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拠点2 雛里√(後編)

少しグロ表現ありますので、気分がすぐれない、食事中などの方はお読みにならない事をおすすめします。

あと、長編ご了承ください。


拠点2 雛里√ 『理想と現実と恋の芽吹き』




 私は今、城の地下にある牢獄にいます。

 あ、牢獄にいると言っても牢獄の中でなく外ですが。

 鉄格子の中にいるのは無風さんです。

 何故、無風さんが牢獄の中にいるのか。

 それは少し前のぜりーを作ってくれた時に遡ります。



・・・・・・



 無風さんがぜりーを私と朱里ちゃんに作ってくれてから数日が経ちました。

 ちょうど昨日で大まかな作業が終了して朝議の席で皆さんと一緒にゆっくりお茶をしています。

 朝議なのにそんなのんびりした事でいいのかですか?

 昨日まで目まぐるしく働いたのですから少しだけ多めに見てくれてもいいじゃないですか。

 

「はう~、や、やっと終わったよー」

「桃香様、お疲れ様です」

「お姉ちゃん頑張ったのだー」

「皆お疲れ様、これからは少し速度を落として仕事しても大丈夫だろう」

「はわわ、ご主人様が一番頑張ってました。ご主人様こそお疲れ様でしゅ!」


 桃香様に愛紗さん、鈴々ちゃんにご主人様、そして朱里ちゃんがお互いをお互いに労っています。

 もちろんここに無風さんはいません。

 あの人は客将の立場なのでと朝議の席に顔を出さないのだ。

 もう無風さんも仲間なのにと思うが、あの人がこうと決めたら結論を滅多に変えるような人ではありません。


「こんな時は皆で甘いもの食べたいよねー♪」

「桃香様、ちょくちょく執務室でお煎餅食べてたじゃないですか」

「あうう、だって考え事をするとお腹が空くんだもん」

「鈴々は無風お兄ちゃんの飴が食べたいのだー」


 桃香様と愛紗さんがそんなやり取りを始めると鈴々ちゃんが立ち上がって満面の笑みで言いました。


「私はこの前無風さんが作ってくれたぜりーが食べたいですー」

「あれ美味しかったね、朱里ちゃん」

「うん、本当に無風さんってお菓子作り上手いよね」

「ちょっと待って!」


 私と朱里ちゃんが無風さんのぜりーの話をするとご主人様が立ち上がって私たちに叫んできました。


「はわわ、なんでしょうかご主人様!?」

「あわわ、な、なんでしゅか!?」

「今、ゼリーって言った!?」

「は、はい。この前雛里ちゃんと一緒に無風さんのお手伝いをして作ってくれましたけど…」

「ねぇねぇ、ご主人様?ぜりぃ?って何?」

「うーん、こうプルプルと柔らかくて感触が赤ちゃんのほっぺみたいなお菓子と言えばいいのかな?」

「えー、なにそれ美味しそう。朱里ちゃんと雛里ちゃんだけずるーい」


 桃香様が頬っぺたを膨らませてこっちを見てきます。


「はわわ!?ちょ、ちょっと待ってください。確か無風さんは試しに私たち二人の所に持ってきた後、ご主人様と桃香様の分を作りに行った筈です」

「あわわ、二人の元に無風さんは行ってないんでしゅか?」

「ううん、来てないよ?」

「ああ、そういえばここ数日無風に会ってないな」


 ここに来て何かがおかしいと思いました。

 愛紗さんたちに聞いても見ていないとの事です。

 ふと無風さんがどこか遠くに行ってしまったのではないかとも思いましたが、

私が最後に会った時の様子からするとどこかにあのまま立ち去るような感じではありません。

 

「あの~、すみません」


 そこで朝議の済で給仕をしていた女官の方が声をかけてきました。

 すぐ近くに居た愛紗さんが皆の代わりに返事を返しました。

 

