表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/68

洛陽攻略戦(後編)

前回のあらすじ

・曹操さんかわゆす ←

・桂花の出番少なくてすんません ←


================桂花視点================


 『王佐の才』


 洛陽に向かう先鋒隊の馬の上で私はそれについて考えていた。

 王の補佐が出来る才能を持つ者にだけが呼ばれるその能力を私は持っている。

 別に自慢したいという訳では無い。

 その能力があると認められた人物が二人しか居ないのに自慢なんか出来る筈も無く、するつもりも無い。

 ただ、私にその才があると言った二人の人物、一人は他の誰でも無い華琳様だ。

 一度、閨に呼ばれた時にその才能があると言われたのだ。

 もう一人は最悪ながらも男であるアイツ。


「無風 雛……」


 その男は私に向かって王佐の才があると言ったのだ。

 あれは何時だったか、雨が降っていた昼前の城の中でだった。 

 

・・・・・・


 その日、私は華琳様に報告する為の書類を手に持って廊下を歩いている時だった。

 廊下で雨音を聞きながら歩いていると、廊下の角から出てきた男とぶつかってしまった。


「きゃっ!?」

「うおっとっと!何をしておるか!」


 ぶつかった相手は、華琳様に従えていた文官の一人だった。

 この城の文官としては歴が長く、かなり年の老いた老人で、それなりの権力を持っている老人だ。


「全く、前を見て歩けんのかね?儂だったから良かったものの、こりゃ何か罰を与えんとな」


 まるで値踏みするかのように頭の上から下までジロジロと見られて蕁麻疹が起きてくる。

 この老いた文官、何かにつけて女に手を出す下衆だが、立場的に自分より上だし城内で揉め事をすると後々厄介な事にもなりかねない。

 どうするか考えている内に、急に視界の端から姿を現した人物がいた。

 男だと認識した瞬間、反射的に鳥肌が立ち、嫌悪感を覚える。

 しかし、男は男でも思いもよらぬ仲間だった。


「…………何を………している」

「無風!?どうしてここにいるのよ」


 現れた男は、全身が漆黒で覆われた無風だった。

 その時に、彼に近づいて説明をする老文官。

 

「い、いえ何。この文官の女子がぶつかって来たので、ちょいと叱っていただけですじゃ」


 明らかに口調がおかしいし、どもり気味だ。

 何故、そこまで焦っているのか分からない。 


「そ、それでは儂は行かせて貰うとしよう」


 考えに耽っている内にその文官は姿を消してしまった。

 本当に何なのか分からないので、その張本人に聞く。


「ちょっと無風!あんたあの屑に何をしたのよ」

「…………何もしてない」

「はぁ?そんな訳ないでしょ、じゃあなんであの文官はアンタを恐るように逃げていったのよ」

「…………あれは"恐れて"いるだけだ」

「恐れているって何を……」

 

 恐れてるっていうのよ!と言いかけた所で思い至った。

 少し前に起きた華琳様強姦未遂の件で彼が暴走しかけた事。

 恐らく、その無風の暴走をしかけた所を見たか聞いたかしたのだろう。

 だから恐れた。

 分かってしまえば何てことはない。

 ただ単に無風から目を付けられるのが嫌だったのか。


「なるほどね。あ、そういえばどうしてここに居るのよ。ここらは華琳様や上層部の人間しかいないのに」

「…………孟徳に呼ばれた」

「呼ばれたってアンタね。どうして呼ばれたかぐらいまで続けて言いなさいよ、全く」

「…………文若の報告を聞いて意見が欲しいらしい」

「ちょっ!?何でアンタまで!来んのよ!」

「…………一応は俺の推薦だからな、お前は」

 

 そういえばそうだったような気がする。

 最初に華琳様に謁見した時に、華琳様が無風に向かって『この子が私の軍師候補?』と言っていたわね。

 会った頃も無いのにどうして私が華琳様の軍師候補として指名して来たのか興味が出てきた。


「ねぇ、無風?どうして私が華琳様の軍師に相応しいと思ったの?」

「…………いきなり何だ………まぁ、お前には王佐の才があるからだ」

「王佐の……才」

「…………そうだ。孟徳の補佐が出来る人間はお前だけだ」

「答えになってないわよ!だからどうして私なの!」

「…………それはお前が自分でやっただろ」


 自分でやった?

