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黒い風の正体(後編)

最近やっと一定のペース掴めたかなって感じがする。


================桂花視点================


 無風は何者なのか。

 武に秀でた武将。

 知に秀でた軍師。

 天の御使い……の一人。

 一体どれだけの顔を持っているのか分からない。

 そして、それに加えて華琳様の傷を治してしまった。

 私の目から見ても、もう動かすことは出来ないと思った腕を。

 だが、無風は治してしまった。

 手を、動かない手を握っていろと言われ、華琳様の少しでも力となれるようにキツく手を握る。

 華琳様の手は少し冷たくなっていた。

 無風は華琳様の傷口を手で覆ったと思ったら、そこから赤い煙が上がり華琳様が痛みに叫びだす。

 最初は驚いて華琳様の名前を叫んでしまったが、手に激痛が走り喋れるような状態じゃ無くなってしまった。

 手元を見ると華琳様が私の手を思いっきり強く握っている。

 驚きに目を見開く、冷たくなっていた手が今は熱いほどだ。

 目を見開いたまま、無風に視線を移す。

 彼は傷を手で覆ったまま真剣な顔で目を閉じている。

 半刻ほどすると赤い煙は収まり、華琳様も寝息を立てて寝てしまった。

 そこで無風がいきなり華琳様の上に馬乗りになる。

 何をするのかと思ったら、良くは理解出来なかったが流し込んだ分の氣を出さなければ華琳様が危ないとの事らしい。

 その時に無風に言われて気がついたが、華琳様の腕に傷は無かったが傷跡がハッキリと残ってしまっていた。

 華琳様に何をするんだという気持ちと、すごくモヤモヤする気持ちを抑えてその様子を監視、もとい見守る。

 これも半刻ぐらいで終了して無風が華琳様の上から降りる。

 これでやっと安心できる。

 そう………思っていた。


「…………ぐぅぅぅぅ!?」

「な!なs……」

「兄様っ!」


 無風に異変が起きて降りて数歩歩いた所で転倒してしまった。

 無風に近づこうとしたら、流琉に先を越されてしまった。

 流琉が慌てて無風を仰向けにして顔を覗く。

 だが、流琉や楽進、香風には分からないだろうが無風の視線が少し流琉からズレている。

 あれは目が見えていない人の目だ。

 先程まで普通にしていたのに、いきなりどうしたというの!?

 事態が急激に動きすぎていて理解が追いつかない。

 今、確実に理解できる事と言えば無風が倒れたという情報だけだ。

 私が混乱している内に、流琉が無風を寝かせる為の敷物を持って来ようとするが、無風が弱々しい動きで止める。

 信じ難かった。

 あの無風がこんなにも弱っている。

 すると無風が意外にも凪を呼んだ。

 何故、ここで凪の名前が出るのか分からなかったが、凪の方は至って冷静に無風の元に向かい、彼の指示に従って手を握る。

 その光景を見ただけでズキリと胸に痛みが走る。

 胸の内にモヤモヤが溜まり、その手を離したくなる。

 けれど、私では確実に無風を助けられない。

 無風がほぼ初見とも言える凪を呼ぶと言うことは、彼女しか出来ないから呼んだのだろう。

 彼は基本人を頼りにしない。

 だが、頼りにする場合は彼が信頼する人物にしか頼まない。

 そんな極小数の人間しか頼らない人間が他人を頼るという行動をするなんて、答えは限られてくる。

 凪が彼の指示に従って、手を握ったまま反対の手で氣を放射しては大きくならない内に消し、を繰り返す。

 しばらくそれが続いた所で無風が立ち上がる。

 そう、まるで何事も無かったかの様に。

 何故かそれがとても腹が立った。

 こっちはどれだけ心配したか分からないっていうのに、コイツは何事も無かった様に振る舞い初めて。

 心配と心に残るモヤモヤをどうしてくれようか!

