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それぞれの思惑

エアコン壊れたぁー!

なんか煙吐いてるぅー!

こわいー!


 無風が曹操と洛陽で合っている頃、孫策軍では・・・


================雪蓮視点================


 はぁ、つまらないわねー。

 袁紹が動けないから、後方にいる私たちまで動けないのよねー。

 ま、正確には私たち以外は軍が動けない、の間違いだけど。

 私が動けない理由の一つには、袁術の間諜が紛れ込んでいて下手に動けないから。

 下手に動けば、袁術に軟禁されている小蓮の命が危なくなる。

 小蓮、私の可愛い妹の一人。

 あの子は蓮華と同じく、この乱世を終わらせた"後の"呉に必要になってくる大切で大事な末っ子。

 まぁ、あの子の傍には"あの男"が居るから万に一つも無いけれど。

 小蓮の傍に居ればアイツは大人しいしー。

 だから、この連合にも連れて来たかったけれど、シャオを連れて来れなかったからアイツも連れて来れなかったのよね。

 アイツが居ればこの戦況も大きく打開出来たでしょうに。

 悔しい訳ではない。

 ただ、その"もしも"の世界では、どうなっていたのかが気になるだけ。

 その時、ふっと脳裏を過ぎったのは、劉備軍の将。

 たしか名を・・・・・・無風という名だったわね。

 あの晩、私の元に一人の天の御使いが居る事を見抜いた謎多き男。

 要注意人物中の要注意人物。

 あの男と同じく珍しい名をしている。

 しかし、無風は全身を外套で包んでいたからか、印象が薄かった。

 けれど、普通ならばそんな姿をしていれば逆に印象に残るはず、だから何かしらの方法で印象付けられなくされていたのだろう。

 しかし、それで終わらされる私ではない。

 既に思春と明命に無風の情報を探らせて、人物像まで把握している。

 と言っても、調べた所で何かある訳でも無いけど。

 明命には引き続き無風の監視を任せ、今は様子見と高みの見物を決め込むと冥琳が言っていたので、現在は自身の天幕で横になっている。

 のんびりしながら、祭のところに行ってお酒でも飲もうかと考えていると、ふいに天幕入口から気配を感じた。

 