 どういう意味だろうか。

 私が華琳様に何かしたかしら?

 無風の言葉の意味を考えていると、その答えを考えつく前に先に言われてしまった。

 

「…………最初、孟徳を試しただろう。表向きだったが」

「え?えぇ、自分を売り込んで行くにはそうするのが一番じゃない。ま、私ほど頭が良くなければ駄目だけど」

「…………頭の善し悪しは知らん。………けれど、そこで君主を試すような真似をする人間は居ない」

「普通ならそうでしょうね。でも今は乱世。常識で見ていては駄目よ」

「…………それが答えだ」

「は?えっ?それが答え?」

「…………だから、常識で考えている人間が孟徳の軍師を出来ると思っているのか?」

「………」

「…………人が勝手に作った常識などという枠に収まるような人間は孟徳を理解できない。君主を理解できない人間に軍師が務まるわけない」


 久々に喋りまくったせいで疲れたのか、一度ため息を吐く無風に講義する。


「でも、それだけが条件なら常識でモノを見ない人間なんてたくさん居るわ。そんなの価値観の違いだけじゃない」

「…………確かにな。だけどちゃんと聞いてたか?」

「何をよ」

「…………常識でモノを見ないのは絶対条件の一つに過ぎない。それでいて頭の切れる軍師候補は更に少ない」


 そして覇王の軍師なんて、この世に5人も居るか居ないか。

 そう言って彼は隠している目を窓に向けて空を見上げる。

 なるほどと思ってしまった。

 軍師は知恵を溜め、それを軍政に活かすのが仕事。

 知恵を溜めれば貯めるほど、常識という枷に囚われかねない。

 実際宦官がいい例だ。

 漢の時代が長く続き、漢が出来た当初ではそれなりに頭の冴える人が居たのかも知れないが、その時代が続くにつれて血筋やしきたりに囚われてしまった哀れな人間の末路。

 もしも華琳様に、無風に会っていなければ、この事にも気付けなかったかもしれないと思った時、体が震えてしまった。


「…………恐れるなとは言わない。恐怖を感じるのは人間である証拠だ。だけど、恐怖を感じ其処でどんな行動に出るかが肝心」


 そう言って無風は一人で華琳様の部屋に行ってしまった。

 私は平均感覚を保っていられず、壁に寄りかかる。

 考えても仕方の無い事、だけれども考えてしまう。

 自分が愚者になってしまったらという仮定を。

 そこで先程、無風に言われた言葉を思い出す。


「王佐の才……か」


 王を補佐できる才能、それの本当の意味は常識に囚われずにモノを見通せという戒めなのかもしれない。

 目まぐるしい程に思考を回転させる私の耳に雨音だけが優しく響く。



・・・・・・


 正気に戻った後、華琳様の元に急いで言ったが遅いと怒られてしまったりで散々な一日だったわね……

 

「桂花、何か変な事考えてないわよね?」

「いえ、ただ少し考え事をしていただけです」

「そう?ならいいのだけれど」


 華琳様が馬を操作しながら横目に見てくる。

 それに合わせてこちらも目線だけ華琳様に向け受け答える。

 

