到着、そして出陣
タケコプターって今の名前になる前はヘリトンボだった事を始めて知った。
趙雲が公孫賛と合流するために劉備軍が出立する3日前に出発していき。
出発予定日の3日後に俺たちは連合軍のいる本陣に向かった。
出発する前日に俺はとある服を買って、今はそれを着ている。
まぁ、着ていると言ってもいつもの服の上から被ってる、が正解だな。
行軍中は特に問題は無く、順調に進んでいた。
いつもの様に最後尾の馬車の荷台で寝転がって居ると、馬車の荷台を覆っている布がパサっと開く音がした。
そう、音がしたのだ。
現在は趙雲が平原を出てから直ぐに目隠しを付け直している。
だから今は視界では何も情報を得ることが出来ない。
だが、誰が入ってきたかは考えるまでも無かった。
氣を使う必要もない。
なぜなら、とても嗅ぎ慣れた匂いだったからだ。
俺を心身共に助けてくれた人物であり、嬉しくも俺に好意を寄せてくれる少女の香りが鼻を撫でた。
「…………どうした、士元」
「あわわ、き、気付いてたんでしゅか」
彼女自身、音を立てないように入って来たつもりらしいがバッチリ馬車の布が開く音が聞こえたし、急に彼女の匂いが漂ってくれば誰でもわかる。
しかし、そんな事を言ったら士元は茹でダコみたいになって、もう少ししたら連合の本陣に着くのに使い物にならなくなってしまう。
まぁ、それ以上にそんな匂いフェチみたいな事言ったら変態に認定される、確実に。
「あの、ですね。もうそこまで連合軍が見えてきたので知らせようと思って……」
「…………そうか、分かった」
「…やっぱり怖いですか?曹操さんに会うことが」
俺の心の内を悟ってか、士元がそんな事を言ってくる。
会うのが"嫌"、ではなく"怖い"と表現してきた。
結構動揺なんてものはバレちまうもんだな。
確かに孟徳達に会うのが怖い。
戻る機会はいくらでもあった。
なのに戻らず、手紙すら出さずに自分の居場所を隠し続けてしまった。
裏切り者
その言葉が俺の中で連呼して聞こえてくる気がする。
孟徳達に会った時、軽蔑の眼差しでその言葉を言われたらと考えただけで自分が自分で無くなってしまう気がする。
最近は特にその想像をして眠れていない。
目隠しを取ったら、確実に目の下にはクマがあるだろうな。
「大丈夫ですか、無風さん」
「…………あぁ、平気だ」
「とてもそうは見えませんけど」
「…………本当に大丈夫だから、あんまり心配するな」
俺の被っている布をどけて顔を覗いてくる士元に顔だけ向ける。
「あ、朱里ちゃんからの贈り物。つけてるんですね」
「…………今は劉備軍の無風だからな」
そう、今現在は孔明から貰った純白の目隠しをしている。
前に趙雲の件で慰めに来てくれた士元に返して貰ったのだ。
そんな俺の言葉に士元は何も言ってこない。
てっきり何処にも行かないでくださいとか言う物だとばかし思っていた為に少し面食らった。
その話を意図的に避けているのか分からないが、話を変えてきた、
「そういえば無風さん。何故旅衣装を?」
「…………素性を隠すためだ」
そう、平原を出てからずっとこの旅衣装を着ている。
茶色で足元まで隠せるフード付きマントを被っているのだ。
孟徳に少しでも俺の生存を隠すためでもあり、出来る事なら隠しておきたい。
隠しておきたい理由は大まかに2つある。
一つは先程から何度も言っているが孟徳達の軍に俺自身会いたくない。
二つには俺が劉備軍に居る事がバレて孟徳が劉備軍に目を付ける事を避けるため。
袁家の連中にも目を付けられたくないが、その次に諸侯が誰に目を付けられたくない相手といえば孟徳率いる曹操軍だ。
勢力的には呉も脅威だが、呉の軍勢は蜂と同じで手を出さなければ刺されることは無いだろうから除外する。
まぁ、大陸統一の為に動く可能性も捨てきれないので一応注意はしておくに越したことは無いだろう。
そんな事を考えていると士元がモゾモゾと動いて俺の横に寝そべって来た。
馬車の中に枕になるような柔らかい物が無いために腕枕をしてやる。
少し躊躇した様だが、腕に頭を乗せてベストポジションに調整していた。
頭の位置を調節し終えると士元の手が俺の顔に触れた。
顔に伝わる彼女の手は柔らかく、ぷにぷにとしている。
「無風さんは、自分の幸せを考えた事は無いんですか?」
「…………なに?」
思いもしなかった質問に俺は聞き返してしまった。
「無風さんはいつも自分を否定する言い方をするじゃないですか。今だって本当は曹操さんの所に帰りたいって思ってる筈なのに、
今もこうして私たちを助けるために自分を隠してるんじゃないですか?」
士元は涙声の一歩手前の震えた声で俺に問いかけてくる。
「…………そういう士元も自分の気持ちに蓋をして、俺にそんな質問をしてるじゃないか」
「ええ、ですが私は自分の全ての幸福に蓋をしてるわけじゃありません。でも無風さんは全てに蓋をしてるじゃないですか」
「…………そんな事はない。今も十分幸せだ。こんな俺を好いてくれてる人がいるんだからな。十二分に幸せ者だろう」
そう言って目隠しを少し上げて士元を見ると、顔を真っ赤にして縮こまっていた。
あれ?何かおかしな事言ったか?
