仁君のあるべき姿とは
前回・前々回のあらすじ
・尋問された
・なんか押し付けられた
・無風無双
・コーヒーにはミルクパウダー派
「以上が今回の策ですが、気になるところがあればお願いします」
北郷達のいざこざから数日が経ったある日。
黄巾党の本拠地を孟徳が見つけたとのことで、ここは一気に攻めに転じたほうがいいとの意見が多く。
孟徳自身、ここは打って出ると言うので今こうして軍議をしている。
ちなみに俺が今いるのは孟徳率いる曹操軍ではなく、劉備の居る義勇軍での軍議だ。
一度諸葛亮と鳳雛の策を見てみたかった為に、二人に策を練るのを頼んだ。
斥候を放ち、敵軍がどうなっているのかを調べさせに行ってる間に、今出来る事をやろうと、
前に調べた黄巾党本体の人数と仮定して策を練ってもらっている。
「そうだな、それが一番いいと思う」
北郷は二人の策に賛成する。
俺や他の劉備軍主要メンバーも概ね同意見だ。
あとは斥候の報告を聞いて変更していくしかない。
斥候が戻ってきて報告を言いに来たのはそれから4刻くらい経ってからだった。
「報告します!敵拠点の数およそ3万!」
「3万!?そんだけか!?黄巾党の本隊は30万を越えるって話だぞ?」
「はい、どうやら本体はどこかに出ているらしく、敵拠点に張角・張宝・張梁らしき人物が見当たりません。」
「こちらの動きがバレたのか?バレたにしても動きが早すぎるし、では本当にどこかに出ているのか…」
北郷と関羽が斥候の報告に難しい顔をする。
鳳統も何やら考えているようで、俯いたままだ。
少ししてから鳳統が顔を上げて斥候に質問する。
「あの、そこには兵糧はどれくらいありました?」
「とてもすごい量の兵糧がいくつかの倉庫に分けられて置かれていたのを確認しました。」
そう言って一言「失礼」といい、敵拠点の数カ所に針を刺していく。
そこが敵の兵糧か…
それを見て臥竜鳳雛の二人が真剣な顔で針の位置を見ていた。
「報告します!」
「なんだ!軍議中だぞ」
新たに入ってきた兵は孟徳の所に所属している兵だった。
「劉備軍は拠点横の林から攻撃を仕掛け、注意を曹操軍から逸らすよう。その間に我々曹操軍は火計を持って相手の兵糧を燃やして混乱させる。」
「そしてその混乱に乗じて一気に制圧……ってことか」
北郷が苦痛に耐えるような顔で兵士の先の言葉を口にする。
劉備も助けたいという思いが強いのだろう。
先程から黙っているが、それは多分口を閉じていないと助けたいという言葉が出てしまうからだ。
助けたいと軽く口で言うのは簡単だ。
だけど、地に足をつけていない、力を持たない劉備が黄巾党の連中を助けても、それは自己満足だけの話で、
生かした責任を取れはしない。
生かしても殺しても責任は付きまとってくる。
生への道は茨の迷路、死への道は深い底なし沼。
さぁ劉備よ、お前はどちらの道を選ぶのだ?
全員の目が最高指揮官の俺の方に集まるが、俺は劉備を向く。
他の全員もそれに気がつき、全員の視線が劉備に集まる。
「ねぇ……朱里ちゃん」
「……はい」
「助けることは……出来ないかな」
「……不可能……では無いですが、こちらの被害が大きくなります」
「…………」
劉備が俯いて震えだす。
敵を助ける代わりに自分を慕ってくれた兵を殺すか、兵を生かすために相手を殺すか。
それが生かしても殺しても付きまとう責任だ。
本来ならばそのどちらかしか方法は無い。
「…………諸葛亮」
「は、はい。なんでしょう?」
「…………相手の将の名と数は?」
「えっと……相手は波才と高昇という将ですね。あとは殆ど将と呼べる人物はいません」
「…………なるほど」
「えっと…………それがどうかしたんですか?何か策でも?」
「…………いや、今回は策と言えるものは必要ない」
全員から「えっ!?」と驚かれ、自分たちの4倍強はある敵を策も使わずに勝つ方法などあるのか?と困惑している。
「あ、あのですね?もしかして無風さん、相手の将を倒して士気を下げさせて投降を促すとかそういうことですか?」
「…………そんな上手くいく訳ないだろう」
「よ、良かった。さすがにそんな無謀とも言えるような……」
「…………出るのは俺と俺の隊だけだ」
再度の衝撃的な言葉に全員が呆ける。
「はわわ!ダメです!今この軍の指揮官は無風さんなんでしゅよー!?」
「あわわ!流石にダメでしゅ!」
諸葛亮に今度は鳳統の声も加わってステレオでダメ出しを貰った。
「…………何故だ?」