「そろそろ洛陽と劉備軍が見えてくる筈!警戒は怠らないようにしなさい」


 華琳様が馬の駆ける蹄の音に負けないくらいの声量で指示を飛ばす。

 すると、霞を中心に騎馬隊が一度お互いの距離を離し散開する。

 だが、散開したと思った次の瞬間に長蛇の陣から偃月陣に切り替わる。

 これも、出立する前に霞と決めた事だ。

 あの劉備に限って無いとは思うが、もしも劉備が急いで近づく私たちを敵と間違えて攻撃してきた時に備えて偃月陣にしよう、という事になった。

 もちろん、こちらもこのままの速度で劉備軍に突っ込む訳も無く、洛陽に近づいてきたら速度を落とし、速度を上げる為に下ろしていた牙門旗も掲げる。

 ちょうど、陣形を変えて少し走った所で洛陽が見えてきた。


「華琳様!洛陽が見えてきましたよ!」

「彼処に・・・・・・兄様が」


 私が華琳様に声を掛けるより早く、華琳様の少し後ろを走っている季衣が報告をして、流琉が何処か寂しそうな視線を洛陽に向けている。

 見ると、劉備軍の方でも私たちの存在に気がついたらしく、軍に動きがみられる。

 様子を見るに、こちらに突撃をしてくる様子は無い。

 それに平地なので見にくいが方円陣を敷いて、劉備を守る形で様子見といった感じか。


「全軍、速度を徐々に落とせ!牙門旗を掲げよ!」


 騎兵に指示を送り、予定通りに事を進める。

 曹と書かれた牙門旗に許と典の牙門旗が掲げられる。

 しかし、私と春蘭は先鋒隊として着いて来てない事になっている為に牙門旗は無い。

 徐々に騎馬隊の速度を減速させて、劉備軍と混成しないように1里の間を空けて停止する。

 

「桂花、季衣、流琉は私と一緒に来なさい。春蘭と霞は部隊を編成し直していつでも動けるようにしてなさい」


 はっ!と短く礼を取り、行動を開始する。

 私は華琳様と一緒に劉備の元に急ぐ。

 劉備軍の方もどこか私たちが来るのを待っていたかの様に通してくれた。


「そ、曹操さん!?えっ?今、軍が到着したばかりですよね?」

「えぇそうよ?でも、早いに越したことは無いでしょ?」

「そ、それは、そうですけど」


 劉備が私たちの来訪に驚いているが、気のせいだろうか。

 相手の方も私たちが来るのを待っていたというか、足止めしようとしてる様な。

 私自身も要領を得ないが、そんな雰囲気を感じる。


「それで劉備。無風は何処にいるの?居るんでしょ、あなたの軍に」

「無風さんは、今は洛陽に」


 華琳様の思った通り、無風は劉備軍にいた。

 やっと無風の消息を知ることが出来た事に一瞬嬉しくなったが、

そう言って洛陽の門をどこか悲しげな目で見る劉備に嫌な予感を感じ、思わず私は華琳様よりも半歩前に出て訪ねた。

 

「りゅ、劉備殿。無風から何か言われてなかったかしら?」

「え?あ、はい。無風さんに着いていった雛里ちゃんから書き残しがありますけど」


 劉備から差し出された紙を華琳様が受け取り、二人で紙を覗き込む。

 そこに書かれてあった文字を読んで、華琳様は少し考える風に黙り込んでしまった。


「劉備、この紙が届いてから何刻経ったのかしら?」

「え?えっと。もう少しで1刻半です」


 あと半刻で無風の指定した時刻が過ぎるのか。

 これが通常時ならば定刻まで待ってもいいが、今は戦時中。

 決められた時間の目安は大体で見積もって、多少水増しされてると考えた方がいいだろう。

 つまりはもう。


「中に突入するわよ、桂花。春蘭に伝令を出しなさい。季衣と流琉は私と共にここで待機」


 流石と言うべきか、華琳様も同じ結論に至った。

 

「そういう訳には行きません」


 これから突入のために動こうとした絶妙な瞬間に声を掛けられた。

 

「すみませんが勝手に行動されるとこちらが困るので控えて下さい」


 声を掛けてきた人物は、今の今まで姿の見えなかった少女。

 諸葛孔明の物だった。

 諸葛亮の抗議に華琳様が堂々と対応する。


「あら、私が何をしようと私の勝手じゃない?」

「ええ、本来ならばそうです。ですが、前線の指揮を取っているのは私たち劉備軍です。桃香様の許可無しに動くことは許しません」

「何よ、連合で一番勢力の小さいあなた達が華琳様に偉そうな口を叩いて!何様よ」

 

