男の限界
前回のあらすじ
・曹操軍から開放される
・途中で公孫賛に覚悟を問われる
・コーラを下さい ←
================雛里視点================
「雛里ちゃん、もう戻って休んだほうがいいよ?」
朱里ちゃんが私に話しかけて来るが、私はその問いかけに首を横に振る。
無風さんが出て行ってから私は拠点地の入口でずっと帰ってくるのを待っているが、まだ帰ってくる様子はない。
もう日が高くなって来きている。
「無風さん………」
「あれ?ねぇ、雛里ちゃん。あれ、無風さんじゃない?」
「えっ!?」
朱里ちゃんに言われて向こうを見ると、小さくだが人影が見える。
愛紗さんや鈴々ちゃんならばあれだけ離れていても目視出来るのかもしれないが、
私は夜に本や報告書を見たり書いたりするために視力が少し落ちている。
薄ぼんやりとしか見えない。
しかし、私はもうその時点であの人影が無風さんだと確信していた。
それは、まず一つにこの連合軍は洛陽に向けて進軍している事から、逆に帰りの方向である泗水関の方に人が来る事はまずありえない。
そしてもう一つは………"たった一人"でこちらに近づいてくるその漆黒の姿。
姿と言ったが見えるわけではない。
ただ、真っ黒なのである。
米粒のように見えるその姿が。
それらの情報からあれが無風さんである可能性が高い。
そして……
「無風さんっ!」
ダッ!とその場から走り出し、その人に向かって走り出す。
私がいくら速く走ろうとしても、足の歩幅は変わらないし、体力もまったくと言っていいほど無い。
まったく距離が縮まらない。
すると、向こうから歩いてきてた人物が上に長脚したと思ったら、
ぐんぐんと大きく、否、もの凄い速度でこちらに飛んできたのだ。
ドンッ!
ほぼ目の前でその人物が着地する。
着地する反動を消すために折った膝を立たせて立ち上がる。
その漆黒の姿を、私に晒し出す。
「……っ!?おかえりなさい、無風さん」
ボロボロになり、しかも服が黒いので体に付着した砂埃が全面に付き、どこからどう見てもボロボロという言葉が似合っている。
しかし、その黒い瞳は変わること無く、また私の前に現れてくれた。
無風さんの姿を見た瞬間に、視界が歪み出す。
それが涙だと気づいたのは、涙が頬を流れた時だった。
少しずつ近づいて無風さんに抱きつく。
居なくならないでくれた。
戻ってきてくれた。
それだけで嬉しさがこみ上げてくる。
「…………ただいま」
離れて居た時間はそれほどでは無かったのに久しぶりに感じるその彼に強く抱きつく。
汗と血と土の強い匂いがする。
それが悔しくて、羨ましい。
無風さんがこんな状態になってまで助けたいと強く思われる曹操さんが、曹操軍の人たちが。
もしも私が同じ状況になったら無風さんは同じように助けに来てくれるのだろうか。
そのような考えが頭に浮かぶが、直ぐに振り払う。
もしも……来てくれなかったら、もしも……切り捨てられたら。
そんな『もしも』を想像したくない。
だけど、同時に『もしかしたら』も浮かぶ。
もしかしたら助けに来てくれるかも、もしかしたら私を守り抜いてくれるかも。
希望と絶望がせめぎ合う。
尋ねれば、きっと彼は答えてくれる。
だが、尋ねてしまえば答えが出てしまう。
答えを聞くのが怖い。聞きたくない。
恐らく人生で初めてかもしれない。
今まで……塾にいた時は答えのあるものは導き出し、答えの無いものは正解に近い答えを朱里ちゃんと模索していた。
答えを出したくないと考えた事は無かった。
だが、いつかは出てしまう。
そのままズルズルと問題を引き伸ばしにしていい事など殆ど在りはしない。
「おかえりなさい、無風さん」
その時、追いついてきた朱里ちゃんが声をかけてきた。
「…………あぁ、体調はもういいのか?」
「……はい、と言ってもまだ頭の中は混乱していますが」
「…………そうか」
無風さんは朱里ちゃんに短く言葉を返すと、私の肩を叩きました。
私はそれにつられて顔を見ると彼は私の顔を見て離れるように顔で合図をしてくるので、名残惜しくあったが
無風なんから手を離す。
すると無風さんは腕に巻きつけていた目隠しを……
「あれ?無風さん、その布は…」
最近いつも付けている布ではなく、最初に出会った頃に付けていた方の目隠しだった。
見比べてみると、布の光沢の違いがよくわかる。
「…………孟徳の護衛役である流琉、典韋に返してもらった」
「「……っ!!」」
私も、朱里ちゃんも無風さんの口から出た言葉に驚く。
典韋さんといえば、私や朱里ちゃんと同じくらいの女の子だったはず。
