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本来の姿

レポート終わんねー

 自分の無能さを呪いたい。

 自分の中にいる甘い自分を殺したい。

 守りたいと思った、自分の力が届く限り助けたかった。

 全てを守ることは不可能でも、自分の手が届く場所くらいは守ろうと決めたのに。

 自分の死にたくない、生きたいという思いに正当性のある言葉で自分を誤魔化した。

 その結果が孟徳に傷を負わせてしまった。

 一番犯してはいけない事をしてしまった。

 だから。

 もう迷わない。

 いや、迷いたくない。

 迷わない為にはどうする。

 ただ思いのままに、愚直に突っ走る。

 我ながら安易な答えだと心の中で笑う。


「…………さぁ、始めようか。」


 目の前にいる殺気を放つ二人と不思議な目でこちらを見つめる人物が一人。

 剣を持った手をダラリと下げて、体の力を抜く。

 誰から、もしくは3人同時に来られても対応できる様にする。


「まずは私からd…」

「華雄!ウチが先にやらして貰うで!」


 そう言ってショートヘアの女性を押しのけて後ろ髪を上げて後頭部あたりまで持ち上げて縛っている女性、

確実に前者が華雄、後者が張遼だな。

 

「霞!私にやらせろ!!あんな事を言われて黙っておれん!!」

「わりぃ、華雄。ウチにも我慢の限界っちゅうもんがあるんや。あないな事言われてジッとしてられるほどウチも温厚じゃないんや」


 もの凄い怒気を秘めた、冷え冷えする声音で華雄を黙らせた張遼がこちらに向かってくる。


「…………3人同時に来ないのか?」

「へっ!後で3人相手だから負けたとか言われとう無いしな」

「…………まぁ、此方としては楽だがな」


 実際3人同時に相手する事を想定していたから拍子抜けだ。

 今の言葉を挑発と受け取ったのか、張遼の額に青筋が軽く浮き出てきた。

 うわっ、怖っ!?


「あんさんだけは、絶対殺す」


 怒りのボルテージが上がりすぎて獰猛な笑みになっている。

 

「いくで!神速の張遼、馬鹿にした事を後悔させちゃる!」


 雲長の青龍偃月刀に似た薙刀、確か飛龍偃月刀だったか?、を連続で突いて来ながらこちらに突進してくる。

 それを全て紙一重で避けて交差し、立ち位置が逆になる。

 だが、次の瞬間には横からの薙ぎをして来て、その威力を殺さず上段に持って来てからの振り下ろしが襲いかかる。


「うりゃりゃりゃー、なんや逃げてばっかやないか!先程の威勢は何処いったんや?」


 さっきの状態から感情に任せて武器を振るうのかと予想したが、冷静に攻撃を仕掛けてくる。

 そして俺が防戦一方だと思ったのか、今度は張遼が挑発してきた。

 だが、特に武の道を目指している訳でも無ければ、そんな気高いプライドがあるわけでも無い。

 挑発は無意味。

 張遼自身も挑発が意味を成さないと分かると、攻撃の鋭さと速度を上げた。

 そうやって分析を続けていると、不意に後ろの方が騒がしいのが分かった。


「華琳様!私にも加勢させてください。あの方だけで3人相手なんて無茶です!あの張遼相手だけでも防戦一方なのですよ!?」


 そんな心配をしているのは恐らく、先ほど合った楽進か?


「凪、落ち着きなさい」

「落ち着いてなんていられません!確かにあの方はそれなりに強い氣を感じますが、張遼の比ではありません。ご指示を!」

「ダメよ、そのまま見ていなさい凪」

「華琳様!」

「落ち着け凪、あまり叫ぶと華琳様の傷に響く。それに、お前は知らないのだ」

「秋蘭様、私が知らないとは一体何ですか?」

「無風……あやつの実力を、だ」

「あの方の……実力」


 なんか非常に注目されてるな、おい。


「よそ見してると危ないでー!」


 下からのカチ上げをバックステップで回避して、ここで初めて剣を構える。

 人間の目は左右の動きには即座に対応できるが、上下には対応しずらい。

 翼徳の時も同じだったが今回は少し違う、翼徳は己の勘を頼りに戦う所があるが張遼は実践経験からくる実力だ。

 だからここは深く読まなくていい。

 下段から来たら視線は下に行く。

 つまり、上が"死角"になる。

 だが、それは普通ならばの話。

 それが読めていればどうという事は無い。

 なので八相の構えを取り、突撃する。


「っ!!」


 まさかここで接近してくるとは思ってなかったのか、驚きの顔になるが振る薙刀は止められない。

 

ザンッ!