 諸葛亮のあまりに自己中心的な物言いに、私は耐え切れず反論を返してしまう。

 しかし、それにも動じた様子が無い諸葛亮は、更に一段と静かさを増した紫の瞳を華琳様から私に向ける。


「今この場で勢力の大きさは関係ありません。私たちは連合軍総大将である袁紹殿から、前線に出て洛陽まで先行するように命を受けました。

前線では戦闘の可能性がある事など、誰にでも想定出来ます。それすなわち、前線での指揮を私たちに任されたと

考えない方がおかしいです。」

「くっ!?た、確かにそうかもしれないけれど、戦闘の可能性があるからこそ、連携して洛陽を占拠した方が・・・」

「確かに。荀彧殿の仰る事も分かりますが、それならばお聞かせ願います。どうして連合一の最小勢力に助力を?それも私たちに袁紹殿から命が来た時ではなく、

今頃になって来た理由を」


 私が弁論で押し負けそうになり黙りかけた時、華琳様が手で私を制した。


「諸葛亮、不毛な弁論なんて要らないわ。それに徐々に話題を無風から逸らす必要も・・・ね」

「・・・・・・無風さんは、昔は曹操さんの所に居たのは知ってます。ですが、現在は私たち劉備軍の仲間です。勝手な事はしないで下さい」

「ふふ」

「何がおかしいんですか?」

「諸葛亮、いくつか間違ってるわよ。まず一つ、無風は私が帰ってきてと言って帰ってくる様な人間では無いわ。

もう一つ、私は無風を取り戻そうと動いてるのは確かよ?でもね、無風もそうだけれど、私も話より行動で取り戻すわ」


 もちろん、無理矢理な方法は取らないわよ?と付け加えて。

 そう言われては、流石の諸葛亮も迂闊には動けない。

 しかし、実際にこの場での実権の強さで言えば劉備軍の方が上なのも確かである。


ギィィィィィ


「「「「!!」」」」


 一進一退の状況に陥り、全員が黙った所でいきなり洛陽の門が開門しだした。

 直ぐに警戒様の伝書鳩を数羽飛ばせる様に懐に手を忍ばせる。

 がしかし、開いてゆく門の中心に居た人物を見た瞬間、その必要が無いと分かり、警戒を解いた。

 開いている門の中心に居たのは仁王立ちしている無風その人だった。

 だが同時に彼の傍らにあるモノを見た瞬間に背筋が凍った様に錯覚する。

 彼の横には鳳雛こと鳳統、そして………血溜りの中に切られて倒れたと思われる人物が"二人"。

 それらはピクリとも動いていない事から、もう命の炎は潰えているだろう。

 

