拠点2 朱里√(前編)
書きたい事が多すぎて逆に何書けばいいのかとても迷う。
拠点2 朱里√ 『気の効かない危ない男』
最近は悩み事が多すぎて頭が痛い。
これから私たちが上に昇るにはどう動けばいいか。
いくら人がいても人材不足な現状。
特に少ないのは武に秀でている人が私達の軍では愛紗さんと鈴々ちゃんしかいない。
無風さんが軍に入ったらかなりの軍備は増強できるが、その代償も大きい。
ここでもし、無風さんが軍に入って軍備を増強すれば確かに私達の軍は強くなるだろう。
しかし、無風さんにもしもの事があったり、あの人が抜けるような事があれば立て直しに相当な時間を要する事は必須。
そうなってしまえば、そんな隙を諸侯が見逃す筈も無く攻められて乱世に没する。
それにあの人の才は本物です。
天才なんて私は絶対にいないと思ってましたが、あの人だけは天才以外の言葉が見つかりません。
一度だけ劉備軍最大級の報告をそこまで大事な物とは言わずに処理させて噂の実力がどこまで尾ヒレの付いたモノか試してみたのですが。
それを及第点どころか満点以上の評価で帰って来ました。
私では絶対に思いつかない……いや思いつけない様な政策だった。
頭の中に革命の二文字が大きく出てきた瞬間でした。
本当にあの人は文武において極めている。
確信した時、最初に会った時以上にあの人が恐ろしくなった。
無風さんを敵に回したら、彼一人で一つの軍と戦うのと同等の戦力が居る。
無風さんが味方に居ても、彼の才によって特に文官の才は殺されてしまう。
敵味方のどちらにいても猛毒になる。
一つだけ救いだったのは、彼自身猛毒だと知っているのか、軍に入らず周りには才を隠している。
敵にもならず味方にもならずの位置で自ら飼い殺しをされてるが、あの人が本気を出したらそんなもの合って無いようなものだ。
才を隠してくれてるのもこちらとしては助かっているのだが、その代わりに文官からの不満の声が絶えない。
『私達が一生懸命働いているのに客将がダラダラしてるのは何事ですか!』という不満が多い。
そこらへん無風さんは上手くやれるだろうに今の所何もしていない。
そんな悩み事をどうすればいいのか考えながらも、今目の前で起きている悩み事にもどうすればいいか悩んでいた。
「雛里ちゃん、手を繋いで行けば大丈夫、だから行こ?」
「ふぇ~…グズッ、きっと……街に出たら…グスッ、攫われて…売られて……性欲の捌け口にされる~、ふぇぇ~」
「大丈夫だよ、平原の街は他の街より安全だし人通りのある所を通ればそんな事無いよ」
雛里ちゃんは大の人見知りで、街に出るのを極力避けていた。
水鏡先生の塾に居た頃はそれでもまだ大丈夫だったのだが、桃香様の義勇軍に志願しに行く途中の街で一度逸れてしまい、
宿に戻ろうにも背の高い大人ばかりで周りの景色が見えず、人が少なくなる夜まで街を彷徨っていたらしい。
一人知らない街に放り出された怖い思いをしてから、街に出る事が前より少なくなった。
それでも今日は新しい兵法書が発売されるとあって頑張って街に出ようと決めたのだが、いざ城門まで来たら雛里ちゃんの足が止まってしまい、
泣き出してしまった。
「雛里ちゃん、そんなに駄目なら私が買ってこようか?」
久しぶりに二人でお買い物が出来なくて残念だし、そんな甘い提案は雛里ちゃんの為にもならないと分かっている。
分かっているが、親友の怖がっている泣き顔を見てしまうと心を鬼にする事が出来ない。
「ううん、ぐすっ…私も……行くよ、朱里ちゃん」
「でも…」
その時、私の横から人がスタスタと城門を超えて街に行くのが視界に入りました。
少し離れてからその人が誰だか分かりました。