「雪蓮様、失礼します」

「明命?なーんだ、間諜じゃ無かったの」

「ぶ、物騒な事言わないでください。・・・"烏"の方に動きがありました」


 烏とは、無風の姿から連想させた暗号用の名前。

 つまり、洛陽で何かがあったのだろう。


「で、動きって、何があったの?報告して頂戴」

「はっ!曹操が洛陽に先鋒隊に混じり、急行。洛陽到着の直後に劉備と一悶着あり、現在は無風と曹操が戦闘を開始。交戦中です」

「なんだかすっごく楽しそうなんだけど。いいなー、私もやりたーい」

「だ、駄目ですよ!雪蓮様は呉にとって大事な王なんですから、それに今から行っても間に合いません」


 明命が慌てた様子でいるのを眺めながら和み、やっぱり祭の所に行ってお酒でも・・・・・・


「雪蓮、入るぞ。・・・ん?明命か、帰ってきてたのか」

「うー、なんか私にお酒を飲ませない陰謀を感じるわ」

「何を訳の分からない事を、明命が居ると言う事は烏に動きがあったのか?」

「はい、現在は無風と曹操が戦闘中との報を伝えに」

「なるほど、ならば話は速い。今し方、洛陽に向けて暗殺部隊と思われる一団が入って行くのを、こちらの諜報員が目撃したそうだ。所属はまだ判明していない」

「袁紹でしょ。暗殺"部隊"って、暗殺者をそんな一気に動員できる諸侯なんて限られてくるし」

「いやしかしだな、ちゃんと調べてみない事には・・・・・・」

「えー、私の勘だと袁紹だと思うんだけどなー」

「はぁ、お得意の勘か?」

「そ♪勘よ、勘」


 私は自信満々の顔を冥琳に向けるが、冥琳は眉間を指で押さえて呆れ顔をしてるし、明命は苦笑いで居るし。

 なによー、信じて無いって顔してー。


「雪蓮の勘は良く当たるからな、恐らくそうなのだろうが、生憎私は軍師だからな、確証が欲しい。個別に調べさせてもらうとしよう」

「当たってると思うのになー」

「ふふ、まぁ、この話は終わりだ」

「あら?まだ何かあるの?」


 そう言うと冥琳は再度、顔をしかめてしまった。

 恐らく吉報で無いのは明らかだ。


「袁術が護衛に付けと言って来た。あやつもこちらに向かってくるそうだ」

「はぁ?なんであのおチビちゃんがこっちに来るの?泗水関で派手にやられたってのに、懲りないわねー」

「なんの益も無しには帰れんのだろう、それで自分たちの護衛を言い付けてきたって所だな」

「そこまで来ると、逆に感心しちゃうわ」

「全くだ。それもどうせ張勲が焚きつけたんだろうな。嫌でも光景が目に浮かぶ」

「あー、それ分かるかも。『美羽様ー、私たちも追いつかないと袁紹様に手柄ぜーんぶ持って行かれちゃいますよー』とか言って」


 冥琳と二人で笑い合っていると、明命がおずおずと質問してきた。


「あのー、あんまりその様な事を大声で言わない方が……どこに間諜が潜んでるかも分からないですし……」

「大丈夫よ、明命。袁術、もとい張勲がシャオに手を出せる訳ないじゃない。アイツが傍に居るんですもの。それにね、そーゆー所が袁術の可愛い所よ」

「はぁ、そんなもの……ですか?」

「そんなもんよ♪」


 確かに生意気でときたま頭に来るような事を言う袁術ではあるが、実際まだ歳もシャオと同じくらいの若さで当主をしているのだ。

 まだまだ遊び盛りな歳なのに当主についてしまい、満足に遊ぶ事も出来なければ鬱憤が溜まるというもの。

 それなのにシャオと年齢は近いのに、あまりワガママを言わず頑張っている。

 まぁ、そこら辺は袁術の性格と張勲が袁術の相手をしている事で遊び心も緩和されているとは思うけどね。

 それに頭に来るような物言いも、張勲が袁術を扇動してやっている事だ。

 袁術と二人で話をしてみると、素直で云う事をよく聞く良い子だと分かったし。

 

「でも雪蓮様、呉を取り戻す為には袁術は……」

「分かってるわ。我らが呉の大地を取り戻すには袁術は邪魔よ」

「だが問題は袁術では無い。その袁術を操っている袁家の元老院ども」

「さすが冥琳、私の言いたい事ちゃーんと分かってる♪」

「お前と私の仲だ。それくらい分かる」


 冥琳とならば思考の統一などしなくともお互いの考えを理解・把握し合える。

 普段の行動も分かられてるのは難点だけど……。


 冥琳の言う通り、問題は元老院の連中だ。

 袁術を操り人形として裏で全てを操作している孫呉の本当の敵。

 さっきも張勲が袁術を扇動して私たちとの関係を悪くしようとしてたのも、恐らくはジジイ共の監視があって私と袁術が仲良くする事で袁術に危険が及ぶのを防ぐ為だろう。

 良くも悪くも張勲は袁術一筋。

 彼女が無事ならば文字通り何でも実行すると思う。

 可哀想に。

 幼くして政の玩具にされている事に同情を禁じえない。


 だが、それでも。

 それでも私たちは孫呉の大地を取り戻す為には袁術に死んでもらわなければならない。

 民に分かり易く、孫呉を取り戻したと思わせるには袁術に乱世から退場して貰う他、道は無い。 

 可哀想だとは思う、けれど私たちが立ち上がるにはそれしか方法が無いのだ。

 心に暗い影が落ちる。

 二人で話していた時、袁術はとても可愛らしい笑顔を向けてくれていた。

 シャオも同じで、幼さの残るその笑顔は。

 

