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風はまた吹き始める

前回のあらすじ

・張角を捕らえた

・黄巾党の乱の終結


 また夢を見ていた。

 最後に夢を見たのはこの世界に来る時だったから久しぶりだ。

 いや夢じゃ無いのかもしれない。

 俺は文若を城から突き落とした後、感覚が無くなりつつある足で廊下を歩いていたのは覚えている。

 でも記憶があるのはそこまで。

 俺は気絶してるのか死んでいるのか、死んでいるのなら此処はあの世だがそれはありえない。

 何故かというと、目の前で俺と文若が炎の中で向き合っているのを第三者視点で見ているからである。

 その光景を見ると、最初に夢で見たのはこの光景だったんじゃないかと思う。

 考えている内にも夢の俺と文若が言い争い始めている。

 だがそこで違和感を覚えた。

 そして何がおかしいのかは直ぐに分かった。

 位置が逆なのだ、俺と文若の。

 だが、この位置ならば文若に矢が届くことは無いし俺も剣で防ぐ事が出来る。

 夢の中は自分の都合がいいようになってるなと思いながら部屋の入口を見続ける。

 そこにさっきまで居なかった兵と思われる人が現れて弓を引いている。

 はっきり見たわけでないモノには靄がかかっているのは夢だからだろう。

 矢が目の前に飛んでいき、夢の俺の背中に飛んで行く。

 そのまま行けば俺が一刀のもと切り捨てる。

 だが、そうはいかなかった。

 文若が俺に抱きついてきて反転したのだ。

 その行動に目を奪われた。

 まさか文若がそんな素早い動きが出来る事にも驚いたが、問題はその行動である。

 当然の如く矢は文若の背に刺さり、出血性ショックによって即死した。

 抱きついていた文若がずるずると倒れていくのを俺が抱いてゆっくりと横たわらせる。


━━━━どうして


 その言葉が頭の中で繰り返される。

 俺は……夢の中でさえ人一人助けることさえ出来ないのか。



 そこで意識が夢の中から遠のく



================雛里視点================


 曹操さん達の軍が張角を討ち取った事で黄巾党の乱がやっと終息しました。

 現在は桃香様が現在お世話になっている徐州の下邳城に向けて帰っている途中です。

 黄巾の乱は、曹操軍に忍ばせた兵士さんの話では無風隊の人たちが張角ほか2人を捕縛したとのことで、

手段としては張角を見つけた班が煙をおこして発見と集合の二つの報告を同時に行うという方法で包囲したという。

 煙を伝令の役目に使うとはすごい考えだ。

 普段からよくあるモノなだけに、そんな考えに行き着かなかった。

 やっぱり無風さんはすごい、力では愛紗さん達を凌ぐのに頭は朱里ちゃんや私並に頭がいい。

 朱里ちゃんは無風さんが敵になったらを考えて恐れていたけど、私にはそうは見えません。

 一回だけ、無風さんが目隠しを外している時にお話した事があったけれど、その時の無風さんの目がとても優しく微笑んでるように見えた。

 あんな目をする人が敵になるとは思えない。

 だけど、その考えは軍師としてはいけない事だ。

 先入観だけで事を決めるなどあってはならない。

 でも敵になる人が私なんかに親切にするだろうか。

 無風さんが敵か味方か、その問答を自分の中でしていると一人の兵士が報告をしに来ました。


「報告します!この先2里ほど行った所にある林で一人の男性が倒れてます!相当な怪我ですが息はしてます」

「あわわ!周りに人は居なかったんですか?」

「はい!一応盗賊か何かかと思いましたが、他に誰か居るような痕跡も気配もありません」


 賊の囮などの類ではなさそうですね。

 