「…………孟徳。………来てたのか」

「えっ!?えぇ、たった今ね」

「…………一足………遅かったな。……士元」


 無風が鳳統の字を呼ぶと、鳳統は無言のまま劉備の元まで行き、彼女に臣下の礼を取り、皆の前で報告をする。 


「…報告いたします。先程、逃亡しようとしていた董卓ならびに賈詡を捉え、更に逃げようとしていたので、処刑……致しました」

「っ!?無風っ!!」


 鳳統の報告を聞いて、一番に声を上げたのは他の誰でもない、劉備軍の天の御使いである北郷だった。


「無風!何故殺したんだ!彼女たちが悪政を働いていたかどうか調べもしないで、どうして殺した!」


 北郷は未だに仁王立ちしている無風の元まで行き、胸ぐらを掴む。

 無風は、それに動じず、冷たい……むしろ体の芯が凍るような寒気を感じさせる程に落ち着いた声で喋る。


「北郷、俺は問うた筈だ。『助けられなかった場合はどうする?』と。まさか、全く考えなかった訳では有るまい?」

「ぐっ!?そ、それはそうだけど。何もお前の判断で殺すことは無かっただろう!」


 この二人は何を言っているのだろうか。

 元よりこの連合が始まってしまった段階で、既に董卓の死は免れない。

 逃げた所でどこまでも追われ、最後まで生贄として命を狙われて居ただろう。

 二人の会話から察するに、董卓が悪政をしていなかったら助けようなんて甘っちょろい事を話していたのだろう。

 そんな事をして、もしも袁紹や他の諸侯に知られでもしたら劉備軍はほぼ全ての諸侯を敵にする。

 恐らくその真実を知っても黙秘してくれるのは華琳様率いる曹操軍か、劉備といつの間にか同盟を組んだ孫策軍、それと劉備と中の良い公孫賛軍の3つぐらいだろう。

 華琳様は生贄にされた者へのせめてもの同情として。

 孫策軍は同盟してしまった為に、自分も標的にされる様な事は言わない。

 公孫賛は、先程も述べたが劉備と仲が良い事から。

 それぞれが、それぞれの理由で、もし仮に董卓が生きていたとしても黙秘していただろう。

 つまりは、無風の行動は劉備軍を助けた事になり、賞賛されるならまだしも非難される覚えはない。

 しかし、相手はあの甘ちゃんの劉備と北郷。

 そんな事にも気づかず非難している北郷に、声にはしていない物の、あまり良いとは言えない表情をしている劉備。

 お前ら二人に無風を責めるような資格なんか無い!

 そう叫びたくなるが、無風は現在劉備配下、迂闊に発言する事は出来ない。

 怒りを抑えるので必死になっていると、無風は北郷を無理やり離していた。


「…………おい士元。この亡骸を片付けろ」

「……わかりました」

「っ!?雛里ちゃん!」


 無風の言葉に直ぐに動こうとした鳳統を諸葛亮が止める。



================朱里視点================


 怪しい。

 無風さんだけならばまだしも、雛里ちゃんまでも一緒なのにあの様な行動に出るだろうか。

 しかも、無風さんが雛里ちゃんに亡骸を片付けろなんて言うだろうか。

 その真相を確かめる為に無風さんの元に行こうとしている雛里ちゃんを引き止める。


「雛里ちゃん……」

「朱里ちゃん、分からないの?」

 

 雛里ちゃんは悲しそうな目をして私を見ながら、不可解な事を言ってきた。

 分からない?何をだろうか。

 雛里ちゃんが私に向かって意味もなく遠まわしな言い方をする筈がない。

 だとすれば先程の言葉は親友として、ではなく、軍師として言ってきたと取るべきだ。

 そして、分からないの?とだけ言ってきた事から、他の人には気付かれたくない事を示唆している。

 でなければ、雛里ちゃんが私にまで説明をしてくれない筈が無い。

 他人、この場合は曹操さん達の事だろう。

 あの人達に気付かれたくない事なのは理解出来た。

 あとは、雛里ちゃんの言葉にどんな意味があるのか。

 だが、いくら考えても答えにたどり着くための鍵すら見つけられない。

 こういった場合は一旦初めに思考を戻して、見落としがないかをもう一回考え直すのが常識だ。

 一番初めに思った事は無風さんと雛里ちゃんの行動が怪しいという事だ。

 無風さんが軍令違反を犯すのはいつもの事。

 しかし、それはどこかで私たちの事を思っての行動でもあるが故。

 それなのに今回は、単独で洛陽内部に勝手に潜入しただけではなく、董卓を勝手に処断するという行動にまで出たのか。

 いつもの無風さんならば董卓を捕まえた時点で、何らかの合図を私たちに送って指示を仰ぐ所を、今回はそれも無かった。

 ………いや。

 もしも、それが"狙い"だとしたら?