そうして馬車にもう2刻ほど揺られていたが、目的地に到着したのか揺れが収まった。
================桃香視点================
平原を出発してやっと目的の場所にたどり着きました。
周りにはまばらに色んな諸侯の旗がなびいていて、旗を見ただけでかなりの諸侯が集まっているのが分かります。
適当に空いている所で停止して拠点を作成します。
周りと区別するための柵が完成したところで金ピカな鎧に身を包んだ兵士が数人近寄ってきました。
「遠路はるばるお疲れ様です。所属と兵数を教えてください」
「あ、はい。平原の相、劉備です。兵数は1万5千です」
「ありがとうございます。既に連合軍会議が始まっているので代表の方はお急ぎください」
事務的なやり取りをしただけの兵士さんは、そのまま反転して去っていった。
それよりも既に会議が始まってるとなると急がなきゃ。
「おーい、桃香ー」
遠くから馴染みのある声が耳に届きました。
振り返ってキョロキョロと周りを見ると、拠点入口に声の人物がいました。
「あ、白蓮ちゃーん」
「桃香、久しぶりだな。元気にやってたか?」
「うん♪白蓮ちゃんも元気にしてた?」
「もう仕事が忙しくて病気になる暇が無かった」
「あはは;;それは大変だったね。あ、そういえば会議はどうなったの?」
「ああ、今ちょうど停滞しててな。重い空気に耐えられず気分転換に外に出たら、桃香の旗が見えたのでな」
「停滞?何かあったの?」
「あー、今は思い出したくない。まぁ、行けば分かるさ。私はもう少し外の空気を吸ってから戻る事にするよ」
苦い顔をしてまた別の所に向かっていく白蓮ちゃんを送り出して、
私はご主人様と朱里ちゃんをお供にお願いし会議が行われているという袁紹軍の天幕に向かう。
……なんか袁紹さんの天幕に近づくにつれて「お~ほっほっほ」って声が聞こえてくるのは気のせいかな?