「容姿や格好はどのような格好でしたか?」

「長身で全身黒一色の服に珍しい剣と木刀を1本ずつ腰に差していました」


 その報告に一人の男性が浮かび上がり、伝令兵にもう一つ聞き返しました。


「その男性、目に目隠しをしていましたか?」

「いえ、そのような物はしていなかったかと」

「…そうですか。分かりました。私が見に行きます」


 その言葉に伝令兵さんが焦り出し、抗議の声を上げました。


「いけません!確かに怪我人の様ではありましたが、何があるかわかりません」

「多分、大丈夫です。私の知っている人物であるならばそんな事はしない人です」


 そう強引に兵の抗議を押し切り、男性が見つかったという所に急ぎます。

 林の中では既に数十人の兵が抜刀した状態でその人を取り囲んでいました。

 そして思った通り、そこに倒れているのは無風さん、その人でした。


「あわわ~!その人は大丈夫です。剣をしまってください~」

「鳳統様!?ここは危険です!お下がりください!」

「あわわ!この中に曹操軍と連携してた時に彼に世話になった人はいないんでしゅか!?」


 その私の問いにそこにいた兵が全員疑問の顔になりました。

 本当に彼に世話になった人間はいないみたいです。


「分かりました。では10人ほど愛紗さん……は桃香様の警護で抜けられないので鈴々ちゃんを呼んでください」

「はっ!ですが、鳳統様にもしもの事があったら…」

「私は大丈夫ですから、それにこの人は私のお師匠の一人です!」


 師匠は言い過ぎですが、こうでも言わないと動いてくれないでしょうし、すぐにでも無風さんの手当てをしないと結構な出血量で相当不味いです。


「わ、分かりました!すぐに呼んでまいります」


 この時ばかりは正直、私たちの兵士さん達の練度の低さに頭を悩ませました。

 相手が怪我で倒れているとしても、狭い林の中で人が固まっていたら、こちらはまともに動けず全員殺されています。

 その反面、無風さんの隊は林という地形を活かして数人が適度な距離を保ちながら輜重隊を攻撃していました。

 練度の高い部隊を目の当たりにしてしまうと、嫌でも自分たちの兵の練度の低さに気づかされてしまいます。

 でも今はそんなことを考えている場合ではありません。


「あわわ!無風さん!大丈夫でしゅか!」


 背中に矢に刺された痕が3つ、体の至る所にかすり傷や打撲の跡が酷く、拷問でもされなければここまでひどい傷にはなりません。


「無風さん!返事をしてください!無風さん!」


 頬をペチペチとしてみたりするが、反応がない。

 それどころか触った瞬間、人間とは思えない冷たさでした。


「早く林から出して周りを焚き火で囲い、体を温めないと!」

「…………ぐっ!?………そこに…………いるのは?」

「あわわ!?無風さん、私です!鳳統でしゅ!」

「…………鳳統………なぜ……ここに」

「ちょうど徐州に帰る途中に、林の中で無風さんが倒れているって報告があって」

「…………俺は………そうか………ここに……繋がってた………のか」

「無風さん、あんまり喋っては駄目です!傷から余計に出血しちゃいます!」

「…………別に……かまわんさ………死んだら……そこまでだった……のだろう」

「何言ってるんでしゅか!今すぐ手当しますから動かないでください!」


 無風さんが無理矢理に体を動かして座ろうとしています。

 今あんまり動くと背中の傷から血が飛び出ちゃいます!


「…………手当てなど………不要だ…………鳳統」

「駄目です!無風さん、もっと生きようとしてください!」

「…………俺を………生かせば……劉備を………殺す!」

「っ!?」


 無風さんは黒い瞳を私に向けながらニヤリと弱々しく笑いました。

 口元は笑っていますが、目が笑っていません。

 本気で桃香様を殺してやるという目つきをしていました。


 無風さん……あなたがわかりません。



================無風視点================


 こう言っておけば士元が俺を助けようとしても周りの兵がそれを止めるであろう。

 現に兵士は俺が危ない人物だと認識したようで、士元を下がらせようとする。


「鳳統様!コヤツは危険です。例えお師匠様だとしても劉備様を殺すなどと公言している輩を助けてはなりません」

「あわわ!?大丈夫です。無風さんがそんなことをする筈ありません」


 士元はそれでも下がらずに俺の元から離れようとしない。

 そんな事してお前に何の得がある。


「…………おい………そこの……お前」

「!な、なんだ?」

「…………その剣で………ひと思いに………俺の首を………刎ねろ」

「っ!?いけません!無風さん、何を言ってるんでしゅか!?兵士さんも止めてくだしゃい!」

「…………鳳統に……何かあったら……不味い……無理矢理にでも………下がらせろ」

「い、言われなくても分かってる!鳳統様下がりましょう」


 そこでやっと兵士の一人が士元の肩を掴み下がらせていく。

 士元も必死に抵抗してはいるが、力のない彼女では無理だろう。


「離してください!無風さん!何故あなたはそんなに死にたがるのですか!それだけの智謀と武をこんな所で捨ててしまうのですか!」


 智謀・武、そのどちらも結局は先人が考えたもの、編み出したものを真似しただけに過ぎない。

 捨てるも何も最初から持っていない物をどう捨てられようか。


「…………やってくれ」

「無風さん!」


 兵の後ろで士元が泣き出してしまった。

 最後の最後に女の子を泣かしてしまったのは申し訳ないと思ったがそれが士元の為でもあり、劉備の為なのだ。

 俺の存在は組織を壊す。じわじわと毒が体を蝕んでいくかのように壊してしまう。

 今死ぬ事より劉備軍が壊れた後に彼女たちから向けられる視線を見るほうが何倍も怖い。

 

「…最後に言い残す事はありますか?」


 急に剣を構えている兵士が俺に問いかけてきた。

 その目は巫山戯た様子など微塵もなく、ただ後悔など無く死ねるよう俺への配慮だろうか。

 先程までは敵と認識していた筈なのに、今では親切にも悔いを残さぬようにしてくれている。

 

「…………最後に……美味い酒が………飲みたかった」

「…そうですか、では」


 兵士が上段に剣を構える。

 士元が声を張り上げて叫んでいるが、俺の目と耳は既に自分に振り下ろされる剣にしか向いていない。

 孟徳……力になってやれなくて済まない。


━━━━そして、剣が振り下ろされる


ガキィン!