 無垢で、世界の汚れなんてまるで知らない、本当に純粋な笑顔。

 希望に満ち溢れた、まだまだこれからが人生の本番という所なのに。

 私は、自分の、自分を信じて着いてくる皆の、自国に住む民の為、あの子を切らねばならない。

 いや、確かに民の為でもあるが、突き詰めてしまえば呉を取り戻したいのは自分の欲。

 自分の自己満足という欲求を満たしたいだけなのだ。

 そんな己一人の欲を叶える代わりに、一人の小さな命を消さなければいけない。

 私に………出来るだろうか。

 袁術を……この手で。



 殺せるのか?



 ……答えは分かっている。

 出来る。

 私は、十中八九迷うことなく殺れる。

 恐らく袁術を殺すときには体中の血が既に騒ぎまくっているだろう。

 私の中に流れる、獣の血が暴れている。

 忌々しい、私の中に流れる血が血を求める衝動に駆られ、袁術を一刀のもとに屠る事は目に見えている。

 

「大丈夫か雪蓮、顔色が優れないぞ」

「え、えぇ。大丈夫よ。ジットし過ぎて疲れただけ、ちょっと外の空気吸ってくるわ」


 そう言って、冥琳と明命と一緒に幕舎を出て、明命は無風監視の任に戻ると幕舎を出てから直ぐに別れ、冥琳は穏とこれから自分達がどう行動するべきかを検討するらしく、

途中で別れた。

 私が戦闘だけに集中するため、冥琳にはとても助けられているし、正直雑務の半分は冥琳にこなして貰っているような物だから有難いが、冥琳の心身も心配だ。

 少しは休んでほしいが、そんな事を言っても『お前が働かないから休めないんだ』と言って休まないだろう。

 どうせ私が本気で仕事をしても、仕事の量を減らす気なんて無いくせに……

 そう思いながらも一人自陣の中を散歩し続ける。

 空は快晴と言っていいほど晴れ渡り、こんな日は木の木陰でお酒を飲みながらのんびりと過ごすに限るが、現在は戦の真っ最中。

 と言っても、ほぼ戦は終わっているに近い。

 もちろん確証などなく、私の勘であるが。

 劉備軍が戦を終わらしている可能性が高い。

 で無ければ無風が曹操と一騎打ちなんて内輪揉めみたいな真似をしていないだろうし。

 これからは共通の敵がいなくなり、各々の諸侯が自分勝手な正義を振り回し、漢の大陸の王ならんとする時代が訪れる。

 私はそんな大層な王になるつもりは無いが、母様の残してくれた数少ない形見である呉の国だけは取り戻したい。

 つまり、これからの私たちは皆が集まる機を伺い、袁術に隙が出来れば殺しに掛かるため、虎視眈々とその時を狙う日々。

 大体そんな感じになるだろう。

 空はこんなにも青いと言うのに、私の心はどんどん曇ってゆく。

 全くもって乱世とは人を荒ませてくれる。


================白蓮視点================


「伯珪殿、今しがた洛陽に放った密偵から報告の一報が来ましたぞ」

「ん?そうか。そこに置いといてくれ。帰ってきた奴には休むように伝えるのを忘れずにな」

「承知した」


 飄々と現れた星が持ってきた書を見るため、遣り掛けの仕事に区切りを付けて封を開ける。

 中に書かれている事は勿論の事、洛陽の現状だ、。

 その中身を読んだはいいが、訳がわからない内容だった。

 その報告には、洛陽の門が閉ざされており、蜀の軍勢が立ち往生を喰らっていると、急に曹操軍が現れ蜀と少し揉めた後に洛陽の門が開門。

 その門の内側に蜀の将が立っており、その傍らには鳳雛が、そして鳳雛の傍らで血溜りに倒れている董卓の姿から蜀の将が討ち取ったのを見て、曹操が怒って単騎戦いを挑んでいる。

