策は成れり
くしゃみが止まらなくて作業が捗らない(´・ω・`)
炎と恐怖に駆られた人の叫び声が飛び交う中、腰に剣を、手に木刀を持ち部下の連中に用意した穴に焼いた兵糧を捨てさせる。
炎は原型が無いので目隠しをしたままでは分かりにくい為外している。
案の定、炎は勢いよく燃え上がり輜重隊の木車にまで燃え移る。
そのせいで、ここだけ昼間の様に明るい。
「…………全軍帰還」
そこまで大きな声を出さなくても、この騒音の中聞き分けた俺の隊の奴らが撤収を開始する。
直に関羽隊と張飛隊が突撃してくる事だろう。
あまりのんびりもして居られないので予定通りに林に突っ込んで獣道を通り、仮設した一時的な拠点に帰還する。
帰ってきて直ぐに兵の点呼をさせる。
「…………よし、全員いるな。負傷した奴は天幕で休んでいろ。後で捕縛した黄巾党の介抱に回れ。その他は待機」
指示をし終えたら後は本当に待つだけである。
関羽と張飛がしくじるとは思わないが、黄巾党の兵が瓦解して逃げ出すまでがリミットだ。
大丈夫だといいが…
林を挟んだ向こう側はまだ赤々と燃えて明るくなっている。
そちらの方を見ながら、為すべきは終わらせた事の一時的な安心感と一抹の不安を抱えながら目を瞑る。
================鈴々視点================
鈴々は難しい事は分からない。
頭でグルグル考える事はお兄ちゃんや朱里たちに任せて口を挟まない方が早いのだ。
鈴々たちにも必要なことはお兄ちゃんが簡単に説明してくれる。
無風お兄ちゃんの言葉もとても簡単で分かりやすい。
今回倒していいのは二人だけ、名前は確か……そうなのだ!波才と高昇なのだ。
その二人を倒せば黄巾党の大勢が助かる事、そしてその二人を倒せば……
「鈴々や愛紗のような悲しみを背負う人が減るのだー!」
愛紗もやる気満々だったみたいだったし、鈴々も負けないのだ。
そうして待っていると、ちょっと離れた所から火の手があがって敵が混乱し始めたのだ。
「今なのだ!突撃、粉砕、勝利なのだー」
「こらっ!鈴々、まだだ!いま兵糧を焼いている所なんだぞ?もう少し待て。それに頃合になったら合図を送ると朱里に言われたであろう」
「にゃはー、そうだったのだー」
まったくと愛紗は呆れていたけれど、どこか緊張した面持ちが消えているので良しとするのだ。
少し待つと火の手が強くなり、林に燃え移っちゃわないのかと思っていると、合図の兵がやってきたのだ。
「いくぞ鈴々!我らが義の刃で悪を叩き切る!」
「応っ!なのだ。突撃、粉砕、勝利なのだー!」
今度こそ突撃の合図を全軍に伝えて包囲網を引かせる為に突撃する。
「鈴々!私は波才を倒す!お前は高昇を頼む」
「がってんなのだ!愛紗、また後でなのだ」
「あぁ、鈴々もまた後でな」
そして合図と同時に貰った報告を頼りに二手に分かれて敵将の元に向かう。
鈴々は後ろに居るはずである高昇を探す。
「高昇ーっ!出てくるのだー!鈴々と勝負するのだー」
いきなりの炎に驚き、烏合の衆と化した黄巾党の連中を掻き分けながら進んでゆく。
「チッ!お前か!俺らを襲った奴らは」
中曲と後曲の真ん中あたりに着いた所で一人、そこらの黄巾党よりも派手な衣装を着ている男がいた。
鈴々の感がこいつが高昇で間違いないと言っているのだ。
「へへーん、引っかる方が悪いんだもんねー」
「ガキが、舐めた真似してくれんじゃねぇか」
「負け惜しみは見てて醜いのだ」
男の額に青筋が浮かび上がってきて、今にも襲いかかって来そうなので、鈴々も構える。
「さぁ、鈴々と勝負なのだ」
「ぜってー殺す!」
大剣をものすごい速さで振り下ろしてくるが、無風お兄ちゃんと比べると全然遅いのだ。
ガキンッ!
蛇矛で攻撃を受け止めて、今度はこっちから横振りの一撃をかます。
ブォンッ━━ガキンッ!
