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招集

長々とした文になっちまった。

反省はしているが後悔はしていない。

ヨモギ団子が美味しいです ←

 黄巾の騒動が落ち着きを見せてきた頃、諸侯はお互いの腹の探り合いをしている。

 漢は既に力を失っている。

 それはそうだろう。

 黄巾を沈めることが出来ない国に任せていたら自分たちも道連れにされて終わってしまう。

 自分たちで立つしか生き残る道はない。

 これからは群雄割拠の時代が訪れるのも時間の問題だ。

 ……なのに。

 

「無風さん!!」

「…………なんだ玄徳。敵でも来たのか?」

「いいえ、違います」


 玄徳が俺の存在に気づき小走りに近寄って来た。

 軽く息を整えてから俺の顔を見上げてきた。


「私にも"ぜりー"を作って下さい!」


 すごい剣幕で近寄ってきたから何かあるのかと思ったら、そんなことか。

 恐らく目もキラキラとしているのだろう、見えてないが。

 

「…………生憎だが材料が無い」

「そこを何とか!お願い!」


 材料が無いと言っているのに、値切りみたいに言われても無理だ。

 駄目な雰囲気を悟ったのか沈んだ声で文句を垂れてきた。

 

「だってー、朱里ちゃんと雛里ちゃんだけ食べてて、ご主人様も食べたことあるのに私だけ無いんだよ!?酷いよ!」


 雲長と翼徳を忘れてる、なにげにそっちの方が酷いぞ。

 仕方がない、作ってやるしかないか。


「…………分かった。だが今日は無理だ。準備に時間がかかる。明日の何時出せばいいんだ?」

「えっ!?ホントに!作ってくれるの!?やったー、ありがとー♪」


 ピョンピョン跳ねて腕にしがみついてくる。

 質問に答えてくれ。


「…………いつ出せばいいんだ?」

「あ、うん。えっとね、明日の昼過ぎがいいな。食後に食べたい」

「…………了解」

 