 偃月刀が空気を切る音をして戦闘音が止まる。

 俺が張遼の首に剣を当てた状態で。


「…………神速が聞いて呆れる」

「くっ!」

「…………終わりだ」


 張遼の腹部に手を当てて氣の衝撃波を叩き込む。


「がはっ!?」


 そのまま倒れる張遼を放置。

 残る二人に剣を向ける。


「…………次はどちらが相手だ?」

「言うまでもない!私が相手だ!」


 その言葉に華雄が前に進み出てくる。

 先ほどより冷静になっている。

 時間が経ち冷静になったか、俺と張遼の戦闘を見て警戒されたかのどちらかだろう。


「…………いいだろう」

「我が戦斧、止められる物なら止めてみせよ!」


 そしていきなり上段から斧を振り下ろしてくる。

 それを真正面から剣で受け止める。


ガキィン!


「何!?」


 普通ならば斧の威力と速度で刀で防御しても折れてしまうが、この刀はそんな物では折れない。


「…………そちらから攻撃しないのであれば、こちらから行くぞ」

「くっ!?」


 右足を軸にして回転による遠心力を乗せた左薙をお見舞いする。

 それをなんとか防御した様だが、それで終わりではない。

 時間差で左足の回転蹴りを放つ。

 それには対応出来ず横腹に直撃し、そのまま横方向に蹴り飛ばす。

 かなりダメージが入ったのか起き上がって斧を構えるが、斧の先端が震えている。


「…………まだやるのか?」

「当たり前だ!これしきで私は負けん!!」


 その心意気は認めるが、実力は張遼以下。

 これで猛将とはな。


「…………ならば、次で仕留めてやる」


 シャギンッという音を立てて、刀を納刀させる。

 そしてそのまま抜刀の構えをする。


「私は、こんな所で負けてなど……いられない!」


 そう言って先ほど同等、振り下ろしをする為に上段に斧を構えながら突進してくる。


「…………俺もこんな所で負けてられないんでな」


 華雄が間合いに入った瞬間、剣を抜刀する。

 

キィィィン


 確認するまでもなく、剣を納刀する。


「あ、ああ!」

「…………お前の斧、"切らせて"貰った」

 

