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最大の禁忌

感想がユーザーのみの設定になっていて、もし感想を書こうとして書けなかった読者の皆様、誠に申し訳ありませんでした。

自分のことで手一杯だったとはいえ、皆様への配慮に欠けていたこと、申し訳ございませんでした。


2017/03/25 本編修正

==雛 side==



「あなたは、誰?何をしているの?」


高く澄んだ声で自分に言葉を投げかけて来た少女に、どう返答するべきか悩んでいると、後ろに控えていた赤女が少女に声を掛けた。


「華琳様、こんな得体の知れない(やから)に時間など掛けてられません!直ぐにでも賊共をたたっ斬りに向かうべきです!」


怒鳴っていると言っても過言ではないだろう声量で自分の主らしき少女に意見を言っている。

そして、この少女の名前は『カリン』という名前なのか。


「私も姉者と同意見です、華琳様。ただ、こんな所で旅道具の一つも持たず、奇っ怪な服装に鞄を持った怪しい人間を野放しには出来かねます」


青女も姉(?)の意見に賛成の旨に加え、俺という不審者を一時拘束する必要があると言う。


「黙りなさい。私はこの男に聞いているの。何時、貴方達に意見して良いと言った」


どちらの従者(らしき人)に目もくれず、俺に視線を当てたまま二人を黙らせる。


「私の従者が失礼を働いたわね、謝るわ。それで、貴方は何者?何をしているの」


笑いかけて俺を安心させようとしているが、その瞳は油断なく俺を捉えて離さない。


「………俺は"無風 雛"という。何をしているか……については俺にも分からない、としか言えない。えっと……"カリン"…さん?」

「「「っ!!!」」」


現状で分かることを目の前の少女……"カリン様"とやらに伝えた途端、3人共驚愕の表情になった。

次の瞬間には従者と思わしき二人は殺意を隠しもせずに俺にぶつけて来て、少女はゴミムシでも見るような眼つきで俺を見下す。

先程とは180度違う雰囲気に何か言ってはいけない言葉を発してしまったのだろうと察した。

それを証明する様に赤女が殺意を具現化した怒声を俺に発する。


「き、きき、貴様ぁぁぁぁぁぁあああああ!!!華琳様の許しも得ずに真名を呼ぶなど!万死に値する!いや、その万倍も殺すっ!!!!」


まさに怒髪天という言葉が相応しいのだろうな。

怒りを言葉に変換しきれず、感情が爆発している……と言えば伝わるだろうか。

隣の青女も言葉を発さない代わりに濃い殺気を当てながら、いつの間にか番えた矢を向けてきている。

少女は絶対零度にまで温度の落ちた眼差しを俺から外し、軍の方に馬を方向転換して進み出す。


「あなた、余程死をお望みのようね。いいわ、その生命をここで朽ちさせる事、叶えてあげるわ。春蘭っ!」


少女の言葉に赤女が馬から降りて、馬に吊るしていた鞘から長剣を抜刀する。

それを両手で持ち上段に振りかぶる。

足に力が入った次の瞬間には女性とは思えない速度でこちらに突進してくる。

突進の威力に重力と腕力が合わさった切落しで俺を両断しようと言うのだろう。

明らかに道場剣術とは次元が違う。

相手を殺すために磨かれた技術。


その技術を持って俺を殺そうとする鋭利な刃が脳天に振り下ろされた。




==??? side==



最初は奇妙な男だと思った。

秋蘭に言われるまでもなく奇妙な服装をしており、話しかけるつもりは無かった。

この世界で男と言うのは、一定の強さを持つ者は多いが、才能を持った女以上にはなれない。

それがこの世界の常識。

