭い、物が見にくいという意味で。

 目頭も若干上に上がっているので睨まれてる印象を受ける。

 

 もう一人は隣の女性より頭一つ……いや半分くらい小さい女の子。

 目を引くのは金髪ロングでウェーブが掛かった髪、それと頭の上に乗っかっている異物。

 人形?の様だが何だあれ、訳分からん。

 頭の上に人形を乗っけてる時点で訳分からんが。

 あとは、この子もやはり目が特徴的だ。

 若干横目でこちらを見てきているが、眠たいのか睨まれてるのか、ジト目で見てくる。

 それに目の色が濃い緑色をしている為に髪と相まって目が目立って見える。

 服装は………これも良く分からんが服の感じで言うと趙雲の服に似てなくもないってとこか。


「あらー?おにーさんじゃーねーですかー」

「…………」


 メガネの女性とはこれが初の面識になるが、実はこっちの金髪の女の子とは少しだけ面識がある。

 それは村の周りにあった結界を取り払って村人に歓迎されていた時の事だ。

 村人が喜んでお互いにハグし合ってる中心で仲達と共にポツーンと突っ立っていたとき、後ろから服をクイックイッと引っ張られてそちらを向いたらこの女の子が立っていた。


「おにーさん凄いですねー。まさかあの大規模な結界を壊しちゃうなんてー。一体何者なんですかー?」

「…………結界の事、わかってたのか」

「はいー。でもそれをどうにかする力を私は持っていないのでどうする事も出来ませんでしたがー」

「…………傍観するいかなかった……か」

「でーですねー。質問には答えてくれませんかー?」

「…………断る」

「そうですかー。まぁ、確かにこちらとしても簡単に教えてくれるとは思ってませんでしたし。別に困りはしませんしねー」


 マイペースという言葉がよく似合う子だなと思いながらも警戒する。

 結界の事を知っていた上、こちらの正体を勘繰って来た。

 村の人間からすれば、俺たちの正体なんてどうでもいい筈なのだ。

 だからコイツは村の人間では無い、そしてかなりの智謀を兼ね備えているな。

 

「ぐぅ………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………むぅ、おにーさんはノリが悪いのですねー。自分で起きる羽目になるとは」


 もしかして、今起こさなければいけなかったのか?

 明らかに氣が寝ている物と別だったのだがな。

 その時はそれでこの女の子は立ち去ってしまった。

 それがまさかまだ村に残っていたとは思わなかったが。 


「風、この方と知り合いなのですか?」

「ええー、結界を解いて貰ったときに少しー」

「ああ、この方が。どうも初めまして………えっと」


 メガネの女性が困った顔で視線を泳がせている。

 俺の名前を知らないからな、そりゃそうだ。

 だがしかし、そこで素直に名を名乗る訳にもいかない。

 何故か、それはこの一連の流れが相手の"罠"だからだ。

 前述での女の子との会話に戻るが、彼女は俺に名を聞いて来たとき、『簡単に聞けるとは思ってなかった』と言った。

 それでも聞ければラッキー程度で聞いてきたのだろうが、な。

 だが同時に彼女が頭が回る人物であるとも認識している。

 そこに"穴"が生じた、いや生じる筈だったというべきか。

 再度彼女と会うことで警戒心を生ませ、隣の女性から幾分か意識を自分に集中させる。

 そうすることで隣の女性への対応が若干であるが無防備な所が生まれる。

 だが、彼女らからすればその"若干の隙"さえあれば十分。

 心の隙を突く心理戦、実に見事。

 だが残念だ。

 俺に心理戦は効かない。

 なにせ、普段から人を信用しない&されない人間だからな、俺は。

 常に相手の思考を探ろうと構えている人間にそれは通用しない。


「…………よろしく」

「やっぱり無理でしたねー。凛ちゃん、私達の負けですね」

「くっ……!」


 真名を風と凛といった女性陣はこちらに近寄ってきてペコリと二人してお辞儀をしてきた。


「不愉快にさせたのなら申し訳ありません。あの状況を打破した貴方の実力を知りたかったのです」

「風も申し訳ないとは思ったのですがー。貴方の様な人物が未だに乱世を漂っているのが不可解だったものでー。どうもすみませんでしたー」

「…………別に………気にしてない」

 