「なんだ?何か言いたい事があるなら申せ」

「えっとですね、無風将軍なら地下だと思います」

「地下?この城のか?」

「はい。この城の……です」


 そこで全員の顔に緊張が走りました。

 平原に来てから城の内部構造はしっかりと把握したつもりです。

 そしてこの城の地下にある施設は一つしかありません。

 

「牢屋……」


 誰が呟いたのか分かりませんでしたがその通りで、この城の地下には牢獄が設置してあります。

 普段の牢獄は別にあるのですが、城の内部で謀反や無礼をした輩を一時的に入れておく為に作られたそうです。


「……私、何も聞いてないよ」


 桃香様の目に真剣な光が宿って誰に言うでもなく呟きました。

 

「おい!その話は本当なのか!?」


 愛紗さんが女官にすごい剣幕で近寄っていきます。


「い、いえ。確証はありませんが噂になってるんです」

「噂だと!?」

「は、はい。『無風将軍が食べ物に毒物を入れて桃香様と御使い様を殺そうとした』のが発覚して地下に投獄されたと」

「無風さんがそんな事をする筈がありません!!」

 

 私は勢いよく立ち上がってその場から駆け出しました。

 城の奥から一つだけ地下に向かう階段まで走ります。

 普段使うことがない場所なので薄暗くて怖いですが、それよりも無風さんの安否が心配なので周りに気を使っている暇もありません。

 階段を降りて鉄の扉の前までくると、扉から漏れている冷気に体がブルッと震えました。

 中は相当寒いようです。

 夜の外でさえまだ寒いというのに、夜になったらこの牢獄はどれだけ寒くなるのでしょう。

 ギィィィと鉄の擦れる嫌な音を立てながら扉を開けると、そこからまっすぐ道があり、左右に鉄格子の牢屋がありました。

 そしてそのほとんどが真っ暗でただ一つだけ奥の牢屋がぼんやりと光を放っていました。

 音を立てないようにゆっくりとその牢屋に近づいて中を見た時、涙が出そうになりました。

 無風さんは確かにそこにいました。

 両手を天井からぶら下げている枷で吊り下げられていて、足にも鉄球付きの枷がはめられています。

 服装はいつもの黒服に目隠しをしていましたが、所々切り傷の痕がありました。

 服の下には恐らく打撲痕もあるでしょう。

 サラサラとしていた黒髪は血で赤黒くなって固まっていて、顔からは血の流れた痕でほぼ真っ赤に染まっていました。

 林の中で会った状況と変わりないくらい痛めつけられていて、見ていられないくらいです。


「無風さん!無風さんっ!!」


 私は必死に無風さんに呼びかけますが反応がありません。

 最悪の結果が頭に浮かびましたがそれを認めたくなくて必死に呼びかけます。

 その時、無風さんがピクリと動きました。


「無風さん!?待っていてください!下ろしますから!!」


 壁に掛かっていた鍵で牢屋を開けて中に入ります。

 最悪なことに足場となるものが無く、手の枷に腕が届きませんでした。

 とにかく今は少しでも無風さんを楽にしなければと考え、足の枷を外します。

 ゴトンッゴトンッと鉄球が地面に落ちました。

 持ち上げて退けようとしましたが、私の力では少しずつしか動かせないくらい、見た目以上の重さがあるようです。

 こんなものを足にくっつけられていたなんて・・・


「…………うっ……し……げん…か」

「はい、私です。無風さん大丈夫ですか!?」

「…………どう……ってことは………ない……」

「今はそんなやせ我慢いらないです!」


 こういう時、本当に私は無力です。

 無風さんを助けることさえも満足に出来ない。

 