 展開が早すぎて容量を得ない。

 これは一度、見てきた本人に聞いた方が早いな。


「誰かある!」

「はっ!御用でしょうか」


 天幕の入口で警備をしている兵を呼びつけ、密偵に出ていた兵を呼ぶように頼んだ。

 それから半刻ほどして、その密偵が天幕に来たので実際の状況を聞いてみる事にする。


「お前が見てきた一部始終。全て話せ」

「はっ!洛陽にて、敵兵の姿形さえ目視出来ていない劉備軍から二人、偵察に向かわれたのがまず第一です」

「その二人の内一人は、恐らく雛里だろ」

「その通りであります、もう壱方の方は全身を黒で統一した不気味な方でした」


(もしかしなくても無風の事だな)


「そのお二方が洛陽の用水路の方に向かわれたのまでは見ていたのですが、接近しすぎたのか黒い方に気づかれてしまい、その場を離脱しました」

「いい判断だ。そいつは桃香の…蜀の将の中で恐らく一番強いからな」

「ええ!?あ、し、失礼しました。それからは劉備軍を観察していた所、蜀軍後方から土煙が上がっているのを発見、劉備軍と接触間近で曹魏の牙門旗があがり、それからは曹操と劉備が対談していました」

「なるほど、そこで少し何か会って、揉めている内に洛陽の門が開門し始めた訳だな」

「はい、その開いてゆく門の中心に居たのが、先程の黒い将だったのです」

「なるほど」


 そこで董卓も殺した…と言う訳か。

 しかし解せないな。

 無風は桃香の思想を理解しているならば董卓を殺す選択をしてはいけないと分かっている筈だが。

 何か、あからさまに董卓が死んだと見せつけているような……

 それにこちらの密偵の話によると、董卓は悪政を行ってなどいないという報告だったが、どこかで情報が刷り替わったのか?

 いや、それはありえないな。

 仮に情報をすり替えるとしても、すり替えて得をする奴は少ない。

 この場合だと麗羽が得をする側だな。

 董卓を悪と断定させ、他の諸侯に戦闘などの兵が疲弊するような事をし、美味しい部分だけ貰えばいい。

 だから、もし仮に麗羽が情報をすり替えるとするならば、董卓は悪政をしていると兵に仕込む筈。

 つまりは私の前提条件は変わらないと考えるならば、無風は董卓が悪政を強いて居なかった事を知ってなお、殺したという事か?

 星が認める奴だ。

 董卓は善か悪か。

 それを確かめもせずに殺すような愚者では無いだろう。

 

