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拠点2 愛紗√

トーストに目玉焼きを乗せて胡椒かけて食ったら案外美味しかった←バカ舌

拠点2 愛紗√ 『飴と鞭』




 無風殿はとても厳しい。

 普段の彼を知っていると練兵中の無風殿の豹変ぶりを見て別人なのでは?と思わせられる程だ。

 この前、ご主人様の鍛練に付き合っていた時もそうだった。

 獲物の刃が潰れていたから良かったものの、木刀でも刃を鋭くしていたらご主人様は胴を両断されていたかもしれない。

 自室で陣形や兵の数などの報告書を流し読みしながらあの時の出来事を思い出す。


・・・・・・


 ご主人様と無風殿が鍛練をすると聞いて不安に思いつつも陣の連携を続けていた。

 もちろん不安なので失礼と思いながらもチラチラッと鍛錬の様子を遠目で見る。

 最初は無風殿の指示も的確に見えた。

 初盤のご主人様は剣の振り方が目の前の相手のみに注がれているようで、二人以上に襲われたらひとたまりもないように思えた。

 しかし、そこで無風殿が何かを伝えた後のご主人様は素晴らしかった。

 技術面は若干危なっかしいが動きや対応の仕方が先ほどとは段違いに良くなっている。

 言葉一つであそこまで違うものなのかと無風殿の指示の仕方も凄いと思った。

 しかし、それよりも凄いと思ったのは無風殿の言葉で戦闘の仕方を直ぐに変えられたご主人様だ。

 人は自分についた癖や戦い方は到底変えられない。

 それが武人であるなら尚更だ。

 剣で戦ってた人にいきなり槍を持たせて戦えと言っても無理なのと一緒だ。

 そしてご主人様は無風殿みたくなれる素質があると思った。

 無風殿は多様な武器を使い分けて戦うことが可能なのは最初に鍛練をした時に知っている。

 そしてご主人様も今、その片鱗を見せた。

 柔軟な思考と対応力、どちらも無風殿には遠く及ばないものの、いつかは並べるだけの実力を持てると思った。

 