 無風が元に戻った所で、私は立ち上がり彼を問い詰める。


「全て…‥そう、全て話して貰うわよ?無風」

「…………分かった」


 その受け答えがまた私の琴線に触れかけたが、華琳様が寝ている事もあり流石に自重した。

 結局私が折れる形で、元からこういう奴だと諦める。

 あまりゆっくりしてられないのもあるので、単刀直入に聞くことにする。


「そうね、まずは無風。貴方自身の事を聞かせて貰うわ。なんでさっき倒れたの?」

「…………話すのはいいが、そこのそいつには聞かせられない」


 そう言って無風は香風の方を見る。

 

「わたし~、そいつって名前じゃ無いですよ~。徐晃って言います~、よろしく~」


 徐晃という名前に無風が目を細めた。

 徐晃自身も私に視線で「どうしたらいいですか~」という視線を送ってくる。


「…分かったわ。香風、私の護衛はいいから兵をいつでも動かせる様にしておいて」

「ほえほえ~、了解です~」


 そう言ってふらふら~とした足取りで幕舎を出て行く。

 香風が出て行った所で疑問を一つ無風に尋ねる。


「…一ついいかしら?」

「…………なんだ?」

「香風は貴方と面識が無いし、信頼してないのも分かる。けれど、凪…楽進はどうして返さないの?」

「…………説明するのに必要だからだ」


 となると、氣について話さなければいけない訳ね。


「分かったわ。じゃ、早速説明してくれるかしら」

「…………分かった。まずは、全てを説明する前に氣について知ってもらう必要がある」


 無風が氣について説明し始める。

 氣には大まかに3つの特性が存在する。

 一つ目に攻撃型、氣で体、もしくは体の一部に膜を張り相手の内部から直接攻撃する方法。

 先程凪が見せた氣の放射もその部類に入ると言う。

 放射の他に氣弾として撃つ方法もあるらしい。

 二つ目に防御型、これは体の皮膚や筋肉を形成している細胞という物をより強固につなぎ合わせ、体を鋼の様に固くすることが出来るらしい。

 一般的にはこの事を硬気功と呼ぶとの事。

 無風と最初の賊討伐をしに行った時、上空から落ちて来るかのように飛来した際、体の筋肉を痛めないように出来てたのもこれのお陰だと言う事か。

 それにつなぎ合わせるだけでなく離す事も出来るらしく、これを利用して外の氣と反発させることで空中を蹴って飛べるそうだ。

 これを虚空瞬動と言い、流琉曰く呂布が華琳様の所に行くのを凪が阻止した際の移動方法がそれだったらしい。

 他にも一気に相手に肉薄する時に用いられ、呼び方は縮地・瞬動術・活歩と様々な呼び名があるとか。 

 三つ目に異能型、これは攻撃や防御とは違い稀に存在する能力としての総称らしく、言葉の通り異なる能力だとか。

 異能型は様々で、未だどんな能力がどれだけあるのか氣を扱う事の出来る人たちの中でも更に珍しい為に、ほとんど全てに置いて未知数。


 と、ここまで説明をされた。


「…氣については大体分かったわ。それで、説明は終わりじゃないわよね?」

「…………あぁ、それで大体人はその3種の中で相性のいい2つを使えるんだが、楽進は一番相性がいいのは防御だな」


 その無風の問いに凪は驚いた顔をしながらも答える。


「は、はい。無風殿の分け方で言うのでしたら、防御と攻撃の順だと思います。氣弾も撃てますが、基本は硬気功で固めた拳や足で攻撃するので」

「…………ほぅ、面白い戦い方をするな。まぁ、それはいいとして大抵は楽進のような攻撃と防御のどちらかが相性として強い奴が大半だ」

「その言い方から察するに貴方は異能型なのね?」

「…………そうだ。俺の場合は異能と防御だな。氣弾などは撃てない事は無いが消費が大きい」

「そんなどうでもいい事は言わなくていいわ。で、貴方はどんな能力なの?」


 私の受け答えに表情は変えなかった物の、つまらないとい空気を醸し出している。

 今はあまり時間が無いのよ、それくらい察しなさいよ馬鹿。


「…………俺の特性は"細胞の活性化"だ。細胞に氣を送る事で人間の持つ潜在能力を引き出したり、その潜在能力を倍以上に行使する事も可能だ」

「…だから、春蘭や皆に勝てたのね……」

「…………そういう事だ」

「…それは分かったわ。でも、何故さっきのように倒れたのかの説明にはならないわよね?」


 無風はチラリと華琳様を見る。

 その目がどこか寂しげに見えたのは気のせいでは無いだろう。


「…………俺はな、文若。"病気"を患ってるんだ」


 無風の口から今までの無風からは絶対に分からない単語が出てきた。

 病気ですって?