「…………し……げん。ズボンの……なか……」

「ズボンの中に何かあるんですか!?」

「…………あぁ……だし……てくれ」


 無風さんに言われて服を調べると中に綺麗に畳まれた白い目隠しが現れました。

 朱里ちゃんが無風さんの雰囲気を少しでも改善できればと送った贈り物です。

 幸いなことにこの目隠しは傷一つとなく血に濡れることもなかった様で純白の輝きは健在でした。


「…………それ……を………預かって…ろ……」

「えっ!?でも……」

「…………心配する……な………死には……し………ない」


 無風さんの様子から説得力が皆無でした。

 ですが、目隠しで見えていないはずなのにまるでこちらを見ているかのような錯覚がします。

 そこにドタバタと扉の入口の方が騒がしくなりました。


「雛里!ここか!?」

「愛紗さん!こっちです!」

「そこに居るのだな?今そちらに向かう!」


 愛紗さんに続いてご主人様が、その後ろから鈴々ちゃんが続いて入ってきました。

 桃香様と朱里ちゃんの姿は見えません、朱里ちゃんは恐らく既にこの事態を引き起こした犯人の捜査をしているのだと思います。

 桃香様は武官文官への指示を朱里ちゃんと一緒に出しているのだろう。

 皆が来てしまった事で、朱里ちゃんからの贈り物を無風さんに返す機会を失ってしまいました。


「雛里っ!なっ!?無風殿!?」

「こんな……酷すぎる」

「うー、許せないのだー。無風お兄ちゃん、今助けるのだ!」

「…………ぐっ!?………やめろ!」


 無風さんが大きな声を出して愛紗さんと鈴々ちゃんを止めました。

 二人が何故といった目で無風さんを見ます。

 