 考えに夢中で練兵がおざなりになりかけてしまった事に気づき、あれならば心配は無用だなと判断し練兵に集中する。

 しかし、1刻ぐらいしてから陣の一角が騒めきだした。


「何事だ!練兵中に気を抜くな」

「そ、それが北郷様と無風将軍の試合が始まった様で…」

「何だと!?」


 急いで二人の見える位置に向かった。

 試合というのは兵達の見間違いだろうが、鍛練の相手を無風殿がしていることには違いは無い。

 無風殿の実力ならばご主人様より少し上の力に抑えていい刺激を与えてくれるだろうが"あの"無風殿だ。

 何をやるか想像すらできない、それ故に不安が掻き立てられる。

 そして遂に二人の見える位置にまで移動する。

 現在はご主人様が無風殿に打ち込んでいるが、全て見切られている。

 ご主人様の顔にも焦りの表情が現れている。

 剣と剣を交えている最中に最も気を付けないといけないのは焦りだ。

 戦闘での焦りは判断力を損ない死に直結する。

 だから武に生きるものは色んな人と戦い、経験と覚悟を積む事によって強くなる。

 ご主人様は攻撃を止めて距離を取るが無風殿には意味が無い。

 文字通り最速で懐に入り込んでくる。

 一言二言ほど無風殿が何かを喋り構えを取った。

 そして次の瞬間、瞬きをしていたら見逃していただろう速度で無風殿が間合いを詰めて木刀をご主人様の横腹に叩き込む。

 打ち込まれてから防御の体制を取ったご主人様は気を失ったのかその場で無風殿に寄りかかった。


「無風殿っ!」


 私は気付いたら既に駆け出して二人の方に向かっていた。

 漆黒の目をこちらに向ける無風殿にはなんの表情もない。


「いくら鍛練と言えどもご主人様の実力では絶対に、

それこそ木刀の刃が尖っていたらご主人様は死んでる程の力で打ち込むなど、何を考えてるのですか!!」

「…………そうしなければ、いけなかった」

「何っ!?」

「…………北郷は、強さを履き間違えかけた」

「履き間違えかけただと!?ご主人様に限ってそんなことは無い!」

「…………そして、教える必要があった」

「教えるだと?気絶させておいて教えるもなにもあるのか?」

「…………自分に向かってくる殺気を擬似的にも教えなければ、北郷は死ぬ」

「っ!?」


 確かに一理はある。

 いくら練習を積もうと技を磨こうと、戦場で使えなければ意味がない。

 意味がないどころか、相手の殺気に尻込みして死ぬ事だってありえる。

 戦場で得られる経験は何物にも替えられない経験だが、だからと言って戦争を起こしていては人間は滅ぶ。

 だから、擬似的にも戦場で相手から受ける殺気を知っておくに越したことはない。

 

「だが……だが!余りにもやり方が荒すぎるではないか!」

「…………戦場でそんな事言ってられるのか?」

「くっ!?」

「…………劉備軍の連中では無理だろうから俺が代行したまでの事だ。恨むなら恨め」

「何を!……いや、すま…ない」

「…………何を謝る。お前は大事な主人を傷つけられたんだ。怒っていいんだぞ」


 そう言う無風殿はニヤリと悪者めいた笑いをしてご主人様を渡してくる。

 ご主人様を受け止めるのに一瞬無風殿から目を離してしまい、次に見たときにはいつもの無表情に戻っていた。

 むしろ笑っていたのが気のせいに思えてくる。

 そして城から兵士が一人こちらに向かってくる。


「無風将軍、劉備様と諸葛亮様がお呼びです。早急においでください」

「…………分かった」

 

 どこか兵士の声は尖っていた。

 そしてこの絶妙な時間での呼び出し。

 おそらく城の方からでも見ていたのだろう。

 兵士に待てと言おうとしたが、無風殿がこちらを睨んできたために喉が詰まって声が出せなかった。

 そして無風殿は半ば強制的に連行され、私もご主人様をそのままにしておけずに救護室に向かった。


 その後のことはご主人様も知っているが、ご主人様が起きて私に桃香様達を止めるように言って欲しいと頼まれて救護室を後にした。

 案の定というか、無風殿は執務室の床に正座させられていた。

 ただ思っていたのと違ったのは、朱里も雛里も桃香様も無風殿がやった意味を分かっていた事だ。

 そして何故か怒っている側の桃花様がただただ泣いている。

 朱里達はやり方が乱暴すぎると思ってはいても、ご主人様の為でもあったと言う事もあって何も言わず、目で怒りを示しているだけ。

 桃花様は朱里にその意味を教えられたみたいだが、感情が爆発して無風殿を呼び出したまではいいが怒ろうとしても口をパクパクさせるだけで、

何も言えずに仕舞いには泣き出したのだと雛里に教えてもらった。

 無風殿も怒られているのにいつもの顔でいるので反省してるのかしてないのか、多分していないだろう。

 そこまでが私の知る一部始終だ。


・・・・・・


 あの場を収めるのも苦労した。

 黙って怒り顔で泣いてる桃香様を別室に連れて行き落ち着かせて、二人の鍛練を見ていた兵士や女官にも色々説明したり、とにかく大変だった。

 しかし、これでまた無風殿の風評は悪くなってしまった。

 本人曰く『これが一番手っ取り早い』からだと言ってはいたけれども本当にそうだろうか。

 そういえば曹操軍と協力していた時にも、曹操殿が今の言葉を無風殿に言っていたな。

 ということは曹操軍に居ても同じことをしていたのだろうか。

 

「愛紗さん、いますか?」

「ん?ああ、雛里か。入っていいぞ」


 廊下から雛里が声をかけて入ってくる。

 手には少し大きめの袋を携えて一度お辞儀をしながら入ってくる。


「愛紗さん、飴を貰ったんです。食べますか?」

「飴?ああ、頂こう」

「果実の味がついてる飴なんですけど、大抵の味はありますから、どれにしますか?」

「味?味付きの飴なのか?そんな高価な物を分けてくれたのか?」


 普通の飴でさえ、砂糖を大量に使うのだ。

 そこに果実などの味をいれた飴も存在するが、砂糖の他に果物まで使ったら値段が馬鹿みたいに高くなる。

 元は普通の村娘だった為に、その高価さがどれほどの物か分かる。

 だからこそ、そんな貴重な物を貰うなど本当に祝いの時でもあるかないかなのだ。

 