ご主人様も朱里ちゃんも苦笑いをしているのを見る限り、私だけの空耳じゃ無いみたいです。
意を決して天幕の中に入ると、そこは異様な光景でした。
「お~ほっほっほ、この連合軍にふさわしい総大将は一体誰なのか、皆さんも分かりきってると思いますが、総大将に相応しい人物に必要なのはなんなのか。」
一番奥の中心の席で金髪を両サイドで重力に従って円を描くように巻かれた髪を揺らしながら喋る女性が袁紹さんなのだろう。
「さぁ、一体誰なのかしら?麗羽は分かるの?」
袁紹さんの隣に座って眉間に手を当ててため息をついている女性は曹操さんでした。
曹操さんの隣で静かに立っている猫耳頭巾の人は魏の筆頭軍師である荀彧さん。
曹操さんは眉間に手を置いたままなので私の姿にまだ気がついてないみたいですが、
荀彧さんは私に気がついて一瞬こっちに視線を向けてきましたが、次の瞬間には既に前を向いてそれ以降こちらをみてくれません。
「いい質問ですわね、華琳さん。総大将に必要なものは武?否!知?否、総大将に求められる力、それは人を惹きつける名声!つまり!この中で一番名声の大きい人物が総大将になるべきですわ」
なるほど、白蓮ちゃんが逃げ出したくなるのも分かった。
私たちは今ここに来たばかりだが、多分ここにいる人たちは全員この無意味な三文芝居を最初から付き合っているのだろう。
ただ、そこでどうして袁紹さんがやればいいと誰も声を上げないのだろうか。
それを朱里ちゃんに聞いてみた所…
「皆さん責任から逃れたいのです。最初に発言してしまったら、責任の全部がその人にいってしまいますから」
朱里ちゃんも曹操さんほどでは無いですが、頭に手を当てて首を振ってきます。
ご主人様だけが、未だに苦笑いを保っていて正直すごいと思いました。
私もその不毛な芝居をもい一回繰り返し聞いている時、すごく腹が立ちました。
こうしてる間にも相手は防御を固めているだろうし、もし悪政が本当だったのなら今こうしてる分だけ人々の苦しみが増えるだけです。
「もういいんじゃないですか?袁紹さんが総大将で」
「桃香様っ!?」
思わず口から出てしまいましたが、後悔はしていません。
「あら?私ですか?そういうあなたは?」
「私は劉備、平原の相劉備玄徳です」
「劉備さんは私が総大将に相応しいと?」
「私も劉備の意見に賛成だわ、麗羽が総大将でいいわ」
「私の所も劉備に賛成だ」
そう言ってきたのは焼けた肌に綺麗な黒髪でメガネをかけた如何にも頭が良さそうな女性でした。
そうして曹操さんもその褐色の女性も方針が決まったら伝えてと言うと軍議場からさっさと立ち去ってしまいました。
これでやっと話が進むと思ったら、袁紹さんが私の方を向いてニコニコとしていました。
「劉備さんの推薦で私が総大将に任命されてしまいましたので、劉備さんには責任を取って先鋒を勤めてくださいね」
「そんなっ!私達の軍はまだ1万弱ほどしかいません!先鋒なんて務まりません」
先程とは打って変わってその責任を押し付けてくる袁紹さんに朱里ちゃんが反論する。
「あら、そう仰られても私を選んだ責任を取ってもらわないことにはどうにもなりませんわ」
「ですがっ!」
「まぁまぁ、二人共落ち着いて」
袁紹さんと朱里ちゃんが口論をしている所にご主人様が割って入ってきました。
「あら?あなたは誰ですの?」
「俺?俺は北郷一刀、周りには天の御使いって呼ばれてる」
「あら、あなたが噂の天の御使い?それで、そんな天の御使いが私に何用ですの?」
「いやだってさ、袁紹さんとても惜しい事してるもんだから」
「なんですって?」
「先鋒を務めたのは劉備軍、しかしその内側には袁紹の精鋭が混ざっていた。なんて噂を流せば、きっと袁家で一番名声があるのは袁紹のお陰って皆思うよ、きっと」
「…いいですわ、それでいくら貸して欲しいんですの?」
釣られた!?
今ので!?
