覇王との出会い
余力が残ってたのでもう一つ仕上げました。
2017/3/18 本編修正
ここはどこだ。
気が付けば俺は真っ白な空間に佇んでいた。
音も風もない。
ただハッキリしているのは視覚だけが機能している事だけだ。
それを証明する様に目の前で2人の人が向かい合っていた。
片方が怒られてる……いや、怒鳴られている。
音がないので様子だけでしか判断できない。
体格から男女が言い合って……いや、怒っているのは女の方だけみたいだ。
その一連の感じから大体理解した。
「……夢………か」
夢特有の、その人の輪郭がわからない。
夢だと判断した俺は目の前の光景をボーと見ていた。
1人が最初は澄ましたようにもう一人に話していたが、突然怒鳴りつけるような行動をして男に当っている。
怒鳴られてる方の男はただ沈黙して怒鳴られているのを許容しているように見える。
しばらくすると2人の言い争いが終わって、男が後ろを向いて歩き出そうとした所で後ろから突然、矢が飛んできた。
刺さるっ!
そう思って見ていたが、男の背中に刺さる直前で世界が真っ白になった。
中途半端に終わった夢が気になったが、考える暇もなく意識を手放した。
「………………んぅ?」
瞼にチカチカと当たる光に顔をしかめ、ゆっくりと瞼を開く。
まず視界に入ってきたのは木と葉っぱだった。
葉が風で揺れてサラサラとした心地よい音が耳をくすぐる。
頭を左右に動かし辺りを確かめる。
どうやら林か森で寝ている状態らしいが、倒れる前の記憶だと住宅街の路上で倒れたはず。
普通に考えれば病院のベットで寝ていて、真っ白な天井が見えるほうが違和感ないだろう。
とにもかくにも起きて状況の把握をした方が良さそうだ。
「…………ん?」
起きようと思ったが起きれない。
お腹が持ち上がらないので金縛りにでも合ったか?
にしては腹部に圧迫感を感じ、そちらに目を向ける。
「………バック?」
ショルダーバックがお腹乗っかっていた。
起き上がって胡座の状態で周りを見回したが林のように見えた。
遠くが微かに開けて見えるのを確認したからだ。
害獣も特に居ないようなので安心してバックの中身を確認する。
・木刀
・髭剃り
・ボールペン5本
・メモ帳
・画びょう
・財布|(4700円)
・ペンライト(レーザーポインター付き)
・砂糖5kg
・ブルー○ネージュ50粒
これを置いてった人は甘党だ。
じゃなければ頭のおかしい奴に違いない。
てか砂糖5kgってなんだよ。
そこは普通に塩を入れて行けよ。
「………行くか」
バックの中身に関しては何を言っても始まらないし、あるに越したことはないのも確かだ。
「………?」
立ち上がって体を軽く動かした時になって初めて自分の体に違和感を感じた。
そして違和感を感じたと同時にその正体にも気がついた。
「………戦装束?」
体を見回すと、見慣れた黒一色の中二臭い服を着ている。
黒よりもなお闇いのではと思わせるほど黒以外の色が使われていない。
路地に居た時はもちろん制服のブレザーだった。
1年間来ていたので着心地に慣れてきていたが、動くには不向きな服だ。
それが意識を取り戻してからは我が家に代々続く装束に変わっている。
戦のない現代日本では実家の道場から免許皆伝を貰った人間にしか渡されない、戦闘に特化した装束だ。
至る所にベルトで止められている代わりに関節部などの可動部には布がないため、体をどう動かそうとも服による動作の阻害は起こらない。
おまけに全てのベルト部分には仕掛けが施され、全身武器にもなる。
(ま、暗器の類は全部外して日常品しか入れてなかったが)
暗器なんぞ入れていたら、どこの仕事人かスパイだという話である。
そんなどうでもいいことを考えながら持ち物をバックに仕舞う。
早く林を抜けて交番に行って現在地を知らなければ。
日が出ていることから少なくとも一夜は明けてしまっている。
剣道の試合も近今日は仕方ないとしても明日は学校に行かないとヤバイ。
勘を鈍らせる訳にも行かないし、後輩の指導もまだま………
「…………」
林を抜けた途端、荒野しかありませんでした。街なんかどこにも見えませんありがとうございます。
なんて馬鹿な事をしてる間に動いたほうが良いのだろうが。
人間本当に有り得ない事が起こると現実逃避するんだなと、思考は正常だが体はピクリとも動いてくれず、その状態を脱するのに2分を要した。
立ち尽くしても状況は好転しないし、これからの事を考えるために思考に潜って佇んでいると、俺と同じく林から飛び出してくる人影が近くから飛び出してきた。
「おい!そこの兄ちゃん。金目の物を置いて失せな!」
変な服を着て、頭に黄色の布を巻いた3人組が現れ、その中で見た目ノッポなやつ(長ぇからノッポでいいか)がまるで追い剥ぎのような事を言って近づいてきた。
「………………コスプレイヤー?」
「あん?なんだ?その"こすぷれいやぁ"ってのは?」
ノッポが何言ってんだコイツみたいな目で俺を上から下までジロジロと見る。
あれ?話が噛み合ってない?
