拠点2 鈴々√
拠点2 鈴々√ 『鈴々の成すべき事』
「うりゃりゃりゃ~!」
蛇矛と蛇矛が ガキィン!とぶつかり合う。
同じ武器だからこそ、刃と刃がぶつかった時に鳴る共鳴音はとても耳に心地よい。
そして鈴々と互角以上で無ければ刃がぶつかり合うなど1合だってない。
蛇矛で鈴々と同等かそれ以上の人物といえば無風お兄ちゃんしかいないのだ。
今は無風お兄ちゃんと鍛練をしているのだが、手応えは上々なのだ。
無風お兄ちゃんに氣を少し教えてもらって少し練習したら、前までの鈴々の勘が更に鋭くなったのだ。
前までは良くて6割当たればいい方だったのが、今では7割は大体当てられるようになった。
そして、無風お兄ちゃんと長く打ち合っていて何となくだが無風お兄ちゃんの攻撃が見切れるようになってきている。
ちょっとずつ無風お兄ちゃんが後退していって、鈴々が優勢になっていく。
「今日こそは絶対1本取るのだ~!」
「…………くっ!」
「うりゃりゃー!どうしたのだ無風お兄ちゃん!もっとかかってくるのだ」
縦横無尽に振るわれる鈴々の蛇矛を何とか受け流している状態の無風お兄ちゃんに隙を見つけた。
「そこなのだー!」
「…………!」
ガキィィン!と今までで一番大きな音を立てて無風お兄ちゃんの手から蛇矛が離れる。
すかさず無風お兄ちゃんの喉元に蛇矛の切っ先を向ける。
何故か物凄く達成した感じがして、両手を天に突き上げて叫ぶ。
「鈴々が1本取ったのだー!!」
今の今まで無風お兄ちゃんに負けていた分が一気に消化できた気がした。
ただ、まだまだ色々な技量差を埋めるための制限を付けてもらっての勝利だ。
その制限があっても勝てなかった相手に勝つことが出来た嬉しさが溢れ出す。
「…………流石だ。張飛」
「えへへー」
お兄ちゃんよりもゴツゴツした手で頭を撫でてくれる。
お兄ちゃんや無風お兄ちゃんは痛くない様に優しく撫でてくれるから好きだ。
撫でて貰いながら少し休憩を挟む。
「…………そろそろ……だな」
「何がなのだ?」
「…………次の段階に進むぞ」
そう言って鍛練を再開する為に少し距離を取る。
距離を取った所で無風お兄ちゃんはいつもとは違う姿勢で構える。
「…………張飛、よく……見ておけ」
構えが変わったことで警戒はしていたが、どうすることも出来ないので先程と同じように攻める。
打ち合い続けて先程と同じようにすれば勝機が見えてくるだろうと思っていた。
しかし、1合やっただけで鈴々の考えの甘さに歯噛みする。
先程の攻撃とは桁違いな攻撃の重さと速さで攻め立ててくる無風お兄ちゃんに防御を強いられる。
3合4合と回数を重ねていく毎に鈴々が攻撃する回数が減ってゆく。
最後のほうではもう防御しかしていなかった。
度重なる重たい攻撃を防御し続けていれば手や腕への負担が積み重なって、防御も出来なくなってきた。
トドメとばかりに下からの攻撃で防御していた手から蛇矛が宙に浮き、鈴々も吹き飛ばされる。
鍛練を再開してから今まででたったの半刻と経たずに終了した。
「うにゃ~」
「…………大丈夫か?」
吹き飛ばされた衝撃でまだ頭がクラクラするのだ。
だが直ぐに回復してきたので、手を引っ張って起こしてもらう。
先ほどの戦闘と今の戦闘を終えても汗一つかいていない無風お兄ちゃんは鈴々の腕と手を触りだした。
「…………特に筋を痛めてはいないな」
「当たり前なのだ!あれぐらいで体を壊す鈴々じゃないのだ」
「…………ならば、先ほどの型の練習を直ぐにでも始めるぞ」
「にゃ?型って愛紗の?」
「…………ちょっと違うが……そうだ」
鈴々が氣を教えてもらっている時に愛紗も無風お兄ちゃんに確か舞の型とかいうのを教えてもらっていた。
厳密には違うみたいだが鈴々にも何かの型を教えて貰うことが出来るということに嬉しくなる。
氣の練習を確かに為になったが、本音を言ってしまうと地味なので色々溜まっていた。
それに愛紗は分からないが、鈴々にはこれという師もなく蛇矛を我流で磨き上げてきた。
なのに何故ここで他人に技を教えて貰うかと疑問に思うかもしれない。
それは無風お兄ちゃんは自分より強く厳しいとも思えるような鍛練をしては来るが、決して鈴々には出来ないような事をやるような事はしない事を知っている。
もう少しで手の届く距離の技術ばかり教えてくれるのがいい証拠だし、なんとなくだが勘でもそんな気がする。
とても簡単なモノばかりだが、それらを組み合わせればより強くなる。
そして習得した技を次に繋げていく事でまた一歩強くなる。
そうやって一歩一歩と歩く先を照らしてくれる。
だからこそ、この人を信じて、師と仰いで、型を教えてもらうことに疑問なんか持たない。
父が生きていたならばこうなのかな?