それを受け止められる。
結構な実力を持っていて、少し厄介なのだ。
それに愛紗も言っていたが、今回は速さが肝心らしい。
「なかなかやるのだ。ならちょっと本気を出しちゃうもんねー」
「ヘッ、やってみろガキ」
足と腹部に力を込める。
次の瞬間には前に全速で駆ける。
「これで、終わりなのだー!」
一瞬しゃがんでからの飛び上がりで相手の後ろに回り込み、着地と同時に蛇矛を振る。
しかし、人体をめり込んで行く不愉快な感触が蛇矛に感じられない。
その時、ゾッとした感覚が背中を流れる。
反射的にそのまま蛇矛を振り回すと、自分の"後ろ"からその当たった感触がしてくる。
「グフッ!?何故だ。完璧に回り込んでいた筈…なの……に……」
その言葉を最後にドシャっと地面に倒れる。
「無風お兄ちゃんとの一騎打ちが無かったら危なかったのだー」
さすがの鈴々も少し肝が冷えたのだ。
高昇がこれほどの実力の持ち主だと、愛紗と戦っている波才も侮れないかもなのだ。
不安はあるけど、愛紗なら大丈夫だと信じて鈴々は蛇矛を掲げて
「劉備軍が将、鈴々こと燕人張飛が敵将高昇を討ち取ったのだーー!!」
おおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!
空気が割れんばかりの雄叫びを張飛隊が叫び辺りを包む。
================愛紗視点================
ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!
遠くの方で雄叫びが聞こえる。
鈴々は高昇を討ち取ったか、もしくは……
嫌な光景を思い浮かべてしまい、振り払うように頭を振る。
今は目の前の敵に集中しなければ。
「ほっほっほ、そんな腕では私は倒せませんよ」
波才は人を見下したような態度で、これまた見下したような笑い声をあげる。
正直頭に来るが、奴の腕も確かである。
奴の操る槍は対して上手くないものの、こちらが攻撃してきた時の隙を突いた逆襲にでるのがとても上手かった。
そのせいで私も結構、満身創痍な状態である。
「ふっ、私がお前ごとき倒せないと?笑わせてくれる」
こちらも挑発させるが、それが分かっている上に今の状況では相手が有利なのは確かである。
「ほっほ、そんな強がりを言って大丈夫なんですか?もう身体ボロボロじゃないですか。そちらこそ諦めたらどうです?」
「生憎私は諦めが悪いんで」
なら仕方がありませんねと肩を竦める波才にその仕草が一々苛つく。
落ち着くために一度深呼吸をする。
私念ではあやつは倒せないだろう。
憎しみは力を生むが攻撃が単調になりやすく、周りが見えなくなる。
それに、もうこれ以上時間をかけてはいられない。
仕方ないが本気を出させてもらおう。
「次で決める。波才、覚悟っ!」
「いいでしょう、あなたでは私には勝てないと教えてあげますよ」
無風に教えてもらい、必死に練習し、最近やっと出来るようになった"舞"の型を取る。
刃の部分を上に、峰を相手側、刃紋を後ろの状態。
いわゆる竹箒をちょっと格好良く持ったような状態で力を抜く。
「ふっ!」
まずは体の姿勢をそのままで移動して下段から柄頭で相手の顎を打ち上げに行く。
「さきほどより、更に読みやすいですよ?素直に諦めたなら諦めたと……っ!?」
次にそのままで突きを放ち、青龍刀を引く。
引き戻したら弧を描く様に"峰"の部分で打ち下ろす。
「な、なんですか。この異様な型は!?」
それはそうだ。
本来なら偃月刀の本来の使い方は、重力に逆らわないように打ち下ろして、その重さを持ってして叩き潰すための武器だ。
それを刃で打ち下ろさず峰から打ち下ろす意味が理解できないのであろう。
峰から打ち下ろした後、相手との距離を詰めるように動き、こんどは下段から弧を描く様に柄頭でまた顎を打ち上げに行く。
「くっ!?同じ方法が通用するとでも……!?」
そして最初と同じように引いた青龍刀を"下段"から斬りかかる。
また上段からの打ち下ろしが来ると思っていた波才は反射的に槍を上に防御の構えを取ってしまい、青龍の刃が相手の腹部から胸にかけて切り裂く。
この舞の型の利点は上段下段を自由に使える事で、どちらから攻撃を仕掛けられるか分からないこと。
波才ぐらいの相手ならば今回の速度でも問題なかったが、これは速さが命の型だ。
遅いと相手に考える隙と防御させる隙を作ってしまう。
最初の打ち合いでもっと速さを上げろと言われた意味が、舞の型の練習を始めてから分かった。
それに刃はひっくり返せるので、どちらでも構えて大丈夫だというのも今までの演舞の型では見られなかった利点がある。
「やられました。まさか……こんな綺麗な舞で……やられるとは………ね……」
膝からガクリと崩れ落ちて動かなくなる。
鈴々は大丈夫だろうか、怪我等はしていないだろうか。
そんな不安を抱えながら青龍刀を振り、血を払ってから高らかに宣言する。
「劉備軍が大将劉備様の第一の矛!関雲長が波才を討ち取った!」
おおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!