 ………駄目だ。

 考えても無風の真意がわからない。

 だが、董卓を殺す事に何かあるのは確かだと信じたい。


「・・・・・・分かった。もう下がれ」

「あの、まだ報告は・・・・・・いえ、分かりました」


 報告を続けようとした兵に手で静止の意を伝え帰らせた。

 そこまで聞ければあとの情報はそこまで重要では無い。

 無風と曹操が一騎打ちをしているというのは恐らくだが、お互いの確執が問題だろう。

 無風は元々曹操軍の出身だと調べは付いているし、曹操は有名な人物収集家でもあるという噂だ。

 しかし、将としてはあまりその行動は頂けない。

 元君主とはいえ、今は他軍の大将。

 他軍の君主と将が問題を起こせば、その被害が行くのは桃香だ。

 まぁ、桃香も桃香でどうせ行かせたりしたのだろうと検討は付く。


 桃香の方は大丈夫だろう。

 あとは自分がこれからどう動くべきか。


「今は戦勝を祝う方が先・・・・・・だな」


 とすれば、あの麗羽の馬鹿デカい軍を何とかして洛陽mで進まなければな。


「ったく、麗羽には毎度毎度手を焼かせてくれる。誰かある!」

「はっ!ただいま!」

「今すぐ麗羽の軍の救助に向かう!騎馬隊の編成は星と公孫越に任せると伝えろ」

「御意!」


 星だけに騎馬を任せるのは不安なので、越に任せれば、普通に良い編成をしてくれるだろう。

 星も客将としてそれなりに長いが、やはりこの様な場面では馬と共に生きてきた人間に任せる方が良い。

 実際、何がいいのか、と聞かれてもうまく答える事は出来ないが、やはり感覚の部分で自分と似通った状況下でやってきた人間に任せたほうがしっくりくる。

 それに何やら、後方も騒がしくなってきたし、急いだほうが良さそうだ。

 本当に麗羽は面倒事だけこちらに回してくるから厄介極まりない。



================???視点================


 あー、だりぃー。

 なんで俺がこんな訳もわからん所の、訳のわからん奴のお守りをしなけりゃいけねぇんだよ。

 なんか雪蓮?とかいう奴が、かの有名な孫策で。

 冥琳とかいうのがあの諸葛孔明と並び称される周瑜なんだと。

 嘘くせぇーとか最初は思ってたけど、周りの奴らが全員、孫策様孫策様と言ってりゃー、流石の俺でもその名前が冗談でない事ぐらい分かる。

 ま、俺はそこで雪蓮とかいう真名の方でいきなり呼んじまったから、かなり派手なお出迎えという名の戦闘で迎えられた。

 しかもそのほぼ全員が女という異常事態。

 一瞬、俺の学んだ事は間違っていたんじゃねぇかと思えてきた時期もあった。

 それから色々合って、現在は袁術|(こいつも女だし)の持つ城の一つに軟禁されているガキのお守りをさせられている。

 今の時代から考えて、恐らく反董卓連合が組まれて董卓討伐に出ている頃な筈だ。


「あー、くっそ。俺も暴れてぇ」

 

 城の庭の芝生に寝っ転がりながら片足を上げて地団駄を踏むような動きをする。

 少しでも動いて無いと鬱憤が溜まってしょうがねぇ。


「レオー。何処にいるのー?あそぼー」


 遠くから孫策にお守りを任されたガキの声がするが、それを無視して目を閉じて昼寝を続行する。


「あー!レオ、そんな所にいたー。もー、探したんだよ。周々にも手伝って貰ったんだから」


 グルルル


 周々が怒ってんのか戯れてるのか分からん呻き声を上げて伸し掛ってくる。


「うぉ!?な、何しやがる。こ・・・んの!クソ猫」


 グルォォン!