 これが狙いだとしたら、その仮定に行き着いた時、私の体に雷が走ったような感覚が襲った。

 彼は、無風さんは自分に離間の計を使っていると考えれば、全ての辻褄が合う。

 曹操さんやその筆頭軍師である荀彧さんはかなり頭が切れる。

 私たちの行動一つで九分九厘までは分からなくても、五分はその意味を理解するだろう。

 もしも、無風さんが伝令に伝えた通りに合図を送れば曹操さんにもバレる危険性がある。

 では、何がバレたら困るか。

 この場合で、バレたら困る事は一つしかない。 


 董卓の生存


 董卓を生かしていたと知られたら、曹操さんに弱みを握られてしまう恐れがある。

 曹操さんほど頭が良い人ならば董卓が圧政や悪政をしていた偽の情報に惑わされることは無いだろうから、

董卓の処遇を考えるに密かに生かす事を黙秘はしてくれるだろう。

 しかし、その事で揺すられる事は必須。

 だから無風さんは、桃香様やご主人様、私たちに何も言わずに勝手な行動をして彼の評価を悪くした。

 曹操さん達に、まるでそれが本当に無風さん個人の行動であると実際に見せつける為。

 だから私たちにも何も言わなかった。

 言えばそれが演技であるとバレてしまうから。

 つまり、董卓と一緒に倒れている賈詡は九分九厘生きている。

 だが、この策は不完全である。

 この策は、これからも先まで隠し通さなくてはいけない。

 つまりは誰にも教えることは無理。

 私みたいに自分で気付いて貰うしかない事だ。

 しかし、劉備軍幹部は大丈夫。

 その後董卓が生きて自分たちの前に出てくるのだから。

 問題なのは、幹部未満の人達だ。

 彼女の生存を教える事が出来ないという事は、無風さんの評価は悪いまま。

 さらに、私たちも彼と仲良く接する事は出来ない。

 そんな姿を見られたら、上としての示しがつかなくなる。

 事の真相を話せればそんな彼の評価は戻る。

 しかし、話せば弱みを握られる。

 私たちは、無風という人を失う事で董卓を助けた事になる。

 奥歯が割るほど強く噛み締める。

 これは私の失態だ。

 無風さんが使った策は下策中の下策。

 それは桃香様の軍では猛毒になりかねない。

 なぜならば、大徳を掲げているのにも関わらず、話も聞く前から人を斬ってしまった事になる。

 現実には斬っていないが、そんな噂が立つだけでも危ないことには変わりない。

 だが、同時に好機でもある。

 ここで民の心をどのように動かせるか、それで今後私たちの命運が決まる。

 しかし、どちらにせよ無風さんが私たちの軍で更に動きづらくなったのは確かだ。

 最悪、軍事には関わらせられないかもしれない。

 まぁ、そんな事で縛られるような人でもないですけど。

 

ガラガラガラガラ


 無風さんの意図を理解した瞬間、無風さん愛用の改造馬車が丁度私たちと無風さんの間に入り込んできた。

 何事かと放けていると、その横から無風さんが斬ったと見せかけた董卓と賈詡を片手に一人ずつ引きずって馬車の後方、荷台の入口に連れて行き

強引に投げ込んじゃいましたよ!?

 はわわ!!?わ、私は知りましぇん。

 後で何言われても私は知らないです!

 そして無風さんは馬車に二人を投げ込んだ後、こちらにいる曹操さんの手前で止まりました。

 曹操さんは私たちと一緒に居るので必然的に私たちも話が聞こえますが。


「…………孟徳、今回はこの手柄。こちらがいただく」 


 無風さんが口元をニヤリとした笑みをして曹操さんに話しかけ、もとい董卓の事から気を逸らしました。

 ………それくらいは私にも直ぐに分かりますから!