自分たちの将が打ち取られたと知るや否や、一目散に散らばって逃げていこうとする。
しかし、逃げ道は一つしか無い上に逃げ道の先には劉備軍本隊と少し離れたところに無風隊がいる。
逃げ道は無いも当然である。
兄上よ、雲長は過去を救おうとした私ではなく、未来を救うための刃を持てました。
どうか、どうか見ていてくだされ!私の進む未来を!
================無風視点================
それからは怖いくらい順調だった。
予定通り黄巾党の敗残兵を捕縛して助け出した。
それも想定した数より多く救出出来たので、戦果としては上々だった。
捕まって殺されるとでも思ったのだろうか、抵抗を続けるものが多くいたが、俺の隊の人間が元黄巾党だと知ると、
これまた恐ろしいくらいおとなしく介抱された。
孟徳の方も、残りの兵糧を焼き、拠点を制圧して追撃戦をするらしい。
それを聞いた劉備は悔いるような顔をしたが、無理なものは無理だ。
救えないものはどう足掻いても救えない。
逆に救おうとしてこっちが巻き添えを喰らうことだってある。
でも、救うことが出来る命を救う事ができて劉備や北郷とその配下はとても満足そうだ。
まぁ、問題があるといえば一つだけある。
「愛紗ちゃん!?その傷はどうしたの!?」
「と、桃香様!?いや、その。相手もなかなか強かった物で無傷とはいかなく……」
「女の子なんだからお肌には気を付けないと駄目!ほらこっち来て」
「桃香様!?ひゃっ!?そんなとこ、んっ!触っちゃ駄目で……ひゃう!?」
劉備が関羽の傷に酷くショックを受けていたくらいだな。
「…………で、お前はなんでここにいる?」
そう、劉備陣営でなく、俺のところに北郷がいるのだ。
言われてバツが悪そうに頬を掻きながら苦笑いで
「いや、その。桃香と愛紗のやり取りを聞いてたらさ、ちょっと勘違いで興奮しそうだったから」
「…………はぁ」
劉備のとこにいると調子が狂う。
「…………一応言っとくが、俺は兵に俺がお前に暴行を行ったように見せてるんだからな?」
「うーん、分かってるけど。それ誤解解かない?」
「…………解かん。解くのも色々と面倒だ。」
俺は酒精の強い酒をおちょこでクイッと少し飲み、もうそろそろ昼になろうとしている所で久々な氣を感じた。
孟徳がやってきたのが分かったので、おちょこに入ってる酒を飲み干し、手を振る。
手を振り返してくる
「なかなかやるようね、無風」
「…………俺は食べ物燃やしただけだ」
「ふふっ、謙遜しなくてもいいのに、あと報告よ」
「…………なんだ?」
「張角たちが南郷の城に立てこもったみたいよ」
「…………そうか」
「えぇ、だから戻って来なさい。いいわよね、北郷?確かに約束は果たしたでしょう?」
「…あぁ、無風にはかなり助けてもらった」
孟徳がふーんと関心したような声をあげる。
あっち行ったりこっち行ったり面倒くさいなぁ
「…………わかった。すぐ帰る準備をする」
「あら?そんな急がなくてもいいのに」
「…………急がねば劉備たちは止めにかかるだろう」
そう言い、全体に孟徳の方へと帰還する準備をさせる。
「本当にすぐ帰っちゃうのか?最後に挨拶くらいしていってくれよ」
北郷が残念そうな声で話しかけてくる。
ふっと小さく笑い
「…………そんなことすれば、離してくれないやつがいるだろう?」
そう言って酒も全部片付けて、先に帰るよう指示した。
2刻もすればもう後は俺と孟徳と北郷以外、誰も何も残っていない状態になった。
「じゃあ、いきましょう」
「…………あぁ」
「またなー」
北郷が手を振って見送ってくれる。
それに小さく手を振り返して天幕をでる。
まぁ、どうせ黄巾党本隊を倒すために直ぐまた会うんだがな。
そんなことを心の片隅で思いながら、久々に典韋の菓子が食べたいなとも思った。
これからどうなっていくのだろうか、まだまだ面白そうだ。
花粉の季節がやってまいりましたねー。
鼻が痛いです。
それにインフルも多くなってきたみたいですので皆様もお気を付けください。
ではでは、また次回~ ノシ