私からすれば、男なんて生き物は子孫を残すための道具にすぎない。

恋や愛など芽生えよう筈もない。

だからこそ、男という生き物に興味が持てなかった。

それが彼と目を合わせた瞬間、体に衝撃が駆け抜けた。

春蘭と秋蘭にさとられない様、馬を本の少し進ませる。

それだけでも彼の顔がより鮮明に見えるようになった。

彼も私と一緒で目を逸らせずにいる。

ただ、何時迄も見つめ合っている訳には行かない。

だから私の方から彼に声を掛けた。

何故こんな所にいるのか気になっていたのも事実だから。

私の言葉で我に返った彼は考える素振りをしていたが、彼が答えるよりも先に春蘭と秋蘭が私と彼の会話に割り込んできた。

二人は私の愛しい娘達だけれど、熱くなり過ぎるのが欠点ね。

二人に黙るよう命令し、彼の言葉を待つ。



けれど、彼が口を開いた時、口にしてはいけない禁忌を……真名を勝手に口にするという禁忌を犯した。



下衆もいいところだ。

私、姓を曹 名を操 字を孟徳 真名を華琳

この陳留に来る者ならば私が曹操であると知っているはずである。

それくらいには有名である自覚があるから。

真名が華琳であると口にしてはイケなくとも知っていて可笑しくない。

いや、知ってなければイケない。

つまり、知っていて真名を勝手に呼んだのである。

真名は自分が信頼に置けるとお互いに理解したときに初めて呼ぶことを許される大事な名前。

自分を表す真の名前、それが真名。

初めて見たときは不思議な服と鞄らしきものを背負って、怪しくも興味を(そそ)られる男だと思った。

だが、真名を勝手に呼ぶような下衆の中の下衆を面白そうだと思った私は自分の感情が凍るのを自覚していた。

私とは逆に感情が燃え滾っている春蘭に殺るよう、踵を返しながら命令する。

元々、私達は賊を追いかけてる途中だったのだ。

私が下衆に話しかけた為に軍も止めざるを得なかったとはいえ、無駄な時間を過ごしてしまったわ。

用は無くなったから戻ろうとしたが、視界の端に秋蘭の驚いた顔が目に入った。

視線を向けてみると、春蘭と下衆の方を見て驚愕して居るようだった。

結果は分かりきってるが、秋蘭が驚く程の事が春蘭と下衆の間で起こっているに興味が沸いた。

大方、春蘭が勢いを付けすぎて叩き切るのではなく、叩き潰してしまったとか。

彼女なら可能だろうと振り返り、秋蘭と同じ光景を目の当たりする。

周りから見ると、きっと秋蘭と同じような顔を私もしているんでしょうね。

それだけ驚愕に値する光景が広がっていたのだからしょうがないわ。


「春蘭の七星餓狼を……掴んで受け止めた?」


よく見ると人差し指と中指の間で挟んで受け止めている。

受け止め方も以上だが、それ以上に『受け止めた』という事が異常よ。

ただの男が春蘭の……個人では我軍一番の力を持つ彼女の剣を受け止めるなど。

有り得ない。

この言葉が何度も頭の中を回っている。

春蘭は何が起きてるのか分からないのか、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。

私は先程凍った感情が身を焦がす位に熱くなっているのに気がつく。

その理由は彼が二本指で剣を捉えた事でもなく、春蘭の剣を受け止めた事でもない。

私を見ている。

攻撃した春蘭など歯牙にも掛けてないのか、一度もそちらに目をやること無く私に真っ直ぐ視線を合わせている。

私はこれ以上無いほど気が高ぶっている。



この男、欲しいっ!何としても!



私自身、かなりの収集癖があると自負しているが、こんな男を逃すなど何処の人間もしないわ。

必ず私が手に入れる!