「ちょ、コイツ。い・・・い加減にしやが・・・れ!!焼き猫にして食うぞ」

「駄目!周々は私の友達なんだから乱暴しちゃ駄目よ、レオ」

「知るか!たくっ」


 やっと周々が俺の上から退き、俺の横で同じように寝転び始めた。

 一息着いたと思った所で、腹の上にポフッと周々と比べると軽すぎる奴が乗っかってくる。


「ねーねー、レーオー。あそぼーよー」

「あ゛?んなもん一人で遊んでろよ。てか退けガキ」

「ガキじゃないもん。それに私は小蓮っていうちゃんとした名前があるんだから、シャオってちゃんと呼んで!」

「知るか」

「シャオって呼んで」

「知るk――」

「シャオって呼んで!」

「~~~っ!・・・・・・・・・シャオ」

「うん♪なーに?レオ?」

「退け、邪魔だ」

「重たい?そんなにシャオ太ってないと思うんだけどなー」

「・・・・・・・・・」


 『小蓮』知ってる奴なら分かるだろうが、コイツが弓腰姫と名高い孫尚香だ。

 見た目はちっこいガキ同然だが、それなりに弓の腕もあるし、何よりも武道。

 それも組み手に関しては天才的な技術を持っている。

 てか、俺は誰に向かって説明してるんだ、さっきから。


「ねーねー、レオー。遊ぼ♪」

「うるせーな。ガキはガキ同士で遊んでろつーの」

「城から出れないのに他の子と遊べるわけ無いじゃん。レオ馬鹿なの?」


 くそっ!あーいえばこー言いやがって。

 下手に出てりゃー調子乗りやがるし、マジでムカつくガキだ。


「…これが最後だ。降りろ」

「遊んでくれるなら降りる」


 次の瞬間、シャオの首根っこを掴み、投げ飛ばしても怪我が無いよう茂みのある方向に投げ飛ばす。

 しかし、投げ飛ばしたには投げ飛ばしたが同時にシャオもこちらのシャツを掴んでおり、投げ飛ばした時の力に引っ張られバランスを崩す。

 それに耐えようと踏ん張り一定方向に向く力を回って力を逃がす様に回転する。

 シャオはそんな俺を軸にして更に回転し、そのまま肩車する様な形で回転を止めた。


「やん♪乱暴にしないでよレオったら」

「くっ///降りろマセガキが!」


 暴れるシャオを降ろすために、脇腹を両手で掴んで今度はサッカーのスローインをするように投げ飛ばそうとするが、足を首で組まれて動かせない。


「あん!もう、レオったら。もっと優しく触って」

「降りろっつてんだろマセガキ!」


 すると、突然シャオが足組みを解いて、俺の両肩に手を置き肩の上で逆立ちを決め、前に崩れて倒れてきた。


「うぉ!?危ねぇ!」


 間一髪でシャオをキャッチし、お姫様だっこする形になる。


「おー、やっぱりレオは私の事、大事に思ってくれてる♪離れろとか言って投げ飛ばす癖に、こうやって私が怪我しそうになるとちゃーんと守ってくれるじゃん」

「は!?ちょ///調子に乗んな。これは、その……あれだ!たまたま腕を前に出した所に、お前が入ってきたんだろーが」

「素直になりなよレオ。私の事好きなんでしょ?私、レオだったら全然大丈夫だから」

「~~~~っ///」


 俺が赤面すると、シャオがクスクスと腕の中で笑い出し、からかわれたのだと瞬時に理解し、今度は怒りで顔が赤くなりそうだぜ。


「怒んないでよ、レオ。これでも私、本気なんだから」


 そう言って抱っこされた状態で腕を首に回してくる。


「はっ!色気づくにはまだ幼すぎるぜ、シャオ」

「あ、シャオってちゃんと呼んでくれた」

「っ!?聞き間違いだ。マセガキ」

「貴様っ!尚香様に何をしておるか!!」


 突然の怒声に俺もシャオも一瞬呆けてしまった。

 声のした方を向くと、声の主がこの城でベスト5に入る権力者である陳紀とかいう男だった。

 明らかにガンを飛ばしてきている陳紀に向かって睨み返す。


「何してるだぁ?んなもん見れば分かんだろ。シャオと遊んでたんだよ。文句あんのか」

「貴様ぁ、尚香様の真名を気安く呼びよってからに。貴様の様な下賎な輩が呼んで良い筈がない」

「っ!?テメェ、いい加減に―――」

「待って!レオ!」


 俺が奴に掴みかかろうとしたのをシャオが止めてきた。

 俺の腕から降りて、いつもの明るい笑顔では無く、何の感情も見えない様な無表情。