 そういうと二人が顔を上げてどこかホッとした様に胸をなでおろした。

 そしてメガネの女性がキリッとした顔で喋りだした。


「失礼をした詫び……では無いですが、自己紹介を」

「じゃあ先ず風からですねー。姓は程 名は昱 字は 仲徳ちゅうとくというのですよー」

「私は姓を郭 名を嘉 字を奉孝ほうこう。以後、お見知りおきを」


 なん……だと。

 まさかこんな所で郭嘉と程昱に出会うなんて思わなんだ。

 確かに報告を全くと言っていい程聞かなかった。

 いくら名を隠していても、その才だけは隠してようがないと踏んでいたが、こんな所で立ち往生を喰らっていたか。

 そういや村長も黄巾が終わった当たりから結界が張られていたと言っていたな。

 

「…………俺は無風 雛と言う。まぁ………よろしく」

「「!!」」


 流石に自己紹介されて自分は言わないという程失礼では無いし、先ほどのやり取りは読み合いだったというだけ。

 隠すような名でも、身分も無い。

 だが、どうやら前の二人はまるでその名前が出ることは想定外だったとでも言うかの様に目を見開いている。

 程昱までもが半目だったのが今は見開かれていて、なんだが若干怖い。


「貴方が……あの無風殿だったのですか!」

「これはこれは、凄い人に出会っちゃいましたねー」


 どの無風殿なのかは知らないが碌な事は言われて無いだろうなぁ。


「…………ほぅ………有名なのか?……俺は」


 それでも一応はどんな風に言われているのか、同じ情報だったとしても聞いておく事に損は無い。

 俺の問いに郭嘉がメガネをクイッと中指で押し上げて調整し喋りだした。


「はい、色々な噂を耳にします。『裏切りの死者』『民の救世主』『董卓殺しの大罪人』『戦鬼』などなど」

「最近では『董卓殺しの大罪人』が主ですねー。洛陽に住んでいた民は董卓がどのような人物か知っていましたしー。相当怨まれてますよー」


 いろんな二つ名が付いたものだ。

 孟徳の元に居た時の噂よりかは断然いい。

 だが、郭嘉の話はまだ終わりではなかった


「しかし、時偶に無風の話を聞くとこう答える者がいました。『彼の者を本当に仲間にするくらいならば天下を取る方が容易い』……と」


 誰だそんなデタラメな事を言った奴は。


「…………そんなありもしない噂が流れているとは知らなかったな」


 冗談半分に肩を透かしてそう答えると思わぬ人物から意義を唱えられた。


「本当にそうですかねー。風は嘘では無いと思ってますよー」

「風?」


 隣にいた郭嘉も隣にいた親友の言動に疑問を抱いている。

 そりゃそうだろう、俺を仲間にするくらいなら天下を取ったほうが早いなんて。

 目的と結果が逆になってるじゃねぇか。

 俺を手に入れれば天下は取ったも同然とかなら理解はしかねるがわからなくもない。


「風も情報でしか分かりませんが、おにーさんは連合で董卓を討ち取ったんですよねー」

「…………そうだが」


 まさかここで本当は殺してませんとか言えるわけ無い。


「それでいて彼の飛将軍呂布すらも退けたとかー」


 程昱、コイツは全てお見通しって事か?

 眠たげな半目でこちらを見上げてくる目が、何故か異様な雰囲気を醸し出してる錯覚を覚える。


「そんな人物がもし仮に、他の諸侯を皆殺しにしていれば、天下は無風さんのいた諸侯が決まっていましたよ」


・・・・・・


 そう、これが三日前の出来事だ。

 その時も、その後直ぐに連行されていった為に強制的にお開きとなった。


 まぁ、それ以前にどうして俺が捕虜になって大人しくしているのか、きっと玄徳ならば頭を傾けて分からないといった顔をするだろうな。

 理由は幾つかあるが、大まかに分けると二つ。

 一つにはどこの諸侯が玄徳が治める徐州を攻めてきたのか確認する為。

 二つにはどうしてこんな場所に居るのかを知る為。

 