それほどまでに欲しいと思った人材はこれで二人目ね。

そんな事を思っている内に男が口を開いた。


「「「っ!!」」」


その瞬間、一気に場の空気が一変する。

春蘭を止められる様な男だ。

私や秋蘭では勝てない。

最悪、ここに4人の死体が転がるわね。

さすがの彼でも軍を相手に勝てるわけ……いえ、呂布の一件もあったわね。

3万の軍を撤退させた一騎当千の猛将、呂奉先。

全滅させた訳ではないが、それほどの実力を彼が持ってる可能性は十分にあるでしょう。

けれど、彼の言葉を聞いた瞬間の私達は他人には見せられない顔をしていたのでしょうね。

特に私は家族にさえ見せた事もない初めての表情を彼に晒す羽目になった。


「………真名って…何?」

「「「…………はぁ!?」」」


今までの緊張感が嘘のように霧散した。


「………いや、だから、真名…とは?その真名ってので怒らせたのは分かる。けど、俺は真名ってのが何なのか知らない」

「貴方、それ本気で言ってるの?真名に誓って?」

「………真名を知らずに真名に誓えんのか?」

「あ、それもそうね。ってことは貴方は真名を持ってないのね」

「………察するに『(まこと)の名』と書いて真名なんだろうが。詳細の説明を希望する」


話してる最中も彼の目や行動を観察したが、嘘を付いてはいないようね。


「貴方の言う通りよ。真の名と書いて真名。それは誰しもが持つ自分の全てを表す名前。そして真名は自分と相手がお互いに信頼に足りると判断した時に初めて相手に呼ぶことを許すのよ。許し無く真名を口にすれば殺されても文句は言えない、それが真名」