血のつながった兄が居たならこうなのかな?
鈴々は早くに父母を失った。
山賊に親を殺され、日々を生きるのに大変だった。
親戚の家に居る内に力を付けて一人暮らしを始めるまでが一番大変だった。
その後は親切な村の人達のおかげでなんとか日々を満足に過ごせるまでに至った。
そんな鈴々を引っ張り上げてくれた愛紗。
目標を鈴々にくれてたお姉ちゃん
血の繋がりは持たないが兄として、家族として接してくれるお兄ちゃん。
皆に支え助けられてここまで来ることが出来た。
そして皆の未来を守るための力をくれる無風お兄ちゃん。
無風お兄ちゃんは鈴々に強くなる機会をくれる。
乱世を生きると言うことは一本勝負だ。
本当は刃を交えた瞬間、どちらかが確実に死ぬ。
だけどそれで鈴々が転んでも無風お兄ちゃんは立つまで待ってくれる。
その機会を与えられる人間がどんなに幸福かを知っている。
でも、その代わりに責任も付きまとってくる。
機会を与えられた人間は今度は自分が機会を与えられない人間に機会を与えなければならない。
「…………鈴々とやる前に言った言葉、覚えてるか?」
「見ておけって言ったのだ」
「…………そうだ、それで戦った感想は?」
「一撃が物凄く重くて、蛇矛が最初よりもっと早くなってたのだ」
「…………ああ、その通りだ。あれが"剛"の型だ」
「剛の……型」
「…………雲長に教えた舞の型は"防御"と"速度"を特化した技、しかし剛の型は……」
無風お兄ちゃんのくれる機会を逃すまいと一生懸命理解しようと頑張る。
その心意気が伝わったのか、無表情のままだった無風お兄ちゃんの目に優しさが宿ったような気がした。
「…………剛の型は防御を捨てて"攻撃"と"速度"に特化した型だ」
「防御を捨てるのか?」
「…………ああ、相手に攻撃を許さない為に攻撃と速度を上げた。相手に攻撃されなければ防御の必要は無いからな」
ニヤリと意地悪そうな笑みで笑う無風お兄ちゃん。
少し難しかったが、最後の言葉はよく理解できた。
でもそんな型があるのなら最初に教えてくれても良かったのではとも思って、正直に尋ねる。
「なんで愛紗みたいに最初に教えてくれなかったのだ?」
「…………剛の型はな、氣が必要なのだ」
「氣って、無風お兄ちゃんが教えてくれたあの氣?」
「…………そうだ、氣を使えなければ剛の型をするたんびに手と腕を痛めてしまうからな」
確かに今でも力いっぱいに蛇矛を振っているのに、それ以上の力を出せと言われても早々には無理だし、体に負担がかかる。
そこを氣で補強するためにもまずは鈴々に氣の使い方を覚えさせたのかと思ったのと、やっぱり鈴々の勘は正しかった事に嬉しさが増す。
「…………剛の型と言っても、内容はとても簡単だ」
「そうなのかー?」
「…………氣を手・腕・足の3つに集中させて、あとは武器を振るだけだ」
「おおー、確かに簡単なのだ」
そこで言われた通りに3ヶ所に氣を分けようとするがなかなか上手くいかない。
すると無風お兄ちゃんが肩に手を置いて、集中させる箇所に氣を流し込んで体感的に教えてくれる。
今まで全体的に氣を送るか一箇所に送るかしかしてこなかったので、少しだけ難しかった。
2刻ぐらい氣を送り込む練習をして、上手に出来るようになってきたので早速蛇矛を振ってみることにした。
「っ!」
「…………どうした?張飛」
「なんでもないのだ」
蛇矛を持った瞬間に分かった。
軽いのだ、いや軽すぎる。