「ええ、いいわよ。その代わりに無風。あなたは私の軍に来なさい」


 その言葉には両軍の武将が騒めきました。

 騒いでいないのは私、雛里ちゃん、荀彧さんだけです。

 そして私はその雛里ちゃんの態度に確信しました。

 無風さんは私たちの元を去るつもりだと。

 だから無風さんは自分の立場を省みない策を使ったんでしょう。

 それも、自分が居なくなって困ると懸念していた事を全て解消してから。

 たった1つを除いて。

 それは、自分が抜けた穴を埋める事。

 自分の出す影響が事の善し悪しに関係無く大きいのは秀才な無風さんなら当然、分かっていたでしょう。 

 だから、今回の反董卓連合で一番の手柄、董卓の討伐をし、桃香様とご主人様の名声を広げる事。

 もちろん平原にいる桃香様の民には、私が情報操作で董卓の事は有耶無耶にするでも、桃香様に害のない方向に意識を向けるでもする。

 そうすれば、結果的には無風さんが抜けた物以上の物が手に入る。

 まぁ、そうなると諸侯の目が桃香様の方へ自然と向く事はどうにも出来ないから、これからは自分たちがどのように動くべきかを考えなければいけないでしょうけど。

 ただ、私の考えうる筋書き通りに事が進むのならば、無風さんは確実に"ああする"。

 それを、曹操さんの問いに無風さんがどのような回答をするか。

 未だに曹操さんは不敵な笑みをして笑っています。

 それが、無風さんを取り戻せるが故の笑みなのか、それとも自分の問いにどう答えてくれるのか楽しみにしている笑みなのか。

 それは私には分からない。

 しかし、そこに桃香様が反論しました。


「だ、駄目です!無風さんは私たちの仲間です!さっきは勝手に誘わないって言っていたのに。どうしてなんですか!」

「あら、どうしてですって?それは無風が董卓を生かして連れてきたらの話よ。無風は董卓を殺した。それも、あなたが好む『話し合い』をまったく無視して……ね」

「っ!!?そ、それは」

「そんな事をした無風があなたの元で、やっていける訳ない。あなたがそれでもいいと言っても、あなたの理想の元に集まってきた部下の人間が黙ってられないわよ?」

「そ、そんな事。そんな事を私の仲間はしません」

「いい加減にしなさい!」

「!?」

「劉備。あなたが今、自分で何をしようとしているのか分かっているの?あなたは無風に『私の元に居て死んでください』って言ってるのと同じなのよっ!」

「華琳様、気を落ち着けてください」

「そうだよ華琳様。いつもの華琳様らしくないよ」

「………そうね、桂花、季衣。ごめんなさいね。醜態を晒したわ」

「いえ、華琳様の思うところも分かります」

「桂花様の言うとおりだよ。僕たちだって兄ちゃんに帰ってきて欲しいのは本当だし」


 曹操さんは3度、深呼吸をするかの様に呼吸をして、また桃香様の方を向きました。


「つまりは劉備。これは私と無風の問題。口出ししないで頂戴」


 曹操さんの言葉により、桃香様はグッと押し黙ってしまい下を向く。

 その様子を見て、曹操さんもやっと無風さんの方を見た。

 その時


「無風さん!」

 

