最悪の事態と規格外の男
桃花が出るといったな?
あれは嘘だ。
「華琳様、季衣たちが見つけたのは要所中の要所のようです」
そんな文若の言葉から始まった軍議、今は義勇軍が戦っていた村からもう少し行った先にある開けた平原に陣を敷き、日が落ちてからの軍議であった。
「要所中の要所?」
「はい、どうやら黄巾党の衢地であるようです。」
衢地とは四方八方から伸びてくる道の集まっている所の事だ。
そこには恐らく黄巾党全体の兵糧が集まっていると思われる。
しかし、衢地がなんなのか分かっていない許褚と典韋+α
αはちなみに元譲の事である。
「…………二人が見つけたのは………黄巾党の心臓……‥ということだ」
分かりやすい説明に「おおー!」と納得する3人。
「…説明を続けるわね。現在衢地にいる黄巾党の人数は1万弱ほど、練度は言うまでもないわね。結局は農民が武器を持っただけだし」
「おい、黄巾党の心臓なのに1万しかいないのか?」
「えぇ、重要な拠点の筈なのにそれだけしかいないのはおかしいわ、多分威力偵察に人数を割いてるんだと思うわ」
元譲の質問に難しい顔をしながら文若が答える。
孟徳は聞いているだけでほとんど軍議が始まってから喋っていない。
かくいう俺と妙才も黙ったままである。
明らかに人数が少なすぎる。
何か見落としている。なんだ?何を自分はこんなにも焦っている?
「皆さん。先ほどの村の人から野菜もらったんで、新鮮なうちに食べましょう?」
典韋がそういえばと言った顔で兵糧の天幕を見る。
「…………」
村……兵糧……威力偵察……大人数……
「…………っ!文若!」
「きゃっ!?な、なによ」
「…………至急本隊を2千くらいで分割して編成しろ!」
「はぁ、なんで本隊を分割?」
「…………ちっ!」
本当に自分の喋り方が嫌になる。
でも、本来の喋り方をすると覇気の制御が出来ない。
「無風?」
孟徳が自分でも何かが引っかかった状態なのだろう。
本能では焦っているんだが、何に焦っているのか自分でも気づかない。
「…………村・食料・兵糧・威力偵察だ。杞憂ならいいが」
孟徳に自分の嫌な予感を想像したパーツを述べ、グズグズしてられず自分の隊にここら一帯の村に急行すると伝え出発する。
================華琳視点================
「村・食料・兵糧・威力偵察……」
言われた瞬間に自分の胸騒ぎの予感がなんなのか気づいた。
「華琳様っ!」
「桂花!すぐに本隊を分割し、複数の隊を編成しなさい!」
「はい!」
桂花は彼の残した単語から瞬時に現状を把握したのであろう。
無風が慌て出すのも無理からぬ事だ。
「春蘭、秋蘭、季衣、流琉も自分の隊をまとめて片っ端から近隣の村に向かいなさい!」
「「はっ!」」
「えっ?どういうことですか華琳様?」
「ボクたちにも状況を教えてよ」
春蘭たとは長年一緒だっただけに何も聞かずに行動に出た。
しかし、来てから一月程度しかまだ一緒にいない季衣と流琉には何がどうなっているのか分からず立ち往生している。
無風の慌てようから、大変なことが起きているのは分かったようだが。
「二人共よく聞いて、衢地にいる人数は1万、これは少なすぎる。つまり威力偵察に人数を割いてるのまでは理解できてる?」
「は、はい」
「う、うん」
「じゃあ、その威力偵察してる部隊はどこにいるか?簡単な話だった。複数の隊に分かれて村を襲い、兵糧を掻き集めてるのよ」
貴方たちも戦ったでしょう?義勇軍と一緒に。
その言葉を聞いて二人は一瞬蒼白になった後に真っ赤になり、陣から駆け出していく。
「ちっ!やってくれるわね」
もっと早く気づくべきだった。
無風が気づいていなければもっと状況を理解するのが遅れて手遅れになる所だった。
いや、実際もう手遅れなのかもしれない。
嫌な光景を想像して体が震える。
まだどうなったかなんて分からない。
自分もできることをするため、編成された隊の方に向かう。
================桂花視点================
アイツの思った通りだった。
将一人一人が一つの隊を率いて拡散し、周辺の村に片っ端向かう。
私は3つ目の村に来た時にアイツの言った通り、黄巾党が村に襲いかかろうとしている所だった。
敵は1千、こちらは2千、練度も段違いだ。
だが油断せずに陣を展開させ出来るだけの速度で勝負をつける。
その次の村ではすでに戦闘が始まっており、旗から秋蘭の隊だと分かった。
好機をみすみす見逃す訳が無い、戦っている黄巾党の横っ腹に鋒矢の陣で貫く。
秋蘭もそれに合わせてくれて、分断された敵の前方部隊に矢を射掛ける。
「すまない、桂花。助かった」
「別にあなただけでも平気だったんでしょうけどね。次の村に少しでも早く向かわないといけないし」