 なのに何でこうものんびりしているのだろうか。

 まぁ、無駄に警戒してもそれはそれで疲れてしまうからまだマシな方か。


 あまり難しい事を考えるのを止めて直ぐに買い出しに向かう。

 こういう時、自分の部下が居ないと楽だ。

 訓練について話し合う必要がない。

 しがらみという鎖に絡まれなくていい。

 しかし、困る事は無いが同時に居場所も少なくなる。

 元々劉備軍はそれなりに人物が揃っているし、実力の程も悪くはない。

 だからか、どこか自分がここに居てはいけない空気を感じる事がある。

 朝議や他の会議に出席しない理由の一つもそれだ。

 そういや孟徳の元に入った時は主な部下と呼べる人物は元譲と妙才だけだったな。

 重要な会議では4人で丸いテーブルを囲って話し合っていた。

 そして文若に続いて許褚と典韋が仲間になりとても賑やかになった。

 風の噂によれば更に4人仲間にしたと聞いている。

 この調子なら孟徳もそれなりに強くなるだろう。


━━━━俺も本格的にお役御免だな


 そう思いながら街を歩いていると前方から常人ではありえない氣の量を感じた。

 反射的に自分の氣をしまい込み、目隠しを外す。

 目隠しをしていては明らかに怪しまれる。

 いきなり光が目に差し込んで眩しいが、慣れるまでそう時間はかからなかった。

 人ごみを進んでいくと長い棒を布で包んだ物が見えた。

 長棒か槍のどちらかだろう。

 もう数歩で接触すると言うところで人ごみが開けた。

 その長い包みを持った人物は女性だった。

 ショートの青い髪にナース帽をかぶり、舞うに適した白い服を纏った人物だった。

 氣の総量からして相当できる。

 ……常人相手ならば。

 確実に今の関羽や張飛には届かないと確信を持てる。

 だが、そんな事よりそれくらいの人物がここに何の用なのか。

 間諜、暗殺者などの様々な単語が頭を過る。

 ただ単に志願するには時期が遅すぎる。

 黄巾の乱は既に終わった後だ。

 この後は、"連合軍"の出来事が確かにあるがそれを知っているのは俺と北郷、呉にいる天の御使いだけだろう。

 そして俺と北郷は一緒にいた。

 つまりあの女性が"この先の出来事"を知るには呉の御使いに聞く以外に知る方法は無い。

 確率が低すぎる。

 何の裏もなく来ただけならばいいがと思いながら肉屋に向かう。

 前の倍の量を仕入れて、明らかに通る人の邪魔になる量なので、裏道を通って城に戻る。

 袋の大きさから城門前で一度止められたが、以前ほど警戒はされなく通る事が出来た。

 城の中はとても静かだった。

 兵の訓練中と思われる音が遠くから聞こえるぐらいだ。

 恐らく先程すれ違った女性の件で集まっているのだろう。

 袋を厨房で日の当たらない所に置いて腰に挿してある剣の握り部分を軽く握って存在を確認する。

 剣を確認してから玉座に向かう。

 玉座の間の方からザワザワと大勢の人間が居る音が聞き取れた。

 静かに扉を開けて武官や文官が大勢混じっている所に潜む。

 玄徳が座っている玉座を見ると、劉備軍の連中があの青髪の女性と親しく話している。

 

━━━━知り合いか、不要な心配だったか。


 気を抜く。

 軍師でも無いのに色々考えてた自分に笑えてくる。

 そのまま前方の光景を見ていると、青髪の女性が劉備に手紙を2通差し出した。

 誰からかの手紙といった所か?

 1通は劉備が受け取って中身を見ると、パァと花が咲いたかのような笑顔になる。

 さしずめ友からの手紙だろう。

 もう1通の手紙は孔明が受け取り中身を拝見している。

 手紙を読むに連れて顔が険しくなっている。

 読み終えてこちらの方に顔を向けると、騒がしかった文官武官の声が静まった。

 声が静まったのを確認した孔明は士元と一言二言話した後、玄徳たちの方を向いて話し始めた。

 士元はというと玉座の間から小走りに出て行ってしまった。


「手紙の主は袁紹さんです。内容は『帝のいる洛陽を手中に収め、悪逆非道を行っている董卓に正義の鉄槌を下す為、集まられたし』との事です」

「袁紹というと、あの名門袁家当主か」


 明かされた手紙の主に雲長が答える。

 そしてその内容にほぼ全員の顔がやる気に満ちている。

 

「桃香様、董卓を討つべく私たちも参加しましょう!」

「うにゃー!鈴々が全て倒してやるのだー」

「うん!董卓さんの悪道を皆で阻止しよう!」


 姉妹の3人は既に参加に肯定らしい、北郷も頷いて参加には肯定派らしい。

 そこに青髪の女性が話を切り出してきた。


「伯珪殿も既に参加する為、兵を纏めて現地に向ってます。劉備殿も急がなければ間に合いませぬぞ。ただ、孔明殿は何か不満があるようですが」


 そうなのだ。

 この中でただ一人、孔明だけが難しい顔をしていた。

 皆の視線が一気に自分に集まった事で慌て出している。


「はわわ、その、私は参加に反対です。」

「朱里、何でだ?」

「この書状が怪しいからです」

「怪しい?詳しく教えてくれ」


 北郷が朱里の言葉に首を傾げて問い返す。

 そこで慌てた顔から一転して目の輝きが変わり軍師の表情に早変わりした。


「ここには董卓の悪い点しか書かれていません。まるで私たちに董卓は悪人だと植え付けるかのように書かれていて。

それにそんな噂が流れ始めたのがつい最近ですし」

「それってつまり、本当は董卓が善政をしているって事か?」

「…可能性は捨てきれません」

「大丈夫だよ、しっかり準備しておけば何が起きても対処出来るよ♪」


 その玄徳の言葉に孔明以外の皆が笑顔で頷く。

 そんな訳が無いだろう。

 もし間違っていたら……

 

