帰還への道しるべ
「とにかく」
俺は座り込み、二人を見渡しつつ現状をまとめようとした。本来なら人生経験の豊富さなどを考慮して年長者であるオッサンに是非リーダーシップを取って欲しかったのだが、彼が目覚めてからこれまでの言動を見る限り、年功序列でなんとかなるという考え方は危険そうだった。
オッサンは性質的にまるでリーダーに向いていなかったのだ。付近を見回る間にも、いちいち俺と女のどちらかに何かを尋ねてから行う手際の悪さで、目覚める前の困ったような顔は、目覚めたところでそのままだった。この景気の悪い顔に何かを任せようという気にはなれない。
女の方はといえば、オッサンに比べて度胸や思い切りの良さは感じたものの、それだけだった。思い切りがよければいいというものではない。突き進んだ先が袋小路では意味がないのだ。
そんなわけで、オッサンには道を進む力、女には道を選ぶ力がそれぞれ(致命的に)足りなさそうだったので残念な消去法でこういうことになってしまった。
俺自身、リーダー向きだとは思えなかったが彼らに頼るよりははるかに後悔が少なく済みそうだ。俺は話を進めた。
「電車で何かがあって、俺たちはいつの間にか此処に来た」
頷くオッサン。髪の毛先をいじりながら耳を傾けている女。
「ここがどこかは、分からない。天国というか、あの世というか、いわゆる死後の世界なのかもしれないし、そうでないのかもしれない」
再び頷くオッサン。
「・・・さて、どうする」
「どうするかって?」
俺の問いかけに女が問い返す。
「さしあたっては、この場を動くかどうか・・・」
「そりゃ動くでしょ」
こともなげに女が言い切る。
「何故?」
「何故って・・・・・・ここにいたって仕方ないじゃん。元に戻る穴みたいなの
もないし」