 また、無風さんの名前を呼ぶ声が曹操さんと無風さんの邪魔をする。

 しかし、声の主は桃香様ではなく、私と長年、一緒に色んな事を学んできた年来の親友のもの。


「雛里ちゃん………」


 雛里ちゃんは涙を流すのをこらえるかのように、口をグッとへの字に曲げ、顔に力を入れている。

 だが、微かに目の端に涙を溜めているのが見える。


「無風さん。本当に……行っちゃうんですか?」


 その言葉を聞いた曹操さんは再度顔に笑みを作った所を見るに、無風さんを取り返せると思っての笑みだろう。

 だがしかし、先程の私の筋書き通りならば無風さんは………


「…………あぁ、出て行く。これは先程決めた筈だ。士元」

「なら、戻って来てくれるのね。無風


 筋書き通りなら、無風さんは曹操さんの要求を………


「…………いや」







 断る







「…………そちらには行かないぞ、孟徳」


 ……やはり。

 考えてみれば簡単な事。

 ここでもし無風さんが曹操軍に寝返る様な事があれば、劉備軍に不穏分子が残る。

 劉備軍の幹部の中に曹操と密約あるいは密謀。

 それか曹操軍からの間諜だと。

 彼は元々曹操軍から抜けてきた身だから、そう考える輩も多いでしょう。

 そして、こうも考える筈。 

 『まだ劉備軍内には間諜が居るのではないか』と。

 そうなると一番疑わしくなってくるのは雛里ちゃんです。

 彼と一番親しくしていたから。

 もしくは愛紗ちゃん。

 雛里ちゃんとは逆に親しく無さ過ぎる点で、お互いにそう演技しているのでは?と。

 どちらも義勇軍の頃から居る人間ならば、二人は間諜では無いと分かるが、劉備軍という組織が大きくなる事により情報が細かく伝達しない恐れがある。

 特に一兵卒には殆どそういった詳しい情報が渡されない。

 もしそれで将兵の間で蟠りが生じてしまうと、劉備軍の根本から瓦解してしまう。

 だから無風さんは曹操軍には戻らない。戻れない。

 けれど、たった一つ。

 たった一つだけ問題が残る。

 それは雛里ちゃんとの仲だ。

 彼が消えてしまえば雛里ちゃんが悲しむ。

 だが、それは仕方のないこと。

 大を優先すれば小が切り捨てられるのはよくある事。

 しかし、そんな言葉では片付けられないのが乙女の恋心でもある。

 無風さんはたった一つ、そのことだけはどうにも出来ない。

 雛里ちゃんも連れて行く線もあるが、私たちも人材不足なので難しい。

 雛里ちゃん自身、その事を理解しているからこそ、先程の無風さんへの問いだろう。

 そして、曹操さん。

 思っても居なかったんでしょう。

 無風さんが曹操さんの誘いを断ったのに目を見開いている。 

 予想が外れた。

 そんな顔をしていた。

 それもそうだろう。

 曹操さんは無風さんを知っている。

 知っているからこそ分からなかったんでしょう。

 無風さんは自分を信頼する相手には、自身の全てを掛けて助けてくれる。

 それは曹操さんたちだけではない事を。

 しかし、無風さんはその事を言いはしない。

 全てを守ろうとするが故に。


「…………事は全て成った、後は」


キンッ!シャラン


 無風さんは自身の腰に挿してある剣から刀を抜く。

 とても澄んだ、鈴の音に似た柔らかくも鋭い音を出しながら抜刀する。

 その剣は透明で、剣を振ったら刀身が見えないのではないかと思うほど。

 見たことも無い刀を抜刀し、天に向かって持ち上げた剣先を曹操さん達に向ける。


「…………ここから逃げるだけだ」



up主「皆さんお久しぶりです!」

華琳「あら?大学のれぽーととやらは終わったのかしら?」

up主「終わってませんです。はい」

華琳「なによ、このお話書いてる場合じゃ無いじゃない。何してるのよ」

up主「いやね、またさ風邪引いちゃって、レポートが文字通り山のように溜まってるんですよ!?現実逃避もしたいです」

華琳「風邪引く方が悪い。てかまたなの?貴方もよく風邪引くわね?嘘じゃないの?」

up主「嘘だったら良かったんだけど。体が怠くなくて」

華琳「…その様子だと本当っぽいわね。移さないでよ?」

up主「気をつけます。……てかそう思うのなら俺の部屋に入るなよ!?」

華琳「あら、貴方の傍に居たいって思っちゃいけないの?夫婦じゃない」

up主「夫婦なのは、もうこの際置いといて。部屋に入ったら移るだろーが」

華琳「何が?」

up主「風邪が!あぁ、もう。頭痛くなってきた」

華琳「バ〇ァリンあるわよ」

up主「それよか風邪薬が欲しいんだけど。バファ〇ンより」

華琳「それじゃ、軽くお粥作った後に持ってきてあげるわよ」

up主「助かります」

華琳「それを食べたら大人しく………レポートを片付けなさい」

up主「鬼っ!!?いやいやいや、そこは大人しく寝てなさいっていう所だろう」

華琳「普通なら…ね」

up主「大人しくレポートやります、はい」グスン

華琳「まったく…、ま、そういう事だから、これを読んでる貴方達、また次回で会いましょ」

up主「うぅ、最悪だ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