「…………士元」

「…はい、なんでしょう」


 本当はまともに喋るのさえ傷に触るだろうに、無風さんは至極いつもどおりの声で私を呼びます。

 今すぐにでも降ろしてあげたい気持ちを抑えて、無風さんが私に伝えたいことを一言一句聞き逃すまいと彼の言葉に耳を傾ける。

 そこまでして伝えたい事を聞いてあげなければ、無風さんの期待を裏切ると、直感で感じました。


「…………この状況を……利用して………犯人を捕まえる策を……出せ」


 あぁ、本当にこの人は。

 自分の事を顧みず、今回のような事を再度起こさない為にも犯人を捕まえろと言う。

 そして恐らく、彼は既に誰が犯人か知っていてこんなことを頼んでいる。

 単にこんな事をする犯人の炙り出しもあるでしょう。

 ですが、それだけでは無いはずです。

 今回の件で私達には二つの大きな意味があります。

 一つには再発した際の対処の練習、無風さんは己の体に鞭を打って私たちに経験を積ませようとしている。

 もう一つは……私の、私達の根本を問われている。


「はい、策ならあります」

「雛里!?こんな状態の無風殿を策に利用するというのか!?」

「はい、無風さんの治療が少し遅れてしまいますが、それが一番効率がいいです」

「くっ!私は納得できない」


 愛紗さんが苦悶の表情で否定しました。

 納得出来ないのも分かります。

 ですが、それでは無風さんがここまで自分を痛めつけた意味も消えてしまいます。


「愛紗さん、それでは無風さんの努力が水の泡になってしまいます」

「なに!?それはどういう意味だ」

「疑問に思いませんか?無風さんほどの実力者がどうしてここまで素直に拷問されているのか」

「っ!?」

「確かにそーなのだ、無風お兄ちゃん強いのにどうして抵抗しないのだ?」

「一つ目に犯人を炙り出すため、二つ目にこのような時の対処、三つには…」

「三つ目にはなんだ?」

「…それはこの件が終わった後に話します。それよりも策を説明しますので聞き漏らさないでください」



・・・・・・



 そして策を実施してから数日、私は朝昼晩と無風さんの元に来ています。

 無風さんにご飯を作って食べさせようとしましたが、胃が弱っているのか食欲が無いと言ってほとんど料理に手がついていない状態です。

 早く策が実らないと無風さんの方が先に危ないです。

 そうなったら流石に策を中断して治療しなければいけません。

 しかし、この翌日に策は実りました。

 それは私と愛紗さんがその策の"当番"の時です。


「どうも、無風さん。ご機嫌はいかがですか?」 

「…………」

「おやおや、死んでしまいましたか?もうちょっと粘ってくださいよ」

「…………どういう……意味だ…」

「どういうも何も、そのまんまの意味ですよ。あなたの死刑が決まりました」

「…………あの小娘も……あんがい………やるな」

「ええ、私もまさかそんな許しが出るとは思って無かったのですがね。嬉しい誤算ってやつですよ」

「…………お前の……偽情報に………流される……なんて………あの小娘も……後が……ないな」

「あっはっは、大丈夫ですよ。あなたの元にすぐ向かわせますから」

「…………」

「それでは行きましょうか、死刑場にね」


 無風さんに付けられた枷が全て外され、代わりに腕を後ろで縛られて連行されていく。

 その一部始終を別の真っ暗な牢屋に潜んでいた私と愛紗さんが少し時間を置いてから牢獄を出る。

 王の間に着くと、既に無風さんは茣蓙に座らせられていていた。

 桃香様がそんな無風さんに近寄る。


「…無風将軍、あなたが私にしようとした事、万死に値します」

「…………」

「桃香様!」


 そんな中に愛紗さんと私が桃香様に近寄って耳打ちをする。

 周りが何事かと騒めく。

 桃香様が一段と厳しめでいて、どこか悲しそうな表情をして宣言する。


「あなたを……あなた方を平原から追放します」


 そう言って桃香様が睨んだ先には、先ほど無風さんを連行していった文官でした。

 

「なっ!?劉備様、一体何を仰られているんですか?罪人はそちらの無風将軍でしょう?」

「悪いが、先ほどの牢獄での話は全て聞かせて貰っている」

「なっ!?」

「おとなしく出ていけば殺しはしません。早急に立ち去ってください」


 私がそう言うやいなやその文官の男は憎々しげに顔を歪めて指をパチンと鳴らします。

 しかし、音が鳴っただけで何も起こりません、当たり前ですけど。

 

「な、何故だ!?何故出てこない」

「へへーん、そいつらは全員鈴々が倒しちゃったもんねー」


 首謀者の文官と繋がりがある人物は全て鈴々ちゃんと朱里ちゃんに対応してもらいました。

 態と首謀者の文官だけ泳がせて、油断を誘わせて本人の口から罪を認めさせる。

 これが一番効果の強い証拠です。


「あなたの様な方は私の軍には必要ありません。早急に出ていけば見逃してあげます」


 今までの桃香様からはありえないほどの睨みを効かせた視線にその男は恐怖の表情になり、慌てて逃げていく。

 周りにいた文官や武官も通常業務に戻るよう伝えられ、しばらくして玉の間にはいつもの人物だけが残りました。


「…………甘いな玄徳……逃がしては………いづれ厄介になるものを」

「うん、でも私は無駄に命を散らすような事はしたくないよ」

「…………つくづく甘ちゃん……だな」

「ところで雛里、この前言っていた三つ目ってなんなのだー」

 