「………なるほど」


真剣な顔で素直に頷く彼を見ていると心から笑みが湧いてくる。

立場上、腹に一物ばかり持つ文官共を相手にしなければいけないし、春蘭や秋蘭は愛しい娘達であるけれど、その前に私の部下だ。

文官共よりは心を開けるが、完全には心を許すことは出来ない。

だが、彼は全くの部外者で恐らくどこの刺史にも仕えて無いだろう存在だ。

彼になら心を開いても問題ないだろう。

身内よりも外の人間に心を開けるとは、皮肉なものね。

そんな彼が私の目の前で深く頭を下げた。


「………勝手に真名を口にしてすまなかった。謝罪する」

「えっ!?あ、っと、知らなかったのならしょうがないわ。今回だけは特別に許してあげる。でもそうすると貴方には真名が無いのね」

「………言うなれば、俺の『雛』の部分が真名に当たるんだろうな」

「っ!?…貴方、初対面で私達に真名を許したと言うの?」

「………真名に相当するならというだけで、俺に本当の真名は無い」


そして彼は一歩後ろに下がり、再度自己紹介を行なった。


「………改めて自己紹介させて頂く。俺の名は『無風 雛』という。これが俺の名の全てだ」

「…私の名は、姓は曹、名を操、字は孟徳よ」


真名を知らないと言うだけあり、真名を持っていないみたいね。

しかも、名の呼び方すら私達とは若干異なるようだ。

ますます興味が湧く。


「ねぇ、無風?あなた行く宛はあるのかしら?」

「………無いな、俺が言うのもあれだが、どうして俺がこんな場所に居るかすら分からん」

「なら、私の所に来て、私の物になりなさい。悪いようには絶対にしないわ。私の真名に誓って」

「「華琳様っ!?」」


春蘭と秋蘭は私が彼を引き入れる事に驚きを隠せないでいる。

私自身、彼でなければ男を誘うなどしなかったでしょうね。

彼は私の誘いを聞いて、もう一度だけ私を直視してきたけれど、首を横に振った。


「………断る」

「…なんですって?」

「………断ると言ったんだ。俺はお前の物にならない」

「そう、残念ね」


表には出さなかったが、心の中では激しく動揺していた。

私は欲した物の多くを手中に収めてきた。

逆に言えば、手に入らなかった物もあるという事。

それは物であったり、人であったり、様々だ。

だけど私は手に入らないからと心を乱した事など無かった。

そういうモノだと割り切っていたからだ。

けれど、彼に真っ向から私の物になる事を拒否されて、初めて手に入らない事へ動揺した。

でも、動揺を表に出さず彼を見据える。


「何故、なのかしら?」

「………俺はお前の事を何も知らない。答えられる筈がない」

「はい?」


私は彼の言葉に呆けた声を出すことしか出来なかった。


「………初対面で自分の物になれとか普通言うか?思慮深い女かと思ったが、案外短慮なんだな」

「っ///」


そう言いながら彼は私を見て一瞬笑った。

彼の表情を見て顔が赤くなるのを感じる。

正論なのは分かるが、もう少し場の空気と言うものが読めないのかしら、この男。

そして彼の言葉だけをそのまま受け取ると私の評価が落ちた様に聞こえるが、彼の雰囲気から逆に評価が上がった様に見える。

それはまるで、背伸びしている子供を微笑ましく見るような……


「…貴方は私を知らないから私の物にならないと言ったわね。なら、私を知るために一度私の元へ来なさい」

「………あくまでも命令口調か。まぁ、ここの地理を何一つ知らない分、俺のほうが立場的に不利だな」

「なら、決まりね。無風…と言ったわね、私に付いてきなさい」

「………ああ。それで、俺はどんな形でお前についていけばいい」

「そうね、まぁ無難に客将の扱いで大丈夫だと思うわ。私の決定に逆らう者はここにいないし」


よし!なんとか踏みとどまらせる事は出来た。

彼は地理的なものを何も知らないから立場が不利だと言ったが、それは嘘だろう。

もしこれが別の人間だったら大抵、不安な雰囲気が(にじ)み出て来るものだ。

でも彼はとても落ち着いている。

それは私達が手を差し伸べなくともやっていけるだろう確かな自信の(あらわ)れだ。

油断できない男ね。


「じゃあ、さっさと陳留に戻りましょうか。秋蘭、兵の纏めと指揮、任せるわね」

「はっ!」


やっと顔の赤みが落ち着いてきたので、秋蘭に目配せしながら指示を出す。

秋蘭は彼を一度見てから軍の方に戻っていった。

私事よりも私の判断を優先したのがありありと見て取れる。

かわいい秋蘭、帰ったら沢山愛でてあげましょう。

そして春蘭は何故か少し離れた場所に移動して微動だにしていない。

頭を下げて髪が垂れており、表情は伺えなかった。


「じゃあ、私たちも引き上げましょう、春蘭。……春蘭?」


いつも犬のように元気に私の所へくるはずの春蘭が下を向いたまま静かにしている。


「………さん。」

「どうしたのよ春蘭。なにを…きゃっ!」


春蘭に近付こうとしたら彼に肩を掴まれ後ろに引き戻された。


「ちょっと!何をするの…よ」


彼に怒りの声をあげようとして向けた先の光景に驚いた。


「………何をする」

「貴様、黙って聞いていれば華琳様を愚弄するような言動ばかりして、許さん!!」


またしても春蘭が彼に剣で斬りかかり防がれていた。


「くそっ!離せ!すぐにでもたたっ斬ってやる!」

「………それで離す馬鹿はいない」

「誰が馬鹿だ!馬鹿って言った方が馬鹿なんだぞ!バーカバーカ」

「………」


彼が私に凄く同情的な視線を向けてくる。

いや、彼女はとても有能なのよ?

ただ少しだけ感情の振れ方が激しいだけなのよ?

だからその苦労人を見るような目を本当に止めなさい!


「春蘭」

「華琳様!待っていて下さい!すぐにこの輩を倒してご覧に入れます!」

「いえ、あのね春蘭」

「華琳様は下がって私の勝利を見届けてください!」

「だから」

「これ以上は貴様の好きにはさせん!すぐにでもその化けの皮を剥がしてくれる!」

「………」



春蘭、貴方のその暴走さえ無ければとても良い娘なのに。

ああ、頭が痛い気がするわ。





裏話

up主「どうっすか、今回の作品は」

華琳「まぁまぁってとこね」

up主「これ以上の作品を作るのは無理ですよー」

華琳「あら、諦めるの?私ね、大っきらいな言葉が3つあるの」

up主「どっかで見たことあるセリフだなー」

華琳「『無理』『疲れ・・・」

up主「はいストップー、それ以上はダメ」

華琳「なによー、注文多い上にダメだしとか何様よ」

up主「華琳の事を思って言ってるんだよ」

華琳「………」プイッ!

up主「てことで皆様、また次回~」

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