「あわわ~、こんな所に居たのなら出てきてくださいよ無風さん」


 思考の深みにハマって周りが見えなくなっていた。

 視線を下げると魔女帽子が上下に揺れていた。

 走ったのか息切れをしている。

 息を落ち着かせる為にゆっくり息をして落ち着いた所で、士元が顔を上げてきた。


「探したんですよ!居るなら何で来てくれなかったんですか」

「…………身分を弁えてるだけだ」

「無風さんはもう私たちの仲間なんですよ!そんな事言わないでください」


 そう言うやいなや腕を掴まれて、思った以上の力で引っ張られていく。

 全員が静かにしていた為に、こちらに全員の注意が向いてきてしまい今更逃げることが出来なくなってしまった。

 士元に腕を掴まれたまま主要メンバーの輪の中に入れられてしまった。

 雲長と翼徳はやれやれと言ったデスチャーをされ他の面子には苦笑いをされてしまった。

 青髪の女性……今は布が取り払われており、独特な形の槍を持っているこの女性は俺を訝しげに見ているだけだった。

 そこで玄徳が自己紹介をしてくれた。


「無風さんは確か趙雲さんとは初対面だったよね?えっとね、この方が白蓮ちゃんっていう、幽州の公孫賛の所で客将をしている趙雲さん」

「いかにも、我は定山の趙子龍と申す。今は伯佳殿の元に客将として雇って貰っている」

「…………無風 雛、劉備軍の客将だ」


 客将と言った所で士元が握っている手の力を強めてきた。

 痛くはないが、ずっとやられていたら腕に痕が残りそうだ。


「ほう、雛殿か。珍しい名だな」

「無風さんはねー、ご主人さまともごっ!?」


 玄徳が何か言おうとした所で雲長に口を抑えられた。

 ナイスだ雲長。


「北郷殿と何なのですか?」


 趙雲の目が一瞬キラッと光った気がした。

 あれは面白いものを見つけたイタズラ好きな目に違いない。


「…………何の事はない。北郷と一緒に居ることが多いというだけだ」


 俺が表情を変えることなく詰まらなそうに答えるのを見て、何だと残念がる趙雲。

 こういう時だけは感情が顔に出にくいというのが役に立つな。

 

「して、雛殿は鳳統殿と仲がよろしいという事は文官として客将を?」

「…………いや、微弱ながら武官としてやらせて貰っている」

「ほう、見た所そう強くも無さそうだったのだが、武官か」


 その趙雲の言葉に玄徳と北郷、孔明と士元はえっ!?と言った顔で反応し、雲長と翼徳は反応しなかった。

 これが誘いであるのは直ぐにわかった。

 それに強くないのは本当の事だ。


「…………あぁ、客将として置いてくれている劉備殿の厚意には感謝している。」


 すると雲長、翼徳、趙雲から僅かに怒気が溢れてきた。

 武を知る者ならばあの誘いに気づかぬ筈がない、それに分かってて相手も誘うのだ。

 簡単にいうと対戦を申し込まれたが、それを俺が断った形である。

 武を志す人間にとっては侮辱でしかない。

 北郷は剣道をやっているが、剣道の試合は両者が対戦を願って行う物だ。

 だから気づかない、否、気づけない。


「…………それよりも何故俺は呼ばれたのか説明されてないぞ」


 話を無理矢理に戻し、士元を見る。

 

「雛殿!」


 趙雲がその対応に怒った様子だが、俺はひと睨みして答える。


「…………俺は武に生きる人間じゃない。やるなら他のやつと試合ってくれ」


 そこでやっと趙雲が黙ってくれた。

 そして士元に向き直り説明を求めた。


「あわわ、え、えっとですね。無風さんに今回の招集に関して意見を聞きたくってですね」


 俺と趙雲の空気の悪さから縮こまってしまっている士元だが、なんとか説明を聞くことが出来た。

 そして孔明から手紙を見せて貰い、その内容を黙読しながら考える。


「…………俺は反対だな」


 俺の言葉に回りがざわめき始める。

 そこで孔明が俺を見ながら問いかけて来た。

 

「無風さんは何故反対なんですか」

「…………一つには孔明と同じだ。董卓が洛陽に呼ばれて就任したのが黄巾の終わり頃、噂を聞くようになったのは本当に最近だからだ」

「もう一つ……あるんですね、無風さんも」


 孔明と士元が沈んだ顔をする。

 恐らく考えている問題は一緒だろう。

 その最悪の考えが的中した場合に劉備が耐えられるかどうか………

 そんな時に問題の玄徳が話かけてきた。


「もう一つって何があるの?」

「…………いや、些細な問題だ。ここを留守にして平気だろうかというだけだ」


 適当な嘘をついたが、バレることは無かった。

 よく考えれば狙われても黄巾の残党ぐらいだろう、適当に兵を置いておけば大丈夫だ。

 他の諸侯に狙われる心配もない。

 もしこの招集に参加しなければそれに目を付けられて袁家に滅ぼされる可能性があるため参加するだろう。

 参加しない諸侯が居ても、財を溜め込む事に夢中になる底辺な輩だろうから攻め込んでくる可能性は無いに等しい。

 