 だが剣は俺には届かず、それは長い"丈八蛇矛"によって遮られていた。


「無風お兄ちゃんに手を出すななのだー!」


 横から張飛が飛び出してきて俺と兵士の間に入り庇ってくる。


「…………張飛………俺が……望んだことだ………そこを……退け」

「死にたい人間なんか居るはず無いのだ!絶対ここは退かない」


 その張飛の剣幕に兵士たちがたじろぎ、その隙を突いて士元がこちらに戻ってくる。

 

「無風さん!どうしてそんなに死にたがるのでしゅか!どうして生きようと思わないのでしゅか!」

「…………そう興奮……するな………噛み噛み……だぞ」

「うるさいでしゅ!死にたがりの人に言われたくないです!」

「…………ならば………好きにしろ」


 そう言って俺は目を閉じる。


「好きにさせてもらいます!鈴々ちゃん、無風さんを林から出して体を温めないと!」

「がってんなのだ!」

「あと笹の葉を持ってきてください!傷口に当てて縛ります」


 笹の葉には殺菌成分が含まれているのは知っているが傷にも効くのか?

 そう思いながら士元のされるがままに怪我の手当てを受けて寝台に横にされ、士元と張飛がつきっきりで看病してくれた。

 見舞いには北郷や劉備も来たが一人の怪我人に構ってる暇があるのなら、早く軍を動かせと言って追い出した。

 孔明と雲長も来てくれた。

 雲長は張飛なみに心配していたが、孔明は俺の存在がここにある事の損得を計算してか、あまり浮かばない顔をしていた。

 今まで病気になっても家族以外に見舞いに来る人が居なかった為にこの状況が少しむず痒い。

 そうして3日ぐらいすると傷はだいぶ良くなった。

 背中の矢傷も体内に血が入らないように氣で背中の筋肉を動かして命に別状は無かった。

 ただ傷に氣をずっと使っていた為に1ヶ月は普通の人の氣ぐらいしか使えなくなってしまった事が結構痛い。

 使えない事も無いのだが無理に氣を使いすぎると脳が壊れる。

 氣は集中力を何倍にも増幅して脳を一時的に活性化させるものだから、無理をすると脳に障害が残る。

 怪我自体は劉備が下邳城に着く頃には塞がって、普段の生活をする分には問題が無くなっていた。

 ただ、鍛練が出来ないのでリハビリはしっかり行わないと感覚が鈍る。

 そんな養生生活を下邳城に着いて2週間ぐらい過ごしていた時に劉備に呼び出された。

 王座の間に来いと言われ、向かってみると劉備軍主要の人が集まっていた。

 

「ごめんね、傷が完全に治ってないのに呼び出しちゃって」

「…………問題ない」

「でね、無風さん。これからどうするの?曹操さんの所に戻るの?」


 なるほど、呼び出した意味は俺の立ち位置をどうするかって事か。

 

「…………いや、孟徳の所には戻れん」

「どうして?」

「…………色々とな」

「じゃあさ、無風さえ良ければウチに入らないか?」


 北郷が俺に笑いかけながら提案してくる。

 それにはほぼ全員が頷いて賛同するが、孔明と士元は難しい顔をしていた。

 

「?どうしたの朱里ちゃん、雛里ちゃん。何か不味い事でもあった?」

「駄目という訳では無いのですが無風さんがもしここに居るとバレたら曹操さんが黙っているでしょうか」


 孔明のその言葉に劉備が苦笑いをする。


「黙っていない……かも」

「…………黙ってるさ、当分は……な」


 全員が俺を見る。

 士元が代表して質問してくる。


「どうしてそう思うのですか?」

「…………袁紹が後ろに居るからだ。」

「でも、袁紹さんも幽州の公孫瓚さんが居るから動かないと思うのですが」

「…………確かに、だが名家という名声は侮れない」


 例え幽州の公孫瓚が居るとしても、孟徳を攻めて帰ってくるまでの間耐えうる兵を置くことは可能であろう。

 孟徳の性格からも、俺一人の為に民や自分の兵を大勢失う訳にはいかない。

 それぐらいの損得勘定は寝ていても出来る奴だ。

 そしてそれが分からない孔明では無いはず、つまりそれは俺が劉備軍に入る事で何らかの被害を防ごうとしているのだ。

 そんな分かりきった事を口にしてまで俺が劉備軍に入るのを阻止したい証拠だ。


「…………それに、俺は正式に軍に入る事はしない。それが一番好都合だしな。そうだろう?孔明」

「…………」


 その俺の問いに孔明は沈黙する。

 時に沈黙は明白な肯定になる。


「…………だから、客将で良ければ入ろう。あとはそちらで決めてくれ」


 そうして玉座の間の扉の前で待っているよう言われ、待つこと数分。

 入室許可が下り、また入室し劉備の決断を聞く。


「私たちは………あなたを客将として受け入れます」


 かくして俺は劉備軍の客将になった。

 風がまた吹き始める。

読んでくれてありがとうございます。

今回の回は結構悩みました。

色んなルートの中からこのルートを選んで書き始めたのはいいのですが、いざ書き始めると他のルートもよかったかなーって考えちゃって悩みまくりました。

次回では今回の謎な部分を書いていきたいと思います。

でわでわ~


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