 振り返って華雄の持つ斧を見る。

 斧の曲刃になってる真ん中から両断されている。


「…………お前の負けだ。」


 地面に手を着いて項垂れている華雄の横を通り最後の一人、呂布と対峙する。


「…………待たせたな」

「ん……そうでもない」

「…………そうか」


 他の二人と違って今度の相手は呂布だ。

 下手に手加減をしたら危ないと思い、最初から構える。

 それに手を抜くこと自体難しい。

 なぜなら、孟徳を傷つけたから。

 もちろん頭では理解している。

 戦争とはこういう物だと、仕方のないことだと。

 だが、心の中ではドス黒い感情が溢れかえりそうになる。

 だが、染まってはいけない、感情に流されてはいけない。

 感情に流されれば判断を謝る。

 だから必死に黒い感情を握りつぶし、自然体で構えに力を入れる。

 左足を前に出し中腰の姿勢で、剣を持つ右手を思いっきり後ろに引き左手を前に出し、剣先を定める。

 弓道の姿勢を中腰にしたような、某作品の突きの姿勢のような構え。

 対して呂布は中腰になる所なでは同じだが、戟を肩に担ぐような構えで左手は胸の前で軽く握る、言わば自然体。

 戟を肩に乗せての構えなど見たことない。

 つまり、彼女の扱いやすい構えなのだろう。

 そう考えると呂布も勘で武器を振るうタイプの人間と見るべきか。

 断定はしない。

 思い込みで痛い目を見たばかりなのに同じ過ちを犯すような事はしない。

 だが、その線で一度戦って見ないことには分からないのも事実。


「いく……」


 呂布が先制で攻撃を仕掛けてきた。

 肩に担いでいるため、最初は振り下ろしを想定したが、そのまま肩から戟を下ろし、下段からのカチ上げをしてきた。

 それを紙一重で避けて逆にこちらは上から脳天に向けて振り落とす。

 しかし、呂布も紙一重で避けて横薙ぎをかましてくる。

 回避が間に合わないと判断し、剣で防御する。

 防御したのはいいが、想定以上の力で飛ばされる。

 バランスを取り両足で着地と同時に接近。

 喉に向けて突きを放つ、それも素晴らしい反応速度で防御されるが、突きを防御されたときの反動を殺さずに距離を取る。


「…………なかなかやるな」

「お前……」


 呂布が首を傾げて不思議そうな顔をしていえう。


「お前……弱いのに……強い。何故?」


 弱いのに強い…か、言い得て妙だ。


「…………強者に勝つための努力の結果だ」


 間違ってはいない。

 言っている事は本当のことだ。

 ここまでになるのに必死に頑張ったからな。

 そして同時に確信する。

 呂布は本能で戦う人間だ。

 本能で戦う人間ならば容易い。

 

「恋殿ーーーー!」


 最終幕に移ろうとした時、呂布の後ろから何かちっこい氣が現れた。

 何事だと思っているとその氣の持ち主はある程度の距離で停止した。

 

「音々……」

「恋殿!もうそろそろ頃合ですぞ!」

「……………………うん」

「恋殿!?間がすごい空いてますぞ!?」

「真剣勝負の……真っ最中」

「しかし、生き残る事が今は重要です!作戦通りに行くです!」

「………………分かった。」

「うぅ、また間が。ええい、気にしてたら駄目です!弓兵、構え!」


 やばい、弓兵が持ってる弓矢、火矢かよ!?


「…………チッ!」


 踵を返して気絶中の張遼を抱え、孟徳の所まで後退する。


「放てー!」


ヒュンヒュンヒュン!


 無数の矢が空から降ってくる。

 それを脱ぎ捨てた外套を拾い、左右に打ち払う。

 矢が孟徳達に当たる事は無かったが、放たれた矢が天幕や幕舎に刺さり炎上する。

 徐々に周りが火の海になっていく。

 その光景を見ると文若との出来事が頭を過ぎる。

 だが、今ここに文若はいないし、孟徳には他の奴らが付いている。

 自分の事だけに集中出来る状態なので、そのまま呂布を"視る"。

 まだ呂布は動かずにこちらを向いたままだ。

 構えは取ってないが警戒してるのか、空気が張っている。

 退却するなら今のうちだろう、なのに逃げずにいる。

 俺の実力は本能で理解した筈なのに、ここで逃げずに待つその度胸に応えなければ失礼か。

 燃えてきている外套を脇に捨て、その燃える炎に剣を突っ込む。


「無風!?何をしているの!?」


 後ろで孟徳が驚いたような声を上げる。

 普通なら突飛な行動に見えるだろうな。

 そして錆が燃える嫌な臭いが数秒漂い、そして鉄の焼ける臭いが満たす。

 そして"鉄メッキ"の部分が溶けきって、本来の剣の部分が姿を晒す。

 剣の変貌ぶりに孟徳以下全員が驚愕の表情をみせる。


「きれい……」


 誰かが俺の剣を見て呟いた。

 メッキの下から表れたのは刀身が透明な剣。

 透明でいて、炎の赤い色が反射して妖しくも美しい輝きを放っている。

 

「無風……この剣は、一体?」


 孟徳が皆を代表して聞いてくる。


「…………ダイヤモンド、別名を金剛石という素材で作られている。強度は鉄以上だ」


 俺も実際にこいつを見つけた時は疑った。

 長さと太さのある金剛石を刀の形にカットされているのだ。

 一体原石の時はどれほどの大きさだったのか、現代でもお目にかかる事は出来ないだろう。

 氣を無機物に入れることは俺の"特性"では出来ないが、纏わせる事は可能だ。

 だから純粋な炭素の塊であるダイヤモンドを焦がす事無く炎の中から取り出せた。

 これを作った刀鍛冶も相当な腕だ。

 この剣に鉄のメッキを纏わせるなど、並大抵ではない。

 見つけたのも運がよかっただけ、実際に剣の刃を見て偶々刃先のメッキが剥がれてて、中のコイツに気がついただけだ。

 人生とは何があるか分からない、だから面白い。


「…………行ってくる」


 孟徳達にそう言って歩いて呂布の対面に立ちふさがる。

 