「はい、でも高価というほど高価ではありませんよ?無風さんの手作り飴なので市場よりはとても安いです」

「無風殿の手作り!?無風殿は菓子も作れるのか!?」

「はい、私も驚きました。けど、無風さんなら」


 確かに無風殿ならば、と思ってしまう。

 あの人に出来ない事など何一つとして無いのではないかと思ってしまう。

 実質、出来ない事など無いのではないか?


「それに、果実も百姓や商人の人に分けてもらったそうですから、かかった費用で言えば砂糖ぐらいです」

「百姓や商人の者に?本当に大丈夫なのか?」

「はい、少し気が引けましたけど裏は取りました」

「そうか……ではみかん味はあるか?」

「はい、ですが旬ではないので元々の味よりは質が落ちますけど」

「ほう、よくこの時期にみかんが取れたな」

「何でも南の方で取れたのを持ってきた商人さんが分けてくれたそうです」


 そう言って少し蜜柑色で変な形の飴を受け取った。

 みかんは兄上が好きでよく食べていたのを今でも覚えている。

 口に入れて舐めると飴の甘さとみかんの酸味がかった甘さが口の中に広がる。

 ああ、この味だ。

 兄上の好きなみかんの味、私の好きな味。

 無風殿は本当に自分の事を分からせてくれない。

 厳しい人だと思わせたら、こうやって飴をくれたりして優しい面を見せる。

 優しい面を感じた瞬間、また彼の事が分からなくなりかける。

 どれが本当の彼なのか見せてくれない。

 仲間だと思いたいのに仲間だと思わせてくれなくて。

 信じてあげたいのに信じさせてくれなくて。

 許してあげたいのに許させてくれない。

 そして悩んでいる間に無風殿は無理矢理離れていく。

 無風殿のしたい事が見えず、私達に求めている事も分からない。

 

「なぁ、雛里よ」

「なんでしょうか?」

「無風殿は一体、我々に何を求めているのだろうな」

「…分かりません」

「雛里でさえ分からないのか?」

「はい、ですが分かっている事は一つあります」

「なんだ?」

「あの人が安らぎを求めている事です」

「安らぎ?」


 てっきり、敵ではないとかそういった方向だと思っていた。

 雛里も難しい表情で考えている。


「どうして安らぎを求めていると思ったのだ?」

「…軍師としては失格ですが、なんとなくそう思いました」

「なんとなく……か」

「はい、無風さんに林で会った時、あの人は死にたがっていました」

「はっ?あの無風殿が?」

「はい、他にも色々言われましたが、まだ全ては分かってません。ですが死にたがっていたのは本当だと思います」


 あの無風殿が死を望んでいた!?

 あれほどの武や知を持っていながらそれを活かそうとせず?

 

「死にたがるのは悪く言えば責任を全部捨てて他に押し付け、楽になる事です」

「…………」

「つまりは楽になりたい、安らぎを求めたい……と思いました」

「だから安らぎを求めている…と」

「…はい」


 雛里は悲痛な顔で帽子を下げて顔を隠した。

 無風殿の謎は深まるばかりで、進展の様子はない。

 だが、雛里の推測が正しいとするならば我々は無風殿に苦痛を与え続けている事になる。

 だから厳しいのかもしれないと思った所でなんにもならない。

 悪い方へ考えが行ってしまうのは悪い癖だなと思いつつ、いつの間にか飴が溶けて口の中が寂しくなり雛里にもう一つ貰う。

 飴は変わらず甘いままだった。


とうことで愛紗√書かせてもらいました。

結局愛紗√、鈴々√がなかなか書けない。

次回はどうしようか迷ってます。

まぁ、のんびりやっていくので相変わらずの不定期更新です


また次回~

でわでわ~

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