異世界の三人
「うわ、マジ、マジ、ヤバい」
ぼそぼそとつぶやきながらドラゴンの下へと駆けていく女を見送る。
「・・・絶対、起こさないでくれよ、頼むから!」
と声をかけ彼女を見送った。付き添わないことを非難されるかと思ったが、そんなことはなく、女はズンズンとドラゴンに近づいていった。随分小さくなったものの、色が付いている彼女はそれだけで目立つ。
思った以上に近づいていてハラハラしたが、ほどなく戻ってきた彼女の第一声は、予想を裏切らなかった。
「ヤバいね」
彼女の少ない語彙には辟易していたが、これに関しては同意見だった。
「ヤバいよ。機会があったら一回追っかけられてみてくれ。チョーヤバイから・・・」
軽口を叩きつつ、俺たちは元の場所に戻った。
未だ倒れたままのオッサンのそばに近寄る。くたびれたスーツ。シワシワのシャツ。緩んだネクタイ。かなり後退した前髪。体型は大きくなく、むしろやや小柄。呼吸は規則的だが、眉毛がぐっと中央に寄っており、苦悶の表情に見える。早く起こしてあげよう。
「生きてんのかな」
大して心配もしていない口ぶりで女が聞いてくるのを軽くかわしつつ、オッサンの肩を掴み、揺する。
「起きてください!」
「オジさーん、起きろぉー」
女性相手ではないため最初からあまり遠慮せず揺り動かしたおかげで、女ほど時間を掛けず目を覚まさせることが出来た。
オッサンは起きてすぐ、「あぁ、すいません」と理由もなく謝罪した。どうやら酔って寝たところを誰かに起こされたと思ったようで、反射的にそう言うと、辺りを見渡して「ドコだ、ココ?」と目を瞬かせた。
そのあとは、さっきと大体同じようなやり取りだ。この真っ白な世界でまず最初に思うことは「自分は死んで、ここは天国なのか」ということらしい。俺達は完全に否定することはせず、その代わりにドラゴンを見せた。オッサンは腰を抜かさんばかりにしていた。
それから俺たちは目覚めた場所の付近で、元の世界とのつながりをもつ「何か」がないかと簡単な捜索を行った。十分程度探したが、結局何も見つからなかった。