「…………またせた」

「……いく」


 もう余計な話し合いは不要だと言うように戟を振るってくる。

 俺も分かっているため、戟を防御する。

 呂布は笑っていた。

 俺も笑っていた。

 炎が渦巻く中で刀と戟がぶつかり合う。

 楽しい、だがここで時間を潰してられない現実。

 その事に惜しく思いながら、取って置きの"切り札"を切る。

 切り札を使った事で、全てが鮮明になり、冷静に分析する。

 時間が少ない事に気づき、呂布との戦いに終幕を下ろしにかかる。

 剣を亜音速で横薙ぎを放ち、立て続けに下からの切り上げを行う。

 いきなり速度が上がった事に呂布の目が見開く。

 そして防御した時にも剣の威力に顔をしかめる。

 

 それからはもう圧倒的だった。

 呂布が一回攻撃してくればこちらは2回。

 呂布が2回攻撃すればこちらは4回と。

 徐々に呂布が防戦一方に転じていく。

 だからとこちらが絶対有利という訳でもない。

 剣を亜音速で打ち続けているので、いくら体を氣で肉体強化していたとしても、特性が違う為に体への負荷がかかる。

 少しずつ腕が軋み、悲鳴をあげてくる。

 攻防が止んでお互い距離を取った時には俺も呂布もボロボロだった。

 しかし、勝敗は決した。

 武器の質が違う事によって、呂布の方天戟は刃が無残なほど刃こぼれしている。


「恋殿!?」


 睨み合っていた所に音々とかいう、恐らく典韋や士元より若いであろう少女が間に入ってくる。

 

「音々……危ない、退く」

「嫌です!恋殿の傍を離れませんぞ!」

「……音々………」


 呂布がこちらを気にしながらも少女に視線を向ける。


「……興が醒めた、行け」


 迷ってしまった。

 あれほどに幼い少女の前で、彼女の慕う人を叩きのめす事への罪悪感に。

 

「………いいの?」


 呂布がこちらに首を傾げながら尋ねる。

 

「……こちらも時間が無いのでな、それにうまい具合にこちらも混乱している」

「だ、騙されませんぞ!そうやって油断させた所で音々達を襲うつもりですね!」

「……なら、この場で死ぬか?」


 キンッと刀を収める時より鋭い音をさせて刀を納刀する。


「………音々、行く。全軍…撤退」

「は、はいなのです。全軍撤退するのです!急ぐのですぞー!」


 去り際、呂布がこちらを一度振り返るが、すぐに前を向いて撤退していく。

 他に敵がいない事を確認して切り札を解く。

 

「…………ぐっ!?あぁぁぁああぁぁああぁああ!!!!!」


 無茶をしすぎた為に腕に激痛が走る。

 だが、ここで倒れては"時間"が無くなる。

 根性とやせ我慢で痛みを我慢し、孟徳の元に戻る。


「無風!?今何か叫び声が聞こえたのだけれど、大丈夫なの!?」

「…………問題ない、お前は人の心配より己の心配をしろ」

「ふふっ、もう動かない腕よ?それとも貴方が治してくれるの?」


 孟徳は自嘲気味に自分の腕を見る。

 思った以上に血が抜けてしまったようで、孟徳の唇が紫がかってる。

 これ以上血抜けてしまうと治すもんも治せなくなる。


「…………お前が腕を治したいのなら、治してやる」

「えっ!?本当に……出来るの?」


 炎の中、孟徳の声が鮮明に聞こえる。


「…………お前が望むのなら……」



 お前自身、生きることを望むのなら……

 治してやる。

 命を賭けてでも。


up主「はい、すみません。次回書きます」

華琳「前回のあとがきを見ないと分からない発言ね」

up主「ごめんなさい」

華琳「見事にふらぐ回収したわね」

up主「本当に回収するとは思って無かった」

華琳「で、次回ちゃんと書くのね?」

up主「うん」

華琳「しっかりしなさいよ、仮にも私の…」

up主「えっ?今なんて?」

華琳「何でもないわ」

up主「そう?まぁいいか。皆様、また次回でよろしく」

華琳「……にぶちん」

up主「本当に何!?」

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