 一つ目は言わずもがな、何処の何奴が攻めてきたのかを把握する事だ。

 だが、大体は予想がつく。

 孟徳はまず有り得ない、袁紹とにらみ合いをしているから先に動くことは無い。

 次に孫策、コイツは絶対に有り得ないという訳では無いが、未だ袁術の下にいた筈だから下手には動かない。

 公孫瓚は徐州入りする前に袁紹が攻めたと噂が流れていたから無いだろう。

 残るは袁術、コイツが一番可能性としては高い。

 前述でも述べたが袁紹が公孫瓚を降し幽州を手に入れた事は既に耳へ入っていると思われる。

 それで焦って自分も、という線が一番濃厚だな。

 だが二つ目の理由で考えるなら袁術がここにいるのは有り得ない。


 二つ目は何故、ここにいるのかだが。

 俺が居た村は徐州広陵郡の端に当たる位置だ。

 少し降りれば海もある程の場所。

 袁術の本城は南陽だから、もしも袁術が攻めてきたのなら、真っ直ぐ東進して彭城か、一旦東南に進み下邳へ北進するルートの二択だろう。

 それが、下邳を避けるようにグルッと回って背後から攻める意味が分からなくなる。

 二つ目の理由でどこの諸侯かを選ぶのならば孫策か、あるいは荊州の南方面一帯に影響力のある劉表だけ。

 劉表も俺の知っている正史と少し違うので偶に忘れそうになるが、あれも天下を狙おうと思えば行動できる諸侯の一人、正直侮れない。

 

 大まかに以上の理由から兎に角会ってみる、という決断に至った訳だ。

 そして山を抜け森を出、荒野にある軍を見つける。

 その旗は………『袁』

 

(やはり………か)


 だが、袁術がここにいる理由はなんだ?