 鈴々ちゃんが私に疑問を聞いてきました。

 それを聞いて無風さんは黙り込んでしまったので、私が説明するしか無いようです。


「最後の三つ目、それは無風さんからの問いです。」

「問い?無風殿からの?」

「はい、桃香様の理想は素晴らしいです。ですが、全員が笑顔でいられるような世界は並大抵の努力では成せません」


 桃香様の理想、皆が笑って過ごせる世界を創る事。 


「今回無風さんは自分からは何もしなかった。皆さん不思議に思いませんでしたか?」


 全員が確かにという表情をする。


「過程の範囲を出ませんが、態と"そういう人間"を演じたのだと思います」

「態と……演じた?」


 ご主人様が私に真剣な表情で聞き返してきたので頷いて肯定します。

 体力も力もない民があのように拷問をかけられていたら、恐らく死んでいた。

 そこで愛紗さんが口をはさみます。


「し、しかしだな雛里よ。それがどう無風殿の問いに繋がるんだ?」

「…今回の件は桃香様の理想の暗部なんです。表では笑っていますが、裏では恨みや嫉みによるいじめや陰口が絶えません」


 私の言葉に桃香様とご主人様が苦しみの表情をします。

 愛紗さんがそこで怒気を含み始めました。


「だから、桃花様の理想をちゃんと実現しようと日々頑張っているではないか!」

「はい、その為の覚悟を無風さんは問うたのではないかと」


 桃香様の理想は誰よりも高く険しい。

 今回の無風さんの様な事態も可能性はある。

 無風さん以上の酷い光景を目にするかもしれない。

 それでもその道を進むのか?と聞いているようにしか思えない。

 私たちの根本、私たちが集まった理想を貫ける覚悟があるのかと。


 桃香様は黙って俯いたまま立っている。

 この回答はすぐには出せない。

 軽率に口から出してはいけない。

 その問いを残したまま今日はこれで解散となった。

 無風さんを医務室に連れて行った後は残った仕事を片付けてしまおうと消費した心と体に鞭を打って励んだ。

 当然、いつもより作業が捗らず、結果夜まで作業が続いてしまった。

 寝る前に無風さんの様子を一度見に行こうと医務室に向かったが、そこに無風さんの姿は無く、

体力の衰弱から考えて瀕死もいい所なのにどこにいるのかと探し回った。

 探し回ると言っても無風さんの居場所は限られています。

 いつもの城壁かと思って行ったが、そこにも無風さんの姿は見えず、あと考えられる場所は一箇所だけです。

 しかし、その場所は無風さんが近寄らなかった場所でもあるため、少し不安でした。

 そしてとある扉の前まで来ました。

 残る場所と言えば無風さんの部屋です。

 コンコンとご主人様が部屋に人がいるか確認するための作法だと教えてくれた"のっく"をします。


「無風さん、いらっしゃいますか?」


 返事がありません。

 ですがここに居ると何故か確信めいた物がありました。

 入りますよと断ってから部屋に入りました。

 明かりを付けていないので部屋の中は真っ暗でした。

 ですが、薄らと寝台に腰掛けている人が居るような気がして、手探りで物にぶつからないよう歩きながら寝台に近づいて行きます。

 距離が縮まったのと、多少目が慣れてきた事により寝台に腰掛ける無風さんが見えてきました。


「…………何か用か?」

「用があったら来てはいけないんですか?」

「…………用が無い奴がこんな夜中に部屋に来るのか?」

「…………」


 無風さんの髪の毛は濡れていました。

 しかし、お風呂の日はまだ先なので水浴びをしたのだとすぐにわかりました。


「怪我が治ってないのに水浴びなんかしたら傷口が開いてしまいます。今度からは止めてください」

「…………血がベタついて気持ち悪かったら寝られないだろう」

「うー、もういいです」


 箪笥の中から新しい布|(交換したんだ)を取り出して無風さんの髪の毛を拭いていきます。

 特に抵抗してこなかったのでそのまま髪の毛が傷まない様に優しく撫でるように拭きます。

 流石に濡れたまま目隠しはしないらしく、私を見てきました。

 寝台に座っている無風さんと私の視線が水平に交差しています。

 夜の暗闇でも爛々と光っているように見える無風さんの目には、以前みた怯えの色は無く。

 ただただ私を見ていました。