 それなら先程の倒れた事に関して説明はつくけど、その前や今では矛盾が生まれる。

 こちらの思考を読んでか無風は言葉を付け足す。


「…………病気というより障害と言ったほうがいいか?」

「障害?障害者と言う事?」

「…………そうだ」


 その言葉を聞いて流琉が心配したのか、無風の傍に寄っていつ倒れても大丈夫な位置で見上げる。

 無風はそんな流琉を見て表情を変える事は無かったが、流琉の頭をクシャクシャと乱暴に撫でる。

 そんな無風を見て治せる物であって欲しいという希望的観測で尋ねる。


「どんな症状なのよ。私たちで何とか出来ないの?」

「…………無理だな。俺は脳から脊髄…背骨に行くはずの神経が圧迫されている状態だ。

しかも場所が悪く三叉神経という場所を血管に圧迫されている為に視力もほぼ無い」

「…何処よ、その…三叉神経ってのは……」

「…………簡単に言えば脳の中心にある神経だ」


 屈辱


 その文字が私の思考を占める。

 無風に助けてもらった、目標をくれた、恋を教えてくれた。

 色んな物を無風から教えてもらったのに私は何も返す事が出来ないの?

 結局、無駄な知識しか私は学んでこなかったと言うの?

 何もできない悔しさに涙が出そうになる。

 だが、当人である無風は笑っている。


「…………くくっ、そう心配するな文若。それを補ってるのが今説明した氣の出番だ」

「……どういう事?」

「…………察しが悪いな。俺の能力は活性化だぞ?それを使って脳からの神経系を活性化させて補ってるからな、

先程のように氣の暴走で制御出来ない時以外は平気だ」

「…………」

「…………そして、孟徳の傷も俺の氣の特性を活かして治した。正確には"再生"させたと言った方が正しいか」


 違うわよ、そういう事を聞きたいんじゃないの!

 そう言いたかったが、悔しさから興奮しすぎていて口が回らない。

 そうしていると無風が説明を続けていく中で、流琉が疑問に思った事を口にした。


「でも兄様、そんな不利な条件を持ちながらあの呂布を圧倒出来たのは何故ですか?最初は五分五分でしたよね?」

「…………それはな、俺の切り札の一つだ。典韋、人間の脳は普段どれだけ使ってると思う?」

「えっ!?え、えーと、6割くらいですか?」

「…………人間の脳はな、死ぬまでに1割も使わないと言われてる。文若が1割行くかどうかだな」

「えぇ!?そんな少ないんですか!?兄様、嘘ついてません?」

「…………嘘はついてない。普通の人間なら7分|(7%)くらいだ」

「へー、人間の脳ってそんなに使わないんですね」

「…………あぁ、そしてそれをもしも倍使用出来るとしたら、どうなると思う。典韋」

「えっと、倍になるんだから倍の思考ができ………兄様、まさか!?」

「…………そのまさかだ」


 私は直ぐに分かった。

 無風は呂布と戦う際、それを行なったのだろう。

 恐らく、倍ではなく3倍くらいも。

 そうすれば、呂布の攻撃が3倍早く読めて3倍の速さで対応が可能だろう。

 それに体の活性化と硬気功を合わせればかの飛将軍呂布を圧倒したのも頷ける。

 頷けるが………


「それは、脳に普段以上の負担をかける………そういう事よね?」


 いくら硬気功が可能と言っても脳を強化する事など不可能だろう。

 とすれば、そんな事をすれば脳がどうなってもおかしくない。

 自殺行為だ。

 それに今まで以上の怒りを覚える。

 気がついたら無風の襟首を両手で掴んで睨んでいた。


「どうして!!どうして貴方はそんなに自分を犠牲にするのよ!どうして自分一人で全て片付けようとするの!?」


 吸い込まれそうなほど澄んだ黒い瞳を覗き込みながら叫ぶ。

 一歩間違えたら死んでいたかもしれないのだ。


「…………落ち着け文若。人間はそれなりに丈夫な生き物だ。それに潜在能力を引き出すのが俺の氣の特性だと説明しただろう」


 確かにそう聞いたが、そうではない。

 理解と納得は別物なのよ!