「アニキ!何してんすか、さっさと頂くもん頂いて逃げましょうや。」
「そうなんだな、グズグズしてるとやばいんだな」
こんどは見た目チビとデブ(チビ&デブに決定)がノッポをアニキと呼んで注意を促している。
「おお!そうだったぜ、おいお前、さっさと金目のモンを出しな!」
2人に注意されて正気に戻ったノッポが下卑た笑みをしながら近づいてくる。
「…………ふざけんな」
金欠な高校生から金を取るなんてなんて奴だ。
まぁ、バックに入ってた金だけど。
「寄越さねぇなら力づくで奪ってもいいんだぜ!」
そう言いながら3人は引っさげていた剣を抜刀した。
玩具ではありえない明らかに本物の殺傷能力を持っていると思われる鈍い光沢が刃先を滑ってゆく。
人の命を奪うことができるであろうその武器を躊躇することなく抜刀する3人を見て俺は何かがおかしいと感じた。
そう感じると共に、自分の認識が間違っているのであろうと漠然とした感覚が肌に染み入る。
どちらにしろ、情報が少なすぎて判断しかねる状態であった。
この3人をいなすのは簡単だが自分の直感が正しいのか情報を集めるのを先にするか、どこか人の居る所に移動するのを優先するか迷う。
どうしようか迷っていると、俺と三人の間に線を作るかのように矢が降ってきた。
「誰だっ!」
ノッポが慌てて周りを見渡すが他に人は居なかった。
しかし、遠くから砂塵を巻き上げてこちらに近づいてくる集団が見える。
「ちっ!こんな所にまで官軍共が来やがったか!ずらかるぞっ!」
ノッポが声をかけると同時に3人がものすごい速度で逃げていった。
一昔前のアニメの様な見事な逃げ足だった。
その速度も凄かったが、もっと驚いたのがまだ遠くで砂塵を上げながら向かってくる集団から綺麗に線を引くように矢を撃った人がいることであった。
世界で通用するレベルどころかトップを目指せる位に。
考えてる内にどんどんと砂塵が大きくなり、こちらに来る集団が見えてくる。
(そういや、さっきのノッポが『かんぐん』とか言ってたが、まさか……官軍か?)
集団が近づくにつれ、俺の中では『現代』という文字が遠ざかってゆくように感じた。
ある程度近づいてきたその集団が、軍隊であることがわかった。
全員が剣を持っており防具を身につけてるのを見れば軍としか思えないだろう。
それも一昔とかのレベルではなく、文字通り大昔の軍隊である可能性が増した。
誰一人として銃を所持していなかった。
その代わりに一部の集団が背中や腰に矢筒を所持しており、今なお逃げずに残っている自分一人に向けて集団が弓に番えた矢を向けている。
馬に騎乗した集団に関しては鞍をせずに跨って器用に乗りこなしている。
見事に現代装備の一つもないその軍隊は、俺の希望をも見事なほど木っ端微塵に打ち砕いてくれた。
貧血にでもなったかの様に崩れそうになる体に無理やり力を入れ、近づいてくる集団を見据える。
その軍が俺の数百メートル先で停止し、そこから3人の人間が馬に乗ってこっちにやってきた。
3人とも女性で2人が真ん中の人の斜め後ろからついてくる形で向かってきた。
左の女性は長い黒髪に前髪を後ろに流し、見事なアホ毛がピョンと立っている。
気の強そうなつり目に、これまた気の強そうな視線で俺を射抜いてくる。
赤や紫を使った装飾が多く、雰囲気に合った見事な赤女だ。
右の女性は鮮やかな水色のショートヘアを左の女性同様に後ろに流し、なぜか顔の右側にだけ髪が降りて隠れるような髪型をしている。
目元は左の女性に似てつり目だが、こちらの女性は左の女性以上に理性を感じさせる目をしていた。
青に紫の色合いをした衣装を身に着けており、こちらも雰囲気に合う青女だった。
雰囲気や服装からこの二人の女性は姉妹なのだろうと思う。
その二人の真ん中には小さな少女が馬上から俺を真っ直ぐ射抜いている。
一番の特徴は髪飾りのドクロだろう。
太陽の光を反射する綺麗な金髪を派手なドリル巻きのツインテールにしており、幼さに拍車を掛けている。
服装は辛うじてゴスロリっぽさが残ってる程度で、スカートなんかは際どさを追求したのではと思うほど丈が短い。
胸元も開いてきめ細やかな肌が露出しており、幼さとのギャップを出そうとしているのだろうか。
(普通に考えたら、真ん中の少女が一番偉いんだろうな)
こちらに近づく3人を注意深く観察していたが、何故か真ん中の少女と目が合った瞬間、目が離せなくなった。
少女の方はどうなのか分からないが、俺はその少女と目を合わせているだけで救われたような気持ちが湧いてくる。
どうしてそんな感情が湧くのか分からないが、絶望の淵に居て体に力が入らなかった筈なのに、今では力が漲っていた。
心身の急激な変化に戸惑っていると、少女が馬を数歩進ませて、より近い位置から俺を見ながらその小さな口を開く。
「あなたは誰?何をしているの?」
それが俺が異世界へ転移した、覇王を目指す少女との一番最初の出会いであった。
裏話 ※2017/03/18 修正
???「私との出会いって、私最後にちょろっと出てきただけじゃない。」
up主「あれだよ!細かく書いてたら、それだけで結構な量になっちゃって」
???「そんな言い訳なんか要らないわ。あなたには罰が必要なようね」
up主「えっ?」
???「首を刎ねられるのと、頭を刎ねられるの、好きな方を選んでいいわ」
up主「それどっちも一緒じゃありませんかねぇ!?」
???「ピーピーと五月蝿いわねぇ。分かったわ」
up主「許してもらえるんですか!」
ポフッ
???「私が許すまで甘やかしなさい」
up主「お、おおおぉぉぉぉぉぉおおおおおおおお!!!???」
???「五月蝿い!早くしないと本当に首を刎ねるわよ!ほら、私を甘やかしながら次話を書きなさい」
up主「え...あの、PCに手が届かないのですが...」
???「そんなの貴方の都合でしょう。考えなさいな。そして早く甘やかす!」
up主「はい……(ナデナデ」
???「んん…ほら、早く次話を書きなさい」
up主「ごめんなさい、許してください!」