 しかし、その眼だけは捉えた相手を凍らす様な冷え冷えとした碧眼で陳紀を見据えている。


「貴方は私の何なの?私の真名よ?誰に預けようが私の勝手でしょ。それとも……死にたいの?」


 『真名』


 俺も最近、というよりこの世界に来て初めてその意味を知ったが、真名は例え知っていてもその人物に直接預けられなければ呼んではいけないんだったよな。

 その真名を、自分の真名を呼ぶ事を他人に決められる、なんてことは許しがたい事なのだろう。

 事実、あの笑顔と怒った顔|(本気ではあまり無いだろうがな)以外殆ど見たことも無いというのに、今のシャオは無表情の一点である。

 まぁ、本気で怒っているんだろうがな。

 そんなシャオの変貌を見て、少しは怖気づいた様だったが、それでも踏ん張り、標的である俺を睨みつけてきた。


「出身も地位も何も無い癖に、調子に乗るなよ。貴様はここでは兵卒以下!いや、馬の糞以下なのだから、大人しく俺に扱き使われてろ」

「あぁ?テメェこそ調子乗ってんじゃねぇぞ。権力しか取り柄もねぇ野郎が。なんだったら殺るか?俺はいつでもおめぇを殺せるぜ」

「ちっ!これだから野蛮人は嫌いなんだ。すぐに力でねじ伏せようとする。ここで殺してもいいが、今は後々面倒になるから止めといてやる。尚香様!こんな奴と居ては頭の先から腐ってしまいますぞ!さぁ、行きましょう。そろそろ勉強のお時間が迫ってます」


 そう言って陳紀は最悪な雰囲気を残して去っていきやがった。


「ち、クソがぁ!いつか殴って殴って、殴りまくってミンチにしてやる」


 俺がイライラしていると、シャオがまたもや俺に抱きついてきた。


「……やっぱりレオは優しいね」

「あぁ!?今の流れからどうしてそんな言葉が出るんだ。頭がどうにかなったのか?」


 イライラしたままだったので、ついシャオにも荒く当たってしまい、やらかしてから「しまった」と思ったが、なにやら本気でシャオは嬉しそうだった。


「だって、シャオには『殺す』とか、『殴る』とか言わないじゃん。それにさっきのも、シャオの為……なんでしょ?」

「……知らねぇよ。んなこと」

「ほらやっぱり、シャオの真名の事で陳紀に殴りかかろうとしてたんでしょ?ありがとねレオ♪」

「自意識過剰なんじゃねぇの?そんな訳無いだろ」


 俺が懸命に赤面するのを抑えているとシャオが意地悪をする時のような小悪魔な笑みをしてこっちを見ていた。


「んだよ。なんか文句あんのか?」

「私はちゃんと聞いてたんだから」

「…なにをだよ」

「『シャオと遊んでんだ』って。やっぱりレオは優しいんだからー」

「ちっ!んなこたいいから早く勉強しに行け!またあの野郎が来んぞ」

「やん♪」


 抱きついていたシャオを引っペがし、頭をガシガシと撫でる。

 少しは驚いていたようだが、何やら嬉しそうだ。

 人間慣れしている子猫が頭を撫でられてる様な、思わず可愛いと思ってしまう笑顔に、こちらがドキッとする。

 

「ほら、早く行けっつてんだろ。しばくぞ」

「あたっ!?」


 なんか最初から最後までシャオに振り回されっぱなしで癪だったから、最後の最後にデコピンしてやったぜ。

 ざまぁみやがれ。


「うー、レオがいじめるー」

「いじられてんのは俺のほうだ!ほら」

「もう、分かってるわよ。じゃぁ、また後でねー」


 また来る気かよ。

 勘弁してくれ。

 ………………

 …………

 ……


「そろそろいいぞ」

「はっ」


 陳紀が現れた当たりから後ろで気配がしているのはわかっていた。

 敵意を感じなかった為に、味方の間諜だとも。


「で、何だ」

「つい6刻ほど前に、洛陽で董卓を討ち取ったとの報を周瑜様より」

「ん?終わったのか。で、董卓を倒したのは誰だ?曹操か?それとも馬騰あたりか?」


 史実では呂布の手によって殺されたのは有名?だが、この世界は外史。

 だれが董卓を討ったのかはわからない。

 

―ん?なんで外史だって分かるのかだと?

―んなもん、三国志の英雄が女なんて、普通にありえねぇだろう。

―あぁ?普通って、何が普通なのか…だと?