 

「ええ、分かってるわよ!でもね、それで大丈夫っていう保証は無いでしょう?もしかしたら死んでたかも知れないじゃない!」

「…………否定はしない」

「なんでもっと頼ってくれないのよ!なんで直ぐに来なかったのよ!アンタがいれば状況はもっと良かった筈じゃない!!」

「…………それに関しては、すまない」


 分かってる。

 過去の事を今更どう言っても意味など無いなんて。

 未来を見ず、過去の事ばかり言うなんて軍師失格。

 でも、華琳様や私、流琉にとっても軍にとっても大切な人が無茶をすれば怒りたくもなる。

 女誑しの精液量産機の癖にどうしてそう言う所は疎いのよ!

 だが、それを口にはせずに俯く。

 無風はそんな私たちの心を知ったら恐らく、今まで以上に一人で行動する。

 確信を持ってそう言える。

 私たちが傷つかない為にも一人で行ってしまう。

 そんな私の心にある思いを知ってか知らずか無風は全て話したという雰囲気で幕舎を出ていこうとする。

 だか、途中で言い忘れた事でもあったみたいで、立ち止まって私に注意を促してくる。


「…………孟徳の氣に関する管理は楽進に、食事は典韋が、総合的な管理は文若、お前が行ってくれ」

「…言われなくても分かってるわよ」

「…………そうか」


 そう一言呟いて無風は流琉を連れて幕舎を後にする。

 空気を読んでくれたのか、凪も幕舎から出て行く。

 残ったのは寝ている華琳様と私だけ。

 色々な感情を吐き出したせいか、その場に崩れそうになったのでなんとか椅子の所まで歩いてトスッと言う音を立てて椅子に座る。

 少し深呼吸して落ち着こうとしたが、無風に対する嬉しさ、悲しさ、怒りなどが未だに胸中に渦巻いている。

 その中で圧倒的に私の心を占めていたのは……


「生きてて…くれた。……生きて、帰ってきてくれた」


 無風が生きて帰ってきた事に心が歓喜する。

 人の心はなんて都合がいいのだろう。

 あんなに悲しかったのに、あんなに怒っていた筈なのに、最後には嬉しさで涙を流している。

 一気にこんなにも満たされたような気持ちになるのだからズルいと思う。

 そう思うが、どうやっても怒ることが出来ない。

 これが惚れた弱みなのだろう。

 ほんと……ズルい。



================無風視点================


 幕舎を出て空を見ると空は日はまだ登っていないが、空が明るくなってきている。

 後に続いて典韋が、少し遅れて楽進が出てくる。

 典韋は俺の横で動かずに立っていたが、楽進は俺に一度頭を下げると直ぐにどこかへと向かう。

 恐らくだが、元譲の所へ代わりに報告しに行ったんだろうか?

 今は文若を一人にしてやるのがいいだろうから俺自身は報告には行かずにどこかで休もうと思っていた。

 思っていたのだが、歩き出す前に典韋が俺の腕を掴んで歩き出してしまった為について行くしかなくなった。

 しばらく歩くと、一つ少し小さめな天幕の中に典韋が入ってゆく。

 腕を掴まれているから、俺も必然的にその天幕の中に入る。

 入った所でここが典韋の使う天幕だと理解した。

 典韋がいつも着ている服の替えが置いてあったり、武器のメンテ用品が置いてあったりしている。

 てか、いつも同じ服だと思ったら、同じ服を何着も持ってたのか。

 天幕の中に入ると、典韋はこちらを向いて腰に抱きついてきた。

 こうなる事が分かって居たから黙ってついてきた。

 孟徳や文若は己の心のままに感情を吐き出した。

 だが、典韋はどうだ。

 最初は皆と同様に驚いていたが、誰よりも今まで己の感情を押し殺してきたのは他でもない典韋だけ。

 今すぐにでも孟徳たちと同じように感情を爆発させたかったのだろう。

 しかし、孟徳を助けなくてはいけない優先順位を考えて会ってから今の今まで我慢してきたのだろう。

 今まで、妹の様に接してきたからさすがの俺でも分かる。

 家族が居なくなれば寂しいのは当たり前だ。

 