「…………まぁ決定権は玄徳、お前にある。好きに選べ」


 その言葉を皮切りにこの場にいる全ての視線が玄徳に移る。

 数秒目を瞑っていた彼女だったが、ゆっくりと目を開けて俺たちを見ながら言い切った。


「…それでも……それでも私は行きたい!もしそこに困っている人々が居るなら私は助けたい」


 再度ざわめきが大きくなる。


「桃香様の思い、この関雲長が必ず叶えてみせます」

「鈴々もお姉ちゃんの為に頑張るのだー」


 それがお前の答えか、玄徳。


「…………そうか、分かった」


 短く答えてこの場から退場する。

 扉から出て廊下を進み、自分の部屋が見えてきた所で呼び止められた。


「無風さん!待ってください!」

「……………何か用か?士元」

「無風さんが反対した理由、まだあるんじゃ無いですか?」

「…………ほぅ、言ってみろ」

「あの書状はほぼ全諸侯に送られています。ここで連合軍に参加したら"あの軍"にも必ず合う。それを恐れているんじゃ無いですか?」


 そうだ。

 もし連合軍に参加した場合、絶対に孟徳たちと合う。

 俺の参加反対の本当の理由。

 流石に士元には騙せなかったか。


「…………よく分かったな」

「好きな人の事はよく見るのは当然です」

「…………そうか」


 士元の顔が真っ赤になってゆく。

 そうなると分かっているなら言わなければいいのに。

 それと私情での反対理由が一番大きいのは否定しない。

 だが、まだ誰にも言ってない2番目に大きい反対理由がある。

 それは玄徳自身の理想。

 彼女の求める理想『皆が笑って過ごせる世界』、その理想は解釈次第で色々と変わってくる。

 もし、これが"自国の民のため"ならば異論はない。

 まだまだ弱小な勢力であるため、袁家に目をつけられては困る。

 しかし、もしもその"皆"が"大陸全土の人々"を意味するのならば最悪な選択を取った形になる。

 自分の言葉一つで自国の民と相手方の民、この場合は洛陽の民に多くの被害が出てしまう。

 そして最悪な判断に最悪な一手が出されている。

 それは玄徳が懐疑心を持っていない事だ。

 彼女は何も疑っていない。

 常に何があろうとも準備さえいていればなんとかなると思っている。

 自分が歩いているのはただの道だと思っているだろうが、その道は数多の骸とその屍の血で染められた赤い道だ。

 頭上にある太陽を見てばかりいる為にその道の本来の姿が見えていない。

 そして恐らく、劉備軍の全員がその主の思想に溺れている。

 だれも気づかない、教えたとしても自分の道を信じて疑わないだろう。

 それに気づくにはそれ相応の現実を叩きつけるか、同じ道を通る人間を見て自分も同じ道を歩んでると悟る以外には無い。

 もしかしたら別の方法があるのかもしれないが、俺はそんな方法知らないし分かってもきっととてつもなく難しい。

 今唯一の救いは士元が俺という玄徳の思想に泥酔してない人間を見ている事だ。

 間接的にだが、玄徳の光を直視して惑わされる事もなく、上手くいけば俺と同じで主の思想の道がどんな道なのか見えるだろう。


「雛殿……」


 士元の帽子を使って本人の顔の熱を冷ます為に仰いで居ると、廊下の曲がり角から趙雲が現れた。

 

「…………何用ですか?趙雲殿」

「私と戦っては下さいませんか?」


 先ほどの誘い文句とは打って変わって誠実にお辞儀までして対戦を堂々と申し込んでくる。

 士元がハッと後ろを振り返って趙雲を見る。

 すると趙雲の後ろから雲長と翼徳が姿を現した。


「無風殿、私達には相手をしてくれるのにどうして趙雲殿の申し出は断るんですか?」


 代表して雲長が問いかけてくる。


「…………簡単な事だ。俺はお前らには命を救って貰った恩がある。だが趙雲殿には何も借りなど無い」


 その言葉に驚いたのは他の誰でも無い士元だった。

 瞳には涙が溜まってきている。

 私に優しくしてくれたのは恩があったからなんですか?と言葉にしなくても分かった。


「…………士元、別に恩を受けたからというだけで優しくするような俺か?」


 そこでまた驚いた様な顔をする。

 今度は安心したのか目を細めて笑った。

 俺は本来、恩を受けても事務的に接するような男だ。

 性格に難がある俺を士元は理解してくれてた事に微かに心が温まる。

 その時、ハラリと涙が一滴垂れた。

 ポッケからハンカチを出して士元の涙を拭いてやる。

 