全身真っ黒な人は私達の軍には一人しかいません。
そう無風さんです。
無風さんはまるで私達なんか見えてないかのように華麗に無視して行きます。
こんなにも貴方のことで色々と悩んでいるのに困っている私達に声すらかけずに綺麗に無視していかれると凄くムカつきました。
「無風さん!!」
「…………」
私が怒鳴った事でやっと足取りが止まり、こちらに振り向きました。
「…………なんだ?」
「なんだじゃ無いですよ、いくらなんでも無視して行く事無いじゃないですか。せめて声くらいかけてくださいよ」
「う~、無風さぁん」
雛里ちゃんが涙声で無風さんの腰に抱きついてしまいました。
短いため息をつきながら諦めた様に無風さんは私の方を見て言いました。
「…………で、俺はどうすればいいんだ?」
「私達の買い物に付き合ってください」
「…………俺も買い物に行きたいんだが…」
「一緒だと困るんですか?」
「…………」
そこでまた短くため息をつき、しゃがみこんで服の衣嚢から小さい布切れを出す。
「なんですか、それ?」
「…………ハンカチだ。汗や涙を拭いたりする布だ」
なるほど、衣服で汗や涙を拭いてしまうと服が汚れる。
農家の人が使う汗拭きの縮小版か。
無風さんはそれで雛里ちゃんの涙を拭いて、最後に鼻をかませる。
雛里ちゃんは恥ずかしくって顔を真っ赤にしているが、無風さんの言われるままに鼻をかむ。
そして鼻をかんだ後のハンカチを綺麗に折り畳んで雛里ちゃんに渡した。
自分の鼻水がついた物を男の人が持ってたら死んでしまうくらい恥ずかしい。
雛里ちゃんも顔を真っ赤にしたままだが、どこか安心したような顔をしていた。
まぁ、ちゃんと真摯に雛里ちゃんを相手にした事で先程怒った事はお咎めなしにしてあげます。
「ところで、無風さんは何を買いに?」
私は無風さんが一体何を買いに行くのか気になったので訪ねました。
「…………無くした目隠しの代わりと………豚の皮」
「目隠し用の布と豚の皮?」
なんか買い物に統一性がありません。
目隠しの布は分かります。
最初に出会った時も目隠しをしていましたし。
ただ豚の皮を買ってどうするのでしょうか?
豚の皮付き肉や豚肉だけなら分かりますが、皮を単体で買っても使い道は限られています。
スープでも作るのかと思っていましたが、以外な答えが帰って来ました。
「…………少し違う菓子を作ろうかと思ってな」
「はわわ、豚の皮でお菓子を作るんですか!?」
「あわわ、想像できないよ」
私も雛里ちゃんも驚くほかありません。
豚の皮を使ったお菓子なんて聞いたこともありません。
しかし、この前雛里ちゃんが無風さんから貰った飴は凄いの一言だった。
ぶどう、桃、みかん、林檎、ゆずと味が多種多様にあって、飽きませんでした。
それに仕事も捗りました。
聞く所によると、味が繊細な物は飴の味に負けてしまうそうで、果物ではあれらが限界らしいです。
無風さんの作ったお菓子はまだあの飴だけですが、それ以外にも何か作れるのでしょうか。
豚の皮から出来るお菓子、何が出来るのでしょうか。
「…………それで、いつまでここに立ち往生しているつもりだ?いくぞ」
「はわわ、待ってくださいー」
「あわわ、置いてかないでー」
無風さんの左に雛里ちゃん、右に私が並んで無風さんの手を握ります。
「…………なぜ手を繋ぐ。お前らで手を繋いで歩けばいいだろ」
「逃げられては困りますから」
「う~、ダメでしゅか?」
雛里ちゃんはまたもや泣きそうな目で無風さんを見上げている。
3度目の小さなため息を吐いて好きにしろと呟いただけで、あとは無言になりました。
歩きながら無風さんの横顔を見る。
先ほどの真摯な対応で怒った事はもういい、いつまでも怒っていてもしょうがないし。