「…………すまない」


 今日で何度目かもわからない謝罪を口にする。

 典韋はただ強く腰に抱きついてきて顔を俺の服に埋めている。

 典韋のサラサラな髪を撫でようと頭に手を置くと、典韋がビクッと反応したが撫でるのに抵抗はして来なかった。

 撫でていると、次第に肩が震えだし嗚咽が聞こえてくる。

 我慢しなくていい、その想いを乗せて頭を撫で続ける。

 同時に、悔しく思った。

 典韋の様にまだ心身共に成長しきれてない子までも乱世に巻き込んでしまった事を。

 周りの人間より少し力がある、たったそれだけで世に引きずり出されてしまうまでに自分が何もしてこれなかった罪悪感に。

 そして何より、典韋に暖かさを教えてしまった自分自身に。

 一番手っ取り早いからと取ってきた行動のツケが回ってきた。

 自分の力を見誤ったが為に、典韋を泣かせるような事をしてしまった。

 手を出さなければこんな事にはならなかった。

 その後悔に押しつぶされそうになる。

 だが、だからと言って今更放置は出来ない。

 責任の放棄は人として終わりだから。

 生きていく限り増えていく罪を背負わなければいけないから。


 一度、典韋を腰から剥がしてしゃがみこんで視線を平行にする。

 典韋は鼻水と涙で顔がぐしゃぐしゃになっていたが、自分の為にここまで泣いてくれる事に嬉しく思ってしまう。

 

「…………ほれ、鼻をかめ」

「ず、ずびまぜん」

 

 懐からハンカチを取り出して典韋に渡す。

 それで涙を拭って鼻をかみ、一応は落ち着いた様だ。

 目と鼻が真っ赤っかだが、年相応で可愛いもんだ。


「兄様、本当に…帰ってきてくれたんです…よね?」

「…………すまないが、今は他で客将をしている。帰る事は……出来ない」

「そんな!?」


 典韋がまた泣き出しそうに顔を歪めるが頭を撫でて落ち着かせる。

 典韋よ、俺は俺の責を果たす。

 だから、もっと強くなれ。

 乱世に負けぬように。


「…………典韋、確かに俺は他勢力にいる。だが、俺とお前の絆はそんなで断ち切れると思ってるのか?」

「兄様?」

「…………俺の妹が、そんなんでどうする。お前は最強の男の妹なんだろう?」


 この世界で重要な意味を持つその言葉を、口に。


「…………流琉、孟徳を守れ。流琉が孟徳を守れば、俺はいつでも帰る事が出来る」

「兄様!今……私の真名を?」


 命を預け、命を預かるに相応しい相手の真名を呼ぶ。 

 また、泣かせてしまうかもしれない。

 また寂しい想いをさせるかもしれない。

 けれど、一度負った責務、典韋の兄で居る事からはもう逃げない。

 だからこそ真名を呼ぶ。

 それは、相手への絶対の信頼。

 例え、殺されようと裏切られようと文句など言わぬ。

 俺は自分の責任から逃げる姿を妹にだけは見せたくない。

 その想いで。

 

「…………流琉、兄と約束だ。生きろ、そして孟徳を守ってくれるな?」

「はい、兄様!兄様ぁ~!」


 即答した流琉は俺の首に腕を絡ませて抱きつき、また泣き出してしまった。

 だが、先程とは違いとても嬉しそうに泣いている。

 未だ、罪に罪悪感を感じはするが、それ以上に安心感と暖かさを感じる。

 今だけでも、この暖かさを感じていたいと思うことは、いけない事だろうか?


 その日、悪来典韋の天幕はしばらく泣いている声がしていたという。


はい、という事で後編終了いたしました。

正直、やばいです。

今回は寝る間を惜しんで書き上げたので途中変になってるかもしれへん。


今回は早めに切り上げますね。

それでは皆様、また次回~

でわでわ~

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