鈴々の蛇矛はそれなりの重さがあったはずなのだ。
一丈八寸の長さもある。
なのに氣を集中させた後に持つと、羽のように軽い。
まるで何も持ってないような錯覚にも陥る。
「…………武器を振ってみろ」
「…わかったのだ」
武器を振った瞬間にギィィン!と言う音に驚く。
いつもなら武器を振っても風が巻き起こるくらいだが、今回のは文字通り空気が震えた。
軽く横薙ぎに蛇矛を振っただけでこれだ。
本気でやったら蛇矛が耐えられないかもしれない。
「…………ふむ、まだ慣れてないから一撃に戸惑いが見えるな」
「戸惑い?」
「…………自分の手を見ろ」
言われて初めて気がついた。
自分の手が震えていて、上手く手が開けない。
「…………まだ氣に慣れる所からやれば良かったな」
「っ!?」
気が付けば無風お兄ちゃんの目が悲しみに染められている。
一瞬、鈴々に失望でもしたのかと思ったが、見当違いだった。
「…………張飛の成長ぶりがすごいから、無理をさせた。すまない」
「そんなこと無いのだ!」
「…………張飛?」
「無風お兄ちゃんは優しいのだ!鈴々にいっぱい色んな事教えてくれるのだ」
「…………ありがとな、こんな俺でも張飛の力になれてるか」
鈴々は自分の無知さを呪いたい。
もっと伝えたい事はある。
けれどそれをどう言葉にすればいいのか分からない。
そんな鈴々の気持ちをまた察してか、無風お兄ちゃんは頭を撫でてくれた。
ゆっくりと優しく。
いいんだよと、これから頑張ればいいと手のぬくもりが伝わってくる気がした。
「…………少し休憩しよう。それから氣の使い方をもう少し慣らさないとな」
「分かったのだ」
「…………ほれ」
「なんなのだ?」
無風お兄ちゃんが懐から取り出した袋に入っていたのは飴だった。
覗いてみると色々な色の飴があってとても綺麗だった。
「いいのだ?」
「…………あぁ、心配せずにたべろ」
そう言って一つ半透明の飴を取り出して口に入れる。
口の中にぶどうの味が広がる。
甘くて美味しい飴を舐めながら無風お兄ちゃんを見る。
風に目を細めて空の彼方を眺めている。
お姉ちゃんやお兄ちゃん、それに皆も無風お兄ちゃんをどこか警戒している。
けど鈴々には難しいことは分からない。
今、鈴々が分かることは無風お兄ちゃんが悪い人じゃない事だけなのだ。
でも一つだけ引っかかる。
雛里に呼ばれて林の中で無風お兄ちゃんを見つけた時、その目は恐怖に染っていた。
何にとまでは分からないが、何かに怯えている目をしていた。
それだけが唯一鈴々の無風お兄ちゃんへの疑問だ。
何に怯えていたのか、聞いても教えてくれないだろう。
頭を振って疑念を頭の中から消し去る。
今は少しでも早く剛の型の習得をしなければいけない。
それが鈴々に出来る事だから、考えることは鈴々の役目じゃない。
考える事を他に頼む代わりに鈴々は武を鍛えて皆を守れるように頑張る。
それだけが鈴々に出来る事だから……
最近花粉症を止める薬を服用しているのですが、かわりになぜがとても眠たいです。
副作用は無いはずなんですけどねー。
でもって今回は難しかった。
鈴々の思考になりきって書くのが大変でした。
残るは朱里と雛里の二人ですね。
さて、どちらを書くかとても迷います。
二人共同時でもありですから選択しは3つ。
今から悩みまくって頭痛くなりそう。
まぁ、そんなこんなで次回もよろしくですー でわでわー