恐らく『るる』と言うのは典韋さんの真名なのだろう。
そして一番驚いたことは、無風さんが真名を口にしたことだ。
無風さんが真名を口にする事自体は別段不思議ではない。
だがそれは本人と二人きりの時だけだった。
誰か別人の前で他の人の真名を口にするなんて、私が記憶する中では初めてだ。
「無風さん……今…真名を」
「…………なんだ?俺が真名を喋ってはおかしいか?」
「いえ…そういう訳では無いん……です」
典韋さんとは違い、未だに無風さんの信頼を得られていない事に暗い影を落とし下を向いていると、
無風さんが手を差し出してきた。
不思議に思って無風さんの顔とその手を交互に見る。
「…………なんだ。繋がないのか?そんな顔してなかったか?」
「あわわ!?そんな顔なんてしてましぇんよー」
とか言いつつもちゃっかり手を繋ぐ。
もう目隠しをしている為に彼の顔が口元しか見えなくなっているが、その奥に見える澄んだ黒い瞳が見えたような気がした。
「…………一つ忘れるな」
「えっ?」
無風さんと手を繋ぎながら、朱里ちゃんと並んで歩いていると無風さんが急に話しかけてきた。
「…………俺にとって真名なんて、名前以上の意味なんて無い」
「…っ!」
「…………俺が信じられるのは、俺を信じてくれる奴だけだ」
表情こそあまり変わりないものの、雰囲気からとても寂しそうに言う無風さんに、真名を貶された事を怒るに怒れなかった。
「…………まぁ、それは俺の価値観なだけだ。それより北郷の所に案内してくれ」
「は、はい」
軍の入口で朱里ちゃんと別れ、無風さんをご主人様の所に向かう。
ご主人様は桃花様の天幕の隣なので直ぐにわかります。
「ここの天幕がご主人様の天幕です」
「…………そうか、ありがとう。ここまででいい」
「えっ!?」
「…………すまないがここからは天の御使い様と二人で話したい。人払いをしてもらってもいいか?」
「……はい」
「…………すまない。信用してない訳じゃないのだけは分かってくれ」
ということは、天に関するお話なのか。
ならば納得はいく、ご主人様の天の知識は素晴らしい物ばかりだ。
しかし、あまりに素晴らしすぎるが故に危険すぎる物も多い。
それは物だけでなく、その知識もだ。
それを理解し、共有できるのはご主人様と同じくらい柔軟な頭をしている無風さんくらいだろう。
「わかりました。人払いしておきますね」
「…………頼んだ」
ここで私は無風さんの手を離して仕事に取り掛かる。
ずっと手を繋いでいたいのは山々だが、流石にまだ人に見られるのは恥ずかしい。
手を離したせいで涼しくなった手を胸の前でギュッと握り、やることをやる為に走り出す。
================無風視点================
士元が離れていってから俺は一つため息をついた。
その原因ももちろん士元の事でだ。
毎度毎度心配をかけてばっかりいる上に、無理難題とまではいかなくても無茶な要求を頼んでいる事も分かっている。
そして一番の原因は、典韋と同様で余りにも士元に近づきすぎた事。
一人の限界を知ってはいる、だから周りに助けを求める。
しかし、多くの人間と深い関わりを持っては危ないと、少数だけに限定したのが裏目に出た。
そのせいで士元への負担を大きくしている。
所詮は高校2年だとゆうことを今更ながらに思い知らされる。
思考も思慮も、何もかもが浅い。
とても中途半端な事ばかりな気がしてならない。
ここでもう一つため息をつく。
それこそ今更、そう今更悔やむのはお門違い。
だったら最初から行動するなという話だ。
今はやるべき事をやるだけ。
「…………北郷、無風だ。居るか?」
「ん?無風か!?いつ戻ってきたんだ!?」
天幕の布をバッと開いて北郷が天幕内から出てくる。
「…………おい、無用心だぞ。俺が暗殺者なら、声を似せて出てきたところで殺してるぞ」
「大丈夫、とまでは言えないけど皆が居てくれるから」
「…………まぁいい。話がある。入ってもいいか?」
「あぁ、構わないよ。てか、いつ帰ってきたか答えを聞いてないぞ」
「…………今だ、今」
もうため息以外口から出てこなくなりそうだ。
だが、ここでのんびりしては居られないので、単刀直入に話を切り出す。
「…………ところで北郷。これからどうする気だ?」
「これから?これからとは?」
「…………『董卓』」
「っ!?あぁ、それなんだが恐らく、桃香や愛紗が女の子の時点で女の子の線もある」
たった一つの単語で、この場に緊張が走る。
天の国……俺たちの住んでた現実世界から来たからこそ分かる未来の話。