ただ悔しいのだ。
何が悔しいのかというと無風さんがいる事で雛里ちゃんも安心してるのか笑顔で街に出かけられている事に。
親友の自分でさえ出来なかった事をしてのける。
でも、不思議な人。
あの人見知りだった雛里ちゃんが自ら無風さんを助けた時から、不思議だと思っていた。
私の親友はこの人に何を見たのだろうか、厚い掌をギュッと握り思考に耽る。
「……あっ!」
「どうかしたの?朱里ちゃん」
「う、ううん。何でもないよ雛里ちゃん」
反対側の雛里ちゃんがこちらをビックリしたような顔で見てくる。
それに笑顔で何でもないと返したが、私は心臓がドキドキしているのを抑えるので精一杯だった。
声を出したのは無風さんの手をギュッと握った時、軽く握り返してきたのだ。
ご主人様の手と同じで大きく分厚い手が私の手を包み込む。
その温もりを手に感じて私は心臓の鼓動が加速する。
私は両親亡き後は直ぐに水鏡先生に拾われて、男子禁制の私塾に拾われた。
そして乱世が激化してきた頃に劉備軍に志願してという流れなので、身近に意識する男性はご主人様と無風さんだけしかいない。
意識し始めると早いもので、急激に全身が熱くなり始める。
「…………孔明」
「はわわ、ひゃい!!」
「あわわ、朱里ちゃん真っ赤だよ!?熱でもあるの!?」
いきなり声をかけられたので声が裏がえってしまった。
「…………俺はここの店に用があるがお前らはどこまでなんだ?」
「はわわ、え、えっとですね、本屋に行きたいんですが。って隣にありますね」
「…………なら、本屋の前で落ち合うとするか」
「わ、わかりました」
な、なんとかドキドキしてたのはバレずに済みました。
雛里ちゃんは未だに心配してくれてるのか心配そうな顔で話しかけてくるが、大丈夫だと言い目当ての本を探す。
目当ての本は直ぐに見つかり、値段も相場の範囲内だったのでそのまま買って本屋を出る。
ほかの本は大抵読んだことがあるものばかりなので見て回る必要もない。
思った以上に早く事が済んだので二人で本屋を出て服屋にいるはずの無風さんの元に行く。
服屋に入った瞬間、思わぬ事態が発生していた。
「…………ん?もう済んだのか、俺はもう少しかかりそうだ」
「はわわ~!?な、なんで上半身裸なんですかー!?」
「あわわ~!?」
服屋の椅子に上半身裸で無風さんが座っているのです。
「…………なぜって、服を仕立て直してもらってるんだからに決まってるだろう」
さも当然といった顔でこっちを向く。
「はわわ!?見えちゃいます!?見えちゃいますからー!」
「あわわ!?でも朱里ちゃん。無風さんの体すごいよ」
雛里ちゃんの言葉に恐る恐るそちらに目を向ける。
無風さんの体には無駄な脂肪なんて無いのでは?と思うような肉体に、体中に物凄い数の切り傷、刺し傷、打撲痕などがありました。
雛里ちゃんはゆっくりと近づいて彼の傷跡をさすります。
「あわわ、すごい傷の数ですね。これ全部こちらに来てからの傷ですか?」
「…………いや、こっちで受けた傷は背中だけだ」
「はわわ!?じゃあ、これ全部天の国で受けた傷なんですか!?」
城の外の、しかも店の中なのであまり大きな声では話せないが、小声で話す。
「…………ああ、そうだ」
「はわわ、でも天の世界では平和なんじゃないんですか?」
「…………ふっ、今この世界と何ら変わりなどない」
雛里ちゃんも傷を見て驚きと悲しみの目をしている。
無風さんを助けた時に彼の体中の傷を見たことがあるのかと思いましたが、見たことなかったようです。
「…………服の仕立てが終わったらしい。少し行ってくる」
そう言い残して店の奥に消える。