「な、なにがでしゅか?」
「あわわ、な、何でしょう?」
俺が疑問を口にすると劉備の軍師二人が恐る恐る問い返してくる。
「…………俺が居なくなれば、また指揮権は劉備に戻るんだぞ?それの邪魔をしてお前らの得はなんだ」
「そ、それは…」
諸葛亮は俯いてしまったが、鳳統からは先ほどの慌てた感じから一変し、強い気を放ちながらこっちに向いている。
「無風さんは言いました。私に貴方の策を見せてくれると、どんな策だったとしても無風さんが約束を持ち出したのにそれを破るんですか?」
正直、面食らってしまった。
鳳統がここまで強気に出られるとは思ってもみなかった。
「…………いいだろう、なら策を説明する」
そうして俺は、まず最初に黄巾党の斥候になりすました兵を送り、張角たちが交戦中と嘘の報告をさせ、兵糧を持ち出すよう仕向ける。
出てきた所を俺と俺の兵が兵糧を焼くから、関羽・張飛が敵の大将を倒す。
そうして士気の下がった黄巾党の退路を閉ざし、敢えて逃げ道を用意しそこで捕縛。
一通り策を説明してから皆の意見を聞く。
「ねぇねぇ、本拠地の兵はどうするの?」
劉備が敵の後曲、つまり本拠地はどうするのかと聞いてくる。
「…………それは孟徳がなんとかするだろう」
それを聞いた劉備の顔が暗くなる。
全てを助けることは出来ない。
だが、手の届く内は助ければいい。
それが生の道の中の一つの道。
「…………お前が出来ることをすればいい、そうすればいつかは報われる」
「…うん、そう…だね。助けられる命は助けないとね」
「…………あぁ」
それが、お前が仁君として出来る事だ。
================桃香視点================
分かっていた。
全員を助けるなんて不可能だ。
でも、助けたい。
黄巾党の人だって、元は農民で、苦しい生活に耐えられなくなったから、
生きていくにはそうするしかなかったのにそれは悪だと決めつけられて殺されるなんてあんまりではないか。
それをちょっとずつではあるが、私を慕ってくれて私の目指す所に行く手助けをしてくれる仲間が出来た。
無風さんも出来るだけ黄巾党の人たちを助けようと手を貸してくれている。
最初、何もなしにいきなり暴力に訴える酷い人だと思ったけど、ご主人様が憧れる人なだけあって、とても優しい所もあるように見えてきた。
「…………今回の策で一番重要なのは兵糧をお前らの軍に見られないようにすることだ。」
そんな事を考えていると無風さんがその忠告をしてきました。
私としてはちょっとなら貰ってもいいんじゃないかと思ったけど、朱里ちゃんがそれに賛成していた。
「そうですね、この策は無風さんがどれだけ早く兵糧を焼いて持ち出せるかが肝心ですね」
「うー、食べ物を焼くなんて、勿体無いのだー。貰っちゃダメなのだ?」
鈴々ちゃんは私と同意見のようで、その疑問を口にします。
「はわわ、絶対ダメですよ?鈴々ちゃん」
朱里ちゃんが慌てて駄目と念押しします。
何故駄目なんだろうと思って居たところで雛里ちゃんがその答えを教えてくれました。
「あわわ、私たち義勇軍はいろんな思いを抱えて募っています。劉備様の理想のため、名を挙げたいため、武を極めたいためと色々ありますが」
そこで一区切りして次の言葉を喋る雛里ちゃんの目には少し悲しみが混ぜられていた。
「その中でも一番多いのが満足して食べ物を食べたい人が大半です。そんな人たちの前に大量の食べ物を見せつけたら…」
その光景を頭に思い浮かべてゾッとしました。
私たちの命令も聞かずに食べ物に向かっていき、最悪戻ってきた黄巾党に殺されて被害だけが大きくなる。
それだけは避けなければいけない。
「…………そういうことだ、俺の隊だけが今この軍でそれが実行できる」
「にゃはー、無風お兄ちゃんの所は兵の統率が良く出来てるからなー」
鈴々ちゃんの言葉にウンウンと頷くご主人様
「無風の隊、人数は少ないからなのか平均的な練度がすごいよな」
ご主人様の言葉に無風さんは口元を笑みの形にしてフッと鼻で笑いました。
何故笑うのでしょうか?それが分からないので素直に聞いてみる。
「なんで今、ご主人様が褒めたのに笑ったんですか?」
「…………いやすまない。別に侮辱したわけじゃない」
それは分かってます。
だから何故笑ってるのか分からないのです。
一呼吸後にその答えを聞いた時の驚きは今日一番だったと思います。