その未来……これから起こる出来事を相談し始める。
「…………やはり、殺すのか?」
「できれば助けたい。だけど、既に前線から切り離された俺たちじゃ追いつく事ができないし、何より今の俺たちの軍の士気では……」
「…………その辺は問題ない。時期に前線に出る問題は解消される。董卓を助ける事も可能だ」
「本当か!?どういうことなんだ!?」
「…………俺が前線で大暴れした事、袁紹軍も敵の罠で兵を無駄に損失した事、この二つから、恐らく袁紹は俺らに先行するよう行ってくる筈だ。兵の損失を抑えたいだろうしな」
「なるほど、それなら他の誰より前に出られるな、董卓を助ける方法はどうするんだ?」
「…………それは言えない。だが、成功する可能性は高い。それは保証する」
「…分かった。無風を信じるよ。しかし……」
「…………兵の士気……というより将の士気が低いのは別に大差ない。俺が一人でやればいいだけだろ?」
ニヤリと笑って北郷に余裕そうな笑みを見せる。
「無風……」
北郷は悲しそうな顔で俺の名前を呟く。
「…………何を心配そうにしてるんだ?平気さ。それより、董卓を助けられないと判断した場合はどうする」
「それは……」
「…………いや、後ろ向きな考えは止めるか。その時に考えればいい、だろ?」
「…あぁ、そうだな」
そんな甘い考え、逃げとも捉えられる事を言うと北郷は俺の言葉に乗り、頷いている。
やはり、劉備や北郷では無理だ。
もし、そんな事態になったら……俺がこの手で………。
「…………あとは、先行する場合のリスクだな。今までの罠から見て、相手は相当な策士。虎牢関の先は荒野が続いて、一見何も罠を張れないように見えるが……」
「策士なら、そこを突いてくる……か」
俺の言葉の先を繋げた北郷の言葉に頷く。
「…………考えられるのは一つ、『落とし穴』だ」
「洛陽に着くまでに将兵の数を減らそうとする算段か」
「…………いや、違う」
「違う?じゃあ、何なんだ?」
今までの策から考えられる最悪な策。
残酷な上に効果も抜群な方法。
「…………まだ推測に過ぎないが、恐らく死なない程度の落とし穴だと思う」
「それにどんな意味が……」
「…………分からないか?落とし穴にはまって怪我をした兵の叫びを想像してみろ」
「……!恐怖は恐怖を呼ぶ。そういうことか!」
それにコクリと頷く。
簡単に落とし穴を作り、その穴の下に針でも剣の一本でも仕掛けて置けばいいだけの簡単な罠でいい。
落とし穴にはまった人の足に針が刺さり、その痛みから絶叫するだろう。
その絶叫を聞いて、兵は足元を恐れる。
そうすれば、戦争に出られる兵も減り相手の士気をどん底に陥れる事ができる。
そして行軍速度が落ちれば相手にそれだけの時間を許す事にもなる。
まさに一石三鳥な手だ。
だが、これも推測の域を出ない。
落とし穴と決まった訳でもない。
もしかしたらもっと酷い、それこそ自分でさえも思いつかないような残酷な罠があるかもしれない。
「…………用心をするに越したことはないが、難しいな」
「あぁ、そうだな」
「…………あと、恐らくだがこの軍に間諜が紛れ込んでるな」
「無風?どういうことだ?」
「…………恐らくだが袁紹の兵を借りて混合部隊にした時、こちらに何人か潜り込ませてる。それからだからな、妙な視線を感じるようになったのも」
「なら何故、それを早く言わなかったんだ?」
「…………言えなかったんだ。北郷と二人きりになんかなったら、確実に怪しまれる。だから、今この時を狙った」
「…なるほど、今なら帰ってきて直ぐに報告しに来ただけと思うからな、まさか自分たちの存在を勘ぐられてるとは思いづらいだろうな」
「…………あぁ、だから気をつけろ」
「分かった、用心する」
それから、もう少しだけ北郷と喋って居たが、途中から誰かの足音を耳にし話を中断する。
「はわわ、すみません。ご主人様、無風さん!急ぎお耳に入れたいことが!」
誰かと思えば孔明だった。
その焦りようと、人払いを頼んでいたにも関わらず報告にくるという事から、相当緊急な話なのだろう。
北郷とお互いに顔を合わせて頷き合う。
「どうかしたか?朱里」
北郷が天幕の入口まで行き、天幕に使われてるカーテンを開くと孔明がかなり慌てているのか北郷の裾を握って揺する。
「はわわ!大変です~!袁紹さんから前線に来て先行するようにとの命が来ました」
「一旦落ち着こう、朱里。ほら深呼吸して」
北郷に言われて、孔明は言われた通りにスー、ハー、と深呼吸をする。
「で、袁紹に何て?」
「はわわ、袁紹さんの所の兵から文書で『一番被害の少ない劉備軍に先陣の功を差し上げますわ!』という物が…」