半刻ほどしてから戻ってきた無風さんは前と同じ格好で戻ってきました。
真っ黒な服に真っ黒な目隠し、肌の色が見える部分は少なく死神を思わせる彼の風貌。
目も見えないのに、的確にこちらを向いてくるのが何とも不気味さを増している。
「…………いくぞ」
「「はい」」
三人で店を出ようとした時、店の出口横に無風さんのしている目隠しに似ている布を見つけました。
長さも強度もそれなりにある。
そこで、何を思ったのか二人に少し待ってて貰うよう言って、その布を持って服屋の店長さんに一つ"依頼"を頼みました。
「…………何をしていた?」
「いえ、少し私も頼みごとをと思って」
「…………そうか」
深く話を聞こうともせず、それだけを言って無風さんは肉屋に向かいました。
先程と同じように左に雛里ちゃん、右に私が無風さんの手を握って歩きます。
目隠しをしていても普通に歩けているが、どうしてもそれをしている彼が不安で半歩ほど先に進んで導く。
肉屋では豚の皮はとんでもなく安かった。
それはそうだ、豚の皮単体ではそうそう売れない。
なので思った以上の量を買うことが出来ました。
本当にこれでどんなお菓子が出来るのか未だに謎です。
ここで聞くのも野暮ですし、無風さんが恐らく作ってもらえるだろうと信じます。
「あ、ちょっとここで待っててください」
「…………さっきの服屋?」
「目隠ししてなんで分かるんですか。」
「…………布の匂いが強い」
そんなやりとりをして、先程依頼した品を取りに行く。
出来た物をみて素晴らしく出来が良く、感嘆の声を漏らしてしまう。
あんまり待たせては悪いので、店主に礼を言って店を出る。
「無風さん、これを」
「…………これは?」
「無風さんの目隠し用の布です」
「あわわ?真っ白の純白で、キラキラしてます」
そう、店を出る前に見つけたのは、ご主人様の服と同じくらいキラキラしている純白の布でした。
ご主人様に何か作るにしても、長さはあるが服には面積が足りなさすぎる。
小物入れを送った所で使い道もない。
恐らく袖部分の余りの布を置いていたのだろう。
それを無風さんの目隠し用に仕立て直して貰ったのだ。
「全身真っ黒で怖いですし、夜に見分けがつくようにと思って」
「…………見分けが付いたら殺されるだろう」
「そこらへんの間者に殺されるような無風さんでしたら愛紗さんや鈴々ちゃんに既に殺されているでしょう」
「…………」
「まぁ、昼間でも夜でもそれをつけてれば少しはその不気味な印象が和らぐと思って」
「…………まぁ、貰える物は貰っておこう」
そう言って無風さんは純白の目隠しを衣嚢に突っ込んで、また歩き出しました。
公では確かに危険人物にいは変わりないですが、私では貴方の事は悪くないと思う。。
理不尽とも思える理由でもちゃんと付き合ってくれるし、さりげない心遣いもしてくれる。
ただ、危険人物なのにも変わりはない。
彼の存在一つで私達の軍が崩壊する危険もある。
━━━━無風さんとは戦いたくない
公私のどちらでもそう思う。
ご主人様の次に知った男性、人生で未だ男の事は二人しか知らない。
その片割れ。
もしこの世に神様が居たのなら、なんて残酷な事をするのだろう。
そう思わずにはいられなかった。
読んでくれてありがとうございます。
今回の朱里殿は政OFF状態なのでどこか甘めな感じに仕上げてみましたが、それが伝わってくれてれば幸いですね~。
まぁ、皆様がどう受け取るのか、どう解釈したのか。
その数だけ読む楽しさが広がりますよね。
さてさて、前編と後編に別れるのも久しぶりです。
前書きでも書いたけど、書きたい事多すぎて迷いますわ。
そんなこんなですが次回もよろしくでーす。
でわでわ~