「そうだな、それにしても無風の隊を全く見ないな。先ほどは華琳様の隊と会ったが、アヤツは見かけていないらしいし」
「逃げたりはしてないでしょう、さすがに。ただ…」
「ただ?なんだ?桂花よ」
「アイツの率いてる隊、街の警邏にも残しているから今は150人くらいしかいないはずなのよ」
「そんな人数しかいないのか!?私が相手してたのでさえ最低でも500はいたのだぞ?」
そんな人数では何ができるというのかと思うが、なにせあの無風だ。
思いもつかないことを平然とやってのけるし、予想もしてなかった結果を叩き出すような奴だ。
「では、私は次に向かうとする。桂花はあちらの方を頼む」
「えぇ、分かったわ。武運を」
「あぁ、後で会おう」
秋蘭と真反対の方に向かう。
すでに夜が明け始めている。
村はまだまだたくさんある、急がねばならない。
そして次の村に向かおうとしたときに遠くで砂塵が見えた。
秋蘭とはすぐそこで別れたばかりだ。
だとすれば華琳様・春蘭・季衣・流琉・無風の誰かである。
結構大きな砂塵なので誰かが組んで戦闘を行っているのだろう。
進行方向ともさほどズレていないので、急いで向かう。
しかしそこで見たのは有り得ない光景だった。
黄巾党を目測で図ると大体4千ほど、今の私の兵の二倍の数だ。
対して戦っている味方の兵、およそ百ちょっと。
そう、戦っているのは無風の隊だけだ。
「あのバカ!さすがに分が悪すぎるわよ」
今すぐにでも助けてやりたいが、個人の感情で2千もの人の命を無駄に散らせるわけにはいかない。
今から策を考えても、急に考えた策は脆いか難易度が高いかのどちらかしかない。
私の考えた策は脆く崩れやすい策ではなく、はるかに難易度の高い策が出てくる。
しかしそれを実行するだけの練度を持ち合わせていない。
「近くに別の仲間の隊は!?」
しかし、斥候の話では近くに他の隊は見当たらないと。
見殺しにするしかないのか?
不甲斐ない、悔しい、恥ずかしい。
目の前で死んでゆくのを指をくわえて見ているしかない事に。
私に力が無いせいで殺される。
さすがに今回は無風であっても、数の暴力には勝てないだろう。
諦めて自分の無力さを感じながら、生気の篭らない目で戦況を見る。
「………えっ?」
自分の見間違いだろうと思った。
だが、そうにしか見えない。
押しているのだ。
百くらいしかいない兵で4千の敵を。
最初は勿論練度の関係で無風が押していた。
でも直に数の暴力に負けると思っていたのだ。
それがなんだ!?
無風の"隊"が黄巾党の"軍"に攻勢のままだ。
「荀彧様!今の敵の兵数なら我々も勝てます!」
「え?あ!」
呆気にとられていたが、戦況の全体を見ると敵の数が私たちとほぼ変わらない人数にまで減っていた。
━━━━これなら勝てる!
「全員抜刀!無風隊に加勢して敵を退ける!敵は強大だ!だが奴らは所詮獣!我らの敵ではない!」
まさか自分が戦前の前口上をするとは、人生何があるか分からないわね。
そうこうしてる内に敵数が同数かそれ以下にまで減っている。
「全隊突撃!」
それからは早かった。
私たちの加勢もあり2刻でケリがついた。
だが無風の隊も無傷ではない。
150位いたはずの無風隊が現在90人くらいにまで減っている。
「…………助かった。」
「礼なんかいいわよ。それより流石にアイツ等弱すぎだったわよ。一体何をしたわけ?」
「…………以逸待労の計」
「それって、まさか!」
以逸待労とは簡単にいえば最小限の動きで最大限の効果を得て、相手を疲弊させる策だと思えばいい。
直接戦闘を行わず、奇襲などで相手を心身ともに疲れさせた所で大きく出た。
だからあれほど大きな砂塵が舞っていたのか。
どおりで相手が弱いはずだ。
4千もいて、たかが百そこらの敵にやられて参ってる時に私たちが攻めてきたのだから。
私だったら絶対頭が痛くなるし、嫌になる。
「はぁ、まぁいいわ。もうそろそろ最初の現地に戻りましょ。恐らく全部で2万ほどを各個撃破で倒せたと思う」
策を使ったとはいえ、たかが百もいない部隊で4千もの敵を倒すなど信じたくはない。
本当に規格外で、危なっかしい男だなと思った。
違う意味で頭が痛くなってきた。
寝てないからかもしれないけれど。
すっかり日が昇っており、朝の香りを吸いながら最初の夜営地に戻る。
華琳様は大丈夫だろうか。
そんなちょっとした不安を抱えながら隊を整えた無風と戻っていく。
書いていて思った。
あれ?これ蜀ルートの華琳様初登場シーンに似てね?と
だがそんなことは関係ない!
そして友達から一々訂正の報告は別にいいと言われましたが、間違いは認めて報告したほうがいいと自分の中で思ってるので治す気はありません(ドヤァ
最後に、次回で蜀の人たち出せるよう頑張ります(汗