「おほん、では無風殿、その恩を趙雲殿との試合で返してくれ」


 雲長が顔を赤らめながらも、少しは頭を回してかそう言ってきた。


「…………別に構わないが、一つ条件がある」

「なんだ?」


 試合をしてくれると言うことで少し怒気が和らいだ趙雲が俺の条件を聞いてくる。


「…………俺が勝ったら、その槍を折らせて貰う」


 その言葉に全員が共学の表情をする。

 趙雲は先程以上の怒気を放っている。


「…………俺は言った筈だ。武人では無いと。武人で無い者に負けるようなら武など捨ててしまえ」


 雲長が声を荒げようとした所で黙り込む。

 何故か翼徳はニコニコとしたまま黙っている。


「…………武人では無いと申したにも関わらず、対戦を申し込むのならそれ相応の対価を提示するべきだろう?」

「……いいだろう」

「趙雲殿っ!?」

「なに、私が負けなければいいだけの事だろう?簡単な話だ」


 自信満々に答える趙雲は、本当に自分が勝つと思っているのだろう。

 時にはそう思っていた方が良い結果を生む事も確かにある。

 審判役を雲長と士元に任せ中庭に向かう。

 そして中庭で始まった戦闘、俺と趙雲は約20m離れて立っていた。

 趙雲といえば現代では槍使いとしてゲームや本にある。

 ゲームでは神速の槍で敵をバッタバッタ倒すイメージな武将だ。

 神速は無いだろうが、恐らくこの趙雲もスピード系。

 ならば勝負は一瞬で終わる。

 ジリジリと趙雲が距離を詰めてくる。

 残り15mくらいと言った所で足がピタリと止まった。

 俺の攻撃範囲、キリングレンジよりも数メートル離れている。

 つまり今、俺と彼女の距離が彼女のキリングレンジのギリギリの位置なのだろう。

 剣の握り部分を逆さに握る。

 ちなみに俺は未だ剣を抜いていない。

 つまり抜刀の構えを取る。

 風が拭いて木の葉が宙を舞う。

 そして木の葉の一枚が俺の視線を塞いだ瞬間、趙雲が足に一気に氣を流し込んで神速とも言える突きを放ってくる。

 槍の先端が俺のキリングレンジに侵入した瞬間抜刀した。

 キーーンと澄んだ心地の良い金属音を鳴らして武器が宙を舞い、遠くに落ちる。

 そう、"俺"の武器が。

 そして喉元に当てられているひんやりとした冷たさを遅く感じる。


「しょ、勝者趙雲殿!」


 士元の声が小さく聞こえる。

 その声を聞いて俺は抜刀の体制から立ち上がり、剣を持って刃こぼれ等が無い事を確認|(錆びてて分かりにくいが)して鞘に仕舞い部屋に戻った。



================雛里視点================


 まさかでした。

 一瞬の出来事で分かりませんでしたが、瞬きをした一瞬で趙雲さんが無風さんの所に移動していて、

遠くに無風さんの刀が落ちる音と無風さんに槍が突きつけられているのを見てやっと認知しました。

 