「なるほど、無風の睨んだ通りになったという事か」
「無風さんは分かってたんですか?」
「…………そうなるだろうと予測はしていた」
これで第一関門はクリアした。
続いて第二関門だ。
「ご主人様、現在私たちの軍で動ける将は鈴々ちゃんだけです。行軍は出来ても、とてもじゃないですが戦闘は無理です」
「…………ほう、翼徳は平気なのか。思わぬ誤算だな」
「えー、と。朱里、戦闘は基本、無風に頼む形で行こうと思う」
北郷の言葉に、北郷越しからこちらを見てくる孔明に向かって頷く。
「…ダメです。無風さん一人ではいくらなんでも無茶です」
まさかここで孔明から許可が降りないとは思わなかった。
この連合はこの軍を次の段階に昇華する為の踏み台であるのを分かってる筈だ。
多少の犠牲を出したとしても、ここは進むべきだ。
「…………孔明、何を戸惑う」
「戸惑ってなど居ません。単純に無風さん一人では無理だと言ってるんです」
確かに孔明の言う事は正論だ。
だが、孔明の氣を視ると激しく乱れている。
つまり、口で言っている事と心の中で思っている事に何かしら誤差があるという事だ。
「…………御託はいい、本音を言え」
有無を言わさない為に、孔明に向けて覇気を微量に当てる。
ビクッと震え始めた孔明は、それでも尚言おうとはせず黙っている。
これ以上は続けても無駄かと思った所で、孔明が頑なに喋らなかった事を新たに表れた人物が明かす。
「朱里ちゃんは、私の為にそう言ってるんですよ」
天幕内に入ってきたのは俺もよく知ってる人物、士元だった。
「朱里ちゃん、ありがとう。私の事を気遣ってくれてたんだよね」
「雛里ちゃん……」
「無風さん、朱里ちゃんをこれ以上責めないでください」
士元に言われたのもあるし、これ以上孔明に氣を当てる必要が無いので直ぐに氣をしまい込む。
士元絡みか、弱いところを突かれたな。
「私と無風さんの事を思ってしてくれた事です。許して上げてくれませんか?」
「…………別に怒ってなどない」
「そうですか……」
すると、士元が歩いてこちらに寄ってきた。
「無風さん、私は貴方から離れませんよ。あなたを失ったりなんて、しませんから」
士元は俺の裾を掴み、見上げてくる。
「…………危険だと分かってるんだな」
「わかってます。それでも着いて行きますから」
これ以上は言う事など無い。
というより、あまり時間が無い。
「…………そうか、なら着いてこい」
ただ、それだけを言って天幕から出る。
天幕を少し出てから、後ろにいる北郷に問いかけた。
「…………北郷」
「なんだ?無風」
「…………劉備は動けるのか?」
「あ、あぁ。今は少し疲れて寝ているよ」
なるほど、だから帰ってきてから姿を見てないわけだ。
まぁ帰ってきて直ぐに北郷の天幕に来たのもあるが。
「…………なら、劉備が起きしだい、直ぐに動くぞ」
天幕を出ながら、孔明と北郷にそう告げる。
話す事は話した。
あとは行動するだけだ。
up主「皆さん、おはこんばんちわ!久々に登場したup主でございます」
華琳「その正妻である華琳よ」
up主「ちょっと待って!?いつ結婚したの!?俺!?」
華琳「何言ってるのよ、GW終わりにしたじゃない」
up主「俺……そん時インフルで寝込んでたんですが………」
華琳「全て私が取り仕切ったから問題ないわ」
up主「いやいやいや、問題大ありだからね!新郎が不在で結婚式って出来ないだろ」
華琳「代役を立てたから平気よ」
up主「新郎を代役で立てちゃアカンだろ!」
華琳「平気よ、あなた以外の男に触れるつもり無いもの」
up主「嬉しいけど、素直に喜べないわ!」
華琳「うるさいわねぇ、病み上がりなんだから安静にしなさいよ」
up主「普通に無理だろ」
華琳「あなたの普通って何なのかしら?」
up主「急に哲学っぽい事言い出したよ、この人」
北郷「おーい、up主。結婚祝い持ってきたぞー」
無風「…………持ってきた………」
up主「それも嬉しいけど素直に喜べないです(泣」
華琳「グダグダ言ってないで貰っちゃいなさいよ」
up主「はい………ありがとな、二人共」
北郷「お、おい。どうしたんだよup主。泣き崩れて」
無風「…………ついに頭がイカれたか………」
華琳「ふぅ、あれは当分終わらないわね。仕方ないから私が締めさせてらうわよ」
無風「…………引っかき回した張本人がそれを言うか……」
華琳「そこの小説を読んでる皆、また次会いましょ?(聞こえないフリ」
北郷「今だけは同情するよ。up主」
up主「要らんわ!そんな同情(泣」