しかし、ご主人様は表情を変えずにニコニコとした顔で話を続けます。
「そうだな、5千ほど兵を貸してくれないか?それとその分の兵糧も頼みたい。袁家の兵は袁家の食事が一番だろうしさ」
「よろしくてよ、あなた意外と見る目がありますのね」
「そりゃどうも、じゃあ俺たちは先鋒に向かう準備をするから、兵数などの詳細はあとで紙に書いてわたす」
「ええ、精々頑張って袁家の名声を高めてくださいまし、お~ほっほっほ」
ご主人様の後に続いて天幕を出て自分たちの陣地に戻る。
「ご主人様すごいねー、あんな状況であんな事出来るなんて」
「あの手の人間は煽てれば調子に乗って釣られてくるのが分かってただけさ、それよりも朱里、借りる兵数勝手に決めちゃったけどあれでもやばいか?」
「いいえ問題ありません、ご主人様のお陰で手が打てる状況にまでなんとか行けました。流石です」
「そっか、なら良かったかな?」
「あ!一つ聞くの忘れた!」
私のその言葉にご主人様と朱里ちゃんがこっちを向く。
「基本方針の事を聞くの忘れてた」
ご主人様は「あー、そういえば」といった顔で、朱里ちゃんは袁紹さんのイメージが良くないからか渋い顔をしている。
すると、遠くから金ピカの鎧を着た袁紹軍の兵士がやってきました。
「お話中失礼します!先程連合の基本方針が決まりましたので、この内容に沿って行動してください!」
そう言って半ば無理矢理紙を渡され、兵士は戻っていった。
「お、ナイスタイミングだな」
「ないす?たいみんぐ?」
「あ、うーん。まぁ要するにちょうどいい所に来たって意味だよ」
天の国の言葉は本当に難しいです。
先鋒を任されている事もあり、渡された紙を早速開いて内容を読m……
「どうした?桃香」
「桃香様?」
はっ!あまりの内容に流石の私も思考が停止してしまいました。
というより逆にコレだけだと、渡される紙を間違えられたのではないかと思ってしまう。
無言のまま朱里ちゃんに紙を渡す。
ご主人様も身を屈めて手紙の内容を見ました。
私同様、二人も紙の内容を見て硬直してしまいました。
こんな基本方針があっていいのかと思ってしまうほどです。
二人共復帰は早く、顔が引きつっています。
「え、えーっと?『雄々しく、勇ましく、華麗に前進』って何かの軍略書にでも書かれてる物か?」
「い、いいえ。そんな内容の書物はありません。つまり……」
「何も考えてない……と」
3人同時に溜息が漏れました。
本当にご主人様が何とかしてくれなかったら私たち全員全滅する所だったかもしれません。
兎に角戻ろうかというご主人様の言葉のお陰で、止まっていた歩みを再開しました。
ただ、先程よりかなり足取りは重たくなってますが。
その後、陣地に戻って皆に先鋒を任された事と連合軍の基本方針を一応伝えました。
無風さんに「…………天性の馬鹿か」と袁家に向ってポツリと呟いた後、とても鋭い質問をしてきました。
「…………で、玄徳。お前は何の問題を起こした。この弱小な軍が先鋒などと」
ご主人様、朱里ちゃんがビクッと驚いて目を泳がせています。
確実に私も二人と同じ反応をしていたと思います。
何も言えず、無風さんも何も言わない。
愛紗ちゃんたちも、この空気を感じ取ってか何も言ってこないので場は静寂に包まれました。
「…………なるほど、袁紹を総大将に押したな?さしずめこんな事をしている間にも民が!などと思ったのか」
ちょっ!?
無風さんは核心に針でなく五寸釘を刺してきました。
「…………その動揺……本当かよ」
無風さんが下を向いて盛大な溜息を吐きました。
旅装束な格好で全身隠れているので逆に不気味でした。
「…………お前は馬鹿か」
ペチンという音がして無風さんに頭を叩かれました。
「あう!?うー、だってー」
「…………だってじゃない。お前は民を救う前に死ぬ気か?」
そう言われたら何も返せません。
成ってしまった事をとやかく言っても仕方がないと言って、彼は自分の天幕に戻っていきます。
「無風さん?」
「…………早く準備しろ。先鋒が遅刻したらそれこそ民の救出が遅れる」
そう言い残して彼は言ってしまいました。
彼の言葉を皮切りに朱里ちゃんが指揮を取ってくれて1刻ほどで連合軍の先頭に向かう事が出来ました。
この先に何が待ち受けているのか、不安だらけですが進むしか無いと割り切って軍を進める。
先にある光を求めて…
up主「たまにさ、自分で言うと恥ずかしくないけど、他人から言われると恥ずかしがる人」
華琳「藪から棒に、一体どうしたの?」
up主「いや、他意は全くない」
華琳「それよりもあなた!私の出番1、2行ほどしか無かったわよ?しかもほとんど触れられてないし」
up主「頑張ろうとは思ってるけどさ、案外主人公以外の視点って難しい」
華琳「あなたの腕の無さが垣間見れるわね」
up主「それについては本当に申し訳ない」
華琳「全く、いいわ!許してあげるから、チャッチャと次進めて早く私の出番を出しなさい」
up主「了解、それでは皆様。また次回もよろしくー」
華琳「まったくもう」
北郷&無風「(up主、あれで死なないとか化物か)」※前回後書き参照