 その目をジッと見ていたら、吸い寄せられるかのように一歩、また一歩と無風さんに近づいて行きます。

 零距離になって無風さんに抱きついた瞬間、無意識に近づいていた事に気がつきました。

 私の体は燃えるように熱く、無風さんは水浴びをしていたからか、触れ合っている肌からひんやりとした心地よい冷たさが伝わってきます。

 そんな状況でも目は離さず、顔の距離が近づいていきます。

 やけに自分の心臓の音がドクドクと激しく動いているのがわかりました。

 既に無風さんの息と私の息が絡み合う距離にまで近づいた瞬間、無風さんが私を抱き返して来ました。

 今までは私が抱きついても頭を撫でてくるだけだったのが、初めて無風さんも抱き返してきました。

 そして無風さんが寝台に横になれば、必然的に抱きついている私も横になります。

 耳元で無風さんの呼吸がはっきりと聞こえて、私の体の熱もその呼吸に合わせて上昇していくかのような錯覚がします。


「…………お前が二人目だ」

「えっ?」

「…………俺を助けてくれた女性は、お前で二人目だ」

「……一人目は……誰なんですか」

「…………一人目は、文若だ」


 てっきり曹操さんかもしくは天の世界の誰かかと思ってましたが、そこで荀彧さんが出てくるとは思いませんでした。

 徐々に体の熱が冷めていき、冷静になってくるととてもこの状況が恥ずかしくなりましたが、無風さんの様子からジッとしておいた方が良さそうです。


「…………俺が黄巾党本城で矢を打たれた時、文若もお前と同じ目をしていた」

「目…ですか?」

「…………俺なんかを助ける為に自らも焼け死ぬかもしれない状況で、必死に俺を助けようとしていた」

「…………」

「…………お前に助けられた時も文若が俺を助けようとした時も、俺は逃げようとしたんだ」

「逃げる…無風さんが?」

「…………あぁ、生きる事の苦痛から楽になろうとした。だがそれは責任を放り投げて後の人間に全てを託して逃げる事にほかならない」


 無風さんが抱きしめる腕に更に力を込めたので、私は無風さんと蟻も通る隙間がないほど密着しました。

 だけど、そんな俺を生きようとさせてくれた。

 言葉は発していなくてもそう聞こえた。

 

「…………ありがとう、"雛里"」

「えっ!?今…なんて」


 確かに無風さんは私の真名を口にしました。

 その時、心の中がまた熱くなるのを感じます。

 無風さんに真名を呼んで貰うのが、こんなにも嬉しいなんて思っても居なかった。

 真名とは本来信頼しあった者同士でしか呼ぶことを許されない神聖な名。

 その意味が頭でなく、心で理解したような気がします。 

 私はゴソゴソと動いて無風さんと少しだけ距離を取り、頬に口づけしました。

 

「私は……あなたの事をお慕いしてます。けど、皆さんの中で一番になってからこの気持ちを受け取って貰いたいので今日はこれで我慢します」


 私は私にできる精一杯の笑顔を浮かべて、無風さんの胸に顔を押し付けます。

 顔を離して一呼吸した途端に顔が爆発しそうなほど真っ赤になっている顔を見られたく無いです。


「…………ああ、一番になれたらな」


 むぅ、そこは待ってるだとか頑張れとか言って欲しかったです。

 無風さんの馬鹿。

 私がさらに強く顔を押し付けて無風さんも強く抱きしめてくれて私たちは眠りにつきました。

 未だ夜は冷え込んでいますが、無風さんの温もりで寒くありません。

 頑張って無風さんを振り向かせて見せます。


 

 気になる気持ち、それは恋の始まりを告げる小さな小さな種であったと少女は夢に入る直前、そう思った。



原作を友人に見せた所、「そのままエロ突入しろよぉ!」とガチで言われました。

いやいや、それR-15じゃねーから。

てことで拠点2終了です!

次回からは無風視点に戻ってお話を進めていきたいです。

学業?知らない子ですね。

単位?それって美味しいの?

お菓子の事なんかどうでもいい、話進めろや?

書かせて下さい!お願いします。なんでもはしません(`・ω・´)

人生で一番楽しい事はお菓子を食べることなんです!

作るのも好きなんです、楽しいじゃないですか!


収拾がつかなくなる前に終わらせないと……

皆様ー、また次回よろしくですー

でわでわー

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