 いや、ここに何か"あった"。

 だから、ここまで遠回りしてきたというのが一番ありえそうだな。


「ぐずぐずするな、早く歩け!ちょっ!?ま、待て!」


 ここに来るまでかなり高圧的な態度の兵士に、流石に我慢の限界だったので言われた通りにズンズンと歩いていき、逆に兵士を縄で引っ張る形にしてやった。


「待てと言って…!おわぁ!?」


 ふぅ、ざまぁねぇや。

 縄を引っ張って俺を転ばそうとしたのか、引き止めようとしたのかは定かでは無いが、その反動に負けて転び、俺が止まるまでの数秒地面を転がっていた。

 少しは鬱憤が晴れたな。

 着ていた防具のお陰で地面に擦れて怪我はしていないようだし。


「…………早く歩けと言った」

「くっ……!?」


 悔しそうに顔を歪めたが、何も言わず俺を引っ張って袁の旗が沢山(なび)いている陣の内部へと連れ込まれる。

 何故か陣の中に広すぎる広場の様な所で一箇所に集められ、暫く待たされた所で陣の一角が騒がしくなった。

 今度は一体何だとか思った所で広場を囲っていた兵士の一部が割れ、そこから幼子としか言えない子が出てくる。

 まず一言で言うと黄色、とにかく黄色、上から下まで黄色。

 それしか言えない………


「うぬ、そちらが妾の軍に入りたいと申す者等だな?」

「…………は?」


 いきなり勘違いしてないかコイツ。

 他がどうかは分からないが俺に関しては捕虜扱いだぞ。

 だが、そんな事お構いなしに黄色い幼子が満足げにウンウンと一人納得してる。

 ここまでくれば、認めたくは無いがあの黄色いのが袁術と見て間違いないだろう。


「ん?お主は何故、目に布を巻いておるのじゃ?」


 考え事をしていたら、袁術と思われる幼子に目を付けられてしまった。


「…………お前には関係ない」

「貴様!袁術様に向かってその口は何だ!今すぐ跪け!」


 袁術の周りを固めていた近衛兵と思われる兵士等が抜刀し、四方から剣を肩と首に押し付けて地面に膝を着けさせようとする。

 しかし、そこで意外な人物が現れて俺を囲っていた兵士を引かせた。


「袁術………そいつ殺すなら………恋にやらせろ」


 俺に当てられていた剣が全て体から離れ、代わりに戟が喉元に当てられた状態になる。

 そして、戟を持って殺気を隠さず俺に向ける人物、『呂 奉先』。

 これで袁術が遠回りしてまでも得たかった物が分かった。

 なるほど、少なくとも袁術は呂布がこの地に潜伏しているのを知っていた訳か。

 だが、呂布の怒気も異常だ。

 ここはカマをかけて様子を見てみよう。


「…………なんだ呂布、俺に用か?」

「お前が………月を殺した。だから…………恋はお前を殺す!」


 やはりと言うべきか、董卓絡みなんだな。

 だが、こちらも手が無い訳ではない。


「…………一度負けた奴が何をほざく」

「………」


 連合軍のあった時、呂布に一度打ち勝っている。

 喉元に戟を当てられたまま、ニヤリと笑い返す。

 呂布と俺の殺気がぶつかり合い、周りに風ならぬ流れが渦を巻く。

 半分本気の半分はハッタリ。

 確かに呂布には打ち勝ったが、こちらも無傷では無かった。

 次にやり合えばどちらが先に倒れるか分からない。

 それでも効果が有った様で、呂布は警戒心を強めるだけに留まった。


「わ、妾の前で一騎打ちなど、す、するでない!な、七乃~助けてたも~」


 呂布から意識を外して周りを見ると、近くにいた兵士や郭嘉・程昱以外の冒険者の男共が倒れていた。

 闘気に当てられて気絶したか。

 そして袁術が半泣きになりながら隣に立つ女性……というより少女に助けを求めている。

 青いショートヘアにキャビンアテンダントのギャリソンキャップみたいな帽子を乗せた、まさにキャビンの乗務員(若すぎるが)みたいな子だ。


「ああ、呂布さんの覇気に当てられて泣きじゃくってる美羽様可愛いですぅ」


 ………ああ、うん。

 袁家の人間にもまともな人なんて居ませんよね。

 …居てほしい。


「七乃ぉ!」

「はいは~い、分かってますよ美羽様。呂布さ~ん、陣内で私闘乱闘なんかしたらご飯減らしますよ~」

「………」


 呂布が七乃とか言う少女に説得され戟を下ろす。

 呂布は呂布で色々な事情があるって事か。

 これがもし、袁家に利用される事が分かっている上で利用されているとしたら、呂布陣の食料事情はかなり深刻らしい。


「それに貴方もですよぉ~。呂布さんに喧嘩を売るなんて、自殺志願者かなんかだったら他所でお願いしますね」

「…………先に喧嘩を吹っかけて来たのは呂布だ」

「ん~?呂布さんが一目置くなんて、失礼ですがお名前は?」

「…………先にそちらの名前をお教え願う」

「自分の立場が分かってますか?この兵士の数が見えてない様ですね」

「…………逆に言わせて貰おう。『そんな数で』止められるとでも?」


 青髪の少女は最初の暢気な雰囲気と打って変わって警戒心を含んだ目で見てくる。

 だが、あくまで自分のペースは乱さず、相手に隙を見せず。

 心意気は立派だが実力が伴ってないという所だな。


「仕方ないですねぇ。私の名は張勲といいます。以後、お見知りおきを~」

「…………無風 雛だ」

「!!」


 張勲という少女は、俺の名前を聞くなり警戒心を更に高めた。

 斯く言う俺の方は張勲の名を聞いても、全くと言っていい程どんな人物だか知らない。

 知らない……もしくは忘れている。

 現代に居た時、三国志の漫画を一度二度読んだだけだし、既にそれだって2年ほど前の話だ。

 三国……いわゆる魏蜀呉の連中ならば色々と覚えているが、それ以外となると結構曖昧な部分が露見する。


「なるほど。道理で呂布さんと。それで、どうして貴方がここに?」


 抽象的にしか話してないが、大体言いたい事は把握できた。

 要するに、劉備勢に居た俺がどうしてこんな所にいるのかを聞かれているんだろう。

 こっちからすれば、勢力を抜けた一個人だが、相手からすればこれから攻めようとしている勢力の手先だもんな。


「…………劉備には愛想が尽きた。彼処に居たらいづれ終わってただろうから出奔したんだ」


 出奔という言葉を聞いてか、張勲は警戒心を霧散させた。

 

「そうですか~。確かに劉備さんの真名を口にしてない所から察するに本当なのでしょう」


 そっちか。

 真名を預けているのに真名で呼ばないのは最大級の失礼に値すると以前、孟徳だかに言われていたが。

 まさかここまで効力があった事に驚きを隠せない。

 そんな風習が無いから真名の重要性が良く分からん。

 すると張勲は和やかな笑みをして指をピンと立て、如何にも「いい事思いついた!」みたいな顔で提案してきた。


「そうです。無風さん、美羽様の傘下に加わりませんか?1日3食昼寝付き」


 昼寝は自由にしてるし、1日3食は当たり前だろ。

 という突っ込みをしたかったが、そんな人間として満足な生活を出来ない時代でもあるから黙っていた。

 ………北郷ほどでは無いが少し賭けに出てみるか。


「…………3つ条件がある」

「ん~?なんですか~?聞かせてください」


 よし、釣れた!