―そこまで知るか!


 しかし、そこで間諜から帰ってきたのは意外なものだった。


「いえ、董卓を討ち取ったのは、無風…とかいう劉備配下の将です」

「無風?んだソイツ。聞いたことねぇな」

「周瑜様の話によりますと、無風将軍は連合の中でも1位2位を争うようなお方らしく。あの呂布すらも退けたとか」

「おいおい、なんだソイツ。化物かよ。呂布って呂 奉先だろ?呂布を退けるとか、うっは、殺り合いてぇ」

「物騒なこと仰らないでください」

「うるせぇ!俺だってシャオのお守りなんか無ければ連合に参加して、その無風とか言う奴の顔を拝んでやってたってのによぉ」

「そこで一つ、すこし気掛かりな噂を耳にしたのですが」

「あん?なんだ、言ってみろ」

「"無風将軍は実は天の御使いではないか"という噂が、まだ小規模ですが噂されております」

「ほぅー」

「周瑜様に裏を取るよう指示されたのですが、そこでも少し」

「勿体ぶるな、言え」

「どうやら無風将軍は、曹操の所に初めて現れた様で、それより前に遡っても、"無風"なんて人を知る人は見つかっておりません」


 面白い。

 てことは、魏・蜀・呉にそれぞれ天の御使いが降り立った。

 てことになるな。

 魏に無風、蜀に北郷、呉には俺。

 面白くなってきたじゃねーか。


「分かった。もう下がっていーぞ」

「はっ!こちらも平穏であったと周瑜様に報告しますが、宜しいでしょうか」

「あぁ、お転婆が過ぎて困っているって伝えてくれ」

「御意に。"雷苑"殿」

北郷「皆さんどうも!今回はup主"だけ"不在なので代わりに俺が務めさせて頂くよ」

華琳「私の夫を返して!!返してよ!」

北郷「意味深!?いやいや、華琳がいきなり『ホットケーキが食べたくなったわ』とか言うから買いに出かけてるだけだよね!?」

無風「…………up主を俺らから奪った代償、きっちり払わせてやる」

北郷「up主がいつの間にか死んだことになってる!?てか無風ノリいいんだな」

無風「…………楽しそうだったから」

北郷「up主……可哀想に」

華琳「早く帰って来ないup主が悪いのよ」

北郷「華琳……『相棒が居なくて寂しいよぉ』って雰囲気が"ガキィィン!!"―――」

華琳「何か言ったかしら?北郷」(ニッコリ

北郷「イエ、ナニモ」(ガクブル

無風「…………流石に疲れる」

北郷「さ、さんきゅー無風。危うく死ぬ所だった」

華琳「余計なこと口にすると、寿命縮むから気を付けなさい」

北郷「肝に銘じておきます」

華琳「それにしても、やっと呉の御使いに関する情報出てきたわね」

北郷「あ、あぁ。ニックネームは『レオ』、名前はー…………無風、何て読むの?」

無風「…………雷苑(らいえん)」

北郷「へー、なんか中国人っぽい?名前してるんだな」

無風「…………本名は、獅弩 雷苑(しど らいえん)。日本人と中国人のハーフだと聞いている」

北郷「名前が音読みな所はそっちぽいね。暮らしは?」

無風「…………暮らしは、生粋の日本人だそうだ」

華琳「さっきからおん…よみ?だとかちゅーごくとかよく分かんないわね」

北郷「そこらへんはおいおいup主が獅弩に聞いてくれるだろうから平気だと思うよ」

無風「…………そろそろ締めないとな」

華琳「ここでの私の出番減ってきてるわねー」

北郷・無風|(十分すぎるほどあると思うけど……)

華琳「じゃ、これ…最後まで見てくれてる貴方。また次回も読んで頂戴」

北郷「またねー」

無風「…………ん」

up主「ただいまー。ん?この空気なに?」

華琳・北郷・無風「(…………)なんでもない(わよ)」

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