「俺の隊のやつら全員、"元"黄巾党だからな。そこまで褒められるとは思わなくてつい笑ってしまった。」
一瞬何を言っているのか分かりませんでした。
元 黄巾党で鈴々ちゃんが褒めるような練度にまでするなんて、どれだけの時間をかけたのでしょう。
そして同時に思いました。
黄巾党だった人を助け、今また黄巾党の人を助けるために黄巾党だった人を使う。
この人のやっている事こそ、私の求める理想の片鱗なのではないか……と。
そこで朱里ちゃんが意義を唱えました。
「ありえません!黄巾党の発起だって、ついこの間です!その予兆があった頃からだったとしても、無風隊の今の練度にまで持っていくには時間が合いません!」
そうだった。黄巾党が出てきたのはつい最近です。
皆が褒めるぐらいまでの兵の練度をこの短期間でやるなんてどういうことなんでしょう。
「…………俺には"これ"があることを忘れてもらっては困る」
トントンと指で無風さんは自分の頭を叩きました。
つまりそれは…
「天の知識……」
ご主人様の言う通り、天の知識の力を使ったと。
すると横で朱里ちゃんと雛里ちゃんがカタカタと震えだしました
「今は、無風さんが敵でなくてよかったです」
朱里ちゃんがここまで本気で怖がっているのは見たことがありません。
雛里ちゃんも震えて顔が真っ青です。
いつか無風さんと戦う事を考えて恐れているのでしょう。
無風さんが本気を出したら、天下が取れてしまうかもしれない。
そう本気で思ってしまいました。
「…………当分は敵にはならない、安心しろ」
何故でしょう。
心の中で無風さんが敵になることはないと確信している私がいます。
どうしてそんな確信があるのか分からないけれど……
「今は兎に角、黄巾党をやっつけて助けよう」
そう皆に言って、軍議を終了しました。
================無風視点================
劉備軍の奴等がゾロゾロと軍議場から出ていき、残ったのは俺と関羽だけだった。
今回関羽は一言も言葉を発しなかった。
それが何故なのか分かっていた俺は
「…………私念に囚われるな、関羽」
史実では不明だが、演義では確か関羽の両親は賊に殺されていた筈だ。
だとしたら、こちらの関羽もそうなのかもしれないと推測した。
「……私の大切な人たちが殺されたのも知っているのか?」
「…………推測だが……な」
「そうか………」
関羽は自分自身を抱くようにしてギュっと身を固まらせた。
「…………忠義を履き違えるな、それに黄巾党の将を倒せばお前のような奴が減る」
賊は賊だ。
減るかどうかは分からない。
だが賊の将を倒せばそれだけ賊が跋扈するのを早く終わらせられるのは確かだ。
同時にその私念を晴らす意味でも敵将を関羽と張飛に譲った。
元々兵糧を焼いたら俺が殺す予定だったが、ここで二人の膿を取り除いたほうがいいだろうと思い。
将の討伐は関羽達に任せることにした。
「……そうだな。だがいいのか?手柄を渡して」
「…………そんなものくれてやる」
「ふっ、なら私が頂くとする」
「…………あぁ」
そう返答すると、関羽も軍議場を後にしようとする。
関羽が去る瞬間、大声で叫んだ。
「…………関雲長!!」
「っ!?」
「…………お前の矛で、お前のような奴を作る敵を切ってこい!!」
返事は無かった。
だが忠義を尽くすその目に炎が宿ったように見えた。
そして今度こそ関羽が去ってゆく。
目隠しを取って一息ついてから上を見る。
もうすぐ日が暮れる。
夜になれば斥候を放ち、行動を開始する時だ。
夜に行動することは孟徳に伝えてある。
日が落ちてきた夕焼けの空を仰ぎ見て
「…………孟徳、劉備軍は一筋縄で行かぬぞ」
誰もいない軍議場で俺は真っ赤に染まる空を見続けた。
質問返答コーナー
up主「はいどうもー!質問返答のコーナーです。」
華琳「前回は謎というか疑問解説コーナーだったわね」
up主「そうだねー、今回は個人的に届いたメールから『前書きがおかしい』といわれたので返答します」
華琳「あぁ、確かに前書きがおかしい時あるわね」
up主「実はあれ、基本雛が担当してるんです」
華琳「どういうこと?」
up主「スカイプで言われたことを載っけてるだけ」
華琳「お前が悪い」
up主「はい、ごめんなさい。だが反省はしない」
華琳「しなさいよ!」
up主「まぁいいじゃん?てことで次回もよろしく~ ノシ」
華琳「良くないわ、もう我慢できない。刎ねてあげる」
up主「死んじゃう!?」