 自分の事にはとんと疎いから、どこまで相手に影響力があるのか分からなかった為に、郭嘉達から聞いた噂の情報が無ければこんな賭けには出れなかった。

 

「…………一つに………呂布を俺の指揮下に置かせてくれ。………一々袁術の許可を取るのは面倒だ」


 うわぁ、自分で言っておきながら滅茶苦茶な提示したかもなぁ。

 北郷ならばもう少しマシな交渉をするのだろうが、俺には無理だ。

 交渉術ってのは難しい物だ。


「うーん、そうですねぇ。私も一々通すのは面倒ですし~。いいですよぉ~呂布さんが裏切らない様に牽制役もして欲しいので」


 あ、アホだ。

 自分で言っておいて滅茶苦茶だと思っていたのに、まさか通しやがった。

 袁家が影で馬鹿にされるのが少し分かった気がした瞬間である。


「…………一応、策をそちらに見て貰ってから呂布に通知する様にしよう」

「はいはーい、それで結構です。それで、もう一つはなんですか?」


 袁術、張勲はここで上手く騙せても他も同様に行くとは限らない。

 だから、一応は味方になった様に振る舞っておかないと。

 そして張勲はもう一つの条件の提示を催促してくる。 

 完璧雇う気だな、こりゃ。

 もう少し警戒してくれないと此方が遣り難くてしょうがない。


「…………二つ目は………何時でも料理をする許可をくれ」

「料理…ですか?」


 二つ目は完璧こちらの趣味というか、まぁ策の一部でもあるが重要度はかなり低い。

 代用は他に幾らでもできるから。


「…………別に袁術に出す訳でも無い。ただ自分の飯ぐらい自分で作る」


 一番の危惧で言えば、呂布陣に料理できる人間が居るのかどうか。

 呂布は論外、アイツは完璧食う専門だろうし。

 これは俺の勝手なイメージだが、呂布陣にまともな料理を作れる人物は居なさそうだから。


「それぐらいでしたら、別に構いませんよー」

「…………そうか」


 2つ、条件を呑んだ。

 3つ目がどうなるか………まぁ、こちらも俺個人からすればどうでもいいがな。 


「…………3つ目は、偵察あるいは諜報に長けた兵を二人貸して貰いたい」

「へ?2人………ですか?はぁ、それくらいなら構いませんけどー。……一体何様に?」

「…………少し気になる事があるだけだ」


 杞憂で済めば万々歳だが、もう何時"アイツ等"が牙を向いて襲ってきてもおかしくないだろう。

 情報だけでも知っておいて損はないし……な。

 そして3つ全ての条件を満たした。












「…………これよりは、袁術配下の客将として努めよう」











 全てを守らんとする為に、今一度仲間を裏切る。


雛里「あわわ!?無風さんに裏切られました」

無風「…………ごめん、雛里」

雛里「そんな、無風さん。酷いです、酷すぎます」

up主「だから俺のプリンやるから期限直せって二人共。無風だって知らなかったんだし」

雛里「うぅ~」

無風「…………」

up主「いや、人の話をまず聞けよ、コラ」

華琳「まったく、それは野暮という物よup主」

up主「は?どうして?」

華琳「雛里はね、無風に構って貰いたいから態とああやってるのよ」

up主「構って貰いたい乙女心って奴ですか?」

華琳「まぁ、男から見たらそんな物ね」

up主「女にはどう見えてるんだ……」

華琳「それよりも、雛里の心境を少しは分かったのなら、少しは手伝ってやりなさい」

up主「それもそうだな。おい、無風さんやー」

無風「…………何?……なんか用?」

up主「だいぶ凹んでんな。そんなに悪い事したと思うんなら雛里と一緒に買い物に行って買ってやれ」

無風「…………でもそれじゃ………意味ない」

up主「あるある。あるから雛里を連れて早く行け。明日の朝になるまで帰って来るな」

無風「…………何げに酷い………けど、分かった。……行ってきます」

up主「いってらっしゃい。あー、転んだら危ないから手繋いで歩くんだぞー………ふぅ、こんなもんか?」

華琳「貴方にしては、まぁまぁいい方ね」

up主「ほっとけ。しかし、まさかあのプリンが雛里の罠だったとは。孔明の罠ならぬ士元の罠か」

華琳「ええ……鳳士元、侮れないわね」

up主「さてさて、じゃあ俺は俺の相方を構ってあげないとな」

華琳「何よ。まるで私が構って欲しいみたいな言い方」

up主「俺が華琳に構って欲しいの」

華琳「………バカ」

up主「華琳の事は分かってるつもり」

華琳「………ばーか」

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