「しょ、勝者趙雲殿!」


 審判役として趙雲さん側の方の手を上げながら宣言します。

 私の声を聞いたと思ったら無風さんは中腰から姿勢を正し剣を拾いに行って納刀すると、そのまま城の中、恐らく自室に戻って行きました。


「やったではないか趙雲殿!」


 愛紗さんがこちらに戻ってきた趙雲さんに近寄りながらそう言いましたが、趙雲さんは浮かない顔、というより青ざめた顔をしていました。


「……ていた」


 趙雲さんが小声で何かを言いましたが、小さすぎて聞こえませんでした。

 聞き返してみたら先程よりはっきりした声で返してきました。


「もう少しで槍が折られていた」


 趙雲さんは尚も青ざめた顔のまま話はじめました。

 曰く、無風さんが剣を抜いた瞬間槍の軌道をそらされると思っていたのが、剣の柄頭の尖った先端部分を槍の先端と重ね合わして来たという。

 その光景を想像して考えればあとは直ぐに答えが出た。

 趙雲さんの神速と言われる程の速度の乗った槍と、槍先と正確に剣の柄頭を当てた上に同じ速度で衝突したら。

 物を突き合わせたら押してくる物の力が押す物に伝わってくる。

 その力は両者一緒、だけれど物の強度で言ったら槍の先端の方が柄頭の先端よりも細長い。

 そのまま打ち合わせていたら確実に趙雲さんの槍が先に砕けていただろう。


「そして私はしっかりと見えた。雛殿が剣から手を離すのを。あれは確かに手を離していた」


 趙雲さんの言葉に私たちは驚愕しました。

 物凄い速度で打ち合ったのに、無風さんはその速度に着いて行きながら槍の折れないギリギリの所で手を態と離したというのですか!?


「そんなの当たり前なのだ」

「鈴々ちゃん?」


 そういえば先程から鈴々ちゃんは笑っていました。

 まるでこの結果を知っていたかのように。


「どうして当たり前なの?鈴々ちゃん」

「にゃ?だって、無風お兄ちゃんが趙雲の大事な槍を折るなんてする筈がないのだ」


 その言葉に衝撃を覚えました。

 まさかそれを確信していたから笑っていたの!?

 一瞬、鈴々ちゃんに凄く妬いてしまいました。

 私でさえ無風さんは本気で槍を折るだろうと思っていたのに、鈴々ちゃんの方が無風さんの事を分かっている。

 

「なぁ、鳳統殿。彼は一体何者なんだ?」


 趙雲さんが未だ複雑そうな顔で私に無風さんの事を聞いてきました。


「無風さんですか?いつも皆の心配ばかりしてる優しい方ですよ」


 ああ、自分でも言葉にしてやっと気がついた。

 あの人は優しい。

 人の嫌がる事を極力さけて、すべて自分で背負ってしまう。

 そんな人が人の大切な物を壊すなんて事をやる筈が無いではないか。

 恐らく、今の出来事でも彼は勝手に自分で背負ってしまっているのだろう。

 後で慰めに行ってあげよう。

 

「優しい……か。ふふっ、世界はまだまだ広いと言う事か」


 趙雲さんがいつもの調子を取り戻して来たので、ここで解散して各々出立の準備に取り掛かりに行く。



 

 反董卓連合の集結まであと少し。




 結局色々抱え込んで落ち込んでいた無風を慰めに行った鳳統の姿を諸葛亮に発見され、次の日大量のお赤飯と共に皆にお祝いされた鳳統が顔を真っ赤にして倒れた事はまた別のお話。

 その後に出された無風特性ゼリーは女性陣に大好評で注文が殺到、予約2ヶ月待ちになるほどだったが連合軍の招集のせいで多くの女性、

特に噂だけ聞いて食べたことのない女性からの必死な出立遅延願いが大量に報告されたのも別のお話。




up主「ふぅー、やっとここまで来たぜー」

北郷「お疲れ、up主」

無風「…………これぐらいでバテるとか、ダサ」

up主「うぐっ;;痛いところを~」

北郷「とか言いつつ無風だってup主の好きなお団子沢山買ってきてんじゃん」

無風「…………倍の値段で売る」

up主「売るのかよ!しかの2倍の金額でかよ!」

無風「…………嘘に決まってるだろ」

up主「だったら言うなし!」

華琳「うるさいわね~、眠れないじゃない」

up主「あなたは向こうに帰った方がいいと思うんだが」

華琳「嫌よ、このべっと、ふかふかで気持ちいいんですもの」

up主「それ私の布団です~、返してください」

華琳「ふっ、返して欲しくば私を倒してからにしなさい!」

up主「勝てないから!そして倒す意味無いやん!?」

華琳「戦闘になれば私の出番も増えると思うの」

up主「増えないと思います」

北郷「(なんか、up主と華琳イチャイチャしてて俺ら邪魔かな)」

無風「(…………このまま後ろからup主を殴れば……)」

北郷「(止めておこ、久々に華琳が出てるんだし)」

無風「(…………まぁ、いいか。up主も華琳も夢中みたいだし)」

北郷「(それでは皆様ー、また次回もよろしくねー)」

華琳「そーれ、死になさーい♪」

up主「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

北郷&無風「(死